第二十九話 初陣Ⅰ
さあ爆弾だ!!
フェルム王の軍の先遣隊が村に到着するのに約一日半掛かった。
「村を明け渡せ。そして兵二百人分の食糧を提供しろ! そうすれば命は助けよう」
「二百人分? 本当にそれだけでしょうか。村を占拠した後に全て奪うつもりでは無いですか?」
「まさか、我々は兵糧を確保したいだけ。それ以上は望まない」
本当だ。
ただし、どれくらいが兵二百人分の兵糧かは言っていない。
もしかしたらこの村の収穫の殆どかもしれないが……まあ、その時は仕方がない。
アルムスは少しだけ考える。
交渉とは対等な立場同士、もしくは大きな力の監視の元で行われるモノだ。
果たして本当に履行されるのか。その確証がなければ条件は飲めない。
それに司令官は兵糧と言った。
つまり敵の目的はロサイス王の宮殿だ。
普通ならグリフォンを恐れて行軍しない森の中を行軍し、この村を拠点にすることで奇襲を掛ける。それが敵の目的。
だとするとこの村を明け渡せばユリアとついでにロサイス王に火の粉が掛かる。
それは如何なものか。
「証拠は?」
「フェルム王様の名に誓おう」
「なら無理ですね」
交渉は決裂する。
両者とも最初から戦闘が起こると考えていたため、あっさりと交渉は終わる。
「調子に乗りおって。たかが四十人、五十人の兵士で何ができるというのだ。こちらは二百だ。力づくで落とせ!」
司令官はよく村を観察する。
深い掘りと、高い木の柵。
門は一つしかない。
村はそれなりの大きさなので、二百人では包囲は難しい。
短期決戦が目的なので、門に戦力を集中させて破った方が良いだろう。
敵兵は四十、五十だが村の住民を数に入れれば百は超える。
とはいえ、今回の第一目標は兵糧と拠点の確保。
別に皆殺しにする必要性は無い。
敵の大将の首を落とした後、降伏勧告をすればすぐに跪くだろう。
犠牲は多く出るかもしれないが、自分たちの役目は露払い。
大事なのは本隊が来るまでに落とす、出来なくても弱らせることだ。
今回は前回と違い破城鎚もあるし、弓兵も多く用意した。
「まずは門の周囲を確保しろ。そこに破城鎚をぶち込め!」
戦慣れした兵士は隊列を組みながら門へ殺到する。
だが突然、隊列が乱れ始めた。
「落とし穴か……面倒な物を……迂回しろ」
落とし穴の下には槍が上向きに埋まっていたようで、二十人の死者が出たが、落とし穴に引っかかったのは最初だけだ。
落とし穴は注意深く地面を見れば分かる。
避けるのは簡単だ。
だが迂回することで門にたどり着くまで時間が掛かってしまう。
「クソ。こんな防衛設備があるとは聞いてないぞ」
司令官は愚痴をこぼす。
やはりそれなりの犠牲を覚悟しなければならない。
とはいえ落とし穴は防衛の基本設備だ。
別に驚きはしない。
「だがこの村を占拠すれば兵糧は確保できる。本隊が来る前に必ず拠点を確保しなくてはな」
「はい。その通……危ない!!」
副官は司令官を馬から突き落とした。
司令官は地面を転がる。
「貴様! 一体何を……」
副官は死んでいた。
頭に矢が刺さっている。
司令官は周囲を見渡した。
「クソ! この矢、鎧を突き抜けたぞ!」
「特注の青銅製なのに……」
「鉄で出来てるのか?」
次々と兵士が矢で射られていく。
「どういうことだ! こちらの弓隊は何をしている?」
「この距離からでは矢は届きません!!」
弓兵隊長は答える。
彼らは知る由もないが、アルムスたちが使っている弓はキリシア商人から購入した長弓。
射程距離がフェルム王の国の弓とは違う。
また矢じりも石製を使うフェルム王の軍勢とは違い、鉄製だ。
それを高い塔から射ることでフェルム王の弓兵の射程外から攻撃を加えることが可能なのだ。
「盾を掲げろ! 矢を防ぎつつ前……」
青銅製の盾ごと、頭を撃ち抜かれる隊長
頼みの盾が通用しないことに、兵士たちの間に動揺が走る。
「おい、大丈夫か?」
「大丈夫だよ。鎧を貫通したけど、かすり傷さ。つばでも付けとけば治っぐがあ!!」
矢を受けた兵士たちは地面にのたうち回り始めた。
深く刺さった者は勿論、かすっただけの者もだ。
「毒矢か! 卑怯者め!!」
司令官は叫ぶ。
その返答に毒矢が司令官の足元に突き刺さる。
「っひ!」
「司令官は後方にお下がりください!!」
部下たちに守られるように司令官は後方に下がった。
「勝てそう?」
「ああ。もう五十人くらい敵は数を減らしているよ」
残りは百五十人。
あと五十人も減れば退却するだろう。
敵の装備は青銅製の槍。
そして大部分が木製の鎧で、一部が革製。そして隊長クラスが青銅製の鎧で、司令官ほどでようやく鉄製。
こちらの弓はキリシア人から大枚(紙)を叩いて購入した長弓。
そしてトリカブトの毒が塗ってある鉄製の鏃。
負ける方が可笑しい。
「そろそろ敵の矢が射程距離に入るよ。アルムスさん、気を付けて」
グラムが矢塔の上から叫ぶ。
敵は最初こそ混乱したものの、盾を掲げて矢を防ぎ確実に村に近づきつつあった。
「お前たちも気を付けろ。死なないことだけを考えるんだ」
「分かっています」
グラムはニヤリと笑って答える。
心配だが、任せるしかない。
「ロン、お前はそろそろ持ち場に戻れ。敵が門に到達したら……分かっているな?」
「了解だよ。目に物見せてやる」
そう言ってロンは持ち場に戻る。
さて、俺もそろそろ戻らなくてはならない。
ここに居れば矢で射られてしまう。
段々と敵の足音が聞こえるようになり、それに伴い矢が村の建物に突き刺さる音が響く。
敵の弓兵は約四十。
こちらよりも数が多いため、敵の攻撃が激しくなればなるほどこちらが射ることが出来る隙が無くなる。
グラムたちは鉄製の大盾に隠れながら、隙を見つけて弓兵を優先的に射貫く。
戦況は敵に傾いている。
……今のところは。
「リーダー! 敵に門周辺を占拠されたそうです!」
ロンは嬉しそうに報告をした。
「よし、やってやれ!」
俺がそう言うと、ロンはニヤリと笑い頷く。
その手には槍のようなものを持っている。
ロンは部下九人に呼びかける。
「お前ら! 爆槍は持ったな? 訓練通りだ。絶対に柵に当てるなよ? 失敗した奴は去勢だ!!」
そう呼びかけ、ロンは爆槍……先端に黒色火薬を括りつけた槍を構える。
ロンが槍を身構えると、槍は仄かに光り始める。
魔術が発動したのだ。
「一、二、三、はあ!!」
ロンの呼びかけと同時に十本の槍が門を飛び越え、門の周囲に殺到する兵士たちの間に落下した。
落下と同時に発火。
黒色火薬は大爆発を引き起こした。
途端に敵からの矢が止む。
悲鳴が門の外から聞こえ、白煙が立ち上る。
「よし、成功だ。二発目、用意!」
再び十本の槍が敵に着弾する。
悲鳴が上がる。
「もういいだろう。止めだ。行くぞ、ロズワード」
「了解だ。兄さん」
俺はロズワードが連れてきた馬に跨る。
ロズワードと並んだ。
騎兵は俺とロズワードを含めて六人。
「門を開け! 俺が突撃するのと同時にグラムたちは矢を放つのをやめろ! ロン、お前たちは後から続いてくれ!!」
門が開く。
そこへ俺たちは突撃した。
「うわ、酷いな」
門の外側は思っていたよりも酷い状況だった。
トマトが潰れたみたいな死体が散らばっている。
中には人間だったのか疑問に思うほど悲惨な死体もあった。
自分が作りだした物の恐ろしさを改めて実感する。
もし自分の敵が黒色火薬を使ったらと考えると寒気がする。
製法は秘匿しないとな。
敵は音と白煙、仲間の突然の死で大混乱に陥っていた。
もう何もする必要はなさそうだが……
「敵将を討つぞ!!」
俺は呼びかけて大混乱の中の敵の中に突撃する。
槍を振る必要はない。
俺の姿を見て、敵は諦めたように道を開けてくれるからだ。
もう勝ったも同然だな。
あっという間に敵の軍勢を突き抜けてしまう。
もう一度突撃する必要があるな。
白煙が少し晴れてくると、敵の服装が分かる。
ほとんどの兵士は皮鎧や木製鎧、一部は青銅製の鎧を着ている。
「そこの鉄製鎧を着て馬に乗っている奴! お前、敵将だな!」
ロズワードが馬の腹を蹴り、敵将と思われる人間に近づく。
敵将は怯えたように逃げ始めた。
「逃がすか!!」
ロズワードを手に持っていた槍を投げつけた。
槍は弧を描いて、敵将の背中に突き刺さった。
「ロズワードが敵将を討ちとったぞ!!」
俺がそう叫ぶと、味方が歓声を上げる。
同時に敵は諦めたように地面に座りこんでしまった。
一先ず勝利。ということか。
本当は森の中でのゲリラ戦も考えたけど、敵が攻城の時に門に集中して、良し勝った!!と思った瞬間爆発させた方が楽かな?と思った次第
次回はバルトロVSフェルム王の部下
つまりアルムスは出ない
※作中で矛盾が生じてしまったので離魂草の設定を若干いじりました
詳しくは前話のあとがきと準備の回で




