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111 幼女は歯の大切さを学ぶ

 サガーチャちゃんの発明品【空間隔離装置アイソレーションくん三号】の効果で色の無い空間へやって来て、私達とロークの戦いが始まろうとしていた。

 だけどそんな中、私には異変が起きていた。

 ラテちゃんが頭に乗っただけで、優しく頭を撫でられたような心地よくて気持ちの良い心が温まる様な感触。

 間違いなく、私はいつの間にかにロークの能力を受けていたのだ。


 いつから受けていたのかと考えると、思い当たるのはロークにポテトを食べさせられた時だ。

 あの時ロークの指先が私の唇に触れて、使われてしまったのだろう。

 サーチリングで見た情報に書かれていた能力【感度上昇】を……。


 ロークは私の顔を見て、ニヤリと笑みを浮かべた。


「早速効いているようだな。オレの最強の能力【感度上昇】が!」


「感度上昇!?」


 サガーチャちゃんが驚き、ロークが得意気に話し出す。


「ああ、この能力は触れた相手の感度を一定時間上昇させる事が出来るのさ。時間には個人差があるが、オレを倒しても時間が来るまでは効果が永遠と続く優れものだ。食らったら最後、もう止められないのさ!」


「なんておバカな能力です!」


「――っ!」


 ラテちゃんが私の頭の上で一歩後ずさり、私はまたもや頭を優しく撫でられるような感触を味わい声を押し殺す。


 あ、危ない。

 不意打ちすぎて変な声が出ちゃう所だったよ!


「ラテちゃん、そう言う事みたいだから、頭の上から降りてほしいんだけど?」


「嫌です。そんなおバカな能力の為に、この特等席は譲れないです」


「……そ、そっかぁ」


 うぅ。

 ラテちゃん鬼畜だよぉ。


「ジャスミンくん、心配しなくても大丈夫だよ。こっちの攻撃もそろそろ効果が出る頃だ」


「こっちの攻撃?」


 私は首を傾げた。

 サガーチャちゃんは、空間を隔離させる装置を使ってから、特に何かをしたわけでは無かった。

 ロークと睨み合うだけで、攻撃を仕掛ける素振りさえ見せていない。

 だと言うのに、サガーチャちゃんはこっちの攻撃(・・・・・・)と言ったのだ。


「ジャス、ラテがさっき言った言葉、聞いてなかったです?」


「さっき言った言葉? 特等席は譲れないってお話?」


「違うです。この勝負、サガーチャの圧勝で終わるです。と、言ったです」


 うーん。

 言っていた様ないない様な……。


「やっぱりラテールくんは気がついていたようだね」


「当然です」


「どう言う事?」


 サガーチャちゃんに質問すると、サガーチャちゃんはポケットから台所で見かける様な味塩の小瓶の様な物をポケットから取り出した。


「これさ。これは私が開発した【虫歯素むしばもと】と言う名前の発明品でね、これをふりかけたものを食べると、虫歯菌が急成長するんだよ」


 え?

 何それ怖い。

 地味だけどかなりヤバいよ?

 って、あれ?


 私は頭から血の気がひくのを感じながら、恐る恐るサガーチャちゃんに訊ねる。


「それ……もしかして、ロークの食べていたハンバーガーとポテトにかけたの?」


「その通り」


 ええええぇぇっっっ!

 私ポテト食べちゃったんですけど!?


「ジャス、何のためにラテがジャスの上に乗ったと思ってるです」


「え?」


「ラテが魔法で、ジャスの口の中に入った虫歯素とか言うもので急成長した虫歯菌を退治する為です」


「そんな事出来るの!?」


「もちろんです」


「ありがとー! ラテちゃん」


 九死に一生を得た私が喜んでいると、今まで黙って私達のお話を聞いていたロークが笑いだす。

 急に笑い出すロークに驚いて視線を移すと、ロークはニヤリと笑みを浮かべた。


「サガーチャだったか? 君が食品に何かを仕掛けてくるのは、魔性の幼女と知り合いと知った時からわかっていた。自分の立場を利用するに違いないとね」


「まさか……」


 サガーチャちゃんが何かに気がついたように驚き、ロークが口をニッとして歯を見せる。

 そのロークが見せた歯を見て、私もロークの取った行動に理解してゾッとなって寒気を感じた。


「オレは大精霊ウンディーネと契約した事で氷の魔法が使える。本来であれば、これをすれば忽ち口が丸ごと凍傷を起こし、危険な状態になるだろう。だが、それは俺には関係ない。ポセイドーン様の加護【海神の加護】の効果で、水属性の攻撃が全て無効化されるからだ! だからこそオレは、自らの歯を氷でコーティングしたのさ! 俺に虫歯素は効かないんだよ!」


「なんて事だ……。まさか、対策をとられていただなんて……」


 サガーチャちゃんが焦燥しょうそうに駆られている様な表情を見せた。


 私はもちろんドン引きしている。

 正直場のノリについていけないのだ。

 だってそうでしょう?

 ロークと言えば、海底神殿オフィクレイドで散々苦戦した相手なのだ。

 それだと言うのに、虫歯になるならないで、なんでこんなに盛り上がってるの? って感じである。


 だけどもう一人、このおバカなノリに珍しくついていけている精霊さんが一人いた。

 もちろん、その精霊さんとはラテちゃんの事だ。


「やっぱり、ラテが言った通りです」


「何?」


 ロークが眉間にしわを寄せてラテちゃんを睨む。


「この勝負、博士の圧勝です」


「ラテールくん?」


「何を馬鹿な事を。もう勝敗はオレの勝利で決定している。オレにはもう一つ、アレース様の加護【戦神の加護】もある。そしてこれにはオレの切り札の――」


「そんなもの関係ないです! 今こそラテがジャスの頭の上に居続けた成果を見せる時です!」


 ラテちゃんが珍しく大声を上げて、そして、とんでもない行動に出た。


「っふにゃぁ」


 だ、だめぇ!

 声が出ちゃうよぉ!


「ら、ラテちゃんらメだってばぁ……もぉぅ……。えへへ~」


 ラテちゃんがとった行動。

 それは、私の頭をナデナデする事だ。


 ラテちゃんのナデナデは、感度上昇の効果もあって凄く気持ちが良くて、声を抑えるのも限界だ。

 まるで、大好きなパパに撫でて貰っている様な温かい包容感。

 とても気持ちが良くて、凄く幸せになるこの感じは最早私の理性では止められない。

 そして……。


「こ、これはっ……ぐぁぁあっっ!」


 私がラテちゃんのナデナデのせいで、だらしのないフニャフニャな表情をしてしまっていると、私の顔を見たロークが突然叫び出す。

 すると、ラテちゃんは私の頭ナデナデを、ようやくやめてくれた。

 ナデナデから解放されて正気に戻った私は、目の前で頬っぺたを抑えて苦しみだしたロークを見て驚いた。

 って言うか、何事!? って感じである。


「ローク破れたり! です」


「ど、どう言う事?」


 こめかみに冷や汗を流しながら質問した直後、サガーチャちゃんが質問に答えるかのように呟く。


「そうか。ジャスミンくんの艶っぽい可愛らしい表情と声を聞いて、顔の温度が上昇した事で歯をまとっていた氷が溶けて、虫歯素の効果が現れたわけだ」


 え、ええぇぇぇ……何それ?

 おバカなの?


「その通りです。ジャスに【感度上昇】の能力を使ってしまった時点で、既に勝敗は決していたです」


 何だこれ?

 ……うん。

 もう、何でもいいや。


「っっつう! 痛いぃぃ! やっば! 何これ!? ちょっ待ってマジで痛い! え? 虫歯ってこんなヤバいっけ? っいってえぇ……」


 本気で痛そうで、ちょっと可哀想かも……うん。

 歯は大切だよね!

 これからも、歯磨きを忘れない様にしよう!


 私はロークの可哀想な姿を見て、歯の大切さを学びました。

 と言っても、この場合は歯磨き関係ないけども……。

 こうして、私達とロークの戦いは幕を閉じるのでした。


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