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異世界建国記  作者: 桜木桜
第九章 第一次ポフェニア戦争と王太子
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第二百八十七話 第一次ポフェニア戦争 三年目 Ⅳ

長かった……

 「国王陛下、進言いたします。和平を飲むべきではありません!!」


 そう、強硬に俺に主張するのは……

 一時的にトリシケリア島から帰還したバルトロであった。


 「それはどういうことだ? バルトロ」

 

 俺が問うと……

 

 「補給を断たれ、ポフェニア軍の士気は低下しています。ベルシャザル・バルカを打ち倒すことは容易です。そして……海は手薄。そのまま南大陸に攻め込めば、ポフェニアを陥落させることも可能です!!」


 何となく……

 俺はバルトロが何を求めているのかが分かった。


 この戦争では海が主戦場だったこともあり、バルトロはあまり大きな戦果を挙げていない。

 無論、十分活躍はしたが……

 アレクシオスの活躍と比べると、見劣りするだろう。


 バルトロは新たな戦果を求めているのだ。


 「アレクシオス。お前はどう思う?」

 「僕も和平には反対です。バルトロ将軍の言う通り……このままならポフェニアに完全に勝利出来ます! トリシケリア島の陸軍を破れば、もはやポフェニアに陸軍は残されていません。新たに傭兵を雇うほどの時間的余裕はないでしょう」


 つまり……

 今はポフェニアの本土は手薄。


 上陸すれば絶対に勝てるはずだ!

 と、アレクシオスは主張する。


 なるほど、確かに……

 バルトロとアレクシオスの二人を投入すれば、勝てない戦はないだろう。


 だが……


 「補給線は持つのか?」

 「陛下。何も、ポフェニアの首都を陥落させる必要は無いのです。上陸し、いつでも攻撃できる状態に持ち込むということが重要なのです。そうすれば……交渉に有利に立てる!」


 バルトロの言う事は……

 確かに事実なのだ。


 圧力を加え、更なる戦果を望むべきなのだ。

 国民もそれを望んでいるだろう。


 なぜなら……


 「国王陛下。……そうでもしなければ、この戦争で失った物を取り戻すことはできませんよ?」


 アレクシオスがついに言った。

 そう……俺たちは勝利のためにあまりにも多くの物を失ってしまった。


 人命は無論、資金も、そして……マルクスも。

 いや、マルクスは生きているから死んだみたいに言うのは良くないのだが。


 「ロン、ロズワード、グラム。お前たち三人はどう思う?」


 俺が三人に尋ねると……

 三人は口を揃えて主張した。


 「戦うべきです!」

 「このままなら更なる戦果を得られます!」

 「和平を結ぶべきではありません!」


 俺は溜息をつき、頭を押さえる。

 ズキズキとした頭痛がする。


 大王の加護の副作用だろう。


 ああ、このままこいつらの言う通りに……

 ポフェニアの和平を蹴ってやれば、どんなに楽だろうか?


 しかし…… 

 俺はどうにか、気を持ち直して……


 将軍たちに告げる。


 「和平を受け入れる。これ以上の戦争は続けない」

 「何故ですか!!」


 バルトロは怒鳴るように疑問の声を上げる。

 しかしさすがに国王に対し、無礼だと思ったのか……


 すぐに頭を下げ、謝罪した。

 俺はそんなバルトロに対して頭を上げるように命じる。


 「気にするな。お前の反発は無理もない。ああ軍事的に考えれば、確かにこのまま戦争を続けるべきだろう。確実に勝てる戦だ」

 「ではなぜ……」

 「もう、無いんだよ」


 俺はただただ、確かな事実だけを告げる。


 「資金がない。国庫が空っぽだ。そして……借金の当てもない。残っているのは莫大な負債だけだ。これ以上戦争を継続させるには税金を上げる必要がある。しかし……それをやればこの国は亡ぶ。もう、限界なんだよ。これ以上は戦えない」


 ガソリンの無い車は走らない。

 それと同じだ。

 もう、どんなに戦争を続けたくても……不可能なのだ。


 「そ、それほどまでなのですか! 我が国の財政は……」

 「ライモンド」


 俺はバルトロの問いに答えず……

 隣に控えていたライモンドに声を掛けた。


 「財政状況をまとめた資料があったはずだ。……見せてやれ」

 「分かりました」


 すぐにライモンドは資料を持ってきた。

 バルトロとアレクシオス、そしてロンたち三人はその資料を食い入るように見る。


 そして……

 見る見るうちに五人の顔が青ざめていく。


 「分かったか?」

 「……はい、理解しました」


 バルトロは静かに答えた。

 そして再び頭を下げた。


 「陛下。……ありがとうございます。陛下のご尽力が無ければ、この戦争で我々は戦うことが出来なかった。我々は何一つ不自由することなく、戦い抜くことができました」


 「バカ、やめろ。尽力も何も、この国は俺の国だ。俺が頑張るのは、お前たちが戦えるように武器や食糧を送るのは当たり前だ。それにこれは俺一人の成果じゃないからな。……そもそもお前たちがいなければ、どんなに武器や食糧があっても勝てない。感謝するのは俺の方だ」


 戦時中……

 俺はバルトロたちに財政の状況について、詳しく教えなかった。


 彼らには後方の憂いなく、戦ってもらいたかったのだ。

 そして彼らの要望にはできるだけ答えた。


 その結果の勝利だ。

 何はともあれ、勝ったのだ。


 これ以上は戦えないが……


 「ああ、あと……国庫の心配以上にペルシス帝国が不安だというのもある。あまりにも我が国が勝ち過ぎれば、今度はあの国を敵に回す。あの国には借金を抱えているからな……勝ち過ぎない方が良い」


 一先ず、五人は納得してくれたようだ。

 この五人が納得しているのであれば、問題ないだろう。


 正直、貴族たちの間には厭戦気分が広がっている。

 平民は戦果拡大を望むが……同時に戦争を終わらせたい気持ちもあるだろう。


 問題はキリシア人たちだが、幸い彼らは少数。

 十分に不満を抑えることはできる。


 「あとは和平交渉に臨むメンバーだが……そうだな。やはり軍代表は一人か二人、必要だな。だがアレクシオスは入れない方がいいだろう。感情を悪くする」


 俺がそう言うと、アレクシオスは苦笑いを浮かべた。

 一応、自分の立場を分かっているようだ。


 アレクシオスが出席すると、完全にポフェニアを煽る形になってしまう。


 強気で臨むつもりではあるが、煽るのはやり過ぎだ。


 「俺は無論として、イアルとライモンド。そしてバルトロと……ロズワードにしよう。以上の四名を連れて、トリシケリア島に向かう」


 元々主戦派であったイアルと、反主戦派であったライモンド。

 そして軍人代表としてバルトロに……ロズワード。


 ロンとグラムには国内の守りを任せる。


 これが一番望ましいだろう。


 「では、行くぞ! トリシケリア島に!!」


 






 ポフェニア側の代表はやはり、ベルシャザル・バルカとアズル・ハンノであった。

 一応、両派閥から出席している。


 俺がイアルとライモンドの二人を連れてきたのと同じだ。


 まず俺が口を開いた。


 「単刀直入に言わせて頂こう。和平をするか、しないかは貴国が提示する条件次第。貴国は我が国にどのようなモノを提示するつもりがある?」


 俺は強気で迫った。

 戦争を続けられないのは我が国も同じだが、ポフェニアも同様である。


 何分、こっちは国庫がすっからかんなのだ。

 貰える物は貰えるだけ貰わないと、国が破綻してしまう。


 口を開いたのはアズル・ハンノであった。


 「まずは……トリシケリア島の全利権を貴国に割譲します。その上でトリシケリア海峡及びメルシナ海峡は相互利用。そして我が国の貴国の船の入港規制を全て解除致します。また我が国が捕えた貴国の捕虜は無償で解放致します。……貴国が捕えた捕虜については身代金を支払うので解放して頂きたい」


 ふーん……

 メルシナ海峡とトリシケリア海峡は通りたいのね。


 まあ……これに関しては受け入れざるを得ないけど。

 本音を言えば、独占したいけど……東の国に睨まれてるからね……


 それ以外については文句はない。

 当然だろう。

 

 問題は……

 

 「賠償金は三千ターラントをお支払いします。千ターラントを即時支払い、二千ターラントを十年分割で……」

 「話にならんな」


 俺はアズル・ハンノの言葉を遮った。

 三千ターラント?

 おいおい、こっちは何万使ったと思ってるんだ。


 お前のところの財布が膨らんでるのは分かってるんだよ。

 大人しく出せや!!


 と、俺は親父狩りする不良のような気分でポフェニアの提示する賠償金案を蹴った。


 しかしアズル・ハンノとベルシャザル・バルカは予想済みだったのだろう。

 

 「では、いかほど?」


 アズル・ハンノの問いには……

 イアルが答えてくれた。


 「一万ターラントで如何でしょうか?」

 「無茶苦茶な!!!」


 これにはベルシャザル・バルカが怒ったように拳をテーブルに叩きつけた。

 まあ……一万は多いよな。

 無論、それは俺たちも分かっている。


 これは他の条件を要求するためにかなり多めに要求しているのだ。


 「多いでしょうか? しかし貴国は豊かだと聞いておりますが……」

 「一万を貴国に渡すくらいならば、その一万で傭兵を雇う方がマシだ」


 強気のベルシャザル・バルカ。

 こう言われてしまうと、我々としては引かざるを得なくなる。


 戦争を続けることができないのだ。

 ぶっちゃけ、ポフェニアは財力があるから多分まだまだ続けられるのだろう。


 正直なところ、追い込まれているのは我が国なのだ。


 ミッドウェー海戦一歩手前辺りの日米の戦況と国力差みたいなものだと思って欲しい。

 ロマリアは勝ってはいるが、これ以上続けられない。

 一方ポフェニアは負け続きだが、やろうと思えばやれてしまうのである。


 だから我が国が瀕死なのは気付かれてはならない。

 故に引くこともできないので……


 ここで一芝居、打つ。


 まずはバルトロが……


 「ほう、随分と好戦的ですな。良いですとも。私はまだまだ暴れ足りない。南大陸で暴れて差し上げましょうか? ポフェニアは暖かいそうですな。さぞや戦がし易いでしょう」


 バルトロの好戦的な発言にアズル・ハンノが顔が青ざめる。

 そしてベルシャザル・バルカを責めるような目で見た。


 そしてここで俺が助け舟を出す。


 「待て待て、バルトロ。まだ交渉の途中じゃないか。結論を出すのはまだ早い。やはり一万ターラントという条件を本国に持ち帰るのは、お二人にとっては辛いことだろう。受けることはできない、という気持ちはよく分かる。とはいえ……我が国も譲るわけにもいかないが……」


 さーて、どうしようかな?

 というタイミングで丁度良くライモンドが口を開くのだ。


 「では、新たに別の条件を出すというのはどうでしょうか? それである程度賠償金を減額しましょう」

 「ふむ……確かにそれはありだな。では、そうしよう」


 ニヤッと俺は笑みを奪える。

 この胡散臭い三文芝居には、さすがにアズル・ハンノとベルシャザル・バルカも不愉快そうに眉を顰めているが……

 まあ、気にしない。


 取り敢えず、弱みは見せずに済んだのだから。


 「まずは……双方共に相手国の領土内で軍隊を組織しない。そして双方の同盟国を攻めることはしない。……というのはどうだろうか?」

 「……まあ、良いでしょう」


 これはポフェニアが我が国の国民を傭兵として雇うことがないようにするための処置だ。

 ちなみに我が国は徴兵制でそもそも傭兵は雇わないので、関係ない。


 「次に……トリシケリア島だけでなく、トリシケリア島周辺海域の小島と……トリシケリア島以東のポフェニアの利権がある島々を我が国に譲って頂こう」

 「……………………良いでしょう」


 アズル・ハンノは散々頭を悩ませた上で頷いた。

 まあ、東には大した利権をこいつらは持っていない。


 あちらはペルシス帝国の管轄なのだから。

 とはいえ、取り敢えずこれでキリシア人商人たちへの土産は持って帰れる。


 「以上を持って、七千ターラントに減額しよう」

 

 俺がそう言うと……

 アズル・ハンノとベルシャザル・バルカは顔を顰めた。

 

 まだ高い、と言いたいのか。

 五月蠅い奴らだ。


 とはいえ……

 戦争は続けられないからな……


 「五千ターラントに減額して頂きたい。それかトリシケリア島以西の利権については撤回するか、どちらかです」

 

 なるほどね……

 取り敢えず、五千ターラントは支払えるわけか。


 まあ、五千なら良いけど……

 

 よし、提案してみるか。


 「では五千ターラントに減額しよう。その代わり……貴国の艦船の保有数を我が国の六割とする条件を新たに付け加えさせていただく」


 これに対する反応は……

 ベルシャザル・バルカとアズル・ハンノで全く異なった。


 ベルシャザル・バルカは不満そうに眉を顰め、アズル・ハンノは笑みを浮かべた。


 「お一つ、伺っても?」

 「何かな?」

 「……艦船というのは戦闘用のガレー船。つまり五段櫂船や三段櫂船を指すのですよね?」

 「ああ、その通りだ」


 商船を軍船に流用することはできなくもないが…… 

 お勧めできない。


 根本的に目的が異なるからである。


 故に商船の数を規制するつもりはない。

 というか、それをすると交渉がまとまらない……


 「良いでしょう。受け入れます」

 「……受け入れましょう」


 アズル・ハンノは満面の笑みで、ベルシャザル・バルカは不服そうに言った。

 斯くして……


 第一次ポフェニア戦争は終結したのであった。


南が片付くと、もう北以外に行くところがない

もう完結はすぐ(但し書き溜めは終わっていない)

本音はポフェニア戦争の終わりと同時に、作者の異世界建国記との総力戦も終わらせたかったのだがこちらはあと一か月は続きそうである

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