第三百話 全ての終わり
今回は作者が忘れていたわけではなく、wifiが悪いのです
「と、妖精の奴が言っているんですが……本当ですか?」
「うむ、まあ魔法に関することは正しい。マーリンがそれを企んでいるかどうかは、我も分からぬが……あやつが禁忌を犯したことは我も知っている」
妖精のやつは全然信用できないので……
俺は一応、グリフォン様のところに行き確認を取った。
個人的にはグリフォン様に「そんなの嘘に決まっているだろ、アホが」と言って欲しかったのだが、言ってくれなかった。
はあ……本当か。
こうなったら、仕方がない。
「グリフォン様、マーリンの奴を……倒してくれませんか? いつだか、約束しましたよね? 一度だけ、助けてくれると」
俺がそう言うと……
グリフォン様は少し困ったような声を上げた。
「うむ……言ったな。ああ、言った。助けてやる……と言いたいところなのだが……」
グリフォン様は言い難そうに言う。
「マーリンの奴は不死になっている。我も……死なない奴は殺せない。まあ、まだ我とあやつでは我の方が上だから、本気になれば殺せるかもしれんが……そうなると……」
―本末転倒だね。マーリンが暴れる以上に世界へのダメージが大きすぎる。私としてはグリフォンには今回もできるだけ動かないで欲しいんだけど―
などと妖精が口を挟むが……
グリフォン様はそれを遮るように言った。
「というのは……まあ、建前でな。一度交わした約束だ。今回はグラナダのように創意工夫で倒せるような相手でもない。だから……相手が彼女でなければ、我も彼女を遠慮なく殺しに行った」
そういうグリフォン様の言葉には……
強い迷いがあった。
「……言っただろう? 我とあやつは……古い知り合いだ。昔な、エツェルの奴と一緒に奴はこの森に来たのだよ。で……家族を、姉と妹を探しているといった。我はそれに大して……『応援する。お主が姉と妹を見つけ出せることを祈っている』と言ってしまったのだ。あやつが魔法に手を出したのは……姉と妹を探すためであろう。だから……」
「……なるほど」
そう言われてしまうと……
俺も強くは言い出せない。
多分、グリフォン様にとっては俺は非常に大切な存在だが……
それと同等、とはいかないまでもマーリンもそれなりに気に掛けていた存在なのだろう。
「だが……全く助けないというのも、お主との約束を違えることになる。だから……手助けしよう。それで勘弁してくれ」
「……分かりました。それで……マーリンを倒す方法はあるのですか?」
俺がそう尋ねると……
グリフォン様は鼻を鳴らすように言った。
「あるが……我と小僧の策が同じかどうか、分からん。小僧、言え」
―はあ、人の話を散々無視しておいて急に話を……分かった、分かった! そんなに怒らないでよ……説明するからさ―
女の子の声の妖精はイライラし始めたグリフォン様に少しビビりながら……
説明した。
―つまりさ、毒は毒で征すれば良いのよ。マーリンが魔法で死ななくなったのなら……その死ななくなったマーリンを殺せる魔法を作りだせば良いのさ。ね、簡単でしょ?―
それは言うは易く行うは難しという奴ではないだろうか……
マーリンの奴ですらも八百年掛かったんだぞ?
「それは彼女が独力で『鍵』と『エネルギー』を集めたからであろう? 我と妖精が輔佐すれば、高難易度の魔法は不可能でも簡単な魔法ならば可能だ」
「簡単な魔法で……殺せるんですか?」
普通に考えてマーリンを倒すにはマーリンよりも強い魔法使いになれねばならないのではないだろうか?
俺はそう思って聞くが……
―アルムス、難易度ってのはね……起こる事象の威力とか派手さじゃないのさ。世界の法則を書き換える難易度だよ。で、この難易度は……書き換えによって、世界のバランスにどれくらいの悪影響を与えるかに比例する―
「……待ってくれ、何が言いたいのか……分かって来たぞ」
難易度は世界のバランスにどれだけ悪影響を与えるか、に比例する。
つまり……世界のバランスに好影響を与える、もしくは影響が最小限ならば難易度はそれだけ下がる。
マーリンは魔法で不死になっている。
それを殺す魔法というのは不死を殺せる魔法……ではない。
「マーリンを不死にしている……魔法を消す魔法ならば……簡単にできる、ということ……ですか?」
「その通りだ。彼女が法則を書き換えてからまだ日が経っていない。今ならば……定着しきる前ならば、それを取り消すことができる魔法を……一度書き換えた法則を修正する法則を作りだすことは難しくはない」
俺がグリフォン様に聞くと……
グリフォン様は大きく頷いた。
確か、魔法に……世界の法則を書き換えるのに必要な要素は三つ。
『道案内』『鍵』『エネルギー』。
『道案内』は妖精、『鍵』はグラナダの心金で作られた竜殺し、あとはエネルギーをだが……
「必要なエネルギーは我が提供しよう。好きなだけ使え」
「ありがとうございます」
「いや……この程度しかできなくて済まない」
グリフォン様は本当に申し訳なさそうに言った。
まあ、こればかりは仕方がない。
とはいえ……必要な要素は揃っている。
問題は……書き換えって、どうやってやるよ?
「まあ、お主では無理だな」
―君じゃ無理だね―
グリフォン様と妖精は揃って言った。
……ま、まあ俺にこの手の才能がないことは知ってたけど。
となると、やっぱり……
「ユリアとテトラ、あの二人が力を合わせれば可能だろう。あの二人がほぼ同時期に生まれて、お前と結婚したのも……偶然ではあるまい」
―全ては運命の導きのままに……ということだね。ふふふ……―
運命……ね。
あまり俺はそういうの、信じてないんだけどな。
「魔法って……世界の法則を書き換える、ということでしょ?」
「そんな簡単にできるの?」
俺はすぐにユリアとテトラをグリフォン様の森に連れてきた。
腰には当然、竜殺しを帯びている。
グリフォン様と妖精から説明を聞いたユリアとテトラは困惑した表情を浮かべている。
まあ、それはそうだろう。
俺も信じられない。
「簡単にはできないが……根本は呪術や魔術と感覚は変わらぬはずだ。魔法とは呪術や魔術を昇華させたものだからな。我と小僧が具体的に指示する。……お主ら二人ならばできるはずだ」
グリフォン様は二人にそう言った。
ユリアとテトラは困惑した表情で俺を見る。
悪いが呪術も魔術もできない俺には……どうしようもない。
―ただまあ、注意点があるよ。あちらに行くと、こちらの体は一時的に昏睡状態になる。マーリンは不死の加護を持っているから食べなくても死なないけど、君たちは死ぬからね。三日が限度だよ。そして……そう何度もあちらには行けない。体のことを考えると一回限りだね―
妖精は淡々と説明する。
……本当に大丈夫なのか?
「……他に方法はありませんか、グリフォン様。俺としては妻を危険な目には……」
「いいよ、アルムス。……私、やります」
「私も」
ユリアとテトラは俺の声を遮っていった。
俺が驚いていると……
二人はニヤリと笑みを浮かべた。
「面白そうだしね」
「……あの人に負けるのも癪だし」
全く、この二人は……
俺は溜息を吐いた。
「……無理はするなよ?」
「了解」
「死ぬ気はない」
二人は揃って頷いた。
すると……
―話は早いね……じゃあ二人とも……竜殺しを手に持って―
俺は二人に竜殺しを手渡す。
二人は両手で竜殺しを強く握りしめた。
―じゃあ、いこうか……レッツゴー!!―
妖精はそんな声を上げて……
その瞬間!!
ユリアとテトラが揃って倒れた。
俺は慌てて二人を抱きかかえる。
「お、おい! だ、大丈夫か?」
「落ち着け……昏睡状態になると言っていただろう」
グリフォン様はそう言った。
ユリアとテトラは……死んだように眠っている。
……一応心臓は動いているみたいだな。
俺は予め持ってきていた敷物の上に二人を寝かせた。
二人が起きるまで、俺はここを動くつもりはない。
……本当は仕事が山積みなのだが、こちらの方を済ませないと不味いからな。
尚、ロンやライモンドたちには軽く概要だけを説明するに止めている。
余計な混乱を招く恐れがあるからだ。
はっきり言って、魔法云々言われてもピンと来ないだろう。
妖精の存在も眉唾扱いだしな。
「ところでグリフォン様……なんか、オーラみたいなのが出てるんですけど……」
「言っただろう、力を提供すると。あの二人、自分の力じゃないからといって好き放題使っている。少しは節約しても良いだろうに」
グリフォン様の体からは金色の光みたいなのが溢れだしている。
うーん、こっち方面は俺の理解の範疇を超えているからな。
何とも言えない。
「……待つしか、ないか」
ユリアとテトラが目覚めたのは翌朝のことであった。
二人ともげっそりしている。
「……えっと、どうだった?」
一応、俺は聞いてみた。
あちら側、とやらがどんな風景なのか……少し気になる。
「それがさあ……覚えてないんだよね……」
「私も……」
などと言う。
どういうことだ?
―そりゃあ君たちが未熟だからだよ。マーリンレベルならばともかく……ね。まあでも覚えていない方が良いよ。あまり踏み込むと寿命が縮むからね―
妖精は呑気な声でそう言う。
「グリフォン様……大丈夫ですか?」
「……大丈夫に見えるか? 九割は取られたぞ。はあ……回復するまであと千年は必要になりそうだな」
グリフォン様はそんなことを言いながら伸びをした。
千年って……気が長い話だな。
「それにしても……随分と早かったな。マーリンの場合は三か月程度、掛かったんだろ?」
俺が妖精に聞くと……
―言ったでしょ。難易度が違う。ついでに言えば……グリフォンのエネルギー、さらに『鍵』としては最高のグラナダの心金があるからね。さあ……竜殺しを見てくれ―
俺は妖精に促されて……
ユリアとテトラから竜殺しを受け取った。
鞘から剣を引き抜く。
すると剣がうっすらと白銀に輝いた。
―成功だね。その剣から半径百メートル程度の内部ではあらゆる魔法は無効化される。つまりマーリンを殺せる、というわけさ。……ついでに、グリフォンも殺せるよ―
「余計なことを言うな」
グリフォン様は不機嫌そうな顔で言った。
まあ、何はともあれ……
「準備は整った、ということか」
最近思うところはこの作品がアニメ化するほど人気じゃなくて良かったなと
心底しみじみと思ったりしている




