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異世界建国記  作者: 桜木桜
第八章 南アデルニア統一と大王
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第二百七十二話 第一次ポフェニア戦争 一年目Ⅶ

 良いニュースと悪いニュースがあった。

 

 良いニュースから言うと……

 アレクシオスが敵将ダヴィド・バルカを破った。

 それもどこぞの源氏や戦国七雄の将軍のようなやり方で。


 次に悪いニュースは……

 バルカ家が守勢に周った。


 これのどこが悪いのかと言えば……


 「決着がつかない、か……」

 「不味い事になりましたね」


 俺とライモンドが頭を悩ませた。


 俺がもっとも恐れているのは、トリシケリア島での大敗北だが……

 次に恐れていたのは戦況の膠着である。


 というのも……

 長期戦は確実になるからだ。


 そしてその兆候は表れている。

 

 すでに戦争を始めて半年以上経過し、秋が終わりを近づいている。

 つまり冬……自然休戦の季節になる。


 「一先ず、兵の交換をせねばならん……ライモンド、手配しておいてくれ」

 「分かっています……」


 我が国の兵士は自作農が中心。

 当然、一年以上農地から離れて戦争に駆り出されれば厭戦気分が広がるし、我が国の国力も落ちる。

 だから冬には交代させる必要がある。


 十万の兵力の交代だ。

 これは骨が折れる作業になるだろう。


 それに……

 長い間、戦場に拘束したことに対する補償もしなくてはならない。


 補償が無いと自作農が没落してしまう。

 そうなれば、我が国の軍事力が低下する。


 「終わりどころが分からなくなってきたな……」


 戦争で一番怖いことは終われなくなることだ。

 無為に金を消費し、人を消費し、国力を擦り減らす。


 これほど無駄な事は無い。


 俺は元々ポフェニアとは長期戦をするつもりはなかった。

 しかし……

 見込みが甘かったというしかない。


 最初、軽く勝てばバルカ家が引き下がると思っていたのだ。

 だが、彼らは引き下がらなかった。


 連中は狙っているのだ。

 我が国の弱点……兵士が傭兵でない、というところを。



 傭兵制、という軍事制度は最悪。

 と言われるが、そんなことはない。


 それはあまりにも視野が狭すぎるといえるだろう。

 何事も一長一短存在する。


 傭兵制のデメリットは、士気が低い、反乱を起こす可能性がある、弱い、金が掛かる……等だが

 大きなメリットもある。


 それはいくら死んでも痛くない、と言うところだ。

 財力が許す限り、いくらでも雇い続けられる。


 使い潰しに出来てしまう。

 ポフェニア、という人口が少なく経済が発展している国にとっては最適の軍事制度だろう。


 我が国の徴兵性は士気が高く、強くて安上がり……等大きなメリットがあるが……

 

 国が身を削って兵力を作りだしている、という性質上使い潰しには出来ない。

 

 どこぞの北国のように畑から人が掘れるならば別だが……

 我が国の人口もさほど多くはないのだ。


 「国王陛下!!」

 「……イアルか、入って良いぞ」


 俺はイアルの入室を許可する。

 

 「陛下! アズル・ハンノ殿がいらっしゃいました!!」

 「……アズル・ハンノが?」


 何はともあれ、これはチャンスだ。

 あちらの方から講和を持ち込んでくれれば……


 交渉も有利に立てるだろう。

 それに……

 これで戦争が終わらせられるかもしれん。







 「アズル・ハンノ殿、今日はどのようなご用件で?」

 「新たな講和条約をご提案しに参りました」

 「……講和条約? 勝っている我が国が結ぶ必要がありますか?」


 と、俺が試しに言ってみると……

 アズル・ハンノは溜息を付いて……


 「アルムス陛下、腹の探り合いは無しにしましょう。確かに我が国は苦しんでいる。しかし貴国も苦しい。違いますか? この交渉は最後の平和への命綱です」


 参ったな……

 やはり、読まれているか。


 「良いだろう。で、条件は?」

 「そんなに悪い話ではありませんよ」


 アズル・ハンノの提案した講和条約は……


 『両国共に戦争前の状態に戻し、此度の紛争は無かったモノとして扱い、メルシナ海峡はロマリア、ポフェニア、ペルシス三ヶ国の共同管理とする』


 というものであった。


 これは……


 「ご不満ですか?」

 「当たり前だ……『無かったこと』になど、出来るはずがないだろう。……我が国は勝っている。領土の切れ端か、少なくとも賠償金を貰えなければ……」


 貴族、平民共に納得しない。

 

 我が国の当初の目的はメルシナ海峡をポフェニア一ヵ国に独占させないこと。

 トリシケリア島の侵略ではない。


 なるほど、この条約が最初の段階……

 バルトロを送り込む前、戦争が本格化する前であったのならば俺も甘んじて受けた。


 だが……

 すでに戦争は本格化してしまっている。


 それに困ったことに、俺を含む一部の重臣には厭戦気分が蔓延しているが……

 元老院、平民はやる気なのだ。


 

 この戦争で勝てば領土が手に入る。領土が手に入れば、それだけ土地の配分がある。大きな土地が手に入れば、それだけ大規模な農場を経営出来る。


 と、考えているのが元老院の貴族たちだ。


 そして……

 賠償金や略奪で得た富が自分たちに周って来れば、より豊かになれる。


 と思っているのは平民だ。


 今まで俺は戦争で得た物を独占せず、元老院の貴族や平民たちに分け与えてきた。

 だからこそ、我が国は軍事国家に変貌した。


 今回は今までのツケが回って来た形だ。


 「ですが、陛下。私もこれが限界なのです。バルカ家……いえ、失礼。バカ家の連中が『このまま持久戦に持ち込めば勝てる。連中には海軍が無い。我々の補給を断つ以外、連中に勝ち目は無いが、我が国の海軍に勝てるはずがない』と豪語していましてね。この講和案すらも、多くの反対派が居るのです。あなたなら分かるでしょう?」


 つまり……

 ポフェニアは我が国と同じ状況、という事か。


 「陛下、これで手打ちにしましょう。我らが争って得をするのは……ペルシス帝国だけです。クセルクセス帝を高笑いさせるだけです。……我が国は共和制国家だ。そして貴国は……王制だが共和制的側面もある。我らは共存できるはずです」


 「アズル・ハンノ殿……私もあなたの意見に賛成だ」


 俺がそう言うと、アズル・ハンノの目が輝く。

 だが……


 「しかし、今ここで頷くわけにはいかない」

 「何故ですか!! あなたほどの王ならば分かるはずだ。ここで終わらせられなければ、戦争は終わらない!! 両国共倒れになりますぞ!! あなたならば、貴族と平民を黙らせられるはずだ。それだけの力があなたにはある。あなたの決定ならば、この国の国民も納得するはずだ!!」


 アズル・ハンノの言う通りだ。

 確かにここで終わらせられなければ、戦争は終わらない。


 そして……

 反対派を抑えるなど、俺ならば簡単に出来るだろう。


 この王位は戦争と粛清、屍の上に築き上げたモノ。

 ああ、やってやるだろうさ。

 粛清でも、反乱鎮圧でも……


 最終的には抑え込める。

 

 俺なら出来るだろう。

 だが……


 アズル・ハンノ。

 あなたは肝心なことを忘れている。


 我が国の目的は何だったかを。


 「例えここで手打ちにして……あなたは恒久的にバルカ家を抑えられますか? 今回のように、バルカ家が国で主導権を握り、協定を無視して侵略してくる。ということにはならないと、確信出来ますか?」


 「そ、それは……」


 アズル・ハンノの目が泳ぐ。

 やはり、な……


 我が国の目的はメルシナ海峡の安定だ。

 それも一時的な安定ではない。

 恒久的な安定が必要だ。


 アズル・ハンノ……

 仮にあなたが我が国に有利な条件を持ってきたら、俺はこの講和案を受けた。


 それだけあなたに力があるという事だ。

 だが、結局はこの……手打ち案。


 つまり主戦派の主張を抑えきれていない、という証拠だ。


 「同じことを何度も、何度もあなたは繰り返す気ですかな? アズル・ハンノ殿、良いですか? 私はあなたを信用しているが、ポフェニアという国はもはや信用していない。国論が二分され、時によって主張や行動が変わるなど……顔が二つあるようなモノだ。片方と講和しても、もう片方が戦う気ならば何の意味もない。……お願いです、私にポフェニアという国を信用させて欲しい」


 アズル・ハンノは押し黙った。

 そして……

 講和案をテーブルに置いて、立ち上がる。


 「この冬……自然休戦が終わるまでの間にご決断を。陛下、良いですか? ……貴国は我が国には勝てませんよ。セシル・バルカに勝てません。あのバカは戦争だけは強い」


 そう言ってアズル・ハンノは立ち去った。


 さて……

 どうしたモノか。


 取り敢えず……


 「バルトロ、アレクシオスを呼ぶしかないな」


 意見を聞こう。


この話で、八章は終わりです

九章に続きます


次話はマリリン回……

と言いたいところなのですが、マリリン回を書き忘れてました

というわけで、そのまま九章に突入します


暇が出来たら、マリリン回を書いて八章と九章の間に割り込み投稿する予定です

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