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異世界建国記  作者: 桜木桜
最終章 統一と神帝と魔女
299/305

第二百九十九話 すべての終わりⅡ

妖精さん、楽しそうで何より

 「ふーむ、本当に死なないね」

 ―いくら死なないと分かっていても、よく確認しにいったね―

 「だって不死かどうかは死んでみないと分からないし。私が不死になったことは、どうせもうあっちの妖精には知られちゃっているだろうからね。宣戦布告のついでよ。本当のところはアルムス君を殺せれば良かったんだけど……接近戦に持ち込まれたら、あれ勝てないね。随分とまあ、強くなって……」


 ロゼル王国の深い森の小屋。

 マーリンはそこにいた。


 「うーん、体に違和感も無いし……大丈夫そうだね」


 マーリンはそう言って……

 先程自分が入っていた棺を片付ける。


 棺の中には謎の液体が満たされていた。


 「しかし……魔法ってのは凄いね。クローンまで作れるなんてさ」

 ―そりゃあ、不死に比べればクローンの作成なんて簡単でしょ。魔法は結果に必要な過程をある程度飛ばせる。だから不死にもなれるし、死者も蘇らせられる。時間移動も空間移動もできる。まあ、あくまで魔法というワンクッションを挟まないとダメだけどね―



 今のマーリンは……

 呪術師ではなく、魔法使い。本物の魔女である。


 ついに魔法を使えるようになったのだ。

 

 そして不死になった。

 なったのは良いが、問題がある。


 肉体自体は不滅ではないのだ。


 

 生き物は肉体と魂の二つで構成されている。

 肉体が破壊されれば魂は壊れる。


 マーリンは肉体が破壊されても……魂が壊れないようにしたのである。

 

 つまり肉体は破壊されてしまうのだ。

 

 肉体が先程、アルムスに殺されたように機能不全に陥れば……

 魂は永久にこの世を彷徨い続ける羽目になる。


 まあ、今のマーリンならばその状態でも長い年月があれば何とか肉体を用意して復活できないこともないのだが、それはやはり大変。

 

 そういうわけで予備の体を作ったのだ。

 現在使用している体を除くと、他に三つの体が存在する。


 三つとも、ガリアの奥地に誰にも見つからないように隠してある。


 「でも、死者を復活させることはできないので」

 ―そりゃあ、君はまだ魔女、魔法使いとしてはレベル1だからね。そのレベルになると、世界の法則の根本を弄らないと……せめてレベル10にならないとね―

 「それ、最高レベルはどこまでよ?」

 ―さあ? 僕もそこまでは把握できないね。想像の埒外だし―


 などと妖精は適当なことを言った。

 マーリンは溜息を吐いた。


 やはりこの妖精は信用出来ないのだ。


 

 「しかし……クリュウには悪いことをしたわ。私がいれば死なせたりしなかったのに……」

 ―仕方がないね。一度あちらに行けば……こちらの情報は伝わらないし―

 「……それは予め言っておくべきじゃないの?」

 ―聞かれなかったからね。想定しなかった君が悪いよ―


 マーリンは額に青筋を立てた。

 だが妖精の相手をまともにしていたら疲れるだけ、というのは長年の経験からよく分かっている。

 マーリンは溜息を吐いた。


 「まさか……二か月以上も時間が掛かるなんてね」


 マーリンは不死になるために、自分の魂の法則を書き換えた。

 それに二か月の時間を必要としたのだ。


 目を覚ましてみれば、クリュウが殺されたと聞いて酷く落ち込んだのだ。


 とはいえ……

 

 「生き返らせてから謝れば良いのよね。ごめんねって」

 ―そうそう、その意気だよ―

 「お前は黙っていろ!!」


 ついついマーリンは妖精に怒鳴り散らしてしまう。

 いくら生き返せるとはいえ……仮にも自分の手で育てた子供なのだ。


 養子とはいえ、もうおっさんだったとはいえ、しょっちゅう人の名前を間違える失礼なやつだったとはいえ……


 「……絶対に生き返らせるから」


 マーリンは堅く決意した。

 

 










 俺はまた一面ピンク色の空間にいた。

 何だか数年振りな気がする。


 まあ、用件は分かっている。

 昨日、襲撃してきたマーリンのことだろう。


 それ以外にあり得ない。


 ―話が早くて助かるよ、アルムス―


 女の子の声が響く。

 俺に憑りついている妖精だ。


 で、あれは一体なんだよ。


 ―マーリンだね―


 いや、それは分かるよ。

 俺が聞きたいのはどうやってマーリンは突然俺たちの前に瞬間移動でもするみたいに現れたのか、そして襲い掛かってきたのかだ。

 そして……あれでちゃんと死んだのか、どうか。


 ―うん、まず一つ目の質問だけど……お察しの通り、あれは瞬間移動だよ。彼女、時空を捻じ曲げたの―


 ……それは呪術や魔術の範囲を逸脱していないか?


 ―うん、あれは魔法だね。明らかに世界の法則を塗り替えて、壊している。まさか、本当にやってしまうなんて、驚きだよ―


 感心している場合なのか?

 まあ、別にマーリンが瞬間移動するようになったとか、世界の法則とかは正直どうでもいいのだが……何で襲い掛かってきたのよ。


 ―さあ? そればかりは彼女に聞いてみるしかないね。ああ、そうそう……アルムスの三つ目の質問だけど、お察しの通り生きてるよ。死に関する法則に関しても塗り替えてるね―


 やっぱり生きているらしい。

 

 別に敵対してこなければわざわざ戦う理由もないんだけど……

 

 ―いや、君は戦わないといけないと思うよ。国を守りたいならね―


 何でだよ。

 

 ―あんな危険な存在、君は野放しにして死ねるのかい? 初代王として、父として……後に自分の子孫に災いをもたらす可能性がある存在は、始末しておくべきだと思うけど―


 そう言われてもな。

 死なないんだろ? あいつ。

 しかも瞬間移動もできるらしいじゃないか。


 ―瞬間移動に関してはまだまだ制限があると思うけどね。多分、アデルニア半島からガリア周辺一帯が限界なんじゃないかな? この星全体を書き換えるのはまだまだ彼女の実力では難しいと思うけど―


 それでも十分強いだろ。

 それに殺しても死なないんだから、始末のしようがないじゃないか!


 俺ができるのは精々、話し合いでもしてこちらに害が及ばないようにするしか……


 ―いや、多分彼女にその意思はないよ。だって、彼女……北アデルニア半島の人間を皆殺しにする気満々だし―


 は?

 それは一体……


 ―魔法って、要するに世界記憶(アカシック・レコード)を書き換えることなんだけどね、そのためには要素が三つ必要なのよ。一つは私たち妖精だったり、グリフォンのような存在の『道案内』、もう一つはそこへアクセスするための『鍵』、最後に書き換えるための『エネルギー』。道案内はあちらに憑りついている妖精がいる。あとはエネルギーと鍵だね。彼女はそのエネルギーを……北アデルニア半島の人間を生贄に捧げることで賄おうとしている―


 そんな無茶苦茶なことができるわけ……


 ―普通なら無理だけど、北アデルニア半島は元々ロゼル王国の領土だよ? 元々北アデルニア半島全域には、敵国の呪術を弾き返す守護の結界が張られていた。ユリアちゃんがロマリアに張っているのと同様の結界がね。それを転用すれば……まあそれでも普通はできないんだけど、今の彼女は普通じゃないからね―


 呪いという技術の厄介なところは……

 自分に一部が跳ね返ってくる点である。


 だが……今のマーリンにはそれを無視できるだけの力が備わっている、ということか。

 

 だが待てよ?

 もうすでにマーリンは魔法使いになったわけだし、それをする必要はないんじゃないか?


 ―そりゃあ、同じ禁忌でもちょっとくらいなら大丈夫な禁忌もあれば、本当に世界が崩壊するレベルの禁忌もあるからね。窃盗と殺人は同じ犯罪でも罪の重さもハードルも違うでしょ? それと同じだよ。あくまで彼女は……不死だとか、自分だけ瞬間移動できるようにするとか……その程度の魔法しか使えない。だけど……例えば、人を生き返らせるとか、時間遡行して他人の運命を変えるとか……そのレベルになると、相応の『鍵』と『エネルギー』が必要になる―



 ふーん……

 ついでに聞くけど、マーリンは不死になるのに必要なエネルギーと鍵とやらをどうやって手に入れたのよ。


 ―鍵は君が殺した毒ガスクソトカゲ、グラナダの封印に使用されていた結界を調べて、自作したみたいだね。エネルギーの方は大昔からコツコツ溜めてた分を使ったんでしょ―


 まあ、八百歳だしな……

 力を蓄える時間自体はあるのか。


 で、マーリンは何の目的に魔法を使おうとしているのかは分からないが……

 取り敢えず、今よりももっと強い魔法を使うために、エネルギーを欲していると。


 ―ついでに『鍵』もだよ。今の彼女の持っている『鍵』では、耐久度が足りない―

 

 じゃあエネルギーを得ても仕方がないんじゃないか?


 ―いや……『鍵』の材料になるものがあるんだよ。簡単に手に入りそうなのがね―


 ……

 どこにあるんだ?


 ―君が持っている、グラナダの心金を利用して作られた剣。竜殺し(ドラゴンキラー)のことだよ。グラナダの心金ならば、十分に鍵の材料足りえる。多分、狙っているよ。彼女は―



 つまり、俺とマーリンは……


 ―決着着けないといけないね、アルムス―


新作書いたので、良かったらどうぞ

下にあるリンクから飛べると思います

微妙にこの作品から設定を一部転用していないこともない

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