098 幼女になっても変態は変わらない
私が幼女化したリリィにキュンキュンと心を奪われていると、ラークが苛立った様子でリリィを見た。
「おいマーレ! これはどう言う事だ!? 幼児化した奴は能力意外の魔力や力が、全部当時のものに戻るんじゃなかったのかよ!?」
アマンダさんと戦っていたマーレがラークの許まで退却し怒鳴られた。
マーレは特に気にする様子もなく淡々と答える。
「さあ、理由なんてわかりませんよ。情報通りに常識が通用しないだけだと思いますけど?」
「けっ、使えねえ。これだからポセイドーンの奴隷は役に立たねーんだよ! ポセイドーンも使えねえ奴隷ばかりよこしやがって、本当に糞みたいな奴だな!」
「アレース様~、ポセイドーン様の悪口とは聞き捨てなりませんね。だいたい、アレース様の戦神の加護持ちのロークが、加護の力を発動する間もなく蹴り飛ばされたんですよ? アレース様の加護の方がよっぽど役に立たないのでは~?」
「ああ゛っ? 貴様、奴隷の分際で俺に口答えする気か!?」
「ちょっと仲間割れは他所でやってくれない? こっちはロークがやられてんのよ? ほら」
ラークとマーレの言い争いをウンディーネさんが止めて、いつの間にか回収していたロークを2人の目の前に放り投げる。
ラークは気絶しているロークを見ると、舌打ちしてから私を睨む。
「おいジャスミン! お前、随分と村に帰ってないだろ?」
「え? 村? う、うん。そうだけど?」
ラークはニヤリと笑ってセレネちゃんに視線を移した。
そして、いつの間にか戻っていた口調を正して話し出す。
「アルテミス、今回はここで引いてやる。想定外の事が起こってしまったから、予定していたバセットホルンとの戦争も無しだ。まずは幼児化しても力が衰えないそこの規格外の女をどうにかする必要があるからな。作戦の練り直しだ」
リリィが幼くなっても強さがそのままだったのが想定外って言う事だよね?
それなら、元々リリィを幼くするのは作戦の内だったんだ。
マーレって人が飛び出してきたタイミングを考えると、凄く納得出来るかも。
確かにあのタイミングなら能力が使える可能性が高いもんね。
「はあ? んな事より、逃げれると思ってんの? ジャスミンを殺すって言った時点で、アンタはその規格外のリリィから逃れられないわよ!」
「その通りよ! ジャスミンは私が護る!」
「リリィ……」
凄く可愛い。
どうしよう?
こんな時だって言うのに、小っちゃくなったリリィがこんなにも可愛いだなんてー!
後ろかギューって抱きしめたいよぉ。
「まあそう焦るな。決戦に相応しい舞台を用意してやるのだ」
「決戦?」
「そうだ。余が統べる村トランスファでは今、とある建造物を作っている。決戦の場はそこだ」
え?
建造物?
「がお……猫喫茶!?」
ラヴちゃんが雷に打たれた様な表情を見せて、私は目を光らせる。
え?
何それ楽しみ。
そっかぁ。
オぺ子ちゃんが猫喫茶を建てるの手伝ってるんだもんね。
だから、オぺ子ちゃんの友達のラークがそれを手伝ってるんだ!
考えてみれば自然な流れだよぉ。
それにしても喫茶店で決戦かぁ……どんな決戦をするんだろう?
可愛いやつかな?
「いや、確かに今作ってるみたいッスけど、流石にそれはないッスよ」
「うむ。本当にそんな物が決戦の場になれば、最早神々の戦いも底が知れておる」
「そ、そうかな? とっても可愛いと思うよ?」
「がお!」
私はラヴちゃんと一緒にニッコリ微笑む。
「ご主人……」
トンちゃんが私を呆れた様子で見つめると、それと同時にラークが煩く声を上げる。
「本当にお前はいつまでたってもくだらねーなジャスミン! 大ハズレもいいとこだ! 犬ならともかく猫喫茶なんて作ってたまるか!」
「え!? じゃあ、わんちゃんが主体の犬喫茶!? 私は大歓迎だよ!」
まったくラークの奴め。
それならそうと初めから言ってくれればいいのにね。
私は猫ちゃんもわんちゃんも同じ様に大好きなのだ。
どっちか片方だなんて、私からしてみたら邪道。
猫ちゃんもわんちゃんもみーんな可愛いのだ!
「違うっつってんだろ! 喫茶店なんて開かねーよ! ばーか!」
「ええー!」
なんだ残念。
私とラヴちゃんはがっかりして眉根を下げる。
「あのさアレース様、完全に向こうのペースにハマってますよ?」
マーレが冷や汗をかきながらラークに話しかけて、ラークはハッとなって咳払いを一つする。
「ふん。向こうのペースにのってやっただけだ。そんな事より、さっさと行くぞ。ロークはお前が連れて行けウンディーネ」
「仕方が無いわね~」
「逃がさない!」
ラーク達がこの場を去ろうとして、リリィがラークに向かって走り出す。
「リリィ!」
ラークはめんどくさそうにリリィを一瞥して、リリィに向かって手をかざした。
「そう言えばリリィ、お前にはこれが一番だったな?」
「それは……っ!?」
ラークが何かを目の前に出現させて、リリィは驚き立ち止まる。
そして、私もリリィ同様に驚いていた。
何故ならそれは……。
「わ、私のパンツー!?」
そう。
私の故郷トランスファの村にある私の家のタンスの中に眠っている、9歳の頃に穿いていた真っ白な生地に天使の輪っかと天使の羽が描かれているプリントパンツ。
愛用していた私のお気に入りパンツだったのだ。
リリィは私のパンツに飛びついて、ラーク達は近くにある穴から外へ去って行く。
アマンダさんとナオちゃんはラークがリリィに何を出すのかと身構えていたのだけど、出て来たのがパンツだったものだから、呆気にとられて呆然としていた。
セレネちゃんとハッカさんも突然飛び出したのが見覚えの無いパンツだから、2人共可愛く首を傾げた。
まあ、ハッカさんの場合は自分がデザインしたパンツが出て来て首を傾げたのかもだけど。
そして、私はと言うと……。
いやいや。
いやいやいやいや。
まさかまさか…………うんうん。
多分あれだよ。
同じ柄のパンツってだけで、私のじゃないよね?
などと動揺しながら、変態幼女と化したリリィの言葉を聞き流す事しか出来ませんでした。
「見て見てジャスミン! これはジャスミンと私が初めてサガーチャのいるドワーフの国に行った時のパンツよ。懐かしいわね!」
「流石ハニーッス。見ただけでいつ穿いていたかわかるなんて、幼女化しても気持ち悪いぐらいの変態ぶりッス」
「ほほう。リリィよ、もっと詳しく妾に話すのぢゃ」
「が、がお」




