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異世界建国記  作者: 桜木桜
第一章 禁忌の森とグリフォン
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第四話 鉄製農具

 一通り自己紹介が終わった。


 捨てられ方は様々だが全員、親に捨てられたようだ。


 みんな出身地はバラバラ。

 仲良くなったのはここ数日のことらしい。つまり俺が馴染める余地がある。安心、安心。


 男女比は半々といったところ。

 普通、女の子が優先して捨てられるものだが、どういうわけか半々。

 まあ今はどうでもいいことだが。


 取り敢えず重要人物の五人だけを紹介しよう。


 ロン君。十二歳。最年長。今の俺よりも背が高い。少々喧嘩腰だが責任感がある。


 ソヨンちゃん。十二歳。ロン君とは同じ村の出身。結構可愛い。おそらくロン君の嫁。俺には敬語

を使っているが、ロン君含める子供たちには態度がデカい。地味に距離感を感じて寂しい。


 ロズワード君。十一歳。俺が来るまではナンバー2だった。ロン君以上に高圧的。俺のことが気に要らないようである。


 テトラちゃん。十歳。無口。基本、しゃべらない。


 グラム君。十歳。小柄で臆病。


 この五名がこの集団の中心人物である。


 「やっぱり農作業をするしかないと思う」

 俺は五人を目の前に方針を話す。

 ハッキリ言って子供の意見を聞いても意味ない気がするが、一人で勝手に始めるよりはいいだろう。

 俺は飛び入り参加のよそ者だ。

 さすがに十歳未満の子供だと話にならないので遠慮してもらったが。


 「でもさ、畑作るの滅茶苦茶大変だぜ? どうするんだよ」

 ロン君の意見。

 全くその通りである。

 そもそも未開拓の土地というのは物凄く硬い。それに植物の根っこが張っているので、それを切断するもの重労働。

 致命的なのは全員子供という点。

 しかも戦力になりそうなのは俺を含めて六人の十歳以上チルドレンのみ。

 無謀である。


 だがやらないよりはマシだ。


 「無理だよ無理。やめようぜ」

 ロズワード君は足を投げ出してやる気のない発言。

 そして俺を睨む。

 「こんな奴の言うことなんか聞いても碌なことにならないよ。なあ、そう思うよな。テトラ?」

 「……かといって安定的に食糧を得るには農業しかない」

 テトラちゃんは俺の意見に賛成のようである。

 

 「グラム君はどう思う?」

 「え! いえ、その……分かんないです」

 おどおどした表情のグラム君。

 まあ分からないのは当然だな。子供なんて皆そんなもんだ。


 「でもどうやって耕すんですか?」

 「鉄製農具を買う。それがあれば大分楽になると思うよ」

 「買う? 買うって何だよ」

 あ……貨幣が無いのか。これは言葉のミスだな。


 「物々交換をするということだよ」

 「鉄製農具と交換するものがあったらとっくに胃袋に収めてるよ。バカじゃねえの」

 ロズワード君。辛口なコメント。おい、馬鹿って言った方が馬鹿なんだぞ。


 「交換する物はあるぞ。残念ながら食えないが」

 俺の言葉に五人が一斉に首を傾げる。なんか可愛いな。


 「おい、持ってきたぞ」

 グリフォンの声が俺の耳に入る。どうやら目当ての物を持ってきてくれたらしい。


 「ありがとうございます。こいつがあれば何とかなります」

 俺はグリフォンから大量の剣や槍を受け取る。七割が鉄製で、三割が青銅製だ。


 これらの武器はすべて勇敢な方々(アホども)がグリフォンを倒すために持ってきた武器だ。年季が入り、錆びてはいるが全て貴重な金属。

 

 「気にすることはない。我にはこのような牙や爪は必要ないからな。なかなか土に返らないし、臭いし困っていたところだ。早く処分してくれ。では、まだまだ大量に残っておるから取りに行く」

 グリフォンはそう言って飛び去っていく。

 獣と人間の価値観はまったく違うのである。


 「そ、それで戦争をするんですか?」

 「違うよ」

 俺はグラム君の発言を否定する。というかグラム君、君結構発想が過激だね。

 おどおどしてる癖に。


 「確かに強力だけど、子供だけで大人に勝てるわけないだろ。子供が武器もって振り回しても素手で倒せるわ」

 大人VS子供では勝負は目に見えている。そんな無謀な真似はしない。いくら飢え死に寸前でもだ。


 「それと鉄製農具を交換するの?」

 「そう言うことだ。テトラちゃん!」

 俺はテトラちゃんの頭を撫でようとして、躱される。お兄さん、悲しいよ。


 「それで食べ物買えばいいんじゃないの?」

 ロン君の質問にテトラちゃんが答える。

 「買ったらそれっきり。食糧は得られない」

 「あ、それもそうか」

 ロン君はあっさり引き下がる。素直なところがロン君の良いところである。


 「でも鉄製農具だけで簡単に土を掘り起こせるもの? 物凄く硬いけど」

 テトラちゃんが言った。

 「柔らかいところを探すしか。最悪大人を雇えばいい。鉄剣を上げるからちょっとだけ手伝ってって言えば条件次第で手伝ってくれるだろ」

 グリフォン様の権威は偉大だし。 

 まあ最後の手段だけどね。


 他にもグリフォン本人に手伝ってもらうという手段もある。

 鉄剣を食糧に変えて制限時間を伸ばすことも可能だ。


 取り敢えずこの武器を農具と交換する方針で話がまとまる。


 反対意見は出ない。

 まあ代案も無しに反対されても困るだけだけどね。


 「問題はどこで交換するか何だけど……この辺りの地理を知ってる人は居ないか?」

 俺はそう言いながらロン君を見る。ロン君は凄まじい速度で首を振る。

 「無理無理。俺は村の周りのことしか知らないよ。ソヨンは?」

 「ごめんなさい……私も知りません」


 「ロズワード君は?」

 「え!? 俺は……その……知ってるけど言えないというか……」

 「つまり知らないんだね。グラム君は?」

 「す、す、す、す、すみません……」

 

 まあ仕方がないか。貨幣がないレベルの文化レベル。農民の子供が村の外のことを知っているはずがないか……


 「テトラちゃんは?」

 「知ってる」

 そうかやっぱり……え!?


 「知ってるの?」

 「少しは」

 そう言ってテトラちゃんはこの森の周囲について話してくれた。


 この森の名前はロマーノの森というらしい。

 そして森の東側にはロサイス王という人が治める国。北西にはギルベッド王という人が治める大国。北東にはドモルガル王という人が治める大国。そしてギルベッド王とドモルガル王の国より北にはファルダーム王という人が治める国があるとか。


 「ロサイス王の国はあまり大きくない。まともな鉄製農具もないし、鉄製武器もあまり持ってない。ドモルガル王の国とギルベッド王の国は結構大きいから鉄製農具があると思う。それにギルベッド王の国とドモルガル王の国は今回の飢饉が切っ掛けでファルダーム王の国と戦争中」

 「なるほど。つまり今はベストタイミングだな。逆に言えば早く行かないと農具が潰されて武器に変えられてしまうと。急がないとな」


 どうしてお前、そんなに詳しいの? と聞きたいところだが今はそれどころじゃない。それに親しくないのに突っ込んで聞くのは失礼だろう。もっと仲良くなってからでいい。


 「私が大人だったら……」

 テトラちゃんは俺を真っ直ぐ見つめて言う。

 「武器だけ奪う。その辺、どうするの?」

 

 まあそうだね。子供とまともに話す大人は早々居ない。平時ならともかく、今は有事。尚更だろう。それに彼らにとって戦争に勝つのも大切だが、来年の収穫も同じくらい大切なはずだ。そう易々と鉄製農具はくれない。

 

 「安心しろ。ちゃんと考えてある。こいつを使う」

 俺は大きな羽を五人に見せる。金色に輝く美しい羽だ。

 「そ、それはグリフォン様の?」

 グラムは声を震わせる。

 「お、お前、盗んできたのか!」

 ロズワードが大きな声を上げた。

 盗んできたとは失敬な。落ちてるのを拾っただけである。


 「それをどうするんですか?」

 ソヨンが小首を傾げながら聞く。ソヨンちゃんが一番素直で可愛いな。

 「これを見せながら俺たちはグリフォン様の使いだぞ!! って言えば問題ないだろ?」

 「それって天罰下らない?」

 ロン君が不安そうな顔で聞いてきた。

 グリフォンは確かに立派だけど神様じゃないだろ。天罰なんて下るわけがない。少なくとも俺はそう考えている。

 だが子供たちは違うらしい。テトラちゃんを除く四人はとても不安そうだ。

 俺と彼らの価値観の違いによって起こる認識のズレだ。


 「許可は取った」

 俺がそう言うと、四人は安心した表情を浮かべる。 

 確かにグリフォンは怖いけど、そこまで怯えるほどの存在じゃないように感じるけどな。

 何だかんだで面倒見もいいし。


 「じゃあ早速行こう。取り敢えず今この場にある鉄剣十本と青銅剣六本を交換する。全部交換するといざというときに困りそうだし」

 取り敢えずこれだけを交換する。

 今早急に必要なのは農具だが、他にも必要なものがあるからだ。


 「全員で行くのは危険だな。誰か行きたい人!」

 そう言うとグラム君とロズワード君が手を上げた。


 「よし行こう! テトラちゃん」

 俺はテトラちゃんの手を握る。テトラちゃんは怪訝な顔をする。

 「私、手を挙げてない」

 「何言ってるんだ。君以外、この辺の地理を知ってる人は居ないぞ。君は強制参加だ!」 

 俺がそう言うと、テトラちゃんは大きなため息をついた。


________


 「というわけで交換して欲しいんですが」

 俺の言葉に村長さんが不審そうな顔をした。

 そりゃ突然グリフォンの使いを名乗る子供が鉄剣と青銅剣を農具と交換してくれ何て言いだしたら怪しむよな。

 気持ちはすごい分かるよ。


 村長さんは俺たちの持っている剣とグリフォンの羽を交互に見る。

 悩んでいるようである。


 「村長! 鍛冶師を連れてきました!」

 二人組が走ってくる。

 そのうちの一人が俺たちの持っている剣を吟味し始める。

 おそらく鍛冶師と思われる男の顔に驚きの色が浮かぶ。

 この剣は仮にもグリフォンを倒そうと思った連中が持ってきた剣だ。錆びては居るが全て名剣の類。

 それが農具と交換できるんだぜ? 安い交換だろ?


 「何が欲しい?」

 「そうだな。くわを十本。斧を三本。鎌を八本貰おうかな」

 鉄製農具といっても、鉄が使われているのは先端だけだ。それに比べて俺が持ってきた鉄剣は持ち手以外はオール鉄製である。

 本当は鉄の量からしてもっと要求しても良さそうだが、こちらは子供。

 少な目で要求しておく。


 村長は散々悩んだ結果、交換することに了承してくれる。


 まあ戦況が悪化すれば鉄製農具はすべて武器に変えられてしまうだろうから、良い交換だろう。あちらさんにとっても。


 俺たちはまた今度交換に来るかもしれないことを匂わせて、その場を去った。


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