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114 幼女はトイレで変態と出会う

「勝者は最年少天才魔性のバニー幼女ディーラーッジャスミーン!」


「「「うおおおおおおおおおぉぉぉぉっっっっ!!!」」」


 ……勝ちました。

 と言うわけで、どう言うわけだって感じだけど、ヘビ美ちゃんとの神経衰弱勝負は私の逆転勝ちに終わりました。


 う、うーん。

 なんでだろう?


 本当に不思議だった。

 ヘビ美ちゃんは私がセレネちゃんと交代する時には、既に26枚のカードを持っていたのだ。

 トランプは1から13までの、ハートとダイヤとエースとクローバーの4種類で合わせて全部で52枚。

 更に、52枚では2人でやるにはどうしても26枚同士の引き分けが出てしまうという事で、特殊なルールとしてジョーカーも加えての54枚で勝負をしていた。

 2枚ずつゲットできる神経衰弱でヘビ美ちゃんが持っていたのが26枚なのに対して、セレネちゃんが持っていたのは僅か2枚。

 そう。

 残りの競い合い奪い合うトランプの枚数は、元々の数の半分の26枚なのだ。

 つまり普通に考えても、既にあと一枚ヘビ美ちゃんに取られてしまえば、そこで終了していたのだ。

 それにもかかわらず私は勝った。

 これが不思議でなくて何なのだって感じである。


 それだと言うのに、何故だろう?

 ヘビ美ちゃんはとても幸せそうな良い笑顔をしていた。


「やったじゃんジャス! これで金貨五百枚を取り戻したわー! ジャス偉い! あんたはサイコーっしょ!」


 色々不思議な疑問は残るけど、とりあえず良かったと納得する事にした。

 それに、奇跡の大逆転をやったんだもん。

 正直言って、凄く気分が良いのだ。

 嬉しすぎて空高く舞い上がっちゃいそう!


「えへへ~」


「敗者は大人しくこの場を去るニョロ」


 ヘビ美ちゃんが敗者とは思えない程の幸福に満ちた微笑みを見せて、私に握手を求める。

 私は勿論その握手を受け止め――ひゃぅっ。


 油断していた。

 未だにロークの【感度上昇】の効果がきれていなかったのだ。

 私はヘビ美ちゃんと握手して、大好きなパパと一緒に手を繋いでお散歩をしている時の様な温かさに包まれて、思わず声を洩らしそうになって我慢する。


 何とか無事に声を洩らさず握手を終えて、私はラテちゃんとセレネちゃんを連れて4階へと向かう事になった。

 もちろんラテちゃんはお構いなしに私の頭の上に乗るので、私は相変わらず変な声を我慢し続ける。

 と言うか、そろそろ私も気がついてきたのだけど、ラテちゃんは絶対にこの状況を楽しんでいる。

 だって……。


「ジャス、どうです~? たまには撫でてあげるですよ~」


 と言って、楽しそうに私の頭をナデナデするのだ。


 気持ち良すぎて昇天しちゃうよ!


 なんて思いながら、私は必死に堪えて4階まで辿り着く。


 4階は聞いていた通りルーレット盤ばかりがあって、他の物は何も無かった。

 ホールの大きさも少し狭まっていて、幾つかの小部屋がある様に見える。

 今までの階と違って静かで、マイク代わりに使っている拡声石無しでも声が聞こえそうだった。

 それに何だか大人な雰囲気で、プレイヤーもお金持ちな感じな人達でいっぱいだった。

 何より大人な雰囲気だと思わせたのはお酒。

 バニーガール姿の女の子がワインをプレイヤーに配り、プレイヤーは受け取ったワインを片手に優雅に賭け事をしていたのだ。

 なんと言うか、格好いい雰囲気の大人達しかそこにはいなかった。

 そして、確かにいた。

 セレネちゃんに吸血鬼にされたと思われる人達が。

 それだけじゃない。

 スミレちゃんは気がつかなかったみたいだけど、多分あの港町にいた人も何人かいる。

 ただ、吸血鬼も含めて、お酒を配るバニーガールもディーラーも全員まるで生気を抜かれた様な目をしていた。


「スミレは確か~」


 セレネちゃんが呟きながら、周囲をキョロキョロと見回した。


 ここからだ。


 私は気を引き締める。

 そう。

 ここからが本番なのだ。

 オぺ子ちゃんから貰った紙に書かれていたもの、それは、ラークがいる最上階の6階のオーナー室に入る為の鍵の在り処。 

 そしてその鍵こそが、この4階にあるのだ。

 私は紙を取り出して鍵の在り処を確認する。


 このフロアの東側にある非常階段横の空き部屋……。

 よし。

 とにかく行こう。

 でも、なんで空き部屋なんかにあるんだろう?

 って、あれ?

 小さく何か書いてある。

 えーと……空き部屋は大精霊が寝泊まりしてるから気をつけて?


 なるほど、と、私は緊張してごくりと唾を飲み込んだ。

 空き部屋と言っても、大精霊がいる部屋だから、警備のレベルはかなり高いのかもしれない。


「ジャス」


 不意にセレネちゃんに話しかけられて、私は振り向いた。

 すると、セレネちゃんは真剣な面持ちで呟く。


「スミレを探すのは後にしよ。先におしっこに行きたい」


 そう言えば、私もおトイレまだ朝起きてからしか行ってないかも。

 丁度良いから私も行こう。


「うん。行こう!」


 そうと決まれば善は急げだ。

 考えてもみれば、今まで何度か私はおしっこに悩まされていた。

 そして今日は今朝目を覚ましておしっこに行って以来、まだ行ってないのだ!

 このままフラグ回収なんてさせません!


 そうして無事に4階にあったおトイレへと駆けこんで、セレネちゃんと別々の個室に入って用を足す。

 もちろんラテちゃんには外で待ってもらっている。

 私はこの時気がついていなかった。

 既に、フラグが違う形で回収されてしまっていた事を……。


 スッキリした所で、私は個室を出ようと扉に手をかける。


「最年少天才魔性の幼女ディーラーのジャスミンたんのおしっこゲットだぜ!」


「え?」


 便器しかない筈の背後から、突然聞きなれた声がして振り返ると、そこにいたのは見知らぬゴスロリ服を着たゴスロリ幼女。

 ゴスロリ幼女は便座の上に立ち、黄金色に輝く液体の入ったペットボトルサイズの透明な瓶を片手に、それを見つめてニヤァっと気持ちの悪い下卑た笑みを浮かべた。


 私は驚愕と恐怖と羞恥の感情にいっぺんに襲われて、体の中の血液が頭に上昇していくのを感じながら体を震わせて、視界をグルグルと回してしまう。

 傍から見たら、今の私は顔を真っ赤にさせて目を回して硬直しているけど小刻みに震える変な人に違いない。


 そんな私にゴスロリ幼女が視線を向けた。


「やっと二人きりになれたね。おいたんずっと最年少天才魔性の幼女ディーラーのジャスミンたんと、二人きりになりたかったんだよ。ぐへへへへへ」


 ゴスロリ幼女の言葉と声を聞き、私はハッと思いだす。

 この声、そしてこの気持ち悪い言葉使い。

 そして何より、皆が私の事を最年少天才魔性のバニー(・・・)幼女ディーラーと呼ぶのに、最年少天才魔性の幼女ディーラーと呼ぶのは唯一1人だけだった。

 間違いない。

 そう。

 この突然現れた便座の上に立つゴスロリ幼女は、私がディーラーを始めた最初の時から気持ち悪い事を言っていた人物だったのだ。


「おいたんは光の大精霊ウィルオウィスプ。ぐへへへへへ。ジャスミンたん、よろしくね」


「えええええぇぇぇぇっっっ!? ひ、光の大精霊ぃっっ!?」


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