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異世界建国記  作者: 桜木桜
第九章 第一次ポフェニア戦争と王太子
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第二百八十八話 第一次ポフェニア戦争 終戦

完結までの書き溜め、完了記念投降


 トリシケリア島での会談が終わった後……

 ロズワードは一人、散歩していた。


 もうすでに辺りは薄暗い。


 「うーん、あんまり俺役に立たなかったな……」


 ロズワードは苦笑いを浮かべた。

 まあ、ロズワードは軍人としての経験は積んできたが外交官としての経験は皆無である。


 おそらく、アルムスも自分に経験を積ませるために連れてきたのだろう。

 と、ロズワードは解釈した。


 「それにしても……長かった。今まで一年以内に殆どの戦争は終わってたからなあ……」


 今回の戦争はいろいろ規格外であった。


 いつもは自国よりも国力の小さい国が相手で……

 加えて、陸上での戦いだった。


 しかし今回は自国より国力が上の相手で……

 加えて、主戦場は海上だった。


 勝利出来たのが不思議なくらいだ。


 「しかし……マルクス王太子殿下が人質に、か。さて、どうしようかな」


 次期王位継承者を人質に取る。

 というのは、全く珍しい話ではない。

 むしろよくある話だ。


 そもそもロマリアが今まで散々やって来たことなのだ。

 自分がやられてきたことを、やり返されただけのこと。


 因果応報、とまではいかないが……

 少なくともロマリアは、アルムスは、ユリアは嘆き悲しむ立場ではない。


 無論、子供を人質に取られるというのが親にとっては辛いことなのは事実なのだが。


 「とはいえ、兄さんも息子を一人で行かせるわけがない。というか、どの国も必ずお付きの人間も派遣するからね……」


 王族の王子が他国に人質に行くとき……

 必ず、家臣の息子や娘も随伴して行く。


 その息子や娘が、後に王子が帰国し、国王になった時に側近となるのである。

 苦楽を共にした仲間として。


 無論、アルムスはそういうことを強要するタイプではない。

 だが……遠回しに求めてくるのは当然だろう。


 その時、ロズワードは答えるか、答えないか……


 「まあ、答えるのが臣下としては当然なんけどね。俺にとっても、俺の息子にとっても悪い話じゃないし……」


 ペルシス帝国は先進国である。 

 世界中からありとあらゆる富と知識が集まる国だ。


 そこに留学させることができる。

 というのは御褒美以外の何物でもないし……


 そもそもアルムスの後押しで出世して来たロズワードにとっては、次期王太子の信任を得ておきたいというのも当然だ。


 ロンやグラム、そしてロズワードたちには家柄というものが欠陥しているのだ。

 家を没落させないためにも、子供を随伴させるのが望ましい。


 「とはいえ、リアの奴がなんというか……こればかりは相談してみるしかないね」


 ロズワードは溜息をついた。

 妻に猛反対されれば、ロズワードも押し切ることはできない。

 

 何だかんだでロズワードも息子が可愛いのだ。

 手放したくはない。


 まあ、可愛いからこそ留学させてやりたいという気持ちもあるのだが。


 「……しかし王太子の正室はペルシス帝国の皇女か。となると、次の次の国王はアデルニア人とペルシス人の混血? うーん、どんどん人種が混ざっていくね、この国は。まあ、どうでも良いんだけどさ」


 最近ロズワードの脳裏に過ぎるのは、アルムスが死んだあとにロマリアはどうなるのだろうか?

 という素朴な疑問である。


 ロマリア王国はアルムスの才覚によって保たれていると言っても過言ではない。

 それはポフェニア戦争前の国論分裂を考えれば分かる。


 実のところ、ロマリア王国は一つではないのだ。

 利害を調節し、上手い具合に纏めているのは全てアルムスの才覚によるもの。


 よって、アルムスの死後はかなり厳しいことになる。


 「まあ、それはどの国家も同じか。やっぱり、初代から二代目、二代目から三代目の間には大きな壁があるよね……長生きしないと!」


 要するに全員が長生きすれば良いのである。

 アルムスはそろそろ三十代になるが……平均寿命的にも五十代までは生きられるはず。


 それまでに国家体制を整えれば良い。


 「そろそろ帰るか……闇討ち、とかされると嫌だしね」


 ロズワードはそう考え、来た道を戻ろうとすると……

 クイっと、何かに服を引っ張られた。

 

 見下ろすと、そこには五歳ほどの小さな女の子がいた。


 髪は美しい金髪で、瞳は翡翠色。

 そして……どこかで見たことがあるような顔をしている。


 「えっと、君は?」

 「散歩していたら道に迷ってしまって。連れて行ってもらえませんか?」


 どうやら迷子のようであった。

 ロズワードは女の子の頭を撫でてから、再び問う。


 「お名前は?」

 「ハンナ・バルカです。ベルシャザル・バルカの娘です」


 なるほど……

 ロズワードは納得した。


 アレクシオスに似ているのだ。


 言われてみると、非常に利発そうに見える。

 バルカ一族の血は健在なのかもしれない。


 「ロズワード・ファビウス卿ですよね?」

 「ああ、そうだよ。よく名前を憶えているね」

 「将来の敵なので。当たり前ですよ」


 これにはロズワードは苦笑いを浮かべた。

 五歳の女の子に敵呼ばわりされて、ムキになるほどロズワードは子供ではない。


 むしろ、滑稽に感じてしまう。


 「俺のことは憎いかな?」

 「いえ、別に。私はロマリアに恨みはないですよ。むしろアズル・ハンノと祖父、父に呆れてしまっています」


 ロズワードとハンナは並んで歩き始める。

 ハンナは溜息混じりに、ロズワードに愚痴るように言う。


 「あの人たちはこの戦争をただの植民地の奪い合いだと、トリシケリア島の利権争い程度に考えているのです。全く……本質を見極めていない」

 「本質? 一体、何だいそれは」


 所詮五歳の幼女の言う事。

 とはいえ、少し興味を引かれたロズワードはハンナに聞き返した。


 「ロマリア王国の暴走を止める、数少ないチャンスだったかもしれないということです。この敗戦で……今後百年間ポフェニアが生き残る可能性が大きく減少しました」


 ハンナの言葉にロズワードは首を傾げる。

 暴走……というのがよく分からなかったのだ。

 そもそもこの戦争の大本の原因はポフェニアだ。


 「我が国は暴走したつもりはないのだけど……どういうことかな?」

 「簡単ですよ。ロマリア王国は半島の国です。その性質上、陸上からの敵と海上からの敵の両方に備える必要があります。しかし現実としてそれは不可能です。ポフェニアは海軍の維持だけにも難儀したのですよ。陸軍と海軍の両立など、如何なる大国でも不可能でしょう。そんなロマリアが生き残る方法はたった一つ……」


 ハンナは指を一本立てた。


 「テーチス海沿岸部を全て征服し、テーチス海を内海としてしまうことです。そうすればあとは陸上からの敵にさえ備えれば良い」

 「面白い考えだね……だが、そんなことを考える者は我が国にはいない。そもそもペルシス帝国に勝てるわけがないだろう」

 「何を言っているんですか。ペルシス帝国が未来永劫、永遠に続くとでも? あれほど肥大化した帝国が長続きするはずがありません。クセルクセス帝の代か、その後までは持つかもしれませんが、それ以降は持たないでしょう」


 ロズワードは息を飲んだ。

 五歳の幼女の言葉にしては……妙に説得力を持っていたからだ。


 「ペルシスは今後百年間の間に必ず崩壊するでしょう。そして東テーチス海に軍事力の空白が生まれる。ロマリアはそこに侵入するでしょうね。そして得た利権を守るために……ひたすら戦争を続けます。ええ、ロズワード・ファビウス卿の言う通り、ロマリア人に世界征服をしようとする者は誰一人居ないでしょう。しかし国を守ろうとする国士は大勢いる。そしてロマリア王国を守るためには、他国を侵略しなければならない。それに際限は無いのです。ロマリアは無限に拡張を続けるでしょうし、ロマリアはそれを止められない。止めた時がロマリアの滅ぶ時なのです」


 ハンナは溜息をついた。


 「だからこそ、今ここで食い止める必要があったのです。これはただの植民地戦争ではなく、ロマリアとポフェニアの、いえテーチス海全土の今後数百年の命運を掛けた戦いだったのですよ。それなのに足を引っ張り合って……危機意識があまりにも足りない。負けるのも当然ですね」


 なるほど、面白い。

 ロズワードは思わず感心してしまった。


 例え根拠のない妄想(・・)でも、これだけ説得力を持って話せるのであれば将来有望だろう。

 しかし……ロズワードとしては一つ気になることがあった。

 なぜ、ハンナが自分にそんな話をしたのかと。


 「……なぜ、俺にそんな話を?」

 「まあ、簡単です。保険ですよ。ロマリアは私が滅ぼすので、別に意味はないのですが……ええ、保険です。私にとって最大の懸念はロマリアがテーチス海を征服することではないのです。征服されても人々がそこで幸せに生きられるのであれば、それでいい。ロマリアの統治の評判はそこそこ良いですしね」


 しかし……

 とハンナは続ける。


 「ロマリアは今は若い。頑健な肉体を持った国家で、如何なる外敵も寄せ付けないでしょう。しかしいかなる超大国といえでも、永遠に安泰であり続けた例など無いのです。ペルシスがやがて滅びるように、そしてポフェニアがロマリアに敗北したように……如何なる国家もいずれは老いていき、内臓から腐り始めます。肉体は変わらず頑健であろうとも、内臓が腐り始めれば……如何に国外の敵を寄せ付けずとも滅びてしまうのです」

 

 ハンナは……

 五歳の幼女とは思えないほどの重苦しい声で続ける。


 「ロマリアが一人で死ぬ分ならば問題ありません。しかしその腹に多くの国々を飲み干したままであったならば? テーチス海全土に跨る超大国となっていたら? ロマリアの腐敗は世界の腐敗と同義になります。鼠がもがき苦しんだところで何の問題もありません。しかし巨象がもがき苦しめば、多くの被害が出る。私はそれを懸念しているのです。ですから、私があなたに敗北したら……その後、そうならないように頑張って欲しいなと思いまして。もっとも、あなたがその時まで生きているか分かりませんけどね」


 ハンナはニヤリと笑みを浮かべて……

 立ち止った。


 気が付くと、すでにハンナとベルシャザル・バルカに宛がわれた宿に到着していた。


 「じゃあ、ロズワード・ファビウス卿。さようなら。そして……またいつか、会いましょう。ロマリア王国の首都、ロサイスで……あなたの首を取る日を心待ちにしていますよ」

 「……はは、楽しみしているよ」


 ロズワードは苦笑いを浮かべた。

 そしてハンナを見送ってから……


 「全く……ベルシャザル・バルカはどんな教育をしているんだか。しかし……変な子供だったな。それに……興味深い話でもあった。帰ったら兄さんに聞いてみようかな?」






 この時はまだ、誰も知らなかった。

 第一次ポフェニア戦争がただの前哨戦であることに。

 後に発生する第二次ポフェニア戦争こそが、ロマリアという国家にとって真の国難であることに。


 もっとも……

 ただ一人……


 後に世界史史上最高の名将にして、ロマリア最悪・最強・最凶の敵と称されることになる悪魔……

 ハンナ・バルカを除いては。


 そして……

 アデルニア半島統一後に多くの者たちが寿命で死に絶える中、唯一生き残りロマリアを支え続けた男は、後に嘆き、後悔することになる。


 

 『ま、まさか……あの時の、あの時の子供か!! こ、殺しておけば、あの時に殺しておけばこんなことには!!!』


 ―ロズワード・ファビウス・クンクタトール(のろま)― 

そういうわけで全話の書き溜めが終わりました。

もう思い残すところはありません。

まあ、後半駆け足になっちゃってけど……ぶっちゃけもう書くことがないというか、あれ以上書くと蛇足になるのであれで良いかなと思っております。

今のペースで投稿すれば多分、八月の終わりくらいに完結します。


ただまあ、まだアルムスのwiki的なやつも作ってませんし……

マルクス編も……要所だけちょっとずつ、やったりするかもしれません。


ただまあ、私の中では終わりました。


反省点はたくさんありますが、まず第一に「話数タイトルを漢数字にしたこと」と「章ごとに分けなかったこと」ですね。

漢数字だとぱっと見分からないし、一度ズレると修正するのが面倒くさい。



まあ、ともかく終わりましたので……

金曜日の夜、六時から新作を投稿する予定です


詳しくは活動報告で

異世界建国記、完結までの書き溜め完了と新作のお知らせ

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/430380/blogkey/2028030/


あと異世界建国記の漫画版についての続報?もあります

そちらも活動報告で

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/430380/blogkey/2028105/

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