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101 幼女も上目使いにはメロメロになる

 ポセイドーンとゼウスが何処かへ行ってしまった後、私達はスミレちゃんと合流した。

 それから、またもやとんでもなくおバカなお話を聞かされる。


「スミレー! ジャスミンのハンカチを台座に置いたってどう言う事よ!」


「ご、ごめんなのよ。ちょっとした出来心で、まさか生贄として消えちゃうだなんて思ってなかったなの」


 私は冷や汗をかきながらセレネちゃんに視線をむける。

 セレネちゃんはもの凄く顔を引きつらせながら、スミレちゃんを責める幼女化中のリリィを見ていた。


「ハニー、今回ばかりは仕方が無いッスよ。それに、台座にご主人の私物を置いてしまったのはラーヴも一緒ッスし」


「がお……」


 ラヴちゃんがしょぼんと落ち込み、私はラヴちゃんの頭を優しく撫でる。


「どちらにせよ、起きてしまった事は仕方がないぢゃろう。それにリリー、其方こそ敵の能力を食らってしまったのぢゃ。お互いさまぢゃ。偉そうな事は言えまい」


「……うん。ごめんね、スミレ」


「私の方こそごめんなのよ」


 ……どうしよう?

 この雰囲気で、私のパンツとハンカチで神様が召喚されちゃった事実が、そもそもとして意味不明でおかしすぎるだけだなんて言えないよ?

 って言うか、アマンダさんとナオちゃんまで何も言わないんだもん。

 私の思考がおかしいの?


 などと私が一人で「うーん……」と考えていると、ナオちゃんが私に話しかけてきた。


「ジャスミー達はこれからどうするにゃ? ニャーと姉様は王様に報告があるから、ここでお別れになるにゃ」


「え? あ、そうなんだ? 私達は、うーん……」


 一度村に戻らないとだよね。

 でも、リリィもだけど、結局幼くなった人達は元に戻せないままだし……。


「ジャスミン、子供になってしまった人達は私の城で保護するわ。お城の中なら安全だし、家族の方も呼べるでしょう」


「そっか。被害にあった人達の家族の事とか、全然考えてなかったよ」


 って、あれ?

 もしかして、今はあそこで保護してるから失踪事件になってるんじゃ!?


 今更ながら気がついた私が顔を青くさせると、アマンダさんが苦笑した。


「心配しなくても大丈夫よ。あらかじめご家族には連絡をいれているのよ」


「え! アマンダさん凄い」


「そんな事ないわよ」


「にゃー。だから買い物だけであんなに時間かかってたにゃ? 寄り道したからってだけじゃなかったのにゃ」


 やっぱりアマンダさんって凄いなぁ。

 本当にかっこいい。


「わたちはジャチュミンちゃんといっちょに行く」


「え? でも」


「がっはっはっはっ! 心配せんでも儂がハッカの面倒をみてやろう!」


 いつの間にか気絶から目を覚ましたノームさんが私の肩を叩き豪快に笑う。

 私は肩の痛みを感じながらノームさんを横目で見た。


 なんだろう?

 逆に凄く心配だよ?

 でも、確かにノームさんがいなかったらハッカさんは海の中で外に出ちゃったんだよね……って、そもそもノームさんが誘ったんだっけ?

 う、うーん……。


「ごふっ!」


 リリィがかかと落としで、私の肩を叩くノームさんの顔面を床に埋めて話す。


「まあ、良いじゃない。ハッカの能力は役に立ちそうだし、置いて行ったらまた追っかけて来るわよ」


 リリィの言葉にうんうんと、力強くハッカさんが頷いた。

 床に顔を埋めて再び気絶したノームさんを見て、フォレちゃんが可哀想な人を見るような視線をノームさんに向ける。


「其方は本当に威厳が無くて哀れぢゃな」


 哀れなノームさんの事はとりあえずその辺に置いておくとして、確かにハッカさんの行動力は正直怖くなる位で、目の届かない所にいると逆に大変な事になるかもしれない。

 私は仕方が無いと、ついて来てもらおうと考える事にした。


「お姉ちゃん、危ない事したら駄目だからね」


「はーい!」


 ハッカさんの可愛らしい満面の笑みを見ながら、私はふと思って口にする。


「あれ? そう言えばリリィ、お姉ちゃんと比べて、幼くなったのに雰囲気……と言うか話し方があまり変わらないけど何で?」


 そうなのだ。

 幼児化させられた人達は記憶こそあれど、行動や言動までもが幼児化してお子様になってしまっているのだ。

 それなのに、何故かリリィは殆ど変わらなくて、本当にたまに幼い感じが出るだけだ。


「何でって、おかしな事を聞くのね。変わるのなんて見た目だけで十分でしょ?」


 あ、はい。

 そうでした。

 リリィって、そう言う子だよね。

 聞いた私がバカでした。


「愚問ッスね」


「ぢゃな」


「がお」


「私としては、リリィがマーレの能力を食らってた事の方が驚きなのよ」


 わかる。

 私も最初はびっくりしたもん。


「まあ、私だって少しはジャスミンに可愛く見られたいし、せっかくだから少し幼くふるまってみてはいるけれど」


 不意にリリィが上目使いで私と目を合わす。

 その可愛さは尋常では無く、私は思わずリリィを抱きしめた。


 リリィ可愛すぎだよぉ!

 お持ち帰りしたい!


「じゃ、ジャスミン!?」 


「えへへ~。リリィってば可愛いなぁ」


 思わず口から本音が漏れると、リリィは顔を真っ赤にさせて私をギュウッと抱きしめ返してくれた。


「それよりさ~。聞きたいんだけど、スミレ? だっけ? 蛇女は何処行ったのよ?」


 蛇女って、あのお姉さんの事だよね?

 私もちょっと気になってたんだよね。


 お話が気になった私は、リリィを抱きしめながら耳を傾ける。


「蛇美ちゃんならラークくんが来て連れて行ったなの」


「そうなんだ? ……って、あ、そっか。スミレちゃんは知らないんだよね。ラークの事」


「ラークくんの事なのです? そう言えば、何でこんな所にいたなのですか?」


「ラークがアレースだったんだよ」


「ラークくんがアレースだったなのですか!?」


「そうよ。あの馬鹿が神だったのよ。しかもあの馬鹿、ジャスミンのパンツを盗んでたのよ。今度会ったらただじゃおかないわ」


 リリィが私に抱きしめられながら顔だけスミレちゃんに向けて話すと、セレネちゃんがイライラとしながら話し出す。


「ジャスのパンツとかどーでもいーっしょ! そんな事より、こーなったらてってー的にあいつ等の邪魔してやる!」


「せ、セレネちゃん?」


「蛇女を人質にしてアレースをぶっ殺してやろーと思ってたのに、逃げられたとか信じらんない! 結局私を殺した奴もまだわかんないし、いー加減にしてほしーっしょ!」


 あぁ……成程だよ。

 確かにセレネちゃんからしたらそうだもんね。


「だいたいジャス!」


「う、うん?」


「神と友達になるって話覚えてんの!? 全然そんな素振り見せないじゃん! やる気あんの!?」


 え、えーと……。


「なんだかバタバタしてて、つい忘れていたと言うかなんと言うか……」


「ちょとセレネ、ジャスミンにあたらないでよ」


 言葉に詰まって言い淀んでいると、リリィが顔をセレネちゃんに向けて睨む。

 セレネちゃんはプイッとそっぽを向いて黙ってしまった。

 よく見るとセレネちゃんは目を少しだけ潤ませていた。

 それを見て、私はリリィから離れてセレネちゃんを抱きしめる。


「ごめんね、セレネちゃん」


「いーわよ。許したげる。でも、次はちゃんとしないと許さないかんね」


「うん」


 セレネちゃんから体を離して微笑むと、セレネちゃんは頬を赤らめさせて、またそっぽを向いた。


「とは言っても、戦争を未然に防げたんだから、結果としては良かったんじゃないッスか?」


「そうぢゃな。当初の目的のセレネを救い、その上で戦争を防いだのぢゃ。功績としてはまずまずぢゃろう」


「ええ。私もこの国の代表として、ジャスミンには感謝しているわ」


「にゃー。一件落着だにゃ」


「がお」


「流石は幼女先輩なのよ」


「当然よ。ジャスミンに不可能は無いわ」


「あはは。どちらかと言うと、私と言うよりはリリィの――」


 おかげだよ、と言おうとしたその時、私の頭に直接話しかける声が聞こえた。

 それは、加護を使った通信。

 遠い遠い港町の外れ、アマンダさんの隠れ家からのSOS。

 私達は勿論、アマンダさんとナオちゃんも、私に向けられて届いた言葉で港町へ急いで向かう事になった。

 そして、その言葉とは……。


『ジャス! ラテがお昼寝している間に大変な事になったです! 吸血鬼どもが町に突然現れて町の人を襲って、プリュイと子供になった人達を誘拐して行ったです! 今直ぐ帰って来るです!』


 誘拐事件はまだまだ続く。

 しかも、今回はセレネちゃんの時より大事になっている。


 私は突然のラテちゃんからの報告に驚いて、ごくりと唾を飲み込み言葉を失った。

 どうやら一件落着には、まだまだ早かったようだ……。


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