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異世界建国記  作者: 桜木桜
第三章 新体制と新王
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第八十六話 新婚旅行Ⅲ

今日は三話更新です

注意してください

 レザドには敵国が五つある。

 まずは二つ、隣国で同じキリシア系都市のゲヘナとネメス。


 レザドの宗主国であるクラリスは、ゲヘナの宗主国のアルト、ネメスの宗主国のテルバイと敵対関係にある。

 海上交易でも敵対し合い、商圏を奪い合う関係なので仲が悪い。


 だが同じ民族同士なので、国が亡ぶまでの戦争は起こらない。

 喧嘩するほど仲が良い……とまでは行かないものの、そんな関係である。


 次の二つはペルシスとポフェニア。

 ペルシス帝国とキリシアの都市国家群は何度も戦争をしている仲なので、これは当然と言える。

 だがペルシスは西テチス海にまで進出していないため、レザドとぶつかり合うことはあり得ない。


 逆にポフェニアとは激しくぶつかり合う可能性がある。

 ポフェニアはアデルニア半島からすぐのところにあり、大陸を挟んで存在するトリシケリア島をキリシアと奪いあっている。


 トリシケリア島への前線基地でもあるアデルニアのキリシア三国は当然、常にポフェニアからの脅威に晒されている。

 もっとも、現在は戦争中ではないので差し迫った脅威では無い。


 現在のレザド最大の敵。それはベルベディル王の国だ。

 レザドとベルベディル王の国の間には小国家群が乱立している。


 南部に小国家群が多いのは、現地のアデルニア人や植民にやってきたキリシア人とポフェニア人の勢力が入り乱れていることが原因である。


 レザドとベルベディル王の国の間には、キリシア系アデルニア人の小国家があり、両国ともその地域の支配権を奪いあっているのだ。

 小国家も情勢次第ですぐに乗り換えるので決着が着かない。


 レザドが我が国と同盟を結びたい理由はこれだろう。


 ベルベディル王の国は人口約十万。レザドは約六万。

 レザドは国力の多くを海軍に割いている為、陸軍は貧弱である。


 よって正面からぶつかればレザドの勝ち目は薄い。 

 頼りの本国はペルシス帝国の怪しい動きを警戒して、動けない。

 

 だが我が国と同盟を結べれば話は変わる。

 北と南から挟み撃ちにしてしまうことが出来るのだ。


 少なくともベルベディルは我が国を警戒して、対レザドに全力を出せない。

 


 と言うのがレザドの狙いであろう。







 「軍事同盟は見送らせて貰いたい」

 俺はレザドの提案を蹴った。


 議員たちの表情に失望の色が見える。

 だが予想はしていたのか、すぐに顔を上げた。


 「理由を聞かせていただいても宜しいですか?」

 「ベルベディル王の国を刺激したくない。我が国とベルベディル王の国は敵対しているわけでは無いからな」


 ベルベディル王の国は隣国。

 関係は拗らせたくない。


 まだ国内が纏まり切っていないのに、外国とことを構えたくない。

 例えベルベディル王の国が我が国よりも遥かに国力で劣る相手だとしてもだ。


 それに我が国とレザドを行き来する商人は必ずベルベディルを通る。

 国境封鎖されると厳しい。


 「ただ、友好条約を結ぶ分ならば問題ない。貴国とベルベディル王の国の間の係争地に関しては中立を宣言する形になるが」

 「中立ですか……分かりました。まずは友人としての関係から始めましょう」


 俺とクラリスの議長の間で握手が成される。

 友好関係は大事だ。


 友人から始めるとか、恋人みたいだな。好きだからまずは友達から始めましょうみたいな?


 「では交易についてです。我が国の商人が貴国へ入国する時、少なくない関税を払っている。これを無くして頂きたいのです」 

 レザドからの条件だ。

 つまりクラリスの商人だけ特別扱いしろと言うことだ。


 関税は収入源ではあるが、俺は紙と塩は専売にしている。

 ウィスキーとウォッカも専売にするつもりだ。


 だから関税に関しては無くしてもいいと思っている。

 関税が無くなっても、売上税は採るし。

 商人が大勢来てくれた方が最終的に税収は増えるだろう。


 でもタダで関税をゼロにするのもね。


 「良いだろう。その代わり、キリシアの技術や写本に関しては全面的な協力を要請する」

 「分かりました。善処致しましょう」


 さて、用事はこれでほとんどが済んだ。

 

 後はオマケのようなものだが……


 「それとこれで出来ればの話だが……ポフェニア情勢や東テチス海の情勢を教えて貰えないだろうか? こちらもそれなりに集めてはいるが、我々だけでは限界がある。貴国に情報を提供して頂けるとありがたい」


 キリシア商人からかき集めた情報で、ペルシスが大規模な艦隊を造り、大規模な軍事演習をしているということはすでに分かっている。


 近い内にキリシアとペルシスの間で、第三次ペルシス―キリシア戦争が勃発するとの噂だ。


 遠く離れたアデルニア半島だが、その影響は確実に波及してくる。

 もしキリシアがペルシスに敗れたら、テチス海の勢力図が大きく塗り替わるだろう。


 情報は知っていて損は無い。

 

 「ええ、分かりました。情勢が動き次第お伝えします」

 「ありがとう。感謝する」


 

 これでレザドでの用事は終わりだ。

 次はネメス、ゲヘナの順で訪問して同様の外交を行う。


 この二か国とは友好宣言は結ばないものの、関税などの経済分野や技術及び人材に関してはレザドと同様の条約を結ぶ。

 この二か国がレザドに一人勝ちされたくないからか、俺が王になった時から積極的にラブコールを送ってきていた。

 


 「あの、この後ゲヘナに向かわれるんですよね?」

 「ゲヘナはネメスの後だが、確かに訪問する予定だ。それがどうした?」


 エインズが突然尋ねてきた。

 俺が三国全て訪問するつもりであることはとっくに分かっていたと思うが……


 「ゲヘナの僭主、アブラアム閣下にはお気を付けください」

 何をどう気を付けるというんだろうか……




第八十六・五話 新婚さん




 「ねえ、アレク。見に行かなくていいの?」

 「何を?」


 アレクシオスとメリアの駆け落ちは見事に成功した。

 トリシケリア島についてからすぐにキリシアの植民都市に入り、そこから三日でアデルニア半島に移動したのだ。


 ポフェニアからの追手は完全に撒いた。

 ポフェニア政府としては期待していた将軍と呪術師の駆け落ちだったため、かなり本気で包囲網を張ったのだが、全て空振りに終わったのである。


 ポフェニアは一か月で捜索を打ち切りにした。

 国外逃亡した者をいつまでも追いかけるほど暇ではない。


 もっとも、ポフェニア名門家のバルカ家は未だに全力でアレクシオスを探している為油断は出来ないのだが。



 駆け落ちは比較的上手く行っていた。

 そもそも二人とも軍人なので、計画性はある。


 密かにレザドへ移してた私財で土地を買い、奴隷を買ってそれなりの規模の農場を経営していた。

 勿論、軍に所属していた頃よりは生活レベルは数段階落ちているが、元々二人の生活は慎ましいものだったので、二人とも不満は抱いて居なかった。


 「ロサイス王の国の新王。レザド……というかキリシアの植民都市にアデルニアの王様が自ら来るなんて史上初らしいじゃない」

 ロサイス王の国が輸出している紙という物資の噂はレザド中に広まっていた。

 今、レザドの商人たちにとってロサイス王の国は旨みのある市場。


 レザド市民も悪い感情は抱いて居なかったために、歓迎ムードである。


 「ああ。噂の人か。隣国との戦争帰りで、軍を解体せずにそのまま反対勢力を奇襲で根こそぎ斬り払ってしまったという。あれは凄いね。内乱を一瞬で終わらせられる王は少ないよ。兵士たちや豪族も同胞を殺すのには躊躇してしまうしね」

 だがロサイス王の国の新王は、戦勝で兵士たちの気を高揚させることでそれを実現した。

 兵士たちの熱狂で、豪族たちもやり過ぎだと反対出来ない空気を作り上げたのだ。


 アレクシオスはその新王の手腕を評価していた。


 「そうか。やけに騒がしいと思ったら今日だったんだね」 

 「そうよ、それで見に行く?」

 「いや、良いよ。そこまで興味は無いからね」


 そう言ってアレクシオスは読んでいた本に視線を移す。

 それは東方の兵法書だ。


 メリアの心に針で刺されたような痛みが襲った。

 アレクシオスが兵法書を読んでいるということはまだ軍隊―戦争に未練を持っているということだからだ。


 「ねえ……後悔してる?」

 アレクシオスはメリアを見上げる。

 一瞬怪訝そうな顔をした後、慌てて兵法書を閉じた。


 「いや、君との生活には少しも後悔してないよ」

 「でも戦場から離れたことは後悔している?」

 「いや……うん、正直に言うとそうだね。僕はどうやら戦場がかなり好きだったみたいだ」

 

 人間、失ってから気付くものがある。

 とはいえ……


 「でもポフェニアには戻る気は無いね。あの国のために戦うのはこりごりだよ。議会はしょっちゅう戦場に口を出してくる。その所為で勝利を逃した事だってある。その癖、一度でも敗戦した将軍は平気で死刑にする。やってられないね」

 

 アレクシオスは肩を竦めた。

 アレクシオスのポフェニアへの愛国心は非常に薄い。

 

 メリアはその理由は深くは知らない。気にならなくはないが、本人が話したがらないことを無理に聞いたりはしない。

 だが原因は不仲の家族への抵抗心であるということは容易に想像出来る。


 アレクシオスと家族は非常に仲が悪い。

 アレクシオスの家族はポフェニアに魂を捧げたような家なので、その家への嫌悪感が直接反母国感情に結びついているのだろう。


 アレクシオスとその家族が不仲の理由も聞いてはいないが、原因はアレクシオスの瞳だとメリアは思っている。

 アレクシオスは所謂オッドアイ……虹彩異色症だ。


 ポフェニアでは左右で瞳の色が違う子供は呪われた子であるという伝承がある。

 その辺で何かあったのだろうとメリアは推測している。


 だがメリアからすればアレクシオスの家族などどうでも良い。

 会うことなど永遠に無い。他人も同然だ。

 

 メリアは孤児院……正確に言えば呪術師の適正のある子供を親元から離し、国家に忠実な呪術師にする施設、通称『孤児院』の出身なので親の顔など知らない。


 別に会いたいとも思わない。今更自称両親が現れても困るだけだ。

 だから両親が大切という一般的な感情も共感出来ないし、アレクシオスのように憎しみを抱くほど嫌いという感情も共感出来ない。



 「レザドで将軍をやるというのは?」

 「まあ、一時的に頼まれてならやるかもね。でも忠誠を誓えと言うのは無いね」


 アレクシオスの存在はレザドの上層部の知るところとなっている。

 そもそもアレクシオスがポフェニアに見つかっていないのはレザド上層部の協力のおかげでもある。


 国にも依るがキリシア人は民主主義や平等、公平という言葉が好きだ。

 だから駆け落ちして来た二人に対して好意的である。


 もっともレザド上層部が二人に協力姿勢を示しているのは、ポフェニア有力貴族のバルカ家へのカードや、優秀な将軍であるという理由が大きい。


 レザドは商人の国家なので、傭兵を集めることは苦労しないがその傭兵を指揮することには苦労する。

 もしもの時があれば……とレザド上層部は思っているのだろう。


 「それに僕にとって一番大切なのは君だ。二番目に大切なモノはここに居るしね」

 アレクシオスはメリアのお腹に触れる。

 メリアの口元が和らぐ。


 二人の唇が触れ合った。


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