第一次ポフェニア戦争 第二百八十五話 三年目Ⅰ
すまん、完全に忘れていた
大丈夫、生きてます
アルムスたちが資金調達で苦しんでいるころ。
南のポフェニア共和国では……
「と、とにかく船を作らなければなりません!! トリシケリア島への補給が滞れば、我が国の敗戦は必至! そうなれば我らが長年流した血が無駄になります!!」
元老院でそう主張するのは……
海岸党の幹部の一人であった。
海岸党の中核を為すバルカ家の将軍たちは今、トリシケリア島での戦いに手が離せない。
となれば、留守を預かる彼らが指導するしかない。
だが……
「そもそも、戦争など始めるからこうなる!! 戦争をしなければ……メルシナ海峡をロマリア王国と共同管理しておけば、トリシケリア島で土地を失うことも無かった! 艦隊を失うことも無かった!! 我らの血税を失うことは無かった!!」
アズル・ハンノがそう叫ぶと……
「そうだそうだ!!」
「和平を結ぶべきだ!!」
「戦争反対!!」
平野党の議員たちが声高に叫ぶ。
彼らの多くは大地主であり、トリシケリア島には一切利権は持っていない。
だからトリシケリア島が失われても痛くも痒くも無い。
だからこそ、今のうちに和平を結ぶべきであると主張する。
この主張は決して間違っていない。
確かにトリシケリア島の大部分の土地は奪われる。
だが、それでもいくらかの土地は残るのだ。
何より……
今なら痛み分けで講和出来る。
「そもそも現在、ロマリア王国は財政難に陥っている。船など、建造する必要はありません。彼らの国力ではもう一隻でも船は作れませんよ」
アズル・ハンノはそう主張する。
アズル・ハンノはもう、この利益の無い戦争からポフェニアを離脱させたいと考えていた。
そもそもポフェニアは農業収入だけで一万ターラント以上。
商業収入や鉱山収入など、その他諸々を含めれば四万ターラントの国家収入がある。
これはロマリア王国の四倍だ。
多少の賠償金は払えばいい。
トリシケリア島も欲しいならばくれてやればいい。
その方が経済的だ。
とアズル・ハンノは考えていた。
そしてこれは間違いなく正しいのである。
というのも……
すでにポフェニアは多額の戦費をドブに捨てているのだ。
今のうちに損切りをするべし。
というのが和平派の主張である。
「な、何を言う!! だからこそ、艦隊を建造するのではないか! 海戦で勝てば巻き返せる! 傭兵を新たに雇い、トリシケリア島からロマリア王国を追い出すべきだ!! ロマリア王国にトリシケリア島を渡してみろ!! 次はポフェニア本国だぞ!!」
この指摘もまた、正しい。
ポフェニアの財力ならば……ロマリア王国を押し切ることも出来てしまう。
それに地政学的にはやはり、トリシケリア島は重要な場所なのだ。
つまり……
主戦派も和平派も、主軸とする主張はどちらも間違っていないのである。
問題は一つしか、選択肢はないということ。
ロマリア王国はアルムスのリーダーシップと、ライモンドたちの妥協によって主戦派一本に国論を絞り、今まで戦ってきた。
ではポフェニアは……
「ではこうしましょう。あなたの艦隊が必要である、という意見は認めます。艦隊を建造しましょう。しかし三百隻までです。それだけあれば、財政難のロマリア王国を圧倒できる。違いますか? そして勝利し、講和を結びます。国境線を以前の状態に戻すのです」
「……我々は五百隻は必要だと主張している。それにメルシナ海峡からロマリア王国の排除も……」
「では、あなた方の私費で建設しては? ……大切な血税を浪費するわけにはいかないのですよ。それに陸軍はともかく、海軍はポフェニアの市民です。ポフェニアの大切な労働人口を磨り潰すわけにはいかない」
「……分かった。あなたが正しい」
こうして……
主戦派と和平派は折衷案とも取れる、中途半端な方針を取ってしまう。
後に……
これがロマリア王国とポフェニア共和国の今後百年の命運を分けてしまった。
大艦隊の建造が始まった。
ロマリア王国は国を絞るようにして集めた資金を造船に投入。
次々と木を切り出し、川の水運を使ってレザドで運び……
部品ごと製造し、最後に組み立てて船を浮かべる。
冬を通り越し、春を迎え、夏の終わり頃になってようやく艦隊が完成した。
すでに存在している百五十隻。
それに加えて、新たに二百五十隻。
合計四百隻の船をロマリア王国は一年近く掛けて建造した。
一方、ポフェニア共和国は予定通り三百隻の船を建設し……
ロマリア王国の四百隻という規模に驚き、新たに建設をしようとしたが……
時は遅かった。
トリシケリア島に展開していた陸軍もまた、艦隊の完成と同時に動き出したのである。
狙いはトリシケリア島最南端、ポフェニアが有する最後の港街、リカータである。
まず初めにバルトロ率いる六万がリカータに迫る。
それに対して今まで内陸部で力を蓄え、兵力を温存していたベルシャザル・バルカとシュマル・バルカが八万の兵力を率いて南下。
一方、それに合わせてケプカ・バルカが二万の兵力を率いて、合流。
それをロズワードが四万の兵力で追いかけて、南下。
ポフェニア軍総司令官であるベルシャザル・バルカは、バルトロ・ポンペイウスよりも一足先にリカータ市に入城した。
一方、ポフェニア軍がリカータ市に入城するのと同時にロマリア王国軍は合流。
リカータ市に迫る。
斯くして……
第一次ポフェニア戦争始まって以来、離れて戦っていた四つの軍団と総勢二十万の軍勢。
それが一同に会したのである。
そしてベルシャザル・バルカは本国に援軍を要請。
ポフェニア本国は大量の物資と新たに募った傭兵を輸送船に乗せて、新たに建造した大艦隊で護衛して、リカータ市へ迫る。
それを妨害するためにロマリア王国はアレクシオス・コルネリウスを海軍総司令官として大艦隊をリカータ市へ派遣。
またロマリア王国陸軍総司令官バルトロ・ポンペイウスはポフェニアの援軍が到着する前に勝負を決するため、リカータ市郊外に布陣。
これに対して、完全に包囲されて反撃不能に陥るのを防ぐために、ベルシャザル・バルカは挑むように打って出た。
斯くして……
第一次ポフェニア戦争最後を彩る大決戦。
リカータ沖海戦が始まる。
「ベルシャザルの奴、打って出たは良いが全く攻めてこないな。守ってばかりだ」
バルトロはようやくの大会戦ということもあり、早く勝敗を決するために単発的にベルシャザル・バルカに対して、攻撃を加えた。
だがベルシャザル・バルカは挑発には乗らず、耐え続けた。
「援軍が到着するまで、攻撃はしない。ということでしょうか」
ロンがそう聞くと、バルトロは頷いた。
「まあ、そうだろうな」
包囲されると、反撃が難しい。
故に包囲される前に打って出た。
だが勝負に出れば負ける恐れがある。
負ければもはや逃げ道は無い。
故に確実に勝つために……
ポフェニア本国からの補給、そして援軍を待つ。
なるほど、実に正しい判断であった。
「となると、アレクシオス将軍次第ですね」
「援軍が海に沈めば、もう勝負に出るしかなくなる」
ロズワードとグラムは不適に笑う。
援軍が当てにできない、となれば自力で敵を倒さなければならなくなるからだ。
時間稼ぎは意味がない。
むしろ、逆にポフェニアに不利になる。
「まあ、アレクシオスなら勝つだろうさ」
「まさか、私が率いることになるとは」
アズル・ハンノは溜息を浮かべる。
アズル・ハンノとしては悔しいことだが……
ポフェニアにはバルカ家の将軍を除くと、アズル・ハンノしかまともに艦隊を指揮できる将軍はいない。
ハンノの派閥は、ハンノを除くと武闘派と呼べる人材が殆どいないのだ。
ちなみにアズル・ハンノは外交官としての仕事が多いが……
何度も海賊や反乱軍の鎮圧をしてきている、歴戦の将軍である。
アズル・ハンノは和平派だが……
戦場で戦う以上、手を抜くつもりは無かった。
いや、むしろ……
(私の読みが外れ、ロマリア王国に船の数で下回ってしまった。責任を取らねば)
アズル・ハンノとて、ポフェニアを愛する政治家である。
ポフェニアを守るために戦うつもりはある。
そして自分の失態は自分で片付けるつもりでいた。
「この戦争で全てを終わらせる。これでこのバカげた戦争も、終わりだ」
活動報告に詳細は書きましたが、漫画の方が二十六日に発売されます
買ってください
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二十話くらい書き溜めれば異世界建国記から解放されると思って早二週間
一話も書き溜めが進まず未だにあと二十話である
どうにも進まない
どうやら自分は追い込まないとやらないタイプみたい
というわけなので、土曜か日曜の更新までに十話書き溜める
という目標を立てます
一日二話のペースだが、時間的には余裕なのであとはこちらの気合いの問題




