第二百九十八話 全ての終わりⅠ
クリュウ将軍が打ち倒されたことで……
ロゼル王国軍はあっさりと崩壊した。
元々クリュウ将軍のカリスマ性と、彼の持つ『魅了の加護』で保っていたようなものだ。
それが無くなれば崩壊するのは自明だ。
崩壊した軍は脆い。
ロゼル王国軍がロマリア軍の徹底的な追撃に合い……壊滅した。
さて、問題はアレクシオスの方なのだが……
こちらも難なく勝ってしまったようだ。
無事、アレクシオスたち率いる別動隊と合流することができた。
「しかし……脆いものですね。ロゼル王国は……」
「そうだな……」
ロンの言葉に俺は相槌を打った。
クリュウ将軍を打ち倒してしまったことで、完全にロゼル王国の軍事的な抵抗は消滅した。
無論、まだ各地には残党が残っている。
だが組織的な抵抗は終わった。
後はロゼル王国の首都まで攻め込み……
ロゼル王国の王冠をバルタザール将軍と王子に渡せばいい。
ロゼル王国の本土であるガリアを攻め落とす気はない。
そこまで深入りすれば戦争が終わらなくなる。
だからこれで全てお終いだ。
アデルニア半島の統一は成立する。
それも目前だ。
「クリュウ将軍はさ、言ったんだよ。ロマリアに負けたってね」
俺はロンに話しかける。
クリュウ将軍は自分を直接討ち取った俺や、作戦を考えたバルトロに負けた……とは一言も言わなかった。
ロマリアに負けたと言った。
その意味が……何となく分かった。
クリュウ将軍を嵌めたのはバルトロの作戦で、クリュウ将軍を討ち取ったのは確かに俺だ。
だがクリュウ将軍がバルトロの作戦に嵌ってしまったのはアレクシオスとロズワードという、強力な別動隊の存在があったからだ。
短期決戦に拘るあまり焦り……視野が狭まっていた。
それにロンやグラムの活躍も重要だった。
あの二人がしっかりと動かなければ……バルトロの作戦は機能しなかった。
そして最後に……
俺がクリュウ将軍を圧倒で来たのは『大王の加護』のおかげであり、その力の源はロマリアの国民である。
一方……クリュウ将軍は常に一人だった。
あれはロゼル王国の総力とはとてもじゃないが、言えない。
もし俺やバルトロが殺されても……ロマリア軍は何とか戦い、上手く撤退できるだろう。
だがロゼル軍はそれができなかった。
クリュウ将軍が一人で戦ってたからだ。
「つまりさ、国ってのは一人じゃ支えられないということだ。一人に頼った国は……こうなる。ロゼル王国は多分、元々限界だったんじゃないかな?」
「そうですね……ロゼル王国を見ると、いろいろ学ばされますね。反面教師ですけど」
考えてみれば、ロゼル王国はかなり無理していたように感じる。
元々ガリア人の国なのに、アデルニア半島に進出して無理やりアデルニア人を支配していたのだ。
ロゼル王、クリュウ将軍やバルタザール将軍、そしてマーリンによって何とか保たれていた。
だがロゼル王が死に、マーリンが追い出され、クリュウ将軍とバルタザール将軍が仲違いして……
クリュウ将軍が一人になった。
その最後の柱が折れたのだ。
……
……
あれ?
「そう言えばマーリンは? あいつ、ロゼル王国に帰国してたと聞いたぞ?」
俺はふと、思い出した。
あの女が何もしないのはおかしい。
クリュウ将軍にとってマーリンは育ての親とも聞いている。
助けに来てもおかしくないのだ。
……何をサボっているんだ?
「あいつが何もしないのは……おかしくないか?」
「……と言われましても……ねえ?」
それを俺に言われても困るぜ、リーダー。
とでもロンは言いたげな顔を浮かべた。
いや、確かにロンにそれを言っても分からないのは事実なのだが。
しかし不可思議である。
何か企んでいるのではなかろうか。
「まあまあ、陛下。所詮ただの呪術師ですし……大したことはできませんよ。出てこなくて良かったじゃないですか。今のうちに北アデルニアを制圧してしまいましょうよ」
うーむ……
まあ、確かに今そんなことを心配しても仕方がないな。
その後、俺たちは軍隊を六つに分けた。
それを俺、バルトロ、アレクシオス、ロン、グラム、ロズワードの六人でそれぞれ率いて……
北アデルニアの各地を制圧していった。
北アデルニアにおけるロゼル王国の組織的な抵抗が皆無だったこともあり、各地の制圧は滞りなく進んだ。
そして二か月で……ほぼ完全に北アデルニアをロマリアの領土に収めた。
ここで問題になるのは領土の分配だが……
直接隣接していたファルダーム、ドモルガル、北ギルベッドの三ヶ国には隣接していた領土を与え、その他の国々には戦利品や金銭で富を分配した。
そして残りはロマリア王国の直轄地とした。
この北アデルニア直轄地の支配方法は二つ。
まずは現地の有力者であるガリア人たちを介した間接支配。
戦争時にこちらに協力的、または友好的な中立を守ってくれたガリア人の有力者たちにはできるだけその利権を保持させている。
これは北アデルニア全体の三分の一にあたる。
残りの三分の一は中央から貴族を派遣した上での支配だ。
まあ、支配といっても税金を徴収して治水の有無が必要かを中央に報告する程度であるが。
北アデルニアのアデルニア人たちは長年の農奴生活のせいで、イマイチ自分たちで地方政治を動かすという感覚に欠けている。
彼らが自分の足で立てるようになるまでは世話を焼いてやらなければならないだろう。
最後の三分の一は……
南アデルニアの小作人たちを植民させる予定だ。
北アデルニアにおける支配の釘のような役割を担って貰う。
もし何かがあれば、彼らを兵士として……
北アデルニアで即座に軍事行動がとれるようにしてある。
さて……北アデルニアを固めたら後はロゼル王国の首都を落とすだけ……
と言いたいところだが、ここで嬉しい誤算が生じた。
というのもロゼル王国の王(俺たちは偽物の王と認識している)が退位させられたのである。
最大の後ろ盾であるクリュウ将軍がいなくなったのがその大きな要因だ。
そんなわけでバルタザール将軍と王子は晴れてロゼル王国に帰還して……ロゼルの支配者となった。
元々の契約通り……ロゼル王国は我が国と同盟関係を結び、ロマリア連邦に加盟した。
ガリア人そのものは絶滅したわけでも何でもないわけで、決して侮れない国力を持っている。
とはいえ、現在のロマリア王国からすればそこまで大きな敵でもない。
つまり……
もうロマリアを脅かす敵はいない。
内政上の課題は山積みだが、これから少しづつじっくりと片付けていけばいい。
「というわけで、もう戦争は終わりですよ。お義父さん」
俺はお義父さん、つまり先代のロサイス王の墓参りに来ていた。
ユリアとテトラ、アリス、そして子供たちも一緒だ。
今まで忙しく……ちゃんと墓参りをすることができなかった。
まあ年に一度は必ず来ていたのだが……長居はしていなかったのだ。
「思えば、最初は小さな村からだったね」
テトラが思い返すように言った。
そうだな……グリフォン様に会ったのがいろいろとターニングポイントだった。
「で、私に会ったよね。それから……何だかんだで豪族になっちゃったよね、アルムス」
ユリアが笑いながら言った。
……何だかんだにかなりの部分が詰め込まれていたような気がするが、気のせいか?
「それから私を助けてくれましたよね!!」
「うん、それはさすがに飛ばし過ぎ」
アリスの言葉を俺は否定した。
王になる過程がすっぽ抜けている。
ついでに初めての子供が生まれたエピソードも飛ばしちゃいけない。
「まあそれから何だかんだで統一したわけだが……」
「……一番飛ばしてるじゃん」
「何だかんだに詰め込み過ぎでしょ」
「私と初めて……その、してくれたエピソードを何だかんだでまとめないでください」
ユリア、テトラ、アリスが苦笑いで言った。
ええい、五月蠅い。
いろいろあり過ぎてイマイチ思い出せないんだよ。
「まあ、思い出すのは後でもできる。とりあえず……全部終わった、ということだ」
「ははは、終わるのはまだ気が早いでしょ」
などとマーリンも言ってくる。
良いじゃないか、アデルニア半島が統一されたと、そこで一区切り打っても……
え!?
「やあ、久しぶりだね。……とりあえず、殺してみてくれない?」
突然現れたマーリンはそんなことを言って……
剣を振り上げてきた。
俺はとっさに腰の剣を抜き放つ。
さすがは竜殺し。
マーリンの剣を一瞬で真っ二つに切り裂いた。
すかさず追撃で剣を振るう。
マーリンの右手が切り裂かれ……宙に飛ぶ。
が、即座に右手が生えてきた。
無茶苦茶な……
「あは、その程度じゃしなないよ?」
「……」
落ち着け、こいつは確かに面倒な加護を持っている。
『不死の加護』だ。
だが……この加護は実際のところは『不死』ではない。
ただ体が修復しているだけだ。
死ぬときは死ぬのだ。
「死ね!!」
俺は一気に肉薄して剣を振るう。
狙いはマーリンの首だ。
「おっと……これは避けられない……早すぎでしょ。どれくらい信者増やしてるのよ」
俺の剣がマーリンの首を切り裂いた。
首が宙を舞う。
が、即座に首の断面が膨れ上がり、体が再生し始める。
だが……
「はあああああ!!!」
俺はマーリンの頭に剣を突き刺した。
何度も、何度も……突き刺す。
そして……
「再生が止まった、か」
マーリンは復活しなかった。
つまり……死んだ、ということかな?
「大丈夫か?」
俺は家族の無事を確認した。
取り敢えず……見たところ、怪我はないようだ。
一体どこから湧いてきた……
いや、もう良いんだ。死んだんだから。
…………
……
本当に死んだのか?
まあ、確かなことが一つだけある。
……マーリンの死を確認しない限り、やはり終われない。
これで本当に死んでたらただのギャグやん……
来週か、再来週あたりに新作を投稿する……
かどうかは分かりませんが、近いうちに新作を投稿しようかなと思ったりしてます
女主人公です
もういい加減、野郎は飽きたんだ……




