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123 幼女は頭脳で勝負する

「ハッカ! まずは貴様が行け!」


「了解」


 私を睨みながらラークがハッカさんに命令すると、ハッカさんは無表情のまま静かに答えて、私に向かって走り出した。

 ハッカさんの無機質な表情を見て声を聞けば、操られているのだと直ぐにわかる。


「ハッカちゃんの相手は、私に任せてなのですよ!」


 スミレちゃんが私に一瞥して、私と頷き合ってからハッカさんの前に出る。


 ハッカさんはスミレちゃんに任せれば大丈夫。

 私はラークを止めるんだ!

 まずはラークの能力の分析。


 サーチリングの光の照準対象をラークに合わせる。

 ラークはそれに気がついて一瞬警戒したけれど、この光自体に実害が無いので、不審に顔を顰めるだけだった。


 ラークの情報がサーチリングから映し出されて情報を見る。


「魔法の属性は光です。でも、あの指輪で大精霊様の力を使ってくるはずです」


「うん。それに能力の正体がわかったね」


「えーと……何々? 【戦友のさかずき】? これのせいで私の奴隷が奪われた後に操られてたって事ね」


 顔を覗かせて情報を見たセレネちゃんが喋ると、ラークは私達が見ているものが何かに気がつき苛立ちを表情に出した。


「随分面倒臭いものを持ってるな」


「ジャスミンたん、来るよ」


「え?」


 ウィルちゃんが私の耳元に来て囁いたその時だ。

 ラークの足元が閃光を放ち、それが一直線に私の足元まで伸びてきた。


 何これ?


 そう思ったのも束の間。

 ラークが目の前から消えて、気がついた時には私の目の前に立っていた。

 そして、指輪の一つが赤く光り輝き、ラークの左手が炎に包まれる。


「焼き死ね」


「無駄なの~」


 ラークの左手から現れた炎が私を包み込もうとして、シェイちゃんが私の目の前に出て、それを黒い靄で包み込む。

 すると今度は別の指輪が緑色に光り輝き、無数の風の刃が私を襲う。

 だけどそれも私には届かない。

 ラテちゃんが鉄の壁を作りだして、私を風の刃から護ってくれた。


 ラークは舌打ちすると、今度は別の指輪を茶色く光らせてドリルを出現させた。

 鉄の壁が貫かれ破壊されてしまったけど、もうその時には、私はその場にいなかった。

 私は鉄の壁が出た瞬間にウィルちゃんに引っ張られて、ラークから距離をとっていたのだ。


「ウンディーネ!」


 ラークがウンディーネさんの名前を叫ぶと、指輪が光ってラークの許を離れて、ウンディーネさんは元の姿に戻った。

 ウンディーネさんは姿を現すと直ぐに目の前に魔法陣を浮かび上がらせて、魔法を唱える。


「ハイドロジェンボム」


 私の直感が警鐘を鳴らす。

 私は瞬時に魔法を使って、自分とラテちゃん達に全身を覆う光の盾を発生させる。


 全身を覆う光の盾を発生させたのとほぼ同時だった。

 この広い空間全体が、突然爆弾の様な水の衝撃に包まれて全てのガラスが一斉に弾け飛んだ。

 周囲の床や天井や柱に大量の水分が付着して、天井からポタポタと静かに水が床に落ちる。


「おい貴様。俺に喧嘩を売っているのか? こちらにまで貴様の魔法の衝撃が飛んできたぞ」


 ラークがウンディーネさんを睨んで喋ると、ウンディーネさんは気にした素振りを見せずに答える。


「まあまあ固い事言わないで楽しくやりましょおよ」


「ふん、まあいい。シルフやサラマンダーと同じで、余の【戦友の盃】を使わずに従っているからな。多少は大目に見てやろう」


「さっすがあ。ま、アタイは楽しければ何でもいいけど」


 ラークの能力の一つ(・・)【戦友の盃】は、セレネちゃんの言う通り操る能力で間違いなさそうだ。

 だけど、私には疑問があった。


「ラーク、何でハッカさんとノームさんだけに、その能力を使ったの?」


「って言うか、何でその子達がいんのよ?」


 私が疑問をぶつけると続けてセレネちゃんも質問し、ラークは面倒臭そうに答える。


「ガキ共がカジノに来た所をロークが能力で捕まえた。ジャスミン、貴様がロークを敗北させた後に、俺様が役立たずとなったロークから奪っただけだ」


 ラヴちゃん達がカジノに来てしまっていた事にも驚いたけれど、それより何より、あの時の言葉を思い出して私の驚きはかき消される。

 あの時の言葉、それはロークが言っていた切り札(・・・)と言う言葉だった。

 ロークはあの時確かに言っていたのだ。

 切り札(・・・)と。


「ノームはともかく、そのガキに能力を使ったのは俺のただの気まぐれだ。役に立ちそうなのはノームだけだからな。他に理由は無――」


「嘘はよくないな~、アレース。おいたんは知ってるよ~。【戦友の盃】は盃を交わした相手しか操れない。大方その幼女と盃を交わした後に、ノームを脅して飲まさせたまでは良いけど、他の二人には飲ませられなかっただけでしょお?」


「貴様……」


 どうやら図星の様で、ウィルちゃんの言葉にラークが怒って睨み見た。


 そっか。

 ラークの能力の【戦友の盃】は一緒に盃を交わさないと効果が出せないんだ。

 それなら、触れられて操られる事も無いし、少し安心かも。

 あ、そうだ。

 そう言う事なら、ちょっと危ないかもだけど試してみよう。


 私はある事を思いつき、こそこそとラテちゃんに相談する。

 するとその時、ウンディーネさんが私に接近して来た。


「お話なんてやめて殺し合いを楽しまなきゃ!」


 ウンディーネさんが水の槍を出現させて、私に向かって攻撃を繰り出した。


「ウンディーネ様、例え大精霊様が相手だとしても、シェイクが待っているから今は構っていられないです」


「シェイク? ――っきゃ!」


 一瞬だった。

 ラテちゃんが魔法で重力の重りをウンディーネさんに与えて、ウンディーネさんは水の槍で私に一突き入れる前に床に這いつくばったのだ。


「な……にこれ? 何で大精霊のアタイが精霊なんかの魔法……でえ!」


「ウンディーネ様が今敵にまわしているのは、ウンディーネ様なんかより魔法に長けたジャスです。そのジャスと契約を交わしたラテに、大精霊様が敵うわけないです」


「そんな……」


「そうなの~。我も契約をした今だからこそわかるの~。ジャシーを敵にまわした時点で、汝は既に負けているの~。ウンディーネ」


「くそおっ!」


 ラテちゃんとシェイちゃんに諭されて、ウンディーネさんが叫ぶと、それを見ていたラークも眉根を上げた。


「ふざけるな! 何なんだこれは!? そいつはたかが人間だぞ! 違いと言えば転生者と言うだけだ! それに転生者で言えば、俺だってそうだ!」


「どしたん? アレース。大きな声なんて出しちゃってさ~。話し方もお子様っぽくなってるじゃん」


 ラークが激昂すると、セレネちゃんがニヤリと笑って煽る様に話した。

 それが気にくわなかったラークはセレネちゃんを睨み、風の刃を飛ばした。


 風の刃はセレネちゃんには届かない。

 ウィルちゃんがセレネちゃんの前に出て、それを光の壁で防いだからだ。

 それを見て、ラークは更に苛立ちを表情に出したけど、そろそろその苛立ちをピークにさせてあげましょう。


 どうするかなんて簡単だ。

 私はある事をする為に、既に行動に移していたのだ。

 ある事とは何か?

 そんなの、答えは決まっているのだ。


「3人ともお待たせ」


 私はそう言って、石化しているラヴちゃんとリリオペとレオさんの前に立つと、3人の石化を魔法で解いた。

 そう。

 ある事とは、ラークの目をラテちゃん達に向けている間に、私がラヴちゃん達を助けだす事だったのだ。

 もしラークの人を操る能力が、触れただけで効果を現すものだったら、私はこの方法を試さなかっただろう。

 何故なら万が一バレて先手をうたれて回り込まれてしまったら、私はラークに操られてしまって、皆を助け出せなくなってしまうからだ。


「何!?」


 ようやくラークは気付き驚いた。

 だけどもう遅い。 

 放心状態ではあるけれど、3人の石化は既に解かれているのだから。


「やってくれたなあっ! ジャスミン!」


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