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異世界建国記  作者: 桜木桜
第九章 第一次ポフェニア戦争と王太子
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第二百八十九話 戦後復興Ⅰ 

 「何はともあれ、終わったな……」

 「終わったね……」

 「うん、終わった……」

 「終わりましたね……」


 俺とユリアとテトラとアリスは風呂に浸かりながら呟いた。

 勝って兜の緒を締めよ。


 というのは無論分かるが、今だけは緩めていたい。

 ……ちょっと、国内の現状に目を向けるのは後にしたい。


 「ところで、アルムス」

 「何だ、ユリア?」

 「……老けた?」

 「……」


 もう、そろそろ俺も三十だ。

 そりゃあ、老けてくるだろう。


 とはいえ、地球なら三十はまだまだ若い方だと思う。

 まあ、この世界だとおっさん扱いされる年だが。


 「お前たちは……あまり変わらないな」


 俺はユリア、テトラ、アリスの体を見て呟いた。


 三人とも、結構な人数の子供を産ませたが……

 肌もすべすべだし、肢体も美しいままだ。


 「私たち、呪術師だから」

 「呪術師はちょっとだけ、加齢が遅くなる」


 へぇ……

 それ、初めて知ったんだけど。


 本当なのか?


 「本当……というか、誤差の範囲だよ、誤差の範囲。まあ、一応若作りしてるから……」

  

 と、ユリアが答えてくれた。

 若作りしてるんだ。

 とはいえ、ここは風呂だから化粧は落としているはず。


 つまり誤魔化しではなく、日頃の努力だということだ。


 俺はユリアとテトラの背中に手を伸ばし…… 

 撫でてみる。


 「きゃ!!」

 「ひゃ!!」


 二人は同時に可愛らしい声を上げた。

 うん、昔と変わらない……とまでは言わないけどすべすべしているし、良い肌だな。


 取り敢えず、二人は良いとして……


 「アリス、お前は何かしてるのか? お前、多分俺よりも年上だよな?」


 アリスの正確な年齢は分からない。

 だが……俺よりも少し年上のはず。


 それを考えると、もう三十代に入っているはずだ。

 しかし……何故昔と変わらない?


 「さあ? でも、私何もしてないですよ?」

 「……そうか」


 まあ、こいつは獣人だからな。

 半分蜘蛛みたいなものだし、普通の人間の尺度で考えても仕方がないだろう。


 「……あのさ」

 「何だ、ユリア?」

 「……今後、どういう方針なの?」


 ユリアが遠慮がちに尋ねてきた。

 俺は……溜息交じりで答える。


 「まあ、大まかな方針としては……まず艦隊を解体する。ポフェニアとは条約で保有数を定めたから、我が国が解体すれば連中も解体せざるを得なくなる。まあ、二百も残せば十分だろう。そしてトリシケリア島の統治方針を定めて……賠償金の五千ターラントで国民に補償をする。というのが主な流れだろうな」


 問題は国民に対する補償をどうするか……

 という問題だ。

 

 俺が考えたのは……

 自作農たちに関しては金銭や奴隷、または現物で報いる。

 小作人たちには新たな土地を与えて、自作農にする。

 商人たちは……すでにポフェニアの商圏を奪ったので、これで十分報いることができたと言えるだろう。

 最後に貴族たちには……広大なトリシケリア島の土地を与えれば良い。


 これで一応、不満は抑えられるだろう。


 あとは時間による回復を待つしかない。

 

 「まあ、兵士たちを引き揚げさせれば国内の荒廃は収まるよ。食糧を支援したり、奴隷を給付すれば十分に持ち直せる範囲だ」 

 「ふーん……取り敢えず、絶望的な状況では無いのね?」

 「まあ、勝ったからな」


 負けたら最悪だった……

 真面目にロマリア連邦の解体をしなければならなかっただろう。


 しかし取り敢えず勝てたのだ。

 五千ターラントの賠償金も得たしな。

 

 ……まあ借金はもっと膨大だけど。


 「……借金のことを考えると、憂鬱になるな」

 「商人からの借金は最悪踏み倒せるとして、ペルシス帝国からのからの借金は問題だね」


 と、少々テトラが問題のある発言を言う。 

 まあ、でも間違ってはいない。


 商人からの借金は(信頼を失うが)踏み倒せてしまえる。

 だがペルシス帝国からの借金だけは不味い。


 「まあ、取り敢えずペルシス帝国から借りた一万ターラントだけは優先的に返そう。次に国民からの借金。国民に返した金は税金で回収できるから……それを商人たちの借金への返済に充てれば良い」


 何にせよ、ペルシス帝国からの融資は多いに助かった。

 あれが無ければ、船を揃えられなかったのだ。


 「船の建造のノウハウが蓄積したから、今後は我が国は世界最大の造船国だ。そしてポフェニアの市場も得たから、商船を作って儲ければガンガン税金は入ってくる。加えて……幸か不幸か、この戦争のおかげで貨幣経済そのものは広まった」


 富裕層たちが国庫に寄付してくれたり、彼らから借金したり……

 様々な方法で集められた資金は全て軍資金として国内に流れた。


 皮肉なことにこの戦争は富の再分配を引き起こしたのだ。


 もっとも、これからは広大な土地を得た富裕層やポフェニアの商圏を奪った商人たちの活躍で、逆に格差が生まれるだろうけどね。


 これに関しては……

 正直、どうしようもない。


 とにかく自作農は保護しなくてはならないが。



 「ガリアは……どういたしますか?」

 「それは……分からないが、今は迂闊に行動できないな」

 

 アリスの問いに俺は答えた。

 ガリア……即ちロゼル王国のことである。


 現在、ロゼル王国では内戦が勃発していた。

 ロゼル王国の国王が死んだことで、クリュウ将軍派とバルタザール将軍派の二派閥に分かれて、ガリアの諸部族を巻き込んだ大戦争に発展している。


 もっとも、主戦場はガリアなので……

 北アデルニアはそこそこ平穏なようだが。

 

 とはいえ、情勢が不穏なのは間違いない。


 本当のところは勢力拡大の大チャンスなのだが……

 生憎、我が国は疲弊している。


 というか、だからこそ内戦を起こせたのだろう。

 ロゼル王国の内戦が終局する前に、ポフェニアとの戦争を片付けることができて僥倖……程度に考えておくべきだ。


 尚、情報収集は以前として続けている。

 内乱のおかげでロゼル王国の呪術師統括システムは完全に崩壊しているようで、今まで以上に大量の情報が入ってきている。


 今のところ、情報を整理する限りでは……

 ややバルタザール将軍の方が優位に立っているようだ。


 とはいえ、それは兵力や財力の差であり……

 クリュウ将軍ならば巻き返すことも出来てしまうだろう。


 まだ結論は出せないが……

 俺の予想だと、おそらくクリュウ将軍が勝つ。


 まあ、あくまで予想なので……

 どちらが勝っても良いように行動する。


 クリュウ将軍が勝てば旧バルタザール派と、バルタザール将軍が勝てば旧クリュウ派と結べば良いだけの話だ。


 何にせよ、何らかのアクションを起こすための準備だけはしておかなくてはならない。


 「ねえ、アルムス」

 「どうした、ユリア」

 「……魔女マーリンはどうしてるか分かる?」


 ユリアの問いに……

 俺は首を大きく横に振った。


 魔女マーリンは南大陸に行くと言って以来、どこかに消えてしまった。

 少なくとも、我々はその存在を認識していない。


 ……まあ、ちょっとやそっとで死ぬような女ではないことくらいは分かる。


 まあ、しばらくしたらひょっこり現れるだろう。

 敵に回らないことを祈るしかないな。


 クリュウ将軍が勝てば、マリリンはクリュウ将軍に付くのだろうか?


 ……もしかして、バルタザール将軍が勝てばマリリン味方に付いてくれる?

 だとしたら是非ともバルタザール将軍に勝ってもらいたいものだな。


 マリリンが味方として心強いかどうかはともかくとして、敵に回したら厄介なのは間違いないので、敵にさえならなければ良い。


 「なあ、マリリンって何か好きな食べ物とかあるのかな?」

 「トカゲとか好きそう」

 「……それはさすがに偏見だろ」


 テトラの言葉に俺は苦笑いを浮かべた。

 だが、マリリンが大鍋でトカゲを煮込んでいる姿は容易に想像できる。


 ちなみにその横ではユリアが芥子と大麻を刻んで、入れようとしている。


 ……どんな劇物を作っているんだろうか?


 「ねえ、アルムス。あなた今、失礼な想像しなかった?」

 「まさか! ユリア、お前は相変わらず綺麗だな!!」

 「ええ、そんなぁ……で、誤魔化されると思う?」

 「……マリリンと一緒に猛毒スープを作っている想像をしました」

 「正直で宜しい」


 ユリアはにっこりと笑みを浮かべた。

 やっぱりマリリンよりもユリアの方が怖いな。うん。



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