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異世界建国記  作者: 桜木桜
最終章 統一と神帝と魔女
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第二百九十五話 最後の戦いⅠ

 我々がバルタザール将軍と王子の同盟を受け入れた時点で……

 クリュウ将軍も察したのだろう。


 ロマリア、ロゼル両国は共に臨戦態勢に入った。

 とはいえ、すぐさま戦争が始まるというわけでもない。


 あくまで緊張状態が続いているだけだ。


 両国ともに最初の銃弾を撃ちたくないからだ。


 

 「国王陛下、海軍二百隻の出撃準備が整いました。いつでも出撃可能です」

 

 アレクシオスは俺にそう報告した。

 ロゼル王国は陸軍国であり、当然この戦争の主戦場は陸になる。


 とはいえ海軍をただの無駄飯食らいにするつもりは毛頭全くない。


 「国王陛下、騎兵の編成が終わりました」


 そう報告したのはロズワードである。

 ロゼル王国と戦うために俺はあらゆる手で騎兵を掻き集めた。


 まずはいつも頼りにしているアルヴァ王国からアルヴァ騎兵を八千。

 次にトリシケリア島で活躍したゲルマニス騎兵を四千。

 ロゼル王国と敵対関係にある部族やバルタザール将軍の伝手を借りて集めてガリア騎兵三千。

 ポフェニア戦争後、こっそりと交渉して集めたヌディア騎兵三千。

 最後に我が国の近衛騎兵やロマリア連邦全体から集めたアデルニア人騎兵一万二千。


 合計三万。


 ドモルガルやファルダーム、ギルベットといった、元々それなりの騎兵を持っていた国がロマリア連邦内にいてくれたおかげでかなりの騎兵を集められた。

 まあ正直、ファルダームやギルベットとは良好な関係とは言い辛いが……


 相手はロゼル王国だ。

 北部三国はロゼル王国とは長い長い闘争の歴史があるため、今回に限ってはかなり協力的だ。


 ようやく長年の雪辱を果たせる……

 という感じだ。


 まあ、彼らからするとロマリアも十分に憎いだろうけど。

 今回限りは仲良くできそうだ。


 「歩兵の編成も終わりました、陛下」


 最後にバルトロが報告してくれた。

 歩兵、つまり我が国の主力である。


 ロマリア王国から四万。

 連邦全体から八万。


 合計十二万。


 歩兵と騎兵、合わせて十五万。 

 プラス海軍、二百隻。


 それが現在、我が国が国外に出せる戦力の全てだ。


 まあ、他にもバルタザール派のガリア人だとかアデルニア人の義勇兵だとかも含めるともう少し数は膨らむのだが……

 そういう不確かなモノを数に含めるほど俺はアホではない。


 尚、内戦のおかげでクリュウ将軍が持ち出せる兵力も分かっている。


 クリュウ、バルタザールの二派に分かれて戦い、どちらも全力を出した。

 つまり内戦でクリュウ将軍が持ち出した兵力と、あとは少しだけいた中立派を含めた兵力が敵の最大戦力だ。


 歩兵十五万、騎兵五万。

 合計二十万。


 それがクリュウ将軍が持ち出せる兵力の全て。

 

 クリュウ将軍を相手に五万の兵力差は辛いが……

 実際のところ二十万全てをこちらにぶつけるのは無理だろう。


 兵站が持たない。

 

 そして……こちらも兵力を二つに割るつもりだ。


 ロゼル王国にはクリュウ将軍しか、優秀な将軍はいない。

 一方、こちらにはバルトロとアレクシオスの二枚がある。


 それに二人には劣るが……ロン、ロズワード、グラムの三人もいるのだ。

 ……本当は俺も数に入れたいんだけどな。


 うん、ま、まあ……いないよりはマシだよ。


 

 「アルムス、爆槍の生産も終わったよ」

 「ああ、ありがとう」


 魔術師たちを総動員して、テトラは爆槍を生産していくれていた。

 正確に言えば、爆槍の根幹である発火の魔術陣の生産だが。


 昔は騎兵を無力化するのに一役買っていたのだが、今はそっち方面では役に立たない。

 呪術で対策が取られているからだ。

 とはいえ、攻城兵器として……そして純粋な目くらまし、爆発の威力は今でも十分にある。


 重要度は下がったが、今でも強力な兵器であることは間違いない。


 

 他にもユリアは呪術師をまとめてくれているし、イアルはロゼル王国内部でのアデルニア人やガリア人と掛け合っている。

 ライモンドはポフェニアに睨みを利かせてくれている。


 後は火が付くだけだ。


 そして……

 それは唐突に訪れた。



 「国王陛下!! ロゼル王国とファルダーム王の国の国境付近の村で水利争いが起こった模様!! ファルダーム王が援軍要請をしております!!」


 「……そうか」


 俺は静かに息を吐いた。

 どちらが最初の一発を撃ったのかは分からない。


 だが……

 始まったことだけは確かだった。


 「全軍……出撃準備!! 手筈通り動くぞ!!!」

 「「「「は!!」」」」


 


 斯くして……

 世にいう第三次アデルニア人解放戦争が始まった。









 「アレクシオス、よく来てくれた」

 「何でしょう、話とは?」


 バルトロは出撃の前にアレクシオスを呼び出した。

 二人は向かい合い、酒を酌み交わす。


 「まあ、まずは一杯」

 「は、はあ……」


 バルトロに付き合い、アレクシオスは酒を口に含む。

 バルトロは美味しそうにのみ、アレクシオスは少し辛そうに飲み干した。


 バルトロはブランデーを好んで飲む。

 何故かと言えば、酒精が強いからである。

 アルコール中毒のバルトロにとってまず大切なのはどれくらいアルコールが含まれているかだ。


 アレクシオスは決して酒に弱くはないが……

 バルトロに付き合って飲めるほど強くもない。


 まあ、バルトロとまともに飲める人間はこの世にいないのだが。


 「えっと……それで本題に入って頂きたいのですが……」

 「うむ……まあ、早い話だ……結婚、しないか?」

 「……結婚、ですか?」


 アレクシオスは首を傾げた。

 

 「生憎ですが、私には妻がいますしそれ以前の問題として男性は……いや、一時期同性愛者だと言い張った時期も確かにあるんですけど、あれは結婚を回避するためで決して本当に同性愛者というわけでは……」

 「俺とお前じゃねえよ。俺だって嫁いるわ。……俺の娘と、お前の息子だ」

 「分かっています、冗談です」


 アレクシオスは笑みを浮かべた。

 

 「もしかして……ポフェニアとの戦争中にいっていた、話というのは……」

 「ああ、このことだ。あの後、サンダル島とかコルス島とかいろいろあって、結局話できなかったしな」


 まあ、いろいろゴタゴタしていたのは本当だ。 

 そしてその後も兵の調練だったり、再編成だったりと忙しかった。


 「しかし突然ですね、真意を聞かせて頂いても宜しいですか」

 「うーん、どこから話せば良いかな……」


 バルトロは酒を飲みながら……

 少し照れ臭そうに言った。

 

 「俺はあまりお前のことが好きではなかった。今まではロマリアで一番の将軍は俺だったからな。だから突然現れたお前に対しては……あまり好ましい感情を抱いていなかった」

 「まあ……それはよく分かります。僕は余所者ですからね。当然のことかと」


 

 元々アレクシオス自身、あまり人に好かれる性格ではない。

 嫌われているのは慣れているし……バルトロが自分に対して好ましい感情を抱いていなかったことも分かっていた。


 そして……アルムスがそれをわざと放置して、双方を競わせるようにしていたのも薄々勘付いていた。


 「だが……トリシケリア島での戦争で考えを改めた。お前は優秀だ。才能だけならば俺よりもあるだろう。まあ、経験込みなら当然俺だが」

 「ははは……」


 アレクシオスは苦笑いを浮かべる。

 ロマリアで一番、という点は譲らないつもりらしい。


 「お前は俺よりも若い。いずれお前は俺を越えるだろうし、俺はお前よりも先に死ぬだろう。俺としてはお前を頼りにしたい」


 いずれロマリア王国の軍全体を率いる立場になるであろうアレクシオスと接近することで、自分亡き後のポンペイウス家の立場を安定させる。

 それがバルトロの目的だ。


 「あと……そうだな。まだお前には敵が多いだろう。つまらないことで足を引っ張ろうとする奴は出てくる。今後、ロゼルを倒したら平和になるだろうし……そういうのはますます増えるだろう。そいつらへの良い牽制になる。俺と血縁関係を結ぶことは、お前にとっても益がある。そう思わないか?」

 

 「なるほど……」


 アレクシオスは少し考え込んだ。

 戦争に関しては誰にも負ける気はないが、政治となると専門外だ。


 そんな時にバルトロが助けてくれれば……心強いかもしれない。


 「あと……個人的なことなんだが……」

 「はい?」

 「俺とお前の孫、どれくらい優秀な将軍になるか、気にならないか?」

 「ははは……それが本音でしょう?」

 「……まあな」


 バルトロとアレクシオスは笑い合った。

 ロマリア王国一、二を争う二人の血を継いだ子供がどれくらい優秀な将軍となるか……


 一番の興味はそこにあった。


 「面白い、良いですよ。婚約しましょう」

 「ありがとう」


 バルトロとアレクシオスは握手を交わした。




 


 後に二人の孫は、かのポフェニアの悪魔を打ち倒すことになるのだが……

 それはまだ誰も知らない。


バルトロとアレクの話を入れ忘れるという致命的なミスをしていたので、今入れておきます

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