103 幼女は情報収集を頑張ります
ラテちゃんからプリュちゃんや子供にされた皆が攫われたと報告を受けてアマンダさんの隠れ家に戻って来た次の日、私達は港町で情報を集める為に歩き回っていた。
昨日も港町で情報収集を行っていたのだけど、港町の人も綺麗さっぱりいなくなっていて、何も情報が得られず一日が終わった。
今日は物的証拠の様な、何でも良いから手がかりを探そうという事で皆で別々に行動をしながら、そこ等中を手あたり次第探している。
それと、今朝はトンちゃん達やレオさんから新しい情報を得ていた。
特に驚いた情報は、プリュちゃんを攫ったのが鬼人のロークの可能性が高いと言う事ともう一つ。
皆を襲った吸血鬼を操っていたのが男の子だった……かぁ。
これって、やっぱりラークだよね?
レオさんが見たという男の子の見た目の特徴を聞くと、それはまさにラークだったのだ。
そう考えると、トンちゃん達が言っていた通りで、ラーク達は長距離を瞬間的に移動する術を持っている事になる。
「ご主人ご主人、これ美味いッスよ」
召喚された神ゼウスの事も気がかりだ。
海猫ちゃんと同じ姿をしているポセイドーンと一緒に何処かへ行ってしまった。
ポセイドーンの目的は、人命にかかわる様な脅威にはならないけど、もしラークがゼウス召喚を知ったらと思うと……。
「がお。美味ちい」
ラークと言えば、トランスファで何かを建ててるって言ってたよね?
もしかして、攫った人達はトランスファに連れて行かれたのかな?
「ぺアップルパイか、始めて食したが……うむ。これは確かに美味だ。リンゴの様な梨の様な風味が程よく、実に素晴らしいな。儂は甘いものが苦手なのだが、これは美味しく食べられる」
もしトランスファに連れて行かれたとしたら、目的は建物を作る手伝いをさせる為かも。
でも、港町の人達を攫ってまで作る建物って何だろう?
ピラミッドみたいな感じのものかな?
「其方等、どうでも良いが勝手に店の物を食うでない。それでは火事場泥棒と変わらぬのぢゃ」
とにかく、今は何か手がかりを探そう。
見つからなかったら、その時は一度トランスファまで――
「大丈夫です。ちゃんとお金は置いて行くです」
……う、煩い。
「ねえ? 皆食べてないで手がかりを探そうよ?」
私は冷や汗をかきながら、一緒に手がかりを探す精霊さん達に話しかけた。
「探すって言っても、昨日とことん探し回ったッスからね~」
「そ、そうかもだけど……」
「そうぢゃな。ジャスミン様には申し訳ないが、昨日と何か変わった事があるとしても、あそこにおる海猫だけぢゃ」
「本当だ。海猫ちゃんがいる」
フォレちゃんに言われて民家の屋根の上に視線を向けて、私は海猫ちゃんを見つけた。
海猫ちゃん可愛い……海猫ちゃん!?
思いっきり重要な参考海猫ちゃんだよ!
魔法を使って空を飛び、屋根の上の海猫ちゃんの目の前に私は降り立つ。
海猫ちゃんは目の前に現れた私を見て、可愛らしい顔で私を見上げた。
そして……。
「魔性の幼女だ」
喋った!
「何か御用ですか?」
か、可愛い!
海猫ちゃんは可愛らしいおめ目で私を見つめながら首を傾げる。
「えっと、私とお話して大丈夫なの? お話出来る事は内緒だったんじゃ……」
「あー、その事なら、もう大丈夫なんです。貴女達魔性の幼女に話せないと思わせていたのは、ポセイドーン様の野望を秘密にする為に、うっかり口を滑らさない様にしていたからなんですよ。だからもう黙っている意味が無いんです」
「そ、そうなんだ……」
あまりにもくだらない理由を聞いて冷や汗を流すと、海猫ちゃんが何かに気がついたように驚いたような表情を見せた。
「その口ぶり、もしかして内緒だった事に気がついていたのですか!?」
「え? う、うん」
返事をすると、海猫ちゃんは更に驚いた表情を見せて、おめ目をキラキラと輝かせた。
「す、凄い! 流石は魔性の幼女! 聞いていた通りのヤバい人ですね!」
あのぅ……。
その言い方だと駄目な方向のヤバい人って感じに聞こえるからやめてくれないかな?
「ご主人、どうするッスか? 縛り上げて血反吐吐くまで痛めつけて、プリュイの居場所を吐かせるッスか?」
「そんな怖い事しないよ!」
「では、妾が代わりに拷問にかけよう。なに、任せておけ。妾は拷問が得意なのぢゃ」
「やめて!」
「では儂が――」
「ノームさんは黙ってて!」
「む、むう……」
「電撃で痺れさせてやるッスか?」
「いや、神経を麻痺させる毒を文字通り食らわせてやるのぢゃ」
「だから2人共、酷い事は駄目なの!」
トンちゃんもフォレちゃんも物騒な事言うから困っちゃうよね。
そんな事したら海猫ちゃんが可哀想だもん!
「がおー」
気が付くと、私がトンちゃんとフォレちゃんを止めている間に、ラヴちゃんと海猫ちゃんが楽しそうにお喋りをしていた。
そしてその横では、ラテちゃんが眠そうな顔をして2人のお話を聞いている。
なんのお話をしてるのだろうと視線を向けると、丁度お話が終わってしまったようで、海猫ちゃんはラヴちゃんとバイバイと手を振って何処かへ行ってしまった。
うぅ……残念。
私もお話したかったなぁ。
「ジャス、この港町での情報収集はもう終わりです」
「プユとみんな、ジャチュの村いった」
「え? 本当?」
「です」
「がお!」
やっぱり、プリュちゃんも皆もトランスファに連れて行かれたんだ。
待っててね、プリュちゃん!
絶対に助けてあげるからね!
「リリィ達に知らせて、早く行こう。私達の村に!」
私達はリリィ達と合流して、私達の暮らす村トランスファへと帰る事になった。
海猫ちゃんからラヴちゃんとラテちゃんが聞いてくれた情報では、そこにアレースであるラークと、ポセイドーン、そしてゼウスがいるらしい。
ポセイドーンの目的の海猫ちゃんが陸で生活出来る様にと言う願いは、海猫ちゃんが屋根の上にいた事で既に叶っていると考えて間違いない。
ラークの目的はこの世界で戦争を起こして楽しむ事。
正直、私にはラークが何を考えているのかなんてわからないけれど、それでもアレースの正体がラークと知ってハッキリわかった事がある。
それは……。
さて、それはさておきとしてトランスファへ向かう前、リリィと合流した時の事だ。
リリィにラークがトランスファに言った事を説明すると、リリィはもの凄ーく悪い笑みを浮かべて口を開く。
「トランスファに……ね。丁度良いじゃない。建造物が何なのかは知らないけど、本当に自分から弱点のある場所を決戦の舞台に選ぶだなんて、ラークってやっぱり馬鹿ね」
「弱点?」
「ええ、そうよ。あの馬鹿、ラークの弱点、それは――」
リリィの笑みはそれはもう本当に悪役の様で、私は思わず顔を引きつらせた。
そしてリリィは悪役よろしくな笑みのまま目を光らせて言い放つ。
「オぺ子ちゃんよ!」
と。




