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106 幼女を勝手にお着替えさせてはいけません

 カジノに入店した直後に出会ったバニーガール姿のオぺ子ちゃんを見て驚いていると、オぺ子ちゃんが首を少し傾げて苦笑した。

 そのしぐさが可愛くて、少しドキッとしてしまう。


「ここ煩いでしょ?」


 こくりと頷くと、オぺ子ちゃんが言葉を続ける。


「せっかく会えたんだから少し話したいな……」


「う、うん。私もオぺ子ちゃんに協力してもらいたい事があるの」


「えっと……ごめん。聞き取れない」


 リリィの代わりにと、オぺ子ちゃんに協力を申し込むも、周囲の音にかき消されたようだ。

 オぺ子ちゃんは苦笑しながら首に着けた付け襟の蝶ネクタイを触って、蝶ネクタイで隠れている小さな石を私に見せて言葉を続ける。


「ほら。これ、スタッフ用の拡声石かくせいせきなんだ。僕はこれで声を大きくしてるから良いけど……。聞いての通り周りは色んな音で煩いし、これじゃまともに話せないでしょ? ……そうだ。丁度今から休憩に入る所だったんだ。ついて来て」


「う、うん」


 こくりと頷いて、オぺ子ちゃんの後をついて行く。

 お話を聞いていたスミレちゃんとセレネちゃんも私と一緒に歩き出す。

 オぺ子ちゃんの後をついて行く途中で、スミレちゃんが歩きながら、耳元で私に話しかけた。


「幼女先輩、さっきお話した初めて嗅ぐ懐かしい匂いの正体は、オぺ子ちゃんだったなのです」


「そうなんだ?」


 耳元で話しかけられたから何とか聞き取れて、なるほどなぁと私は考える。

 ただ、なるほどではあるけれど、何がどうなってるのかはわからない。


 そうして連れて来られたのは関係者以外立ち入り禁止の休憩室。

 螺旋らせん階段を上って、2階の端っこにある部屋だった。


 休憩室に入ると、早速オぺ子ちゃんから私に話しかけてきた。


「えっとさ、ジャスミンには先に話しておこうと思うんだけど……実はさ、ラークが連れて来たマーレさんって名前の龍族の女の人に、女の子にして貰えたんだ」


「……やっぱりそうなんだ。って、マーレ!?」


「うん、あれ? マーレさんの事知ってるの?」


「う、うん……」


 マーレと言えば、リリィ達を幼くした張本人だ。

 まさか、性転換の能力まで持ってたなんて思わなかった。

 もし私やリリィが男の子だったら、戦力を下げる為に使われてたかもしれない。

 だって、男の子より女の子の方がか弱いんだもん。


「ふーん。どーでもいーけどさ~。あんたってハープにいた子っしょ? 何でこんなとこでそんな格好で働いてんのよ? 猫喫茶……だっけ? そっちはどーなったのよ?」


 セレネちゃんが訝しんで訊ねると、オぺ子ちゃんは苦笑しながら答える。


「やっぱり気になるよね。実はラークに手伝ってほしいって言われて、断れなくなっちゃって手伝う事になったんだ」


 うんうん。

 仕方が無いよねぇ。

 好きな子に頼まれたら断れないもん。

 わかるなぁ。


「でも、猫喫茶の方はポセイドーンさんが手伝ってくれるって言ってくれてさ、もう向こうもオープンしてるんだ。スミレさんの事もその時に聞いてたんだけど、本当に無事みたいで安心したよ」


 オぺ子ちゃんがスミレちゃんに視線を向けて微笑む。

 男の娘の時も思っていたけど、女の子になったオぺ子ちゃんはとっても可愛くて、抱きしめたくなっちゃうから困る。

 スミレちゃんも「心配かけてごめんなのよ~」なんて言いながらデレデレしていた。


「そう言えばジャスミン、本当に良かったの?」


「え? 何が?」


 不意に要領を得ない質問がきて、私は首を傾げて聞き返す。


「えっと……プリュイちゃんの事……。いや、事情は知らないけど、本当に良かったのかなって……」


 プリュちゃんの事!?


「どう言う事!? プリュちゃんに何かあったの!?」


 思わず大声を上げオぺ子ちゃんに訊ねると、オぺ子ちゃんは少し驚いて体をピクリと震わせた。

 それからオぺ子ちゃんは顔を引きつらせて困惑しながら答える。


「何かって、プリュイちゃんとジャスミンは契約を破棄したんでしょ?」


 私とプリュちゃんが契約破棄!?

 何それ知らない!

 どう言う事!?


「オぺ子ちゃん、プリュちゃんの居場所知ってる? 知ってたら教えて!」


「え? ええと、今は猫喫茶でウェイトレスをしてた筈だよ」


「行かなきゃ!」


「ジャスミン!?」


 部屋を出ようと私は駆け出す。

 だけど、私の腕をセレネちゃんが掴んで止めた。


「落ち着きなって」


「でも!」


「幼女先輩、気持ちは分かるなのですけど、猫喫茶にはリリィが向かったからきっと大丈夫なのですよ」


「……うん」


 そうだ。

 向こうにはリリィが向かってくれたんだ。

 結果的にリリィと私、目的が逆になっちゃったけど、リリィならきっとプリュちゃんを助けてくれる。


 私は落ち着きを取り戻して、だけどそれでも心配は拭えずに、静かにこくりと頷いた。

 すると、ラテちゃんが耳元で真剣な面持ちで話し出す。


「ジャス、どうやら少しめんどくさい事になってるです。さっきから外に加護の通信を送ってるですが、全く繋がらないです」


「え?」


「多分ですが、神の加護の領域内の影響だと思うです。一度外に出て報告するか、それともこのままラークを止めるか……どちらにしてもこの建物内では連絡がとれないのは確かです。でも……」


 そこまで話すと、ラテちゃんは大きなあくびをして、優し気に微笑みを見せる。


「ジャス、心配しなくても大丈夫です。今でもプリュイとの加護の力の繋がりは感じている筈です」


「…………うん。感じるよ。プリュちゃんの水の加護。私の中にある」


「それなら大丈夫です。契約破棄だなんて、どうせあの馬鹿のラークが適当な事を言っただけです。スミレの言う通り、後はリリィがなんとかしてくれるです」


「うん。そうだね。きっとそうだよ」


 ラテちゃんのおかげで私が感じていた心配は全て掃われて、自然と笑みを零してラテちゃんに頷いた。

 すると、それまで私達のお話を聞いていたオぺ子ちゃんが困惑しながら口を開く。


「ど、どう言う事? ジャスミン、何があったの?」


「……うん。オぺ子ちゃん、手伝ってほしい事があるの」


「手伝ってほしい事?」


 私はオぺ子ちゃんに今まであった事を話す事にした。

 最初に頼もうとした様に、本当はこれはリリィの役目だったけど、もうそんなのは関係ないのだ。


 そして、私とスミレちゃん、それにセレネちゃんも加えてラークの事を教えると、オぺ子ちゃんは休憩室に備えてあった椅子に力無く座り込んでしまった。

 色んな事を一気に聞かされて頭が混乱しているのだろう。

 私だって最初は驚いたし多少なりとも気持ちは分かる。

 後は、オぺ子ちゃんがラークを止めるのを手伝うと言ってくれれば良いんだけど……。


 と、その時だ。

 ガチャリと扉が開かれて、そこに現れたのはバニーガール姿のモブ顔のお姉さん。

 私とモブ顔のお姉さんの目がかち合い、私はそのモブ顔のお姉さんの顔を見て誰なのか思いだす。


 あ。

 私を魔性の幼女って最初に呼んだお姉さんだ。


 そう。

 そのモブ顔のお姉さんは私が9歳の頃に、本当に一番最初に【魔性の幼女】と私に言ったお姉さんだった。

 なんでそう呼んだのかは……うん。

 思いだしたくないので忘れたままにしよう。


「ジャスミンちゃんだ。何々? ジャスミンちゃんもここで働くんだ? ってまだ着替えてないし。仕方が無いな~」


「え? わた――」


「良いから良いから。えーと確かここにジャスミンちゃんサイズのが~……」


「えっと、だから私は――」


「あったあった。はいこれ。さっさと着替えてねー」


「待って! 私着替え――」


「何? わからないの? 仕方が無いなー。はいはい上着脱がせてあげるから腕上げてー」


「いやそうじゃなくて!」


 私の訴えは空しく、モブ顔のお姉さんに勢いよく脱がされる。

 と言うか何なのこのお姉さん!

 あっという間に上も下もパンツまで脱がされちゃったよ!?


 私は助けを求める為にスミレちゃんを見ると、スミレちゃんは目が合った途端にとても良い笑顔になる。


「幼女先輩のバニーガール姿楽しみなのです」


 楽しみなのですじゃないよ!

 そうだ!

 セレネちゃんなら!


 と、セレネちゃんに視線を移すと、セレネちゃんまで何故かバニーガールの尻尾付きレオタードに着替えていた。

 と言うか、オぺ子ちゃんが楽しそうに着替えを手伝っている。


 なんで!?


「おー! 結構似合ってるわね。流石は私が認めた魔性の幼女。うん。ジャスミンちゃんなら説明しなくても仕事が出来そうだし、説明はいらないよね? よし、早速お仕事しよっか」


 えええぇぇぇっ!?

 って、あれ!?

 うそでしょう!?

 私もう着替え終わってるんだけど!?

 全然気がつかなかったよ!


 気が付くと、私は既にバニーガールになっていました。ぴょんぴょん。




【ジャスミンが教える幼不死マメ知識】

 ラークの建てたカジノアレースで働くバニーガールの女の子達が、付け襟の所に蝶ネクタイで隠してつけている拡声石かくせいせきは、マイクを魔石にした様な物なんだよ。

 カジノは凄く煩いから、これが無いと何も聞こえないんだよね。

 だからカジノで働くスタッフの皆には欠かせないものみたいだよ。

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