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番外編 幼女と異世界のサンタさん

※メリークリスマスと言う事で、本編とは関係ない番外編です。

 サンタクロースに夢を抱く方達の心を抉る様な内容になっているかもしれないので気をつけて下さい。



 クリスマス。

 それは、誰もが楽しく笑い合う楽しい素敵なハッピーデイ。


 なわけもなく、私、ジャスミン=イベリスはクリスマスが大嫌いだった。

 何故なら、ここ異世界でのクリスマスは前世と違い、毎年世界の何処かで小さい子供が犠牲になる恐ろしい日だからだ。


 前世では祭り事に節操の無い日本人の一人だった私も、ボッチマスなりに推しキャラのサンタコスに大興奮していたのだけど、この異世界ではそうはいかない。

 この異世界のクリスマスは、サンタに生贄を捧げる日なのだ。


 人の生き血を浴びて赤くなった服を着たサンタクロース。

 それがこの異世界のサンタの姿だ。

 サンタクロースはクリスマスのこの日に、何処かに突然現れて、生贄に選ばれた子供の命を奪って消えていく。

 生贄になる子供は、何処の誰が選ばれるか分からない。

 だから、世界中の村や町で毎年それぞれ一人だけ子供を選んで生贄を決めるのだ。

 生贄に選ばれたからと言って、必ずサンタクロースに殺されるわけでは無い。

 殺されるのは毎年一人。

 運が悪く選ばれてしまった子供だけが殺されて、その場に残るのは地面に広がる大量の子供の血だけだ。

 子供は文字通り帰らぬ人となって、毎年亡くなった子を持つ親が悲しみに暮れていた。


 だから、この世界のクリスマスの日は決して楽しいものなんかでは無かった。

 何処の家庭も、クリスマス当日だけでは無く念の為にと前日と後日も含めて、絶対に自分の家の子供を外には出さない。

 万が一外に遊びに行ってしまって、勘違いしたサンタクロースが殺してしまうかもしれないから……。


 かく言う私も今より小さい頃に一度選ばれた事がある。

 その時は、パパもママももの凄く泣いていて、私はそれを今でも覚えていた。


 そうして迎えたクリスマスの前日。

 前世で言えばクリスマスイヴの日に、私達が暮らすこのトランスファでも、今年の生贄が決定した。


「え? リリィが生贄に選ばれたの……?」


「ええ。そうなの。だから、最後にジャスミンの顔を見たくて……」


 クリスマス前日の陽が沈む頃に、家にリリィが訪ねて来て、私は力無くその場に座り込んでしまった。


「嘘だよ。そんなの……」


 信じたくない思いで私がそう口にすると、リリィが優しく微笑んで私を抱き寄せる。


「本当は駄目な事だとは分かっているけど、でも、でもねジャスミン。もしかしたら、もう会えないかもしれないから、だから今日だけ一緒にいさせて」


 リリィは震えていた。

 きっと凄く怖いのだろう。

 もしかしたら、本当に明日死んでしまうかもしれないのだ。

 怖くない筈がない。

 私は涙を流しながら、震えるリリィの体をギュッと抱きしめた。


「……うん」


 そうして私とリリィが二人で抱きしめあっていると、ラテちゃんが私の頭の上に乗って寝転がる。


「一々大袈裟です。そんな事より、ジャスの前世ではクリスマスにケーキを食べるですよね? ラテもクリスマスの日にケーキを食べたいです」


「え? え、えっとね、ラテちゃん。今それどころじゃないんだよ?」


「ボクもラテに賛成ッス。ボクとしては、シャンメリーって言うのを飲んでみたいッス」


 と、トンちゃんまでお気楽にニコニコしながら目の前を飛び回る。


 ど、どうしよう?

 2人共事の重大さがわかってないよ。

 この世界のサンタクロースは、どんなに強い国の精鋭部隊が相手でも返り討ちに合っちゃう様な、恐ろしい相手なのに……。


「二人共酷いんだぞ! リリさんが明日死んじゃうかもしれないんだぞ!」


「がお!」


 プリュちゃん、ラヴちゃん。


 プリュちゃんとラヴちゃんがおめ目にいっぱい涙を溜めてトンちゃんとラテちゃんに抗議すると、今度はフォレちゃんが呆れたように呟く。


「何を言うておる。リリーぢゃぞ? むしろサンタクロースとか言う俗物の心配をした方が良いくらいぢゃ」


「そうッスよ。来年からは世界中で楽しいクリスマスの始まりッス」


「です。心配するだけ時間の無駄です」


「三人共酷いんだぞ! リリさんの気持ちも考えるんだぞ!」


「りり、かわいちょう!」


 どうしよう。

 皆が喧嘩しだしちゃったよ。


 喧嘩をしだした精霊さん達を見て私が慌てていると、今度はウィルちゃんとシェイちゃんがやって来る。


「ジャスミンた~ん。メリークリスマスって明日言えば良いの? それとも今日言えば良いのかな~?」


「ジャシー聞いてほしいの~。ジャシーのパパとママが今日は家から出たら駄目だって言って、外に出してくれないの~」


 険悪なムードは、空気を読まない2人の発言で更に悪くなってしまった。

 リリィの事を心配してくれるのはプリュちゃんとラヴちゃんだけで、他の皆は全く心配する様子も無くて、私はそれが悲しくて泣き出しそうになる。

 だけど、私が泣いてしまう前にリリィが私から離れて立ち上がり、微笑みながら皆に喋る。


「せっかくだもの。ジャスミンの前世ではクリスマスは楽しい行事の一つなのでしょう? それなら、楽しみましょう」


「リリィ……、うん」


 本当は凄く辛くて悲しい筈のリリィに、私はこれ以上悲しい思いをさせたくなくて、頑張って笑顔を作って頷いた。

 そして、リリィに良い思い出を作れるように、私は一生懸命に前世のクリスマスがどんなものだったのかを教えて楽しんだ。





 次の日、目を覚ましてから、私はベッドの上から降りて窓の外を眺めた。

 人気は無く、今日が運命のクリスマスなのだと唾を飲み込んだ。

 今日、私は計画を立てていた。

 昨日リリィと夕食を食べてリリィが家に帰った後、私は精霊さん達に相談して計画を企てたのだ。


「リリィ、絶対助けるからね」


 私は呟くと、早速準備を開始する。

 私が精霊さん達と企てた計画、それは今日万が一にリリィが生贄としてサンタクロースに狙われた時に、リリィを助け出す為の計画だ。


 リリィから生贄に選ばれた事を聞いた時は泣きそうになってしまったけど、泣いてなんかいられない。

 絶対にリリィを助けだすんだと、私は気合を入れて、自分の両頬を手の平で叩いた。


 準備も終わり、私はパパとママに気付かれない様に、こっそりと家を出る。

 毎年のデータを調べる限りだと、サンタクロースが現れるのは昼の1時から3時の間に集中している。

 そして、生贄に選ばれたリリィは、その時間より少し早く生贄を捧げる祭壇で待機する事になっていた。


 私はトンちゃん達と一緒に、更にそれよりも早く生贄を捧げる祭壇に辿り着く。


「まだ来てないみたいだぞ」


「うん。まだ時間には余裕があるはずだもん。早めに魔法陣をセットしちゃおう」


「でも本当に良いんスか? もしこんな事が村の皆にばれたら、結構ヤバくないッスか?」


「良いの。本当は駄目な事だけど、でも、リリィを護るって決めたんだもん」


「我はジャシーのそう言い所が好きなの~」


「そうぢゃな。妾も同じ気もちぢゃ」


「おいたんもジャスミンたんの事大好きだよ。ペロペロしてあげようか~?」


「ウィスプ様はあっちの方で黙って見張りでもしてればいいです」


「がお!?」


 不意に、腰かけポーチの中にいたラヴちゃんが大声を上げて、私の腰を叩いた。

 私は何事かとラヴちゃんに視線を向けると、ラヴちゃんが空に向かって指をさしていた。


「え?」


 ラヴちゃんが指をさした方に視線を向けると、そこには、赤く染まった服を着た赤い髭のお爺さんが立っていた。

 そして、赤髭のお爺さんは私を見下ろしながらニヤリと下卑た笑みを浮かべた。


「メリークリスマスお嬢ちゃん。今年はこんな辺境くんだりまで来て見たが、随分と美味しそうな可愛らしい子がいたものだ」


 サンタクロース!?


 ごくりと唾を飲みこんで、私は一歩後退ろうとして、つまづいて尻餅をついてしまった。

 体は震え、恐怖で涙さえ出て来ない。


 最悪なタイミングだった。

 私が立てた計画は、生贄の祭壇を魔法陣で囲って、発動すると外部からの侵入を防ぐ為の魔法だった。

 だけど、それはまだ完成していなかったのだ。


 サンタクロースがゆっくりと地面に降り立って、私を舐めまわす様に見定める。


「さて、毎年恒例の種明かしをしてあげよう」


「種明かし……?」


 サンタクロースの言葉を繰り返して訊ねると、サンタクロースは下卑た笑みを見せて言葉を続ける。


「ワシは人間の子供を食らうのが大好きでねえ。人間の子供の肉は、大人の肉と違って柔らかくて実に美味いんだ」


「うえっ。こいつ、人を食ってるって事ッスか!? 流石に笑えないッスよ!」


「ジャス立つです!」


 ラテちゃんに言われて立とうとしたけど出来なかった。

 私はあまりの恐怖に腰を抜かして、力が入らなくなってしまっていたのだ。


「こ、腰が抜けて立てない……」


「ヤバいんだぞ!」 


「が、がお!」


 プリュちゃんとラヴちゃんが顔を真っ青にさせながら、私を護るように前に出る。


「ほお。これは良い。今年は人間の子供だけでなく、精霊も食べれるとは。これはとんだご馳走だ」


「妾達も食べるぢゃと? サンタクロースとやら、誰を敵にまわしたか、その身を持って――なんぢゃと!?」


 フォレちゃんがサンタクロースを睨み喋る途中で、突然フォレちゃんが氷の鎖で縛られて床に転がる。

 そして、それはフォレちゃんだけじゃない。

 トンちゃんもラテちゃんもプリュちゃんもラヴちゃんもウィルちゃんもシェイちゃんも、皆が氷の鎖で縛られて地面に落ちた。


「あれ? あれれ? おいたんただの光なのに、抜け出せないよ~?」


「おかしいの~。この氷の鎖、魔法では無い特殊なものでできているの~」


「よく気付いたな。それはワシの能力【不解ふかい氷鎖ひょうさ】。形の有る無いにかかわらず、全てを縛り付ける事が出来る鎖だ」


「ヤバいんだぞ! 魔法も使えないんだぞ!」


「当たり前だろう? それは全てを縛る【不解の氷鎖】だ。魔法だって例外では無いんだ」


 私は皆だけでもと、腰に力を入れて立ち上がろうとしたけど遅かった。

 気がつけば、私も氷の鎖に足を縛られて、身動き一つとれなくなってしまっていたのだ。


「フォッフォッフォッ。さてさて、お嬢ちゃんはワシの食事でどんな悲鳴を聞かせてくれるのかな?」


 サンタクロースが私にゆっくり近づく。


「どこから食べてやろうか。顔は上玉だから最後に残すとして、やはりまずは逃げ出す気力を奪う為に足にし――――びゃぼあっ!?」 


 サンタクロースの顔が地面に埋まる。


「おい糞野郎! 誰が、誰の足を食べるですってええっっ!?」


「リリィ!」


「ジャスミン、何でこんな所に来ちゃったのよ? もう直ぐでサンタクロースが来てしまうから、早くジャスミンはお家に帰って?」


 リリィはそう言いながら、私の足に巻き付く鎖を豆腐を砕く様に砕く。


「え、えっとね、リリィ。リリィが今地面に顔を埋めさせた人がサンタクロースなんだよ」


「え? こいつはジャスミンにエッチな事をしようとした変態でしょう?」


 ……あ、うん。

 そっちの食べるで捉えたんだね。

 って、いやいやいや。

 わざわざ生贄を捧げるこんな場所で、生贄にエッチな事をしようとする変態さんなんているわけないでしょう!?


「くそ! 何故ばれた!?」


 ほら、リリィ。

 そんな変態…………いたあーっ!?

 え?

 嘘でしょう?

 ちょっと待って?

 どうしよう?

 もうめちゃくちゃで整理出来ないよ?


 と言うか、気がつけば、サンタクロースは地面に埋まった顔を出していた。

 そして、サンタクロース……もう長いから変態でいいや。

 そして変態はリリィと睨み合い、言葉を続ける。


「ワシは毎年幼い女の子達を食って、持ち帰り、ワシのコレクションにしていたのだ! しかし貴様、何故わかった!? ワシは今まで証拠を残さなかったはず!」


「ふん。簡単な事よ。私のジャスミンを見て発情した男の考える事なんて一つしかないでしょう?」


「なるほどな。貴様は頭が良い奴だったと言う事か」


 どうしよう?

 さっきまで凄く、本当に凄く怖かったんだよ?

 何だかもうどうでも良くなっちゃった。

 あ、でも、頭がどうとか足からとかって何だったんだろう?


 と、私が考えていると、その答えは直ぐに出た。


「しかし、ワシの前に姿を現したのは失敗だったな! ワシ程の天才にもなると分かる! 貴様もそこのお嬢ちゃんと同じ歳だろう? フォッフォッフォッフォッ。貴様もワシの【不解の氷鎖】で縛り上げ、そこのお嬢ちゃんと一緒に足と顔をペロペロと舐めまわしてくれるわ!」


 変態がリリィを氷の鎖で縛る。

 だけど、うん。

 意味なんて無い。

 リリィは何食わぬ顔で氷の鎖を直ぐに外して、変態を睨んだ。


「そ、そんな馬鹿な!? ワシの、ワシの【不解の氷鎖】が!」


「さて、覚悟は出来てるのでしょうね?」


「ひいいっっ!」


 昼下がり、澄み切った青空に変態の悲鳴が響き渡り、この日を境にクリスマスの恐怖は消え去りました。


 それからその後にこの変態を国に突き出して調べて貰ってわかったのだけど、変態の赤く染まった服は、全部変態自信の鼻血だったそうです。

 女の子達にエッチな事をして出た自分の鼻血で染まった服は、それはもう見事に気持ち悪く、リリィが「蹴り飛ばす時に触れちゃったわ」なんて気持ち悪そうにしていました。


 あ、そうそう。

 攫われてコレクションにされていた女の子達は無事に見つかったそうです。

 鎖に縛られている間は全てを縛ると言うだけあって年も取らない様で、女の子達は逆に永遠の若さを手に入れてラッキーなんて言っていたそうです。

 とりあえず、そんなわけで攫われた人が無事で良かったねって事件が解決しました。


 うーん。

 何だこれ?


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