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119 幼女と覚悟を決めた男の娘

「シェイちゃん可愛いー!」


「ジャシーにそう言って貰えるなら、我もこの姿になった甲斐があったの~」


 闇の大精霊シェイドことシェイちゃんのおかげで、マーレちゃんを無事に退けた私達。

 私はシェイちゃんと契約を交わしたのだけど、シェイちゃんは契約後、ウィルちゃんの様に手のひらサイズに姿を変えた。

 その姿はとっても可愛くて、思わず顔をほころばす。

 しかもシェイちゃんはアイドル衣装を着ていて、その上で喋り方がしっかりしている様でフワフワしているから、それが相まって更に可愛さが際立っている。


「ジャス、本当に鍵はここにあるです?」


「え?」


「セレネと一緒に探してるですけど、全然見当たらないです」


 ラテちゃんに話しかけられて、そんな馬鹿なと私も空き部屋の中を改めて見る。

 机と椅子と何も入っていない本棚とタンスと酒ダル。

 あ、後電灯代わりの光る魔石が酒ダルの上に置いてある。


 確かにどこにも見当たらないなぁ。

 うーん……。


「あのさ~。私思ったんだけど、その子起こして聞ーたほーが早くない?」


 セレネちゃんが、私のレオタードを掴んで倒れて以来眠ってしまったオぺ子ちゃんを見て、ため息混じりに呟いた。


「幼女先輩達は何の鍵を探してるなのです?」


「え? 6階に入る為の鍵だよ」


「その鍵の場所なら、私知ってるなのですよ」


「本当!?」


 私とラテちゃんとセレネちゃんは驚いて、スミレちゃんに視線を向けた。

 すると、スミレちゃんは「はいなのです」と頷いて、言葉を続ける。


「マーレから聞いたなのですけど、五階のVIPルーム会場の番犬が鍵を持っているそうなのです。何でも、裏切り者が出たかもしれないから、一番信頼している者に預けると言っていたらしいなのです」


「そー言う事ね。って言うかさ~、何でスミレがそんな事マーレから聞けたの?」


「上の階に行く方法を考えて歩いていたら、オぺ子ちゃんとこの部屋の前でばったり会って、オぺ子ちゃんに部屋の中で話そうと言われてに中に入ったらマーレがいたなの。マーレは休憩中と言って、私に話しかけてきて、自分からペラペラ喋りだしたなのよ。おかげでオぺ子ちゃんと喋れなかったなの」


「そうだったんだ……。あれ? オぺ子ちゃんの事ばれてなかったの? それに、スミレちゃんも何で仲間だと思われたんだろう?」


 思った事をそのまま口にすると、スミレちゃんは自分の髪の毛に指をさして答える。


「この髪なのです」


 どう言う事?


「あ、わかったです」


 ラテちゃんは何かに気がついたらしく、そのまま言葉を続ける。


「スミレの髪の毛がシオシオのままです」


「え? しおしお……? あっ」


 そこでやっと私も気がついた。

 そう。

 ラテちゃんの言う通り、スミレちゃんの真っ赤な髪の毛がシオシオだったのだ。

 本来スミレちゃんの髪の毛は、燃え盛る炎の様に風も無いのになびいていている。

 だけど、ポセイドーンの加護を受けてから、それが無くなってシオシオになっていたのだ。

 そしてそれは、何故か今も継続中。


「それでマーレちゃんが勘違いしちゃったんだ」


「そう言う事なのです。アンタも二重スパイ大変ね、なんて言われたなのです」


「あはは。二重スパイだと思われてたんだ」


「我もそのようにマーレから聞いた事があるの~。ポセイドーンから聞いたわけでは無いけど、きっと何かお考えがあるのよって言ってたの~」


 聞いたわけでは無いって……。

 マーレちゃんって思い込み激しい子なんだね。


「結局オぺ子ちゃんがジュースで酔っぱらってしまって、全部ばらしちゃったなのです」


「え? ま、待ってスミレちゃん。オぺ子ちゃんはワインを飲まされたんじゃ?」


「私もオぺ子ちゃんが飲んだジュースを飲んだから間違い無いなのです。間違いなくただのブドウジュースだったなのです」


 ……うん?

 え?


「じゃー何でこの子は酔っぱらったの? 意味わかんないんだけど?」


 あまりにも意味が分からなくて私が目を点にしていると、私の疑問をセレネちゃんが言葉にしてくれて、私はうんうんと首を縦に振る。


「多分臭いなの」


「臭いです?」


「そうなの。マーレがワインを飲みながら話してて、部屋の中はアルコールの臭いが充満していたなの」


 あー。

 もしかして、私が感じたお酒の臭いって、オぺ子ちゃんじゃなくて部屋の中の臭いだったのかも。


「でも、何でマーレはお酒を飲ましたって言ったんだろう?」


「そこに置いてある酒ダルの中身を飲ませたからだと思うなのです」


 スミレちゃんが指をさし、私は酒ダルに視線を向ける。


「アレにはマーレも手を付けてないから、きっと勘違いしてたなのです」


「そっかぁ……」


 じゃあ、もう本当にオぺ子ちゃんってば、その場の雰囲気とお酒の匂いで酔っぱらっちゃったんだね。

 良かったような良くなかった様な……。

 そう言えば、話が変わって謎のままだけど、何でスミレちゃんにポセイドーンの加護がまだかかってるんだろう?


 と、私が首を傾げていると、オぺ子ちゃんが「ん~」と言って目を覚ました。


「あれ? 僕は……何してたんだっけ?」


「オぺ子ちゃんおはよー。よく眠れた?」


「え? うん。……あれ? 眠って…………」


 オぺ子ちゃんは段々と顔色を青くさせていき、私に向かって頭を下げた。


「ジャスミンごめん!」


「え? 何が?」


 突然の謝罪に困惑すると、オぺ子ちゃんは眉根を下げながら話し出す。


「その……それを脱がせちゃったり……。なんか、よく覚えてはいないんだけど、頭がボオッとしてた時に、色々迷惑かけたみたいだから……」


 あぁ、本当に酔っぱらってたわけじゃないし覚えてたかぁ。

 うーん、オぺ子ちゃんだし、別に良いかな。


「気にしないで」


「……うん。ありがとう」


「それより、さっさと行こーよ。とりあえず番犬ってのをぶっ殺せばいーんでしょ?」


「殺すのはダメだよ!」


 私がセレネちゃんに注意すると、それと同時にオぺ子ちゃんが大声を上げる。


「ちょっと待って!」


 オぺ子ちゃんは眉根を下げて、それでも力強く私を見つめて言葉を続ける。


「ジャスミンって生物魔法が使えるんだよね? それなら、僕を元の体に魔法で戻してほしいんだ!」


「え?」


「確かに、ジャスは生物系魔法が使えるです。それに今のジャスの実力ならそれは可能です」


 え?

 そうなの?

 私って、魔法で性別変えられちゃうの?

 凄くない?


 驚く私の頭の上でラテちゃんがオぺ子ちゃんに話すと、オぺ子ちゃんはラテちゃんを見て言葉を続ける。


「ラテールちゃんがウィルオウィスプさんに言っていた言葉……正直言うとさ、アレを聞いて心が痛くなったんだ」


 ラテちゃんがウィルちゃんに言った言葉?


 思い当たるふしが無く、頭の上に乗っているラテちゃんに視線を向ける様に目線を上に向ける。

 まあ、頭の上だから見えないけど。


「ウィル、覚えてるか?」


「ありすぎてわからないね~」


 ウィルちゃんがシェイちゃんの質問にそう返すと、オぺ子ちゃんが苦笑しながら答えを話す。


「姿を変えても、性格が一緒なら意味が無いって言葉……」


 あぁうん。

 なんかそんな感じな事言ってたよね。


「ラテールには困ったものだよね~。全然違うのにわかって無いんだからさ~。可愛いはそれだけで何でも許されるんだよ。ぐへへへ~」


「ウィスプ様は黙ってるです」


 ラテちゃんがウィルちゃんを睨みつける。

 ウィルちゃんは「怖いな~」と言いながら私の腰にピタリとくっついた。


「実はさ、昨日の夜、ラークに会ったんだ」


 ラークに会ったと言うオぺ子ちゃんの言葉を聞き、私は驚いた。

 オぺ子ちゃんは驚く私の顔を見て、眉根を下げて言葉を続ける。


「でも、ラークは何も答えてくれなかった。お前には関係ないだってさ……」


 オぺ子ちゃんは少し目を潤ませて、それでも涙を流さずグッと堪えて私の目を真っ直ぐ見て言葉を続ける。


「だから、僕はあの言葉で思ったんだ。姿を変えて自分を偽った僕なんかじゃ、今のラークを止められないって」


「オぺ子ちゃん……」


「だから、お願いだよジャスミン。魔法で僕を元の姿に戻してほしいんだ! こんな偽りの女の子の姿じゃなく、僕の本当の姿、男の姿に!」


 オぺ子ちゃんって本当に男の子なんだなぁ。


 オぺ子ちゃんの目は真剣で、何処までも真っ直ぐだった。

 こんなにも真剣で真っ直ぐな目を見たら、もう、答えなんて考える間もなく決まったも同然だ。


「うん。オぺ子ちゃんがそれを望むなら、私は全力で応援するよ」


 そんな言葉が自然と口から出て、私は頷いて微笑んでいた。

 オぺ子ちゃんが一瞬だけ目を潤ませて、目を細めて私に微笑む。


「ありがとう、ジャスミン」


 オぺ子ちゃんが女の子になって見せた最後のその微笑みは、本当にもの凄く可愛いらしい本物の女の子の笑顔だった。


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