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118 幼女を酔っぱらいに近づけてはいけません

 リリィと同じ位な身長で、すらっとした体系のスレンダー美人。

 髪の毛は漆黒で、足のかかとまで届くサラサラなロング。

 眉毛は短く、まつ毛は長く、細長の目から見える瞳は闇より深い黒。

 表情は無を思わせる程の無表情で、整った綺麗な顔立ちをしていて大人びた印象を受ける。

 だけど、身に着けている服はアイドル衣装。

 お姉さんから感じる大人な印象とは真逆の服装だった。

 衣装は全体的にキラキラと輝いていて、スカートはヒラヒラで可愛らしく、膝丈も結構短くてパンツが見えそう。

 その服装のせいもあって、全体を見れば全く大人な感じはしなくて、何だかアンバランスな印象をかもし出していた。


 そんな印象を私に与えたのは闇の大精霊シェイドちゃん。

 私は驚きで言葉を失って、シェイドちゃんをただじっと見つめていた。


「ジャス、あの精霊多分かなりヤバい」


 セレネちゃんがこめかみに汗を流しながら呟く。

 その表情はセレネちゃんにしては珍しく、少し焦ったような表情だった。


なんじ、ウィルオウィスプと契約を交わしてるのか~」


 私とシェイドちゃんの目がかち合う。

 その瞬間、何かに飲み込まれる様な感覚を覚え、呼び止められる。


「ジャス!」


 ラテちゃんの声が聞こえて気が付くと、私の目の前にはいつの間にかシェイドちゃんが立っていた……違う。

 私がいつの間にかシェイドちゃんに近づいていたんだ。


「あ~らら。気付かれちゃった!」


 シェイドちゃんの側にいるマーレちゃんが鋭く眼光を光らせて、私に向かって殴りかかる。

 咄嗟に光の盾を魔法で出して、私はそれを防いだ。

 だけどその威力は凄まじく、私は強い衝撃を全身に感じて、脳を揺さぶられる様な感覚を味わいながら背後に吹っ飛ばされてしまった。


「幼女先輩!」


 吹っ飛ばされてしまった私の進行方向にスミレちゃんが現れて、私を受け止めてくれた。


「す、スミレちゃん……。ありがとー」


 何今の?

 防いだはずなのに、全身に何かがぶつかったみたいだった。


「あっは~。やっぱそっか~。魔性の幼女ってさ~。いーっつも後ろで顔を青くさせて、最後の最後で止めの魔法を使ってる。これってさ~、強いのは魔法だけって事だもんね~」


 マーレちゃんがニヤニヤと笑いながら喋り、周囲に紫色に発光する魔法陣を幾つも出現させる。


「なら、あーしの敵じゃないよねーっ! 戦闘経験の差ってやつうーっ!」


 魔法陣から槍の形をした黒く光る光が飛び出して、それが私に向かって飛翔する。

 その飛翔速度は凄まじく、私は魔法で防御しようにも間に合いそうにない。


 このままじゃスミレちゃんにもあたってしまうと思ったけど、その黒く光る槍の形をした光は、私とスミレちゃんを突き刺す事は決してなかった。


「マーレたん。ジャスミンたんを苛めたら駄目だよ~」


 ウィルちゃんが目の前に一瞬で現れて、マーレちゃんが放った全ての魔法を打ち消したのだ。


「ちっ。シェイド! 任せるよ!」


「承知したの~」


 シェイドちゃんが両手を前に出して、黒紫色に光る魔法陣が宙に浮かび上がる。


「シェイド、おいたんと魔法合戦するの? やめておいた方が良いよ~。スピードじゃ、おいたん最強だから」


 ウィルちゃんはそう口にすると、私の目の前からいなくなり、一瞬にしてシェイドちゃんの目の前に姿を現した。

 だけど次の瞬間、誰もが予想出来ない恐ろしい事が起きてしまった。


「ジャスミ~ン」


「ふぇ――――きゃああああっっ!?」


 この緊縛した空気の中、私の悲鳴が周囲に響き渡った。


 本当に突然の事だった。

 いつの間にか私に近づいていた酔っぱらいのオぺ子ちゃん。

 マーレちゃんとの戦いで、誰もオぺ子ちゃんを見ていなかったのがよくなかったのです。

 オぺ子ちゃんは背後から私に抱き付こうとして、酔っぱらってるせいで足がおぼつかなく、そのまま前のめりに倒れてしまった。

 そして、悲劇が起こったのだ。

 私の背後で手を伸ばして前のめりに倒れるオぺ子ちゃんは、私が着ているレオタードを掴んで轟沈。

 忽ち私の上半身は生まれたままの姿になり、私は大きな悲鳴をあげて、半泣きになりながら胸を腕で隠してしゃがむのでした。


 私の悲鳴を聞いたこの場にいる全員が私に注目したのは言うまでもない。

 スミレちゃんが興奮し、ウィルちゃんは鼻の下を伸ばして動きを止めて、マーレちゃんは凄く哀れむ様な視線を私に向ける。

 ラテちゃんとセレネちゃんに至っては、アホ臭いとでも言いたげな表情を見せて、鍵の在り処を再び探し始めた。

 そして、闇の大精霊シェイドちゃんはと言うと……。


 もうやだ!

 お家帰――――え?


 胸を腕で隠してしゃがんだ私に、ふわりと覆いかぶさる一枚のローブ。

 驚いて上を見上げると、そこにはシェイドちゃんが無言で私から視線を逸らして立っていた。


 やだイケメン!?


 そして、イケメ……シェイドちゃんがマーレちゃんに向かって口を開いた。


「汝との仮契約は破棄にするの~」


 突然の突拍子もない言葉に、マーレちゃんが何を言われたのかわからないといった表情を見せて、直ぐに眉間にしわを寄せて顔を顰める。


「はあ!? お前何言って――」


「我はこの少女、ジャスミン? と、本契約を結ぶ事にしたの~」


「ええぇっっ!? 何で!?」


 突然の申し出にあまりにも驚きすぎて私が思わず叫んで聞くと、シェイドちゃんは表情こそ相変わらずの無表情だったけど、頬を赤く染めて私から目を逸らして答える。


「さっきの泣いた汝の顔を見て、護ってあげたいなって思ったの~」


 ……うわぁ、どうしよう?

 シェイドちゃんって、すっごく可愛いかもぉ。


「ふざけるな! そんなくだらない理由が通ると思ってるの!?」


 マーレちゃんが怒りをあらわにしてシェイドちゃんを睨みつけた。

 だけど、それも束の間の事だった。

 シェイドちゃんはマーレちゃんと目を合わせて、その瞬間にマーレちゃんが黒い靄に飲みこまれた。

 そして、黒い靄はマーレちゃんと一緒に消えてしまった。


 一連の流れを見て私が驚いていると、シェイドちゃんは無表情なまま説明する。


「元の飼い主の許に返してやっただけなの~」


 えぇっと、ポセイドーンの所に送ったって事でいいのかな?

 って、それよりも。


 と、私はオぺ子ちゃんに脱がされてしまったレオタードの上半身の部分を上にあげて着直して、オぺ子ちゃんに視線を向けた。

 憎らしい事に、オぺ子ちゃんは眠ってしまったようで、とても可愛らしい寝顔をしていた。

 何だか文句を言う気にもなれず、私は小さなため息を吐き出して立ち上がって考える。


 うーん。

 どうしよう?

 ここで鍵を手に入れても、オぺ子ちゃんがこの調子だとなぁ……。


「ジャスミ……ジャシー。我は汝と契約したいの~。駄目か?」


「え?」


 ああ、そうだった。

 契約の話だよね。

 そんなの……。


「もちろんオッケーだよ! これからよろしくね、シェイちゃん!」


 笑顔で答えると、シェイちゃんは相変わらずの無表情のまま、頬をほんのり赤く染めた。


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