124 幼女も微笑みアオハルな男の子を見守る
ラテちゃん達がラークを引きつけてくれていたおかげで、私はラヴちゃんとリリオペとレオさんの石化を解く事が出来た。
3人とも放心状態で何が起きたか分からないと言った顔をしている。
「や、やだああっ!」
ハッカさんの声が聞こえて驚いて視線を向けると、大変な事が起きてしまっていた。
大変な事、それはスミレちゃんが手をワキワキと怪しく動かしながらハッカさんにじりじりと近づいて、ハッカさんが涙目で尻餅をついて怯える姿。
私は何事だとスミレちゃんに近づきながら訊ねる。
「何やってるのスミレちゃん!」
「ハッカちゃんにも、幼女先輩と同じバニーガールになって貰おうとしているだけなのですよ」
「え? それだけ?」
「はいなのです。そう言うわけなので、お着替えしましょうなのよ~。脱ぎ脱ぎさせてあげるなのよハッカちゃ~ん」
「こら」
私はスミレちゃんの腕を掴んで止める。
「幼女先輩?」
「ハッカちゃんが嫌がってるでしょう? それにねスミレちゃん。無理矢理脱がそうとするのは犯罪だよ」
ほら見てよ。
ハッカちゃんがもの凄く怯えてるでしょう?
まったく困っ……あれ?
怯えてる?
「うわああん! ジャスミンちゃん、怖かったよお!」
ハッカさんが私に抱き付きわんわん泣き出す。
こ、これは……っ!?
可愛いーっ!
って、そうだけどそうじゃなくて……。
「元に戻ってる?」
呟いたその時、ラークが眉間にしわを寄せて怒鳴る。
「ふざけるなっふざけるなあっ! 何だこの茶番は!? 俺の能力がそんな馬鹿な事で解かれただと!? 忌々しいにも程がある!」
ラークが私を睨み言葉を続ける。
「こんな事が許されるか! シロを殺したお前ばかりが幸福になってたまるか!」
え?
シロちゃんを殺した?
「貴様だけは殺す!」
ラークが怒りながら私に向かって走り出したその時、階段の向こうからワンワンと鳴く可愛らしい声が聞こえてきた。
「わんわん!」
「――っは?」
ラークは私の目の前で立ち止まり、階段に視線を向ける。
すると丁度タイミングよく、シロちゃんがぴょこっと顔を出して、こっちに視線を向けた。
「え? あれ? シロ?」
「ねえラーク、何か勘違いしていたみたいだけど、私がシロちゃんを殺すわけないでしょう」
「で、でも、シロを殺したから、リリオペもお前もこうして俺の所まで来れたんじゃ……」
「鍵はリリオペがシロちゃんから取っただけだよ」
「……そ、そうだったのか」
まったく、失礼しちゃうなぁ。
でも、何だか納得しちゃったよ。
ラークってば、それであんなに怒ってたんだね。
何だか可笑しくなって私が微笑むと、それが気にくわないのかラークが怒鳴る。
「忌々しい!」
ラークが鋭く私を睨み言葉を続ける。
「ジャスミン! お前だけは絶対に殺す! シロを殺さなかったとしても、それは変わらない! お前が死ねば、世界中にいるお前を慕う奴等が怒り戦争を起こす! そうなったら俺の完全勝利だ! ざまあねえよな! お前のせいで戦争が起こるんだよ! ジャスミ――」
ラークが私に向けて怒鳴り散らしていたその時、リリオペがラークに近づいて頬っぺたをおもいっきりグーで殴った。
「――ぐぁっ……。リリオペ!?」
「ラーク、だから言ったじゃないか! シロは殺してなんていないって! どうしてシロを見るまで信じてくれなかったんだよ! でも、そんな事より――」
リリオペはラークの胸ぐらをつかむ。
「ジャスミンを殺す? 良い加減にしてよ! 友達のジャスミンを殺してまで、戦争なんてくだらない事を起こそうとしないでよ! それに、ラークももう大切なものを失う悲しみがわかっただろう? 戦争を起こすなんて間違ってるんだ!」
「はあ゛っ?」
ラークがリリオペの頬を殴る。
「うるせーな! お前には関係ないだろ! 良いだろ別によ! 戦争は遊びだ! ゲームなんだよ! 弱い奴が死んで強い奴が勝つだけの単純なな! この建物と同じだ! 弱い奴が強い奴から金を取られるだけ! それと何も変わらねえ! お前だって喜んで働いてたじゃねーか!」
「違う! 一緒にしないでよ! 戦争は遊びなんかじゃない! それに僕は関係なくなんて無い!」
「関係ねーよ!」
そこからは、もうただの殴り合いの喧嘩だった。
なんと言うか、ドラマとかで見る様な、男の子同士の殴り合い。
青い春と書いて青春な殴り合い。
私はそれを目のあたりにして、2人から距離を置いて本当に深く息を吐き出した。
なんて言うか、うん。
2人共男の子なんだなぁ。
何だか可笑しくなって苦笑すると、私の許に皆が集まって来た。
ラヴちゃんが私を見上げて手を伸ばすので、私はラブちゃんを抱き上げて優しく撫でる。
そうしていると、セレネちゃんがリリオペとラークを見ながら不服そうに呟く。
「何あれ? 馬鹿じゃん。って言うか、超低レベルの戦いっしょ」
「あれは戦いじゃなくて、ただの喧嘩なのよ」
セレネちゃんの言葉にスミレちゃんが苦笑しながら答えると、今度はハッカさんが私に抱き付きながら、つまらなそうにリリオペとラークの殴り合いを見て呟く。
「男の子って馬鹿だよね~」
「ハッカの言う通りです。ジャス、今の内にラークに止めをさすです」
「そんな野暮な事は絶対にしません」
ラテちゃんが私の頭の上でうさ耳を揺らしながら言うので、私は直ぐに断った。
すると、シェイちゃんがラテちゃんに近づき話しかける。
「我もアレは理解出来ないの~。でも、人の子の男という生き物は、ああして理解し合うと知ってるの~」
「そうだぜ。俺にはわかる。あれが男同士の友情だ」
うんうん。
シェイちゃんの言葉を聞いてレオさんが同意して、私も力強く首を縦に振る。
と、そこでウィルちゃんが私の胸のあたりまで飛んで来て、胸をマジマジと凝視して手をワキワキとさせた。
「おいたんはジャスミンたんのツルツルのおっぱいを理解したいな~」
瞬間、ウィルちゃんが見えない何かに潰されて、床に転がる。
と言っても、その見えない何かは、考えるまでも無くラテちゃんが魔法で作り出した重力なのだけど。
「ラークの前にウィスプ様の息の根を止めるです」
「ラテール目が怖いよ~?」
相変わらず仲が良いなぁと、ラテちゃんとウィルちゃんのやり取りを眺めていると、どうやら向こうも決着がついた様だ。
リリオペとラークは顔に痣を作って、お互い口の中を切って血を流しながら、その場で2人で仰向けに倒れた。
そして、ラークは天井を仰ぎながら笑いだした。
「あーあ、何だか馬鹿みてーだな」
「本当にね。何やってんだろ? 僕達」
ラークは上半身を起こしてリリオペを見て、笑顔を見せた。
リリオペもまた、ラークと同じ様に上半身だけ起こして、ラークを見て笑顔を見せる。
「やめだやめだ馬鹿らしい! 戦争なんてつまんねーや」
「ラーク……」
「やっぱお前と一緒にいる方が、千倍楽しいぜ!」
「ああ、僕もだ」
2人は本当に楽しそうに笑いだす。
そこにシロちゃんが走って行き、2人と一緒に楽しそうにワンワンと鳴き出した。
「何あれ? ホント馬鹿なんじゃないの? 何二人で納得してんのよ。って言うか、私はまだアレースの事許してないんだけど?」
「あはは。まあまあ、セレネちゃん。私はこれで良かったなぁって凄く安心した。やっぱり、ラークはラークなんだなって思ったよ」
「何それ? マジで意味わかんない」
セレネちゃんはお口をへの字に曲げてリリオペとラークを納得いかなそうに見つめているけど、私は2人の様子を見て嬉しくて微笑んだ。
本当に良かったと心から思う。
やっぱり男の子同士の友情って素敵だなって思いながら2人を見ていたら、何だかリリィに会いたくなってきた。
のだけど、そんな私の感情も微笑みも、スミレちゃんの口から出た言葉でで淡く消えていきました。
「ノリが古いけど大好物な展開なのよ! ところで幼女先輩、どっちが受けで、どっちが攻めなのですかね?」
スミレちゃんちょっと黙ってて?
こんな時に受けとか攻めとか腐った思考は止めて?




