表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/176

009 幼女は遺跡を探検する

 陽が沈むころ、村から離れた遺跡に辿り着き、私は口を大きく開けながら遺跡を眺める。

 古い遺跡なのか、其処彼処そこかしこ瓦礫がれきが散らかっていて至る所に落ちていた。


 私はトンちゃんを肩に乗せ、リリィと手を繋いで遺跡の中に入る。

 遺跡の中は真っ暗で、私とリリィは周囲に気をつけながら少しずつ進んで行く。


「ご主人、魔法で明るく出来ないッスか?」


「え? うん。出来るけど、危なくないかな?」


「何で危ないッスか?」


「もしかしたら、魔幼女がいるかもしれないでしょう?」


「成程ッス」


 私がトンちゃんに説明すると、トンちゃんは納得して頷く。


「ねえ、ジャスミン。あっちに何かあるわ」


「え?」


 リリィが指をさし、私がその先に視線を向けると、リリィは小走りで指をさした方へ向かう。


 暗くてよく見えない。


 リリィが指をさして向かって行った先は、私にはよく見えなくて、私は首を傾げてリリィを追った。

 そうしてリリィの後を追って小部屋の様な場所に入ると、私はそこで立ち止まっていたリリィの横に並んで、暗闇の中に薄っすらと見えた物を見て驚いた。


「パンツの……山?」


 小部屋の中には大量にパンツが積まれていて、その数はわからないけれど、積まれている高さが私の身長を超えていた。

 私はあまりにも大量にあるパンツの山を見て口を大きく開けて驚いて、その場に立ち尽した。


「これが話で聞いた買わされるパンツッスかね?」


「間違いないでしょうね。きっと被害に遭った人は、このパンツを買わされていたに違いないわ」


「こんなのよく見つけたッスね? この部屋に窓は無いし、入口から微かに漏れる月と星の光しかないから、ボクは近づくまでわからなかったッス」


「そんなの慣れよ」


「そんなもんッスかね~」


 多分リリィの場合は、慣れと言うよりは、いつものチートだと思う。


 などと私が二人の会話を聞いて考えていると、トンちゃんがキョロキョロと周囲を見回す。


「あれ? 何か聞こえないッスか?」


「え?」


 トンちゃんが何かを聞き取った様で、私とリリィは耳を澄まして確認する。

 すると、男の呻き声の様な声が、微かにだけど聞こえた。


 ひぃっ!

 怖い!

 すっごく怖いんだけど!?


 私が恐怖で思わずリリィの腕にしがみつくと、リリィが私に優しく微笑む。


「大丈夫よジャスミン。私が側についているわ」


「うん」


 頼もしすぎるよリリィ!

 流石私の大親友だよ!


 私は涙目になりながら、ギュウッとリリィの腕を強く抱きしめる。


「何ッスかね? 行ってみるッスよ」


「そうね。もしかしたら、魔幼女に襲われた被害者がいるかもしれないわ」


 私はごくりと唾を飲みこんで、無言でこくりと頷いた。

 すると暗闇の中でもリリィには私が頷いたのが分かったのか、ゆっくりと歩き始めたので、私もリリィの腕を抱きしめながら歩き出す。


 そうして少し先に進んで行くと、突き当たりの曲がり角の先から、ほんの少しだけ明かりが見えてきた。

 私とリリィは歩くペースを維持しながら、明かりの見える場所まで慎重に進んで行く。

 そして、曲がり角まで辿り着くと、私とリリィは顔だけ覗かせて曲がり角の先を見た。


「――っ!?」


 私は驚いて口を手でふさぎ、ごくりと息を飲みこむ。

 曲がり角の先に顔を覗かせた事で見えたのは、部屋の中で座り込む沢山の大人達。

 大人達は皆が腕や足が骨なんじゃないかと思える程に痩せこけていて、皆虚ろな目でボーっと何処かを見ていて、生気が全く感じられなかった。

 まるでミイラの様なその姿をした大人達は、何人か呻き声を上げていて、私を驚かすには十分過ぎる程に恐ろしく目に映った。


 ダメだダメだ。

 しっかりしろ私。

 この人達はきっと被害者なんだ。

 怖がったら失礼だよ!


 私は心の中で自分にそう言い聞かせて、首を横にブンブンと思い切り振った。

 すると、その時、背後から声が聞こえてきた。


「収穫収穫~。今日も生きのいー男をゲット~」


 だ、誰!?


 私は声に驚いて、背後に目を向ける。

 だけど、月明かりに照らされた通路には、誰の姿も見えなかった。


 誰もいない……。

 い、今の声は何だったんだろう?

 怖いよぉ。

 お家帰りたいよぉ。


 私がビクビクとしていると、リリィが私の耳に顔を近づけて小声で喋る。


「ジャスミン。遠くの方……多分遺跡の入り口の方から声が聞こえたわよね。もしかして、今の声が例のカーミラって子の声じゃないかしら?」


 え?

 凄いリリィ。

 そんな事までわかっちゃうんだ。


 私は何だかリリィの言葉で安心して、ホッと胸を撫で下ろす。


「生きの良い男をゲットとか言ってたッスね」


「そうね。ギャンジが捕まった可能性があるわね」


「えっ!? ギャ――」


 私がコソコソと話すリリィとトンちゃんのお話を聞いて驚いて大きな声を上げそうになると、トンちゃんに体で口を塞がれた。


「ご主人。静かにするッスよ」


「う、うん。ごめん。トンちゃん」


 私がトンちゃんに謝っていると、リリィが私の手を握って歩き出す。


「様子を見に行きましょう」


「う、うん」


 私はリリィに手を握られて、引っ張られる様に歩きながら頷いて、歩いて来た道を一緒に戻る事にした。

 と言うか、置いて行かれたら怖くて泣きそうなので、連れて行って貰った方が凄く助かる。


 私はリリィの手を強く握りながら、音を立てない様にゆっくりと進んで行く。

 そうして辿り着いた場所は、壁が光って遺跡の中を照らす不思議な部屋だった。

 そしてそこには、見た目が15歳位のお姉さんと、横たわるギャンジさんの姿があった。


 私はお姉さんを見て驚く。

 何故なら、お姉さんの見た目が私の脳内で描く吸血鬼そのものだったからだ。

 赤みが入った金髪の髪の毛に、まつ毛が長いつり目。

 その瞳の色はオッドアイで、右の瞳がスカイブルーで、左の瞳がワインレッドで綺麗な瞳。

 ニッと笑っていて、可愛らしい八重歯が見えていた。


 お姉さんはしゃがんで、横たわるギャンジさんの頭を掴んで持ち上げる。


 本当にギャンジさんが捕まってる。

 じゃあ、あのお姉さんが魔幼女のカーミラちゃん?

 聞いた話では6歳位の女の子って話だよね。

 全然年下に見えないけど、もしあのお姉さんが魔族なら見た目だって吸血鬼っぽいし、きっと何かあるはず。

 ここは慎重に……。


 と、私が緊張しながら部屋の中にいるお姉さんとギャンジさんを見ている時だった。

 リリィが私の手を解いて、凄い自然な感じに部屋の中に入って行く。


 えっ?

 リリィ!?


「アンタがカーミラ? 私を不老にしなさい」


 ええぇぇっ!?

 いきなりすぎる!

 いきなりすぎるよリリィ!


「きゃ! へ? え? だ、誰!?」


 ほらっ!

 お姉さん凄く驚いてるよ!

 って言うか、いきなり声をかけられて、腰抜かしちゃってる……。

 ちょっと可愛いかも。


 驚いた拍子にギャンジさんの頭を離して、腰を抜かして床に手をついたお姉さんの反応に私が和んでいると、お姉さんが突然縮みだす。


「あっ! やっ。だめ!」


 お姉さんは涙目になりながら慌てた様子でオロオロとしだし、そしてお姉さんはお姉さんではなくなり、幼女になってしまった。

 そして、私はその幼女の姿を見て驚く。


 その幼女の姿は、お話に聞いていた通りの6歳位の女の子で、縮んでしまったせいで服がブカブカに――なってない。

 何故か服も一緒に縮んでいた。

 そして、もう一つ。

 幼女の姿になってしまったお姉さんは、さっきと違って瞳の色がオッドアイではなく、両目ともワインレッドの瞳になっていた。

 それに、さっきまで尖っていなかった耳が尖っていて、八重歯はハッキリとした牙とも呼べるものになっていた。


「ゆ、許さない!」


 女の子がリリィを睨みつける。


「私の正体を見た事をこーかいさせてやる!」


「ふーん。今の姿がアンタの正体って訳ね。自分からバラしてたら世話無いわね」


「なっ!?」


 ちょっとリリィ!

 煽っちゃダメだよ!

 ほら見て?

 ちょっと涙目なんだよ?

 そんな事言ったら可哀想だよ!


「はあっ? マジムカつく! 絶対こーかいさせる!」


 女の子の怒声が遺跡に響き渡り、周囲がゆっくりと闇に包まれていく。

 怒った女の子は涙を拭いながら立ち上がり、私を睨みつる。


 あれ?

 すっごい私の方見て怒ってない?

 何でだろう?


 私が首を傾げていると、そんな私にトンちゃんが察して説明する。


「ご主人。ご主人は気がついてないみたいッスけど、そんな事言ったら可哀想って口に出てたッスよ」


「え?」


 あれ?

 いつの間に?


 どうやら、私の脳内では心の声だけで言っていたのだけど、しっかりと声に出してしまっていたらしい。

 そんなわけで、私がトンちゃんに教えて貰って冷や汗を流していると、女の子が私を睨みながら大声を上げる。


「私はカーミラ=S=アルテミス! お前達たかが人間如きが手を出しちゃいけない神の一族よ!」


 どどど、どうしよう?

 凄く怒ってるよぅ。

 って言うか、神の一族って何だろう?

 何だか大変な事になってきちゃったかも……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ