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104 幼女と始まる決戦の序曲

 緑豊かな自然溢れるこの村は長閑のどかで毎日平和な日常が繰り返されていて、人によっては退屈かもしれないけれど、私はそんなこの村が大好きだ。

 昼間にリリィと遊んで家に帰ればママがいて、夕方頃にはパパが帰って来て一緒にお風呂に入って、家族皆で晩御飯を食べる。

 そんな日々を過ごす事に、私はいつも幸せを感じていた。


 だけどこの日、そんな幸せな日々は儚く崩れ去ってしまった。

 いつものように目を覚まして、私は日差しを浴びながら目を細めて窓の外を見る。


「何? これ……」


 私は窓の外を見て絶句する。

 目に映ったのは地獄と見紛う程の惨劇。


 迫り来る恐怖に逃げ惑う人々。

 阿鼻叫喚の波がメロディを奏でる様に所狭しと悍ましく響き渡り、草木が赤色に染められていく。


「そんな……」


 気がつけば、私は恐怖で震えていた。

 目の前に広がる光景は、それ程までに恐ろしく、私の脳裏に恐怖を与えたのだ。


 助けて、と、助けを呼ぼうにも誰が助けてくれると言うのだろうか?

 目に映る現実が物語る。

 助けは来ない。

 全てが最早手遅れなのだと。


 そして、私の部屋の扉は開かれた。

 恐る恐る扉の方へ視線を向けて、私はごくりと唾を飲み込んだ。


「嫌、来ないで……」


 懇願するも、聞き入れてくれるわけが無い。


「お願い……いや…………」


 逃げたくても、窓際に立つ私には後退る事すら許されない。

 目の前に恐怖が迫り、逃げる事が出来ない私は只受け入れる事しか出来なくて、それによって部屋を赤色に染め上げた。





「ジャ…………ジャスミ……ジャスミン」


「う、うぅん……」


 肩を揺すられて瞼を開けると、私を心配そうに眉根を下げて見つめる絶賛幼女化中のリリィの顔が目に映る。


 ……リリィ?


 ムクリと上半身を起こして、ボーとした頭でリリィに視線を向ける。

 リリィはホッとしたような顔をして、苦笑して口を開いた。


「悪い夢を見ていたの? うなされていたわよ」


「夢……? う~ん……そうかも?」


 何だか怖い夢を見ていた様な……いなかった様な?


 私は大きなあくびをしてから、グッと大きく背伸びをする。


 えーと……あ。

 そうだ!


 そこで私は思いだす。

 もちろん夢の事では無い。

 これから何をすべきかだ!


 海猫ちゃんから、ラークがトランスファに帰った事を教えて貰った私達は、トランスファに向かう前に作戦会議を開始した。

 アマンダさんとナオちゃんが、私達のお手伝いをしてくれると言ってくれて心強い味方を得る事が出来たのだけど、ここで一つ問題が起きる。


 それは、港町に予め来てくれていたアマンダさんの国の兵隊さん達の存在だ。

 アマンダさんが港町で情報収集をしていてわかったのだけど、兵隊さん達はアマンダさんの指示で港町に来ていたのだけど、ラーク率いる吸血鬼軍団に襲われて攫われていたのだ。

 アマンダさんが言うには、多分だけどこの事は既に本国まで知られていて、一度帰って詳しく報告を済まさないと本当に国をあげての争いになり兼ねないとの事だ。

 しかも、その矛先が私の暮らす村トランスファだ。

 送り出した兵が忽然こつぜんと何の連絡もなしに姿を消すなんて、普通に考えてただ事ではないのは確かだから、流石に私でもそれは想像できて血の気が引いた。

 そんなわけで、アマンダさんとは一度お別れになってしまった。


 ナオちゃんはと言うと、


「姉様が村に着く頃には、ニャーが神様をぶっ飛ばしてるにゃ」


「時代は私達ネココンビの時代だ! なあ、ナオ!」


「そうにゃ! マモマモとニャーは無敵のネココンビだにゃ!」


 などと言って、マモンちゃんと一緒になって楽しそうに笑っていた。

 コンビとか言うからお笑いコンビかな? なんて思ったのは黙っておくことにする。 

 ちなみにアマンダさんは、凄く心配そうで、それでいて哀れむ様な目で2人を見ていた。


 と、それはともかくとして、これから私が何をすべきか。

 それは考えるまでもなく、トランスファに行ってプリュちゃん達を助けて、ラークのバカを止める事だ。

 そして、その為に今からトランスファに帰るのだ。


「それにしても、まさかここで寝泊まりをする事になるとは思わなかったわね」


 リリィが呟き、私は苦笑した。


 実は、私が目覚めたこの場所は、村から少し離れた場所に作られた秘密基地。

 ラークがオぺ子ちゃんと一緒に作ったスミレちゃんと初めて出会った場所だった。

 と言っても、ちゃんとした家では無いので、私とフォレちゃんの2人で一緒に魔法を使って丈夫な小屋へと生まれ変わっていたわけだけど。


「私としては懐かしい感覚なのよ。トイレ付きで、とても子供だけで作ったとは思えない住み心地なのよ」


 うんうん。

 そこだけは、ラークを褒めてあげたいよね。


「どうでも良いッスけど、本当にこんな所で一夜を過ごしてばれないとは思わなかったッス」


「がっはっはっはっ。儂が寝ずに外で見張りをしていたのだ。気付かれても問題は無かったがな」


「おかげで安心出来て、ゆっくり眠れたなの」


「ラテは自分のお家で寝ても良かったですが、ここより安全じゃなさそうです」


「がお?」


「確か……其方の家は、村から少し離れた所にある噴水広場の地下ぢゃったか? 向こうは村の住民が出入する可能性が高い。確かに神共に気付かれる恐れがあるのう」


「それより早く行くわよ! リリィ=アイビー、どっちが早く神を残滅出来るか勝負だ!」


「嫌よ、めんどくさい。あんた一人でやってなさいよ」


「って言うか、このまま考えなしに突っ込むなんて馬鹿のする事っしょ」


「そうだにゃ~。ニャーは正面から先手必勝が手っ取り早くて良いと思うにゃ」


「へっ。それなら、この勇者レオに任せてくれよな! 俺の剣技で一網打尽にしてやるぜ!」


「レオはだまってて! どーちぇ何もできないんだから! ね、ジャチュミンちゃん!」


「あはは……」


 何だか人が多いなぁ……。

 よく入れたよね、こんな狭い所に……。


 私が苦笑して冷や汗をかいていると、リリィがパチンと手を叩いて注目を集める。


「いい? あんた達にこれだけは言っておくわよ。村は……トランスファはジャスミンと私にとって大切な愛の巣よ。焼け野原なんかにしたら、その時は私が引導を渡してやるわ」


 うんう……愛の巣?

 そこは故郷とか居場所とか、他の言葉があったよね?

 って言うか、確かに焼け野原にされたら困るけど、引導は渡さなくていいからね?


「とくに、ジャスミンのお義父様とお義母様にかすり傷の一つでもさせたら、この世に生まれてきた事を後悔させてやるから気をつけなさい!」


 り、リリィ?

 パパとママを心配してくれるのは凄く嬉しいけど、かすり傷くらいなら、そんな事しなくてもいいと思うよ?

 って言うか、かすり傷じゃなくてもやめて?


 リリィに注目する私以外の全員が、リリィの鬼気迫るその表情を見ながら、こくりと頷く。


 そんなわけで私達はトランスファに向かう事になったのだけど、大人数で行くのも何かと動き辛いとの事で、3つのグループに別れて行動する事になった。

 もちろんグループによって、それぞれの役割は変わってくる。

 プリュちゃんを含めた攫われた人達を捜すグループと、オぺ子ちゃんを捜して協力をして貰う為に説得するグループと、何かあった時の為に直ぐに対処出来る様に秘密基地で待機するお留守番グループだ。

 ちなみに、もしオぺ子ちゃんが村に帰って来ていなかったら、オぺ子ちゃんを捜すグループは神様達の動向を探る事になっている。


 私のグループは勿論、プリュちゃん達の捜索隊だ。


「ラテちゃん、スミレちゃん、セレネちゃん、頑張ろうね!」


「任せるです。プリュイと子供達を見つけて、南の国でつけた汚名は返上するです」


「攫われた幼女の匂いを嗅ぎわけるなのです!」


「私の予想では、攫われたれんちゅーの所にポセイドーンか、その配下がいると思うんだよね~。ジャス、オフィクレイドでの借りを返してやんなさいよ!」


 セレネちゃんは相変わらずだなぁ。

 まあでも、今度はちゃんとお友達にならないとだよね。

 うん。


「頑張るよ!」


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