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115 幼女に下品な笑いで近づくのはやめましょう

 私がカジノアレースでバニーガールになってディーラーを始めた最初の時から、何度もぐへへと言いながら気持ちの悪い事を言っていた変態がいた。

 その変態が現れる度に私は気持ち悪さに怯えていたのだけど、4階のトイレの個室の中で、私は今その変態と2人きりになってしまった。


 そして、私は変態の正体を知って驚いた。

 ゴスロリの服を着た小さな女の子で、見た目は私より下の幼女だ。

 今は便座の上に立って、黄金色の液体が入った瓶を片手に持ち、もの凄くいやらしい目で私を見つめている。

 そして、そのゴスロリ幼女は、なんとスピリットフェスティバルで攫われた大精霊の一人ウィルオウィスプだったのだ。


「おいたんね、ジャスミンたんに一目惚れしちゃったんだよ。この姿だって、昨日一生懸命ジャスミンたんの事を調べて作ったんだ。ぐへへへへへ」


「つ、作った?」


 顔を引きつらせながら聞き返すと、ウィルオウィスプは気持ちの悪い下卑た笑みを浮かべて頷いた。


「そうだよ。おいたんは形をもたない光の大精霊だから、本当はただの光なんだ。だからジャスミンたんの大好きな可愛いものの姿に、幼女の姿になったんだよ。そして念願の二人きり。おいたん嬉しくて興奮してきちゃったよ。ぐへへへへへ」


 ひぃっ。

 こ、怖い。

 もうなんか色々怖い……。


 怯えて後ろに後退ろうとするも、残念ながら扉は締まっていて、後ろに下がる事は出来なかった。

 するとその時、扉が強く叩かれる。


「ジャス! 何があったの!? ジャス!」


「この感じは大精霊様です! 光の大精霊のウィスプ様がいるですか!?」


「ラテちゃん! セレネちゃん!」


 2人の名前を呼ぶと、扉が見えない何かに上から押し潰される様に、バキバキと音を立てて勢いよくぺしゃんこになった。

 ラテちゃんが重力の魔法を使ったのだと直ぐにわかった。

 だって、凄く心配そうな顔をして、ラテちゃんが魔法を使った後の様に手をかざしていたのだから。

 扉が重力で押し潰されて、ラテちゃんとセレネちゃんと再会すると、私の姿を見た2人はホッとした表情を見せた。


「ジャス、無事ですか?」


「うん!」


「こいつが大精霊? ……ん? ねー、ジャス。こいつが持ってる瓶ってまさか……」


「それ以上は言わないで下さい」


「…………」


 私の返答にセレネちゃんが黙り込み冷や汗を流して、私の後ろに隠れた。


「ウィスプ様、相変わらずの変態っぷりです」


 相変わらずなんだね……。


 ラテちゃんが重力の魔法で宙に浮かび、私の前に出てウィルオウィスプと目を合わす。

 ウィルオウィスプは残念そうに顔を歪ませて、便座の上で浮かび上がって胡坐あぐらをかいた。


「あ~あ。よりにもよってラテールにばれちゃったか。君は本当に流れる様に言葉の毒を吐くから、おいたんは苦手なんだよな~」


「それはこっちのセリフです。大精霊様の中でもノーム様を超える変態ぶり、少しは真面目になってほしいです。それにその自分の事をおいたんと言う癖、いい加減やめるです」


「うげ~。ノームと比べるのはやめてくれよ~。あいつは見た目が醜い爺だろ? おいたんは見た目こそ本来は無いけれど、今は愛するジャスミンたんの為に、この可愛らしい姿になってるんだ。それに、自分の名前を自分の呼称に使うのは、君も同じでお互い様じゃないか~」


 え?

 おいたんって自分の名前から取ってるの?

 えーと……ウィルオウィスプ、ウィルオウィスプ……あっ。

 ウィルオウィ(・・・)スプのオウィの部分だ!

 なるほどだよぉ。

 オウィがおいになっておいたんなんだね!

 分かり辛い!


「ふん。ラテはいいんです! それと、見た目なんてどれだけ姿を変えても、性格が一緒なら意味ないです。ウィスプ様は見た目の前に気持ち悪さをどうにかするです」


「ほらやっぱり毒を吐く。あ~あ。本当にラテールは苦手だな~。今日だって君にばれないように、どれだけおいたんが苦労した事か」


「そんなのラテには関係ないです」


 ……あれ? なんだろう?

 言い争っている様には見えるけど、温かいって言うか、うん。

 なんだか、思ってたより雰囲気が柔らかい感じがするよ?


 今まで攫われた大精霊さんと会うと戦いになっていたから、今回もそうなのだと私は身構えていた。

 だけど、何故だろうか?

 今回は全然そんな感じがしないのだ。

 確かにラテちゃんとウィルオウィスプの会話は一見殺伐としているけれど、それでも温かさを感じるのは、仲の良い悪友の会話にしか聞こえないからだろうか?


「ラテちゃん、ウィルオウィスプと仲が良いんだね?」


「よくないです!」


 私が何となく感じた事を口にすると、ラテちゃんがもの凄く不機嫌に顔を顰めて怒りだす。


「ウィスプ様のせいでラテは昔とても苦労したです! 自分の光で夜でも朝の様に明るく出来るからと言って、ウィスプ様は周りの迷惑かえりみず、いっつも好き勝手に深夜でもお構いなしに暇つぶしとか言ってちょっかいかけるです! ラテも何度も眠りを妨げられたです!」


「そ、そうなんだ……」


 ラテちゃんがここまで怒るって、よっぽどだよね?

 まあ、ラテちゃんは寝るの大好きだもんね。

 深夜でもお構いなしでって、それは嫌だよねぇ……。

 私もそんなの困っちゃうもん。


「ラテールは怒ると面白いからついついね~」


 あ、それはちょっとわかるかも。


「お話にならないです!」


 ラテちゃんがプンスカ怒りながら、私の頭の上に乗った。


「ふにゃぁ……」


 うぅ……。

 まだきれてないよぉ。


 感度上昇の効果はまだきれてない様で、私は油断して変な声を出してしまった。

 するとその時、ウィルオウィスプが下卑た笑み……と言うよりは、下品な笑い方で私を見つめた。


「ぐへへへへへ。ジャスミンたん、おいたんと契約してよ~? おいたん精一杯ジャスミンたんに優しくするからさ~」


 ひぃっ!

 見た目ゴスロリ幼女で可愛いのに、凄く気持ち悪い!


「ねえねえ? 良いでしょう? 色々とジャスミンたんの――ぶぺ!」


 ウィルオウィスプの頭上に大きな岩が出現して頭に直撃した。


 ら、ラテちゃん!?


 大きな岩を魔法で出現させたラテちゃんは、ウィルオウィスプに汚物を見る様な視線を向けて口を開く。


「ウィスプ様はラーク……アレースに攫われて、アレースの味方になったわけでは無かったです?」


「いたた。暴力反対だよ」


「いいから答えるです」


「はいはい。暇つぶしに手伝ってはいたけど、味方になった覚えはないな~。アレースは神様だから、光属性のおいたんとしては、手伝った方が良いかなって思ったしね~」


 なんか凄いフワフワしてる。

 理由ってそんなので良いの?


「ですか。それなら」


 ラテちゃんが私の頭から再び降りて宙に浮かび、目の前で私に振り向いて、真剣な面持ちで言葉を続ける。


「ジャス、ウィスプ様と契約を結ぶです」


「え!?」


「おっ意外だね。ラテールがおいたんの味方になってくれるの?」


「そんなつもりは無いです」


 ラテちゃんはウィルオウィスプを一瞥して睨みつけて、私には真剣な面持ちで話し続ける。


「ジャスが【素粒光移テレポート】とか言う独自で編み出した魔法を使って、ラテの目の前に現れた時の事を覚えているです?」


「え? うん」


 覚えてる。

 あれは、海底神殿オフィクレイドから皆を連れて、アマンダさんの隠れ家に帰った時の事だ。

 あの時移動した先にラテちゃんが目の前にいて、凄いびっくりしていたっけ。

 でも、それは私も同じだった。

 ラテちゃんと私の距離は目と鼻の先くらいの距離で、その時私は思ってしまったのだ。

 もし、あの時私がラテちゃんの目の前では無くて、ラテちゃんがいた場所に移動していたらどうなってしまっていたのかと。

 それ以来怖くて、長距離移動には使わない様にしようって思った。

 だから、隠れ家からトランスファに移動する時に、素粒光移テレポートを使わなかった。

 そのおかげで、実はあれからトランスファに来るまでに結構な日にちが経ってしまったのだけど……。


「ラテはあの魔法を見て、ジャスには四大元素以外の属性も必要だと思ったです」


「どう言う事?」


「ジャスの使った魔法の光属性の部分は、あくまでも各属性の上位から持ってきた仮初かりそめの属性です」


 その通りだった。

 私が使える属性は本来【風】【土】【火】【水】の4つのみ。

 実は【光】そのものの属性は使えないのだ。

 魔法の上位には【光】か【闇】が入り混じるのだけど、私はそれを使っているにすぎず、その為完璧では無いのだ。


「ジャス、これはチャンスです。仮にも光の大精霊であるウィスプ様と契約すれば、ジャスの魔法は更に強くなるです」


「おいたんは仮では無いんだけどな~」


 更に強く……。

 それなら、考えるまでもないよね。


 私は頷く。


 これまでの戦いで私は常に思っていた事がある。

 それは、リリィ達の激しい戦いを見て、いつも感じていた事。

 段々と目ですら追えなくなる戦い。

 私はいつも外から見ているだけで、リリィが攻撃を受ける度に心配で仕方が無かった。

 でも、その戦いの中に私も入って行けるなら、リリィを護る事だって出来るかもしれないんだ。


 ウィルオウィスプに向かって真剣な面持ちで口を開く。


「私と契約して下さい!」


「ぐへへへへへ。交渉成立だね~、ジャスミンたん」


 ひぃっ。

 笑い方が気持ち悪い。

 うぅ……やっぱり嫌かも。

 って、あっ……。


 ウィルオウィスプの下品な笑いを見て、私はドン引きして一歩後退ったのだけど、その時に見てしまった。

 何を見たかって?

 お教えしましょう。


「おしっこはトイレに流すです」


 と、小さな声で呟いたラテちゃんは、ウィルオウィスプが持っていた瓶をいつの間にか持っていた。

 そして、便器に向けて瓶を傾けて、黄金色に輝く液体を流していたのだ。


 ラテちゃん、グッジョブだよ!


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