物語は終わる、されど歴史は続く
一応、wikiみたいなのを用意しましたので二話同時投稿ということにはなっています
ヌマ帝が崩御してから……
しばらく、あるガリアの地には三人の少女がいた。
黒髪黒目で……モンゴロイド系の顔立ちをしている。
そして三人とも、顔の造形が全く同じだった。
所謂、三つ子である。
「何度も言うけど……私は考えを改める気はないわ。許せないもの。復讐してやるわ」
三女に当たる少女がいった。
それに対して……
青色の石が嵌め込まれたネックレスを胸にかけた少女、長女に当たる少女が反論した。
「言いたいことは分かるけど……母を殺した男はもう、死んでいるのよ? その子孫を殺したって、何の復讐にもならないわ。……そんなことやめて、自由に生きようよ」
「あいつの子孫はへらへら今でも笑っているのよ!! そんなこと許されるわけないじゃない!!」
三女は長女に対して、強い口調で言い返した。
長女は穏やかな性格をしているようで、逆に三女は激昂型の性格のようだ。
そんな二人に対して……
「バカバカしい……復讐なんて、意味ないでしょ。私は……母を生き返らせる研究をするわ。二人とも協力してよ」
次女に当たる少女が言った。
長女、三女に比べると……随分と落ち着いているように見える。
それに大して長女が反論した。
「ま、待ってよ……死者を生き返らせるって……悪いことは言わないから……やめなさい。良いじゃない、みんなで幸せに生きれば……」
「まずは復讐が先よ。生き返らせるのは……それからでも遅くはないわ。まずは障害になるであろう、連中を殺す! それが先決よ」
三人は顔形は一緒だが……
考え方は全く異なるようだ。
そして……その後、三人は喧嘩別れする形となった。
―ははは……今まで『僕』は静観を決めていたけど……面白そうなことになってきたね―
―そろそろ『僕』も……リベンジと行こうかな? 『私』に負けたままは、嫌だしね―
妖精が笑った。
ヌマ帝の時代。
ロマリア帝国は各地へと侵略戦争を繰り返した。
いや……せざるを得なかったのだ。
半島国家であるロマリアは……
陸と海、双方からの侵略に備えなければならない。
だが陸軍国と海軍国を兼ねることは不可能である。
結果……ロマリア帝国は際限なく膨らむことになった。
くしくもハンナがロズワードに語った通りになったのである。
さらに……
ヌマ帝の時代、ロマリア帝国の内部では少しずつだが……しかし決定的な変化が起き始めていた。
貧富の差の拡大である。
属州での貴族たちの大規模農園による安価な小麦の流入は、ロマリア帝国の自作農に決定的な打撃を与えた。
ロマリア帝国は重装歩兵を主力とする。
自作農の没落は……ロマリア帝国の軍事力の低下を意味していた。
重装歩兵を徴兵することができなくなったことで、ロマリア帝国の軍事制度は国民皆兵の徴兵制度から傭兵制へと変貌を始めていた。
そして……アス派、ロサイス派の争いもまた変容した。
建国以来、ロマリアの貴族たちはアス派とロサイス派に別れて争っていたが……
ロマリアが強大化したことで、その争いは貴族たちだけのものではなくなった。
この争いに平民たちや外国まで加わり始めたのだ。
旧来ロマリア帝国の政治を主導していたロサイス派貴族と、ロサイス派貴族と結んだ平民たちのグループはいつしか閥族派と呼ばれ……
逆にアス派貴族と、アス派貴族と結んだ平民たちのグループは民衆派と呼ばれるようになった。
そしてこれらの二つの勢力に対し……
新たに台頭し始めた経済人、騎士階級の人間たちが双方に分かれて加わった。
外国は世界帝国であるロマリアに対し、その庇護と便宜を得るため……
ロマリアの有力な政治家・軍人を支援した。
さらに……伸長を続ける魔術の発達により、魔術院が勢力を伸ばし……
それに大して呪術院が強い危機感を抱いていた。
魔術院、呪術院の魔術師、呪術師の女性たちもまた……政治争いに明け暮れるようになる。
これらは少しずつだが……
確実にヌマ帝の時代に、火薬として積もり、重なり始めた。
そして……
ロサイス朝には決定的な問題があった。
後世の歴史家はそれを……
皇統分裂問題と呼ぶ。
即ちアルムスとユリアの子であるマルクスの子孫……
ロサイス統。
そしてアルムスとテトラの子であるアンクスの子孫……
アス統。
この二つに初代皇帝、王であるアルムスの皇統が分裂していたのである。
そしてこれは……
ヌマ帝の死後、着火剤となり……
ロマリア帝国に積もり重なった火薬に火をつけた。
ロマリア帝国始まって以来、初めて起こり……
そして以後、幾度も繰り返される、ユリウス家の内紛。
通称、ユリウス戦争。
その最初の一回目、『第一次ユリウス戦争』が起こったのだ。
帝歴125年のことである。
所謂『内乱の一世紀』の始まりである。
そして……
この時、ロマリア帝国の皇位継承の象徴である竜殺しが何者かによって盗まれた。
帝歴190年。
ガリアの奥地……
パリシス族の集落。
「はあ、はあ……生まれた……私の……赤ちゃん……」
黒髪黒目、胸に青色の石のネックレスを身に着けた少女が……
一人の赤子を産んだ。
その夫と見られる男性が少女に近づく。
すると少女は笑った。
「抱いて……私たちの子よ」
「あ、ああ……」
男性は初めて生まれた我が子を手に取った。
赤子は先程まで産声を上げていたが……今は不思議そうな目で男性を見つめている。
「……後はよろしくね」
「お、おい……待て、大丈夫か? 誰か……誰か医者を呼んでくれ!!!!」
今日この日……
後に錬鉄将軍、錬鉄宰相と呼ばれる男。
レンバート・パリシス・ウェストリアが誕生した。
帝歴195年。
第二次ユリウス戦争により、ロマリア帝国首都ロサイスは炎に包まれた。
「いやはや……我が妹ながら、よくやるわね……全く、何の意味があるのやら。ロマリア人もまあ、簡単に乗せられるし。ああ、怖い、怖い」
黒髪黒目の少女は炎の中を歩きながら……
呟いた。
彼女の目的はロマリア帝国の呪術院、魔術院が保有する……
研究資料である。
こういう行為、または行為を行った者のことを火事場泥棒と呼ぶ。
さて火を全く恐れず……
彼女は騒ぎの中心、宮殿へと近づいていく。
「う、うう……だ、誰か……誰かいませんか!!!」
ふと、少女の耳に女性の声が聞こえてきた。
声のする方に行くと……
手に赤子を抱えた女性がいた。
髪は空の色のように青い。
「いるわよ、あなたは?」
少女は妊婦に尋ねた。
青色の髪の女性は黒髪の少女に縋りつくように言った。
「わ、私は……ノナ・ユリウス・アス・カエサルです。あ、足を怪我してしまって……ど、どうかお願いです。この子供だけでも……」
「ユリウス・アス……あなた、ユリウス家の? アルムス帝と側室テトラの……子孫?」
「え、えっと……確かに私の家の始祖はアンクス様ですが……」
青色の髪の女性―ノナ―の言葉に……
黒髪の少女はニヤリと笑みを浮かべた。
「そう……分かったわ。その子、連れて行って良いのね?」
「お、お願いします。ど、どうか……」
「一応聞くけど、この赤ちゃんの名前は? 性別は?」
「ユニです、女の子……です。ど、どうかお願いです!!」
「ふふ、分かったわ」
黒髪の少女はニヤリと笑みを浮かべ……赤子を受け取った。
そしてノナの腕に触れた。
そして……
「え、こ、ここは……」
「瞬間移動よ。まあ、まだ百キロが限界だけどね」
黒髪の少女は言った。
先程まで炎の中だったが……
今は暗い、森の中だ。
「ここはロマリアの森。ここから南に真っ直ぐ進めば集落があるわ。そこまで頑張りなさい」
「あ、ありがとうございます。こ、このお礼は……」
「良いの、良いの。頭なんて、下げないで」
何度も頭を下げるノナに対し、黒髪の少女は笑って言った。
「だって、お礼としてこの子供は貰っていくし。連れてって良いって言ったのはあなたよ?」
「え?」
「じゃあね」
その瞬間、黒髪の少女は消えた。
そして森からさらに百キロほど離れた平原に黒髪の少女はいた。
その手には青色の髪の赤子を抱えている。
「丁度私も子供が欲しいと思っていたのよね。それに二人目の弟子も欲しかったし。ああ、それにしても……あのアルムス帝とテトラ・アスの子孫の娘の赤子をこの私が育てるなんて」
黒髪の少女は鼻歌混じりに歩き出した。
「さて……赤ちゃん抱えたままじゃ、火事場泥棒も無理だし……今回は諦めるか。我が姉の子供にして、愛弟子レンバート君も心配しているだろうしね。ああ……この子供、どうしよう? うーん、キャベツ畑から拾って来た設定にするか」
帝歴200年。
「頑張れ、ノナ……ノナ!!」
「う、うぁ……っくぁ……はあああ!!」
「おぎゃああああああ、おぎゃああああ!!」
黒髪の少女に助けられ……
最愛の娘、ユニを奪われた女性は第二子を産んだ。
金髪の赤子である。
「良かった……あなたは……あなたは絶対に守るから」
ノナは赤子を抱きながら強く誓った。
そして……
「あなたの名前は……」
ノナは赤子の……名前を口にする。
そう、その赤子こそ……
レンバート将軍、姉であるユニを含む何人もの仲間と共にガリアを征し、そして二つの皇統の合同を成し遂げて……
ついには百年に及ぶ内乱に終止符を打った男。
『神帝』アルムス帝に並ぶ……ロマリア帝国四大皇帝の一人。
「あなたの名前は……アンダールスよ!」
アンダールス・ユリウス・アス・カエサル。
『雷帝』アンダールス、その人である。
そして……
帝歴205年。
ロマリア帝国有数の港であるレザドに、一人の黒髪の少女が降り立った。
見た目は十四歳に見える。
背中には身長に見合わない、巨大な剣を下げていた。
「到着!! いやー、ここがロマリアか!! あのマルクス君の国だね!!」
―マルクス? そいつは誰だよ。『おいら』、そんな男の名前聞いたことないぞ―
少女は……
少女にしか聞こえない声と大声で会話をする。
周囲の者たちは関わらないようにと、少女から目を逸らす。
少女はそんな周囲を気にせず……やはり大声で話す。
「ほらほら、かれこれ百年と少し前くらいにペルシスであったシャイボーイだよ! 可愛くてかっこよくて、好みだったから、覚えてる!!」
―そんなこと言われてもな……『おいら』の記憶力にも限界があるよ。えっと……つまりメアがペルシスで童貞を奪った子ってこと? マルクス……マルクス……ああ、君が喰い散らかした童貞君の中にそんなのがいたような、いなかったような……―
その声……
妖精は何とか記憶を振り絞って、思い出した。
「そうそう! 私の友達だからね!! 私の友達の名前くらい、憶えて欲しいんだけど……」
―友達は友達でも、メアの場合はセフレでしょ―
「友達だけど、セックスもする。セフレっていうのはセックスするだけの友達。マルクス君は友達だけどついでにセックスもする友達。セフレじゃないから」
―その謎定義、誰が作ったんだい?―
「私だけど? まあ、まあ……良いじゃない。さて……早速可愛い童貞の少年を……じゃなかった、我が愛しの姉を探しに行こう!! 麻里お姉ちゃん、愛梨お姉ちゃん!! 待っててね!!」
―はあ……そんな適当な探し方だから、見つからないんだよ。メアがここに来てから何年経ったか覚えてる? 二千年だよ、二千年。もう少し真面目に探そうよ―
「さあ! 美少年、美青年、イカしたおっさんを探しに、いざ行かん!! ロマリア!!!」
―聞いてないし……メア、君はいつになったら『おいら』の話をまともに聞いてくれるんだい? でもまあ……『おいら』もそろそろ……『僕』と『私』に会いたいな―
黒崎萌亜がアデルニア半島に降り立った。
―斯くして……役者は揃った、って感じかな? じゃあ……『私』も行こうかな。アンダールス君はアルムス以上に優秀だからね。今度こそ……綺麗さっぱり、禍根を潰して貰わないと―
―じゃあ、最後に締めさせて貰おうかな―
―『異世界建国記』完!! あはは、では……また会うその時まで! 皆さん、さようなら!!―




