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125 幼女は友人と仲直りする

 リリオペとラークの2人を見ていた私は、オフィクレイドで召喚されたゼウスについて思いだす。

 私はてっきりラークと一緒にいると思っていたのだけど、実際にはここにいる事は無く、今何所にいるのかが分からない。

 昨日の夜にリリィとお話したけど、ゼウスを見たという事も言っていなかった。


 そして、私は何か嫌な予感を感じていた。

 この嫌な感じは、何処かで感じた様な、本当にとても嫌な感じだった。

 何処で感じたものなのか考えても全然わからない。

 でも、なんとなくだけど最近、それも数日前とかでは無く本当に最近に味わったような感覚とだけは覚えている。


 私はその嫌な予感が何なのかと考えだしていたのだけど、それはラークによって妨げられてしまった。

 リリオペと一緒に笑っていたラークは立ち上がると、私に視線を向けて声をあげたのだ。


「ジャスミン! お前に話したい事がある!」


「え? 私に?」


 なんだろう? と、ラークに近づいて行くと、私より先にセレネちゃんが走ってラークに近づき指をさして声をあげる。


「アレース! 今までの恨み、晴らさせてもらうわよ! よくも私を殺したわねー!」


「殺してねーし。っつうかよ~。そのアレースってのやめてくんねーか? もう俺はアレースでいるのやめたんだわ」


「はあっ!?」


 あはは。

 さっきまでラークって呼ぶなって言ってたのに、今度はアレースって呼ぶなになってる。

 ラークって本当に自分勝手だなぁ。


「じゃあ、なんでこの姿の私やジャスまで殺そーとしてたのよ!?」


 セレネちゃんが怒鳴ると、ラークは面倒臭そうに答える。


「あー? ジャスミンはムカつく奴だけど、それなりに色んな所に顔がきくだろ? アレースとして目覚めてからは色々調べたからな。俺は知ってんだぜ。ドワーフ王国にエルフの集落、それに人間嫌いの魚人の国の姫さんに精霊まで。こんなに慕われてる奴が殺されたってなりゃ、何かしろ世界が動くだろ? だったら、戦争の種に使うに決まってんじゃねーか」


 ……うわぁ。

 凄い迷惑。

 さっきもそんな感じの事言っていたけど、私そんな理由で本当に命狙われたの?

 って言うか、確かに皆とはお友達になったけど、私が殺されたからって戦争なんて起きないよ。


「んで、お前はおまけ」


「は? おまけ?」


「あったりまえだろ。お前みたいな奴殺しても、暇つぶしにしかなんねーよ」


「ジャス、やっぱこいつは殺すわ~。私がお前を殺してやるから覚悟するっしょ! ラーク!」


「セレネちゃん落ち着いて!」


 って言うか、何気にアレースからラークに呼び方変えてるね。

 セレネちゃんはやっぱ可愛いなぁ。


 などと考えながらセレネちゃんの後ろからハグして止める。

 それから、ラークに視線を向けて訊ねる。


「私にお話って何?」


「あー、そうだったな。あと先に謝っとくわ。悪かったな」


「え? あ、うん」


 ラークが謝るなんて珍しいなぁ。

 何だか可笑しい。


 私は可笑しくってつい笑ってしまうと、ラークは顔を顰めて私を睨む。

 それから、ラークはゆっくりと息を吐き出して真剣な面持ちになったので、私も笑うのをやめた。


「俺には【戦友の盃】の他にもう一つ、【記憶復元】と言う能力がある」


 記憶復元……。

 実はさっきサーチリングで見た能力。

 あの時は特に気にもしなかったけど、それに何かがあるって事なのかな?


「もうお前も知っている通り、俺は前世で神アレースだった。そして――」


「そこが不思議なんよね~。アンタってさ、私が殺される前に死んでたわけ?」


 ラークの言葉を中断させてセレネちゃんが質問すると、ラークは首を横に振った。


「お前が死んだと親父……ゼウスから聞かされた。死んだのはお前が先だ」


「ふーん」


 セレネちゃんが相槌をすると、ラークは話の続きを始める。


「俺の死因は自殺だ」


「え!? 自殺!?」


 私が驚いて聞き返すと、ラークは頷いて言葉を続ける。


「アレースだった頃の俺は戦いに飢えていた。だけど平和な天界じゃ戦いのたの字も無い。だからと言って、神である自分が下界に行っても、下等な人間共なんて相手にならんってな。それで俺は考えたんだ。死んだアルテミスの様に自分も死んで下界に降りれば、同一のレベルでの生死をかける戦いが出来るってな」


 う、うわぁ。

 ちょっとこんな事言うのも何だけど、頭のネジがどっかいっちゃってる人の考えすぎるよぉ。

 自殺してまで戦いに身を投じたいって、かなりヤバい人だよ。

 って言うか、自殺なんて絶対駄目だよ!


「お前、本当にその顔ムカつくな」


 あ、顔にまた出てたの?

 気をつけなきゃ……。


「まあいい。それで、俺は神の力を使って能力を選択したんだ」


「能力の選択?」


「そうだ。【戦友の盃】と【記憶復元】の能力。一つは人を操り殺し合いの道具にする為。そしてもう一つが、記憶を甦らせるためだ」


「そー言う事ね」


 セレネちゃんがフンッと鼻で息を吐き出して、ラークに代わってその能力の意味を教えてくれる。


「記憶復元って言う能力は、効果はその名の通りなんだけど、前世の記憶も復元できちゃうのよね~。これって神であれば使える力の一つでもあるから、どれだけ便利なのかは私も知ってる」


「でも、なんでわざわざそんな能力を選んだの?」


 私が疑問に思った事をそのまま口にすると、ラークが答える。


「元が神であろうと、転生して新しく生を受けた直後に、前世の記憶を持つ者には運が良くないとなれないからだ」


「え? そうなの?」


「転生して直ぐに記憶がある者なんて本当にごく稀なんだ。神だってそれは変わらない。だから俺は【記憶復元】を選択したんだ。それに、これには面白い使い方があるしな」


「面白い使い方?」


「そうだ。タイマーをセット出来るんだぜ」


 え? 何それ?

 目覚まし時計みたい。


「それとこれは裏技みたいなもんだけど、記憶が吹っ飛ぶ生まれ変わる前の精神に自我を持っていれば、能力が使えんだよ。まあ、そんなの前世が神でもない限り、絶対に無理だけどな」


 何それ凄い。


「そして俺はそれを利用して【記憶復元】の能力でタイマーをセットして、大人になる十歳になるタイミングで、記憶を甦らせるように自分で仕向けたって訳だ」


「そうだったんだ……あれ? 10歳で大人? ラーク獣人じゃないよね?」


「うるせーな! そこは流しとけよ!」


 あぁ……うん。

 間違えちゃったんだねタイミング……。

 獣人は10歳で成人だけど、人間や他の種族は違うもんねぇ。


「どーでもいーけど、何で生まれて直ぐのタイミングにタイマーセットしなかったのよ? 馬鹿じゃん」


「あのな、直ぐに記憶が甦っちまったら、俺は生まれて直ぐに赤ちゃんプレイしなきゃいけねーんだぞ!? そんなの耐えられるか!」


 赤ちゃんプレイて……でもまあ、うん。

 それはわかるかも。

 流石にきついよねぇ。

 そこに関しては、私もある程度育ってから前世の記憶を思い出して良かったなって思うもん。

 多分直ぐ思いだしてたら、今頃性格とかが前世の冴えないおっさんみたいになってたと思うし。


「まあ、おかげでアレースだった頃の記憶が、他人事みたいな感じになっちまったけどな。なんつーかな。思い出したのは良いけど、他人の記憶を追体験して得た感じだ」


「あ、なんかそれわかるかも。前世の記憶って言っても、何だか他人事みたいだもん」


「そーそー。俺もさ~、最初は思いだした時に――」


「何意気投合してんのよ」


「ラーク、話が先に進まないよ」


 私とラークが笑いながら話を弾ませると、セレネちゃんが呆れた様に呟き、リリオペは眉根を下げながら冷や汗をかいた。


「そうだな。話がズレちまったな。それでジャスミン、こっからが本題だ」


「う、うん」


 ラークがより一層真剣な面持ちを私に向ける。

 私は何だか緊張してきて、ごくりと唾を飲み込んだ。


「アレースだった頃の記憶が甦ったからこそわかる。ゼウスには気をつけろ。あいつは――」


 ラークが言葉を言いきる前に、事件は起きてしまった。

 突然建物が鈍い音を大音量で上げて揺れ始め、私達が立っている床が全て消え失せる。

 そして、その瞬間に私は何かに足を掴まれて勢いよく落ち始めた。


「――きゃっ」


 私は落ちながら足を掴んだものの正体を見ると、それは……。


「ゼウス!?」 


 ゼウスの名を叫んだ瞬間、私は勢いよく一階(・・)の床に叩きつけられる。

 私は叩きつけられる直前で、重力の魔法や水の魔法を使い何とか勢いを殺してダメージを軽い衝撃に抑えたけど、それでも少し頭がくらくらした。


 頭を押さえて起き上がると、私を床に叩きつけたゼウスが目の前に立ち、ゆっくっりと口を開く。


「これより、ジャスミン=イベリスの罪を裁く為の裁判を始める」


「え?」


 言われた意味が分からず、私は自分が今いる場所を確認する。

 私が叩きつけられたそこは、あった筈のルーレットテーブルなどの物が無くなっていて、テレビやアニメやゲームで見た様な裁判を行う場所となっていた。

 そして私は何故か、証人や被告人が立たされる真ん中のあの場所に立っていた。


「愚かにも神を惑わし、己の欲望の為だけに利益を得ようとしたその欲深き業に満ちた罪人よ。今ここで儂が捌いてくれるわ!」


 ええええぇぇぇぇぇっっっ!?

 ど、どう言う事ーっ!?


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