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異世界建国記  作者: 桜木桜
第九章 第一次ポフェニア戦争と王太子
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第二百九十三話 王国の限界

 「……亡命の受け入れ、感謝いたします。アルムス陛下」

 「なに、当然のことをしたまでだ。正当なるロゼルの王が殺されるのを黙って見過ごすわけにはいかない」


 俺はバルタザール将軍にそう言った。

 

 季節は二月、壮絶な籠城戦の末にロゼル王国の首都ミランは陥落。

 バルタザール将軍と王子、そしてその家族たちは緊急脱出口を利用して逃げ出し……

 我が国の呪術師たちの支援のもと、我が国に亡命した。


 ちなみに正統なるロゼルの王、つまりバルタザール将軍が掲げていた王子とその家族は現在、休憩中だ。

 命がらがらロゼル王国から逃げてきたので、疲れているのだろう。


 「ところで……具体的な政治の話をしたいのですが、よろしいですか?」

 「構わないが……今すぐそれをする必要はあるのかね?」


 俺はバルタザール将軍に尋ねた。

 まあ、確かに親切心で助けたわけでもないし……今後について話し合いたいのは本音だ。


 とはいえ、亡命したばかり。

 もう少し落ち着いてからでもいいのではないか?

 

 と俺が親切心で言うと……


 「早いに越したことはありませんから」

 「なら構わないが……王子は?」

 「全権は私に委ねられております」


 バルタザール将軍の口ぶりから察するに……

 王子は完全に傀儡のようだった。


 まあ、多分クリュウ将軍の方も同じようなものだろうけど。


 「分かった。……明日にでも、話し合おう。取り敢えず今日は休むと良い。急げば良いというわけでもないからな」






 「単刀直入に言いましょう。王位の奪還を手助けして頂きたい」


 バルタザール将軍は俺に頭を下げて言った。

 

 (本当に単刀直入に言ったな……)


 と思いながら、俺は口を開く。


 「我々がそれを手助けしたとして……我々には何の利益が?」


 俺としてはロゼル王国は内戦で弱っている今のうちに潰したい。

 無論、疲弊しているのは我が国も同様だが……

 戦争が終わって日が浅いロゼル王国と、しばらく時間が経過して国力が回復してきた我が国とでは、まだ我が国の方が有利だ。


 しかし……それはできれば、の話である。

 俺はまだ三十歳なわけで……まあ最低でもあと十年は生きられる。


 チャンスはいくらでもあるのだ。


 ロゼル王国は今後クリュウ将軍によって国力を盛り返すかもしれないが、我が国はそれ以上の速度で国力を回復させ……そして超えれば良い。

 それだけのことである。


 まあ……

 つまり俺としてはどちらでもいい。


 だからこそ、バルタザール将軍が何を提示できるかに掛かっている。


 「フィウコルネ川以南のアデルニア半島の領土をお譲りします。そして……ロマリア連邦に入ることを約束します」 

 「ほう……」


 それは事実上……

 ロマリア王国の属国になると言うようなものだ。


 随分と下手に出たな。


 とはいえ……

 ここまで大きな見返りを提示されてしまうと、俺も心が動かされる。


 「ただ、いくつか条件があります」

 「言ってみろ」

 「一つ……まずロマリア連邦内では最上位の扱いを要求します」


 つまり……

 ドモルガルやファルダーム、ギルベッド、そしてアルヴァ王国のようなアデルニア人の国と同列には扱われたくない。

 ということか。


 でもまあ……

 そもそもフィウコルネ川以北がロゼル王国の本土なわけで、フィウコルネ川以南を失ってもロゼル王国の国力は強大。

 つまり必然的に扱いは最上位になる。


 「良いだろう」

 「ありがとうございます。……もう一つ、ロマリア王国の領土となった旧ロゼル王国に住むガリア人たちに、他のアデルニア人たちと同等の権利を」

 「ふむ……全て同等、というわけにはいかない」


 俺はそう言ってから……


 「我々に歯向かったガリア人……つまりクリュウ派の兵士として戦ったガリア人の処遇については、相応のモノとなる。……それ以外のガリア人については確約しよう」

 「それならば大丈夫です」


 元よりクリュウ派のガリア人など、どうでも良いのだろう。

 バルタザール将軍は頷いた。


 「最後に……フィウコルネ川以南の土地を治めるガリア人の地主たちについてです」

 「ほう……」


 ガリア王国もロマリア王国と同様に……

 土地を治める領主、豪族、地主……貴族と呼ばれる支配階層が存在する。


 「彼らに今まで通り、土地を治める権利を」

 「……ふむ」


 俺は少しだけ考えてから……


 「不輸不入権は認めない。また……ロゼル王国領内に住んでいたアデルニア人の小作人たちにも、他のアデルニア人たちと同等の権利を与えるつもりだ。故にこれまで通りとはいかない。それでも良いならば……初期の段階で我々に協力した者たちと一部の例外にのみ、それを許そう」


 ロゼル王国の豪族の一部には不輸不入の権利を持つ者がいる。

 また……地主たちはアデルニア人を小作人として、土地に縛り付けて支配している。


 それらは認めない。

 つまり……あくまでロマリア王国領内のアデルニア人地主と同様に扱う。


 と、俺は言っているのだ。


 「…………分かりました。良いでしょう。ですが……そうなると貴国に味方をするガリア人地主の数は減りますぞ?」

 「何の問題もない」


 その分、アデルニア人たちの支持を得られる。

 反抗するガリア人地主たちからは土地を取り上げてアデルニア人に分配してしまうつもりだ。


 元より問題は無い。


 「しかし……フィウコルネ川以南のアデルニア半島の割譲とは、随分と大盤振る舞いだ。どういう意図か、聞いて良いかね?」


 まあ……

 確かに現状、一兵も、銅貨一枚分の土地も有していないバルタザール派からすれば、失うものは何もなく……

 むしろ様々な利権を得るチャンスだということは分かる。


 だが王位を取り戻すために他国の兵を呼び込むのは褒められた行為ではないし、加えて領土を割譲するのは一国の将軍として、どうなのかという疑問が浮かぶ。


 その点を聞いてみると……


 「簡単な話です。フィウコルネ川以南のアデルニア半島は九割がアデルニア人。もしロマリア王国がアデルニア人の解放を主張して攻め込めば……どちらにせよ奪われる。その際に全てのガリア人が殺されるのと……ロマリア王国に大人しく分け渡してガリア人の安全を図るのであれば、後者の方がまだマシでしょう」


 なるほどね……


 「加えて言えば……現在、ロゼル王国ではクリュウ派の貴族たちによる、粛清が行われています。土地を奪われるくらいならば、ロマリア王国に助けてもらった方が我々にとっても利益があります」


 そしてバルタザール将軍は最後に溜息を吐きながら言った。


 「そもそも北アデルニア半島は我が国にとって不良債権も同然。得られる税収よりも、支配するための出費の方が大きいのですよ。それに我々の本拠地はフィウコルネ川以北のアデルニア半島と、山脈を超えた向こう側のガリア。ロマリア王国と同盟を結んで南の憂いを断ち、

ガリアの支配と運営に注力すべきである。というのが私の考えです」


 ふむ……

 理に適っている。


 というか、不良債権だったのか。

 

 「貴国はアデルニア人もキリシア人も同様に兵役の対象ですが、我が国では兵役の対象はガリア人だけ。そしてアデルニア人は潜在的な反乱分子。抑えるだけでも手一杯なのが実情ですよ。事実……我が国は北アデルニアを支配して以降、殆ど南下していないでしょう?」


 言われてみれば、という感じだな。

 確かに北アデルニア半島の支配には手を焼いているだろうと思っていたが……

 税収よりも出費の方が上回っていたとは知らなかった。


 まあ……

 ガリア人の兵士を本土から連れてきて、長期間北アデルニア半島の支配のために置いておくのは確かに莫大な軍事費を必要とするだろうし、人手を取られることでガリアでは産業基盤がぐらつくのも事実だ。


 やはり多民族国家というのは考え物だ。

 ロマリア王国はアデルニア人とキリシア人で構成される多民族国家だが、幸いなことにアデルニア人が圧倒的多数派であることが幸いしている。


 アデルニア半島の外側には……

 できるだけ出ない方が良いかもな。


 トリシケリア島、サンダル島、コルス島は採算が十分に採れているから問題無いけど。


 「では……準備が整い次第、戦争を開始する。狙うは短期決戦だ。……あなたの人脈には期待している」

 「私が貴国に提供できるものは、そもそも人脈だけですからな」


 それからイアルなども交えて細かい擦り合わせが行われ……

 正式に我が国とバルタザール将軍は条約を結んだ。


 

 

 ただ少しだけ気になるのが……

 


 マーリン、黒崎麻里はどのように動くか、ということであった。


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