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109 幼女に恐怖を覚える残念なイケメン

 緑豊かな村トランスファに建てられた巨大なカジノ。

 この日、そのカジノの建物の中は、大きな歓声で包まれていた。

 湧き出る歓声は止まる事を知らず、延々と人々が叫び続ける。

 そしてその中心にいるのは、もちろん……はい。


 私です。


「凄いわよジャスミンちゃん! もう四階のアイドルのシェイドちゃんを超えてるわよ!」


 ど、どうしよう?

 もうお昼頃なのに、結局朝早くからずーっとディーラーしてるよ? 私。

 って言うか、シェイドちゃんって絶対に闇の大精霊だよね?

 4階のアイドルって何?


 ちなみに昨日とは違っていて、今日はラテちゃんが私の頭の上に乗っていて、うさ耳の間から顔を覗かせている可愛い。

 ラテちゃんは私が何をしていたのか様子見すると言って、ディーラーをする私の姿を眠そうな表情でずっと見ていた。

 セレネちゃんとスミレちゃんは昨日と同じく別行動。

 2人共、今日はラークの仲間を一人は仕留めると言って意気込んでいた。


「魔性の幼女ちゃんってホントにいたんだ。……って、今は最年少天才魔性のバニー幼女ディーラーって呼んだ方が良いのか?」


 どうやってこの場を離れようかと考えていると、背後から聞いた事のある声が話しかけてきて私は振り向く。

 そこに立っていたのは、ピシッとしたスーツを身に着けた鬼人のロークだった。

 着ている服がスーツだからなのか、いつもと違う雰囲気をしていた。

 はねっ気のあったショートの髪は整えられていて、正直顔立ちが綺麗なのでかっこいい。

 なんて言うか、年下の女の子にモテそうな感じのイケメン臭がする。


 ロークがいる事を聞いていたおかげで、私は驚く事なく冷静にロークと向かい合って見上げる。


「ありゃりゃ。残念。魔性の幼女ちゃんって直ぐに表情に感情が出るから、オレを見てもっと驚いてくれると思ったんだけど、期待外れだったみたいだ」


「こいつが鬼人のロークです? 確かにウンディーネ様の加護の力を感じるです」


「へ~。もしかしてわかっちゃう? オレのヤバさ」


「全然ヤバそうじゃないです。それより、ウンディーネ様は何処にいるです?」


 ロークがニヤリと笑う。

 と、その時、モブ顔のお姉さんが口を開く。


「ジャスミンちゃんって、ロークさんと知り合いだったの?」


「え? 知り合いって言うか……」


「そうそう。オレ達知り合いなんだよ。だから借りていくね」


「は、はあ。どうぞ」


 えぇ……。

 どうぞって……。


 私はモブ顔のお姉さんからロークに渡されてしまい、ロークの後をついて歩き出す。

 途中オぺ子ちゃんと出会って、ウインクされてその可愛さにドキッとした。のはともかくとして、その時オぺ子ちゃんにこっそり紙を渡された。

 そして、その渡された紙に書かれていたのは……。


「さーて、話を始めようじゃないか魔性の幼女。いったい何を考えてここで働いているんだ? オレに会いに来てくれたって言うんなら、喜んじゃうけどな~」


 ロークが2階のテラスで立ち止まり、振り返ると机にもたれかかって微笑んだ。


 何を考えてと言われても……。

 むしろ何でこんな事になったのか私が聞きたい。

 でも、それを言っても意味ないだろうし……うーん。

 どうしよう?


「だんまりか。オレに会いに来てくれたわけでもなさそうだ。質問を変える」


 あれ?

 良いの?

 質問を変えるって何だろう?


「あの子……リリィだっけ? いないみたいだけど、ここには来てないのか?」


 リリィ?


「リリィは来てないです」


 私の代わりにラテちゃんが答えると、ロークは何だかホッとした表情を見せた。

 その表情を見て私が首を傾げると、ロークが爽やかイケメンの様な微笑みを見せる。


「悔しいが、あの子に一撃でやられた経験があるから安心したんだ。あんな恐ろしい子には近づきたくないからな」


 か、かっこ悪い。

 爽やかな顔して凄くかっこ悪いよこの人。

 残念すぎる。

 年下の女の子からモテそうって思ったけど、うん、気のせい。

 ないと思う。

 って言っても、相手がリリィなら仕方が無いかもだけどね。


「ま、それが聞けて良かったかな。そろそろお昼だし、休憩がてら一緒に昼食でも食べないか? 三階にジャンクフードが食べられる飲食店があるんだ。どうせ昨日は一階と二階のどちらかの売店で適当に食事を買って休憩室で済ませたんだろう? せっかく懐かしい前世の味が楽しめる施設があるんだ。行かなきゃ損だろ?」


「え? ジャンクフード……」


「そ、ジャンクフード」


 ジャンクフードと言われて一瞬心が揺らぐ。

 だってそうでしょう?

 この世界でまさかのジャンクフードなのだ。

 ロークの言う通り、それは懐かしい前世の味、そしてその響き。

 正直かなり魅力的である。


「ジャンクフード!? もしかして、シェイクは! シェイクはあるですか!?」


 ラテちゃんが興奮して、私の頭のうさ耳を鷲掴みして前後に揺らす。


「もちろんあるよ。って、よく知ってるね? ああそうか。精霊は契約すると主の記憶を読み取れるんだっけ?」


「ジャス! これはお食事に行くしかないです! シェイクを飲んでみたいです!」


 ロークの質問に答えずにラテちゃんが更に興奮して、ロークも気にせず言葉を続ける。


「このカジノってさ、アレース様が別世界……要は地球のものを参考に作った所だから、オレ達(・・・)にとっては懐かしいもので溢れてるんだ。ポセイドーン様の配下でありながら、オレがアレース様に協力しているのも、これが理由。かなり魅力的だろ?」


「ジャス。ラテはバニラ味のシェイクが良いです!」


「あはは……」


 苦笑いして冷や汗をかきながら、とりあえずロークの食事のお誘いを受ける事にした。

 そうして向かった初めての3階は、聞いていた通りクラップスと呼ばれるゲームのテーブルが沢山置かれていて、遠目にバニーガール姿の蛇のお姉さんの姿を見つけた。

 蛇のお姉さんは私に気がついていない様で、いそいそとお仕事をこなしていた。


「上の階から大精霊様の加護の力が二つするです」


「光と闇の大精霊さん?」


「です。ウンディーネ様の加護の力は全く感じないです。もしかしたら、ここにはいないかもしれないです」


「そうなんだ?」


 ロークと契約はしてるけど、別行動してるって事なのかな?


 うーん、と歩きながら首を傾げて考えていると、ジャンクフードの飲食店に到着する。

 店先には【ラークッキング本店】と書かれた看板が立っていた。


 ラークッキング……なんて言うか、うん。

 センスないよね。


 そんな事を考えて入店した私だったのだけど、入店直後、私は驚く事になる。


「いらっしゃいま……おや? 誰かと思ったらジャスミンくんじゃないか。何だか久しぶりだね」


「サガーチャちゃん!?」


 入店した私を出迎えたのは、大きめでブカブカの白衣の上からエプロンを着けたドワーフ王国のお姫様、私に誕生日プレゼントと言ってスリーサイズを調べる事が出来るサーチリングをくれたサガーチャちゃんだった。

 サーチリングと言えば、一度使ってから使ってないなとも思うのだけれど、最早そんな事はどうでも良い。

 私はサガーチャちゃんがこの場にいる事に、もの凄く驚いた。


「フェールから話を聞いたよ。フェールを助けてくれてありがとう。丁度良い。私にお昼を奢らせてくれないかい? せめてものささやかなお礼だ」


 サガーチャちゃんは私に向かって話すけど、絶賛驚き中の私の耳には残念ながら入ってこない。


 えええぇぇぇっっ!?

 なななな、何でここにサガーチャちゃんがいるの!?

 って言うか、え?

 何でこんな所で働いてるの!?

 何そのエプロン姿!?

 可愛い!

 って、そうだけどそうじゃない!

 どうなってるの!?


 私が驚いていると、そんな私の姿を見たサガーチャちゃんは楽しそうにニマァッと笑みを浮かべた。


「やっぱり私は、ジャスミンくんの事が好きだな~」


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