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102 精霊は月夜に照らされ談笑する その3

 ラテちゃんからの報告を受けて急いでアマンダさんの隠れ家まで戻って来た私達は、その日、港町に行って少しでも情報が無いか手がかりを探す事にした。

 だけど、港町に辿り着いた私達は、更なる事件を目のあたりにしてしまった。

 攫われたのはプリュちゃん達だけでは無かったのだ。

 そう。

 港町にいた人達まで、一人残らず攫われていたのだ。


 それでも私達は、情報を集める為に港町を歩き回った。

 でも、何の情報も得られる事は出来なくて、プリュちゃん達が、皆が何処へ連れて行かれてしまったのかわからなかった。


 そしてその夜、アマンダさんの隠れ家の屋根の上で月夜に照らされながら、プリュちゃんを除いた精霊さん達で作戦会議が開かれる。


「厄介な事になったッスね。結局助かったのはラテと自称勇者だけッスか」


「がお……」


「仕方ないです。それに、ラテがお昼寝していなかったら、自称勇者も捕まっていたです」


「ほう。それはどう言う事ぢゃ?」


 フォレちゃんが質問すると、ラテちゃんはラヴちゃんが温めてくれたホットミルクを飲んでから答える。


「ラテはお昼寝をするのに、最適な場所を探したです。子供達は煩くてお昼寝どころじゃなかったからです。だから、これは凄く重要な事だったです」


 ラテちゃんは真剣な面持ちでホットミルクを飲みほして、ラヴちゃんにコップを渡す。

 コップを受け取ったラヴちゃんは、可愛らしく頷いて、ミルクをコップに注いで温めだした。


「そして見つけたです! それは……あ、ありがとです」


「がお」


 ラテちゃんがお礼を言ってから、ラヴちゃんからホットミルクを受け取って一口飲む。

 それをトンちゃんがもの言いたげな顔で見つめて冷や汗をかいた。


「やっぱりラーヴが淹れてくれるホットミルクは美味しいです」


「がっはっはっはっ。確かに美味いな。儂も満足だ」


「ホットミルクなんてどうでも良いから、さっさと先を話すッスよ! と言うか、ノーム様は同意してないで黙ってて下さいッス!」


「これトンペットよ。気持ちは分かるが、そう急かすでない。それに見よ。ラーヴが落ち込んでしもうたぢゃろうが」


 フォレちゃんの言う通り、トンちゃんがホットミルクなんてどうでも良いと言ったから、ラヴちゃんがしょんぼりしていた。

 トンちゃんはラヴちゃんを見て、眉根を下げながらラヴちゃんに近づく。


「ごめんッス。ラーヴのホットミルクは世界一美味しいッスよ~」


 トンちゃんが宥めようと取り繕うと、ラヴちゃんはぶんぶんと首を横に振った。


「がお……。世界一ちぇかいいちはジャチュのパンケーキ」


「そ、そうッスね」


 トンちゃんが冷や汗を流すと、ラテちゃんがやれやれとでも言いたげな表情でトンちゃんを見た。


「トンペットはデリカシーが無いです。もっと普段から考えて喋った方が良いです」


「ボクもたまには怒るッスよ?」


「ラテールよ。いいからさっさと先を話せ」


「わかったです」


 少しだけ眉間にしわを寄せているトンちゃんの頭を、ラヴちゃんがいい子いい子とナデナデするなかで、ラテちゃんのお話は再開される。


「何の話をしてたですっけ? あ、そうです。そして見つけたのは、海猫鍋です!」


「海猫……鍋…………ッスか?」


「が、がお?」


「なんぢゃ、その海猫鍋とか言う意味不明なものは?」


「儂はわかったぞ。あれだ。猫鍋の海猫バージョンだろう?」


「その通りです」


 なんと言う事でしょう?

 そんなに素晴らしいものがこの世界にあるだなんて私は知りませんでした。

 是非直接見てみたいよ!

 と言うわけで、そんなお話をしていた事を知らない私の思考は置いていおいて、ラテちゃんの言葉の続きです。


「ここから少し離れていて、少し見えない場所に鍋が浮かんでいて、不思議に思って見に行ったです。そしたら、その鍋の中で海猫が丸まって寝ていたです。そこでラテはその上でお昼寝をする事にしたです」


「ふむ。そう言う事か。昼寝をする其方をレオが捜しに出かけて、その時に其方と一緒にいたおかげで、レオも助かったと言うわけぢゃな?」


「少し違うです」


「がお?」


「正確にはラテがお昼寝をしている間に、プリュイが自称勇者を含めた何人かの子供と一緒に、港町に買い出しに出かけていたです」


「あー、ここについた時にラテがご主人にそんな事言ってたッスね。プリュイはその時に、町を襲った吸血鬼たちから子供達を庇って攫われたんスよね?」


「です。結局自称勇者以外は全員捕まってしまって、自称勇者が逃げ込んだこの隠れ家も見つかってしまったから、他の子供達も連れて行かれたです」


「ジャスミン様にもその様に言っておったのう」


 ラテちゃんはフォレちゃんの言葉に頷いて、ホットミルクを一口飲んだ。


「その時、自称勇者だけがラテがいない事に気がついて、逃げながらラテの事を捜して助かったです」


「成程な。子供にされた者の中でレオだけが助かったのは、そう言う事であったか」


「しかし、あのレオとか言う者、仮にも勇者であろう? 子供にされたとは言え、逃げるばかりとは情けないやつぢゃのう」


「まあ、その辺は仕方ないんじゃないッスか? それに自称勇者が逃げたおかげで、何がおこっていたのかわかったッス」


「それもそうぢゃな。それにしても……」


 フォレちゃんが深刻な面持ちになり、ラテちゃんに視線を移す。


「気がかりなのはプリュイと加護の通信が出来ぬ事ぢゃ。ジャスミン様もそのせいで焦っておった。その件について何かわからぬのか?」


「わからないです」


 ラテちゃんが首を横に振ると、ラヴちゃんが可愛らしくおて手を上げた。


「がお」


「ラーヴ、わかるのか?」


「がお。ジャチュがこけち入れられた時、通信ちゅうちんできなかった」


「マジッスか!?」

「なんぢゃと!?」


 トンちゃんとフォレちゃんが同時に驚き、ラテちゃんとノームさんが頭にハテナを浮かべる。


「どう言う事です?」


「ロークって名前の鬼人が、能力でマトリョーシカの中に人を閉じ込める事が出来るんスよ。まさか、ご主人も食らっていたとは思わなかったッス」


「うむ。しかし、あの奇怪な能力に、そんな機能までついておったとはのう……。ならば、プリュイを攫った者はロークの可能性が高い。そうなると、ジャスミン様同様に、奴等も長距離を一瞬で移動する術を持っているという事になるのう」


「そうッスね。ラテ、皆が……港町が襲われたのがいつ頃かわかるッスか?」


「わからないです。だけど、ラテがジャスに通信を送るより少し前だったと思うです。プリュイが出かけてから、そんなに時間が経たずに顔を真っ青にさせた自称勇者が来たから間違いないです。それに、自称勇者もプリュイが鬼人に掴まったって言ってたです」


 決定的とも思えるその言葉に、トンちゃんとフォレちゃんとラヴちゃんが驚く。


「あの愚か者、何故それをここに来た時に言わなんだのぢゃ」


「本当ッスね。もう確定じゃないッスか」


「がお」


「決まりだな」


 ノームさんの言葉を合図にするかの様に、精霊さん達は頷き合った。


「この事は明日の朝、ジャスミン様に報告をした方が良いぢゃろう」


「そうッスね。結構重要な話だと思うッスよ」


「がお」


「明日は自称勇者にも詳しく話を聞くです。他にも何か聞き出せるかもです」


「それが良いだろうな。ジャスミン殿にお前達が話している間に、儂からレオに聞いておこう」


 精霊さん達は再び頷き合い、凛々しく笑い合う。


「皆の者、必ず我等が同胞、プリュイを助け出すのぢゃ!」


「「「おーっ!!」」」


 こうして月夜に照らされた精霊さん達の会議は終了しました。

 今日の会議はプリュちゃんがこの場にいないからか、少し寂しくて、少し真面目な会議でした。


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