117 幼女も時には説教します
「マーレ、ううん。マーレちゃん! お酒は子供が飲むのも駄目だけど、飲ませるのも駄目なんだよ!」
マーレちゃんに言い聞かせる様に話すと、もの凄く睨まれる。
でも私は怯みません。
こう言う事は、大人になる前の子供の内から、しっかり覚えておかないといけないのだ!
「魔性の幼女、あーしに説教だなんてお前子供の癖に生意気」
子供の癖にって……。
「マーレちゃんだって子供でしょう?」
見た感じ、私より少し……3歳くらいかな? は、年上に見えるけど、それでもまだまだお子様なのだ。
だから子供はお互い様。
そんな事言ったって、私は自分の意見を曲げません!
「あーしはお前と違って三百歳の大人なの。口のきき方に気をつけてくれない?」
「え? 300歳!?」
開いた口がふさがらなかった。
と言うか、だ。
マーレちゃんは、どっからどう見ても私よりちょっと年上程度の女の子にしか見えない。
そこで私はふと思いだす。
この世界での一般常識。
そう。
それぞれの種族の年齢と見た目の事を。
えーと確か、龍族は何千年も普通に生きるから、1000年どころか最低でも5000年……ううん。
6000年以上は生きてないと、成人した大人とは言え無かった筈……なら。
「私より年上なのはわかったけど、やっぱり子供だ」
思わず口を滑らせると、マーレちゃんは眉間にしわを寄せた。
「魔性の幼女~、やっぱお前殺す」
ひぃ!
もの凄く怒ってる!
「三百歳って、人で言ったら一歳の赤ちゃんじゃん。それで大人とかちょーウケる」
セレネちゃーん!
煽らないで!?
って言うか、それ人の成人年齢を使って割り算しただけだよね?
って、そんな事よりだよ!
恐る恐るマーレちゃんに視線を向けると、案の定ご立腹な様で顔を真っ赤にして怒っていた。
「絶対殺す!」
マーレちゃんがもの凄い速度でセレネちゃんに接近して、スミレちゃんを攻撃した時の様に右手に真っ黒な魔力の塊を叩きつけようとした。
させない!
瞬時に素粒光移を使用してセレネちゃんの目の前に移動し、光の盾を魔法で生み出してマーレちゃんの攻撃を防ぐ。
マーレちゃんの攻撃を防いだ瞬間に、鈍器で鉄を叩いた時の様な音が鳴り響き、そこを中心に衝撃で床に亀裂が走る。
「嘘!?」
マーレちゃんは私に攻撃を防がれた事に驚き、跳躍して5メートル程の距離を置いた。
そして驚いたのは、マーレちゃんだけでは無かった。
スミレちゃんが私の許に駆け寄って、驚きながら私に訊ねる。
「よ、幼女先輩、今の魔法は光属性の魔法なのですか?」
「え? うん。光の大精霊のウィルちゃんと契約したんだよ」
「流石なのです! それで、その光の大精霊のウィルちゃんって何処にいるなのです?」
「え? えーと……」
私は酔っぱらって横になっているオぺ子ちゃんの方に視線を向けて冷や汗をかく。
何故なら、そこではおバカな争いが繰り広げられていたからだ。
「いい加減にするです! ウィスプ様はもう少し常識を学ぶです!」
「ぐへへへ~。カワイ子ちゃんのおっぱい触るくらい、減るもんじゃないし良いだろ? それどころか大きくなるかもしれないよ。ぐへへへ~。オぺ子ちゃんのおっぱいの感触はどんな触り心地かな~」
「キモすぎです! このエロ大精霊いい加減にするです!」
「心配しなくても今のおいたんは可愛いから問題無いよ~。可愛いおいたんが可愛い子と戯れるだけさ、ぐへへへ~」
「さっきも言ったです! 見た目を可愛くしても性格がそれなら意味ないです! キモいだけです!」
酔っぱらって無抵抗のオぺ子ちゃんをウィルちゃんが襲おうとして、ラテちゃんがウィルちゃんのお洋服を引っ張りながらそれを止めていた。
もう何て言うか、本当に何やってんの? って感じである。
でも、ラテちゃんのあんな姿、ちょっと珍しいかも。
可愛いなぁ。
「……幼女先輩、アレが大精霊のウィルちゃんなのです?」
「あ、うん。そうだね」
流石にスミレちゃんもドン引きらしく、顔を引きつらせ……てない?
スミレちゃんは目を輝かせ、私の返事を聞くなり走り出す。
そして、3人の所まで行くと、目を輝かせたままウィルちゃんに話しかけた。
「幼女先輩のペットのスミレなのよ! よろしくなの!」
す、スミレちゃん?
「ああ、スミレね。うん。契約の時のジャスミンたんの記憶で見た。何かよう?」
あれ?
ウィルちゃん素っ気ない?
「ゴスロリ服可愛いなのよ! もし良ければ、私のおっぱいの間に入ってほしいなの!」
ええええぇぇぇっっ!?
何言ってるのスミレちゃん!?
自殺行為だよ!
「は? 嫌だけど? おいたんは幼女にしか興味ないんだよ。年増は帰れ」
辛辣ー!?
って言うか、スミレちゃんは年増じゃないよ!
失礼すぎるよウィルちゃん!
「残念なのよ……」
スミレちゃんは本当に心が広いなぁ。
あんな酷い事言われて怒らないだなんて。
今度ウィルちゃんが失礼な事言ったお詫びに、何かしてあげよう!
「終わった?」
「え? あ……」
マーレちゃんに話しかけられて、そう言えばと思いだす。
と言うか、マーレちゃんは今までのおバカなやり取りを含めて、待っててくれていたらしい。
「しっかし厄介ね~。まさかウィルオウィスプが裏切ってたなんてね。こっちも出し惜しみ出来ない……か」
マーレちゃんがいつの間にか持っているワイングラスを傾けて、ワインを飲み干す。
「そっちが光なら、こっちは闇ね」
マーレちゃんがニヤリと笑い、ワイングラスを放り投げた。
すると、ワイングラスが投げられた先に黒い靄の様な物が現れて、その中にワイングラスが入って消える。
私はごくりと唾を飲み込んだ。
もちろん、その不思議な現象に……ではない。
マーレちゃんに話しかけられて、振り返って見た異様なまでに転がるとある物が私をそうさせたのだ。
そのとある物とは……。
「ね、ねえ? マーレちゃん。その酒ダル……えーと、5個くらい転がってるけど、どうしたの?」
そう。
気がつけば、先程まで存在していなかった酒ダルが、マーレちゃんの周りに転がっていたのだ。
しかもその酒ダル、大きさは結構な物で、私が中に入れる位に大きい。
「は? 待ってやってる間に飲んだだけだけど?」
「結構凄い勢いで飲んでたっしょ」
ええぇぇぇっ!?
凄っ!
あまりにも衝撃的で驚いていると、マーレちゃんは目の前に大きめの黒い靄を出し、そこから酒ダルが落っこちた。
「闇魔法の一つを使えばこの通りよ。驚くような事でも無いわ」
驚いたのそこじゃない!
って、まあ、それも凄いけど。
「って言うかさ~。アンタってポセイドーンの配下っしょ? 何でアレースなんかの配下になってんの?」
「は?」
セレネちゃんがマーレちゃんに訊ねると、マーレちゃんは顔を顰めてため息を吐き出した。
「あーしが何でポセイドーン様では無く、ここ、アレースの店を手伝ってやってるか教えてあげる」
「え?」
「あーしはこの通り、自分で言うのも何だけど結構な酒豪でワクなわけ。ここで仕事してるとお酒いっぱい飲めて、あーしにとっては天国みたいな環境なわけよ」
「ふーん」
自分から訊ねておいて、セレネちゃんが興味無さげに呟いた。
マーレちゃんはそれを気にする事なく、言葉を続ける。
「アレースの配下になった覚えはないから、別にいつでもここを辞められるわけなんだけどさ~」
マーレちゃんが鋭く眼光を光らせて私を睨んだ。
「魔性の幼女、お前を殺せばポセイドーン様の評価も上がる。ここで死んでもらうよ」
マーレちゃんは冷たい目を私に向けて、大きく息を吸って叫ぶ。
「シェイド!」
マーレちゃんの背後にとびっきり大きな黒い靄が発生し、それが集束して人が、いいや、闇の大精霊シェイドが現れた。
「呼んだか?」
「力を貸しな」
こ、これが、闇の大精霊シェイド……ちゃん?
私はシェイドを見て困惑した。
何故ならば……。
え? なんでアイドル衣装着てるの?
あ、なんか、誰かから4階のアイドルだって聞いたような……。
アイドルってそう言う意味だったの!?
闇の大精霊シェイドちゃんは、アイドル達がステージで歌って踊る時に身に着ける、とっても可愛らしいアイドル衣装を着ていました。




