第七十話 七日戦争Ⅶ
今日は二話更新です
俺にとっての勝利条件は俺が王になってユリアを手に入れることである。
これは別に難しいことでは無い。
功績が無くともユリアと強引に結婚してしまえば王だ。
問題はその後である。
果たして能力が分からない余所者の新王にどれだけの豪族が従うのだろうか。
そしてリガル・ディベルは黙って許してくれるだろうか?
否。
内戦になる。
勝利した後に平穏を手に入れるにはこの内戦を勝ち抜かなくてはならない。
内戦の勝利条件は全ての豪族を俺の元に屈服させることである。
別にリガルを滅ぼす必要性は無く、彼が俺の元で屈服してくれればいい。まあそんなことはあり得ないのだが。
さて内戦だが……
勝つのは難しくはない。
ロサイス王の直轄地と王族の兵力、それにアス家の兵力。
これはアス派豪族の兵力を合わせれば十分にディベル派を倒すことは可能だ。
だが問題は一体いつまで戦えば勝てるのか。それに尽きる。
敵は目に見えて敵と宣言しているわけでは無い。
もしかしたらアス派の中に、俺が玉座に座ることを快く思わない者が居て寝返るかもしれない。
どちらに付くか答えを濁し続ける中立派も居る。
彼らが一体どちらに付くのか……そしていつ裏切るのか分からない。
他国が介入してくるまでのタイムリミットは約一週間と言ったところ。
果たして一週間で終わるだろうか?
他国が介入すれば泥沼である。
ベルベディル王の国、ドモルガル王の国、エビル王の国、エクウス族……
彼らは遠慮しない。徴用の名の元にロサイス王の国の食糧を奪い尽くし、どさくさに紛れて住民を誘拐して奴隷にして売り払うだろう。
むしろ戦争はそっちのけで、そちらの方を熱心にやるだろう。
そもそも内戦で戦場に成るのは当然自分の国である。
自分の国の農地を焼き払い、自分の国の兵士に自分の国の兵士を殺させる。
それが内戦である。
終わった後、この手にはどれだけの物が残っているだろうか?
俺にとって必要なのは勝利ではない。勝利は前提条件。
その上でどれだけ被害を出さずに、出来れば戦争すら起こさずに、死者を出さずに勝てるか。それに尽きる。
その為に必要なのは、王になるだけの功績。ディベル派への先制攻撃。そして先制攻撃をしても問題ない大義名分。そしてディベル派に出来るだけ準備の隙を与えずに兵力を用意することである。
そうなると一気に難易度が上がる。
今回のドモルガル王の戦いで俺が欲しかったのは王に成るだけの功績だ。
だが……棚から牡丹餅とはこのことか。いや、強引に落とさせたのだが。
まさか全て揃えることに成功するとは思わなかった。
五日目
ロサイス軍は千の兵を残して早々にブラウス領から引き上げて行った。
そしてすぐにアス領に到着する。
ロサイス軍をアス領の領民たちの拍手と歓声が迎える。
「じゃあロン。五百を与える。アス領で待機してくれ」
「了解しました」
俺はロンに五百を与えて、一度ロサイス軍から引き離す。
そしてムツィオに言う。
「なあ、お前らもう帰るか?」
「ん? 契約は終わったからな。帰らない方が良いのか?」
「いや、帰っても良いけど……帰らない方がもっと面白いモノを見れるぞ」
俺はニヤリと笑う。
ムツィオは不思議そうな顔をしながらも頷く。
「分かったよ。しばらくは残る。まあ論功行賞もあるしな。親友の晴れ舞台を見てからじゃねえと帰れねえし」
六日目
ついにロサイス軍はロサイス王の宮殿にまでたどり着いた。
住民たちが喝采を上げてロサイス軍を迎える。
「さすがアルムス殿です」
「いやあ、凄いですな!!」
そう言ってアルムスに駆け寄るのは元ディベル派で、参戦しなかった豪族たちだ。
彼らは今回のロサイス軍の勝利を聞き、鞍替えしたのだ。
彼らに丁寧に対応しながらアルムスはロサイス王に謁見する。
周囲にはこの戦争に参戦した豪族とその家族、そして元ディベル派の豪族、様子見のためにやってきたディベル派の豪族。
そして宮殿周辺に住む住民たちがそれを囲む。
「さて、アルムス・アスよ。今回の戦争、ご苦労だった。褒美は何が欲しい?」
「では……」
全ての豪族が見守る中、アルムスはしっかりと言った。
「ユリア姫と王位、そしてこの国を」
静まり返る豪族たち。
ロサイス王はすぐそばに居たユリアに自分の王冠と杖とマントを手渡す。
そしてユリアの背中を押して言う。
「ほら、好きなだけ持って行け」
アルムスはすぐにユリアに駆け寄り、人目も憚らずその唇にキスをする。
「これでお前は俺のモノだ。絶対に逃がさんぞ?」
「……はい。分かっています」
ユリアは幸せそうに微笑む。
そして王冠と杖を持つ。
マントをユリアが着せる。
そして豪族の前に立つ。
アルムスが杖を掲げると、歓声が上がった。
「「新王万歳!! 新王万歳!!」」
アルムスの王位継承を知っていた豪族たちは大歓声を上げる。
桜だ。
それにつられて即位を知らなかったアス派や兵士たちも歓声を上げる。
中立派は困惑した表情を浮かべ、元ディベル派は自分の選択が正しかったことに安堵する。
そしてディベル派の豪族は憤怒の表情を浮かべる。
アルムスは杖で地面を激しく突いた。
途端に静まり返る。
「諸君。戦争はまだ終わっていない。ドモルガル軍を完全に国内から駆逐していないからである。カルロ殿!」
「はいはい、ロサイス王様」
カルロは面倒くさそうに前に進み出て、名前を一人一人上げていく。
それはリガル・ディベルを筆頭としたディベル派豪族の名前だ。
ドモルガル戦の直後に寝返った元ディベル派の名前は呼ばれない。
大部分はここには居ないが、何人かいる名前を呼ばれた者たちは何が始まるか不安の表情を浮かべる。
テトラが前に進み出て言う。無表情だ。
「以上の者たちはドモルガル王と内通し、この国を売ろうとしていた者。つまり反逆者である。さて如何いたしましょうか、ロサイス王様」
それにアルムスは笑って答える。
「反逆者は処刑。当然であろうな」
たった今、元ディベル派に成った者たちが数名、アルムスの元に縋りつくようにやってくる。
自分が処刑されそうであることを知り、慌てて鞍替えしたのだ。
「ご、誤解です。我々は新王の即位を支持致します。新王万歳!! 新王―」
首が跳ね飛んだ。
跳ね飛ばしたのはバルトロだ。
「生憎この船にお前らの席は無い」
豪族の首がゴロゴロと転がる。
それを見てディベル派―反逆者たちは一斉に逃げ出した。
だがそれを阻むのは住民に扮していた近衛兵たち。
彼らは次々と反逆者を処刑していく。
アルムスは恐怖に顔を引き攣らせる豪族たちを見回す。
「さて、この中に私の即位に不満を抱くものは居るか?」
誰も答えない。
「この中に反逆者は居るか?」
誰も答えない。
「反逆者を助けるべきだと思う者は居るか?」
誰も答えない。
「ではこれから反逆者を処刑しに行くことに反対の者は居るか?」
誰も答えない。
アルムスは満足気に頷く。
「バルトロ! ライモンド!」
二人を呼び寄せる。
二人の臣下はアルムスに跪く。
「「何でしょうか、我らが王よ」」
アルムスは二人を見下ろしながら言う。
「この場に居る兵士は合わせて六千ほどだ。バルトロ、ライモンド。お前たちにそれぞれ千ずつ与えよう。反逆者を殺して来い。俺は残りの四千でリガル・ディベルを殺す」
「は!!」
二人は深く頭を下げる。
そしてバルトロがアルムスに聞く。
「ところで我らが王よ。反逆者は九族まで処刑で宜しいですか?」
「ああ問題ない」
「幼い子供や女でも?」
「それが九族に適応されるのであればな」
その発言に満足そうにバルトロは頷く。
そしてアルムスはムツィオのところに駆け寄る。
ムツィオは流石に驚いたようで、呆然とした表情を浮かべていた。
「わが友よ。確か同盟は次の王の時代も継承されるのだよな? ではもう一度、我が国に雇われては貰えないか?」
ムツィオは笑って答える。
「当然! わが友よ。共に敵を打ち破ろう!!」
こうして七日戦争。
最後の六日目と七日目が始まった。
後二話で二章は終わりです




