第二百六十九話 第一次ポフェニア戦争 一年目 Ⅳ
深夜に予約したから、明日の昼になってました
アレクシオスがケプカと戦っているころ……
ロンはせっせと攻城戦をしていた。
敵の抵抗は激しく、ロンが作った坑道は尽く破壊され、攻城塔は近づくたびに燃やされた。
投石機で破壊した城壁も、すぐに修繕されてしまう。
だが、必死の抵抗もいつかは終わりを告げる。
「将軍!! 破城鎚で城門の破壊に成功致しました!!」
「よし、全軍!! 攻撃に転じろ!!」
今まで交代で休ませていた兵士たち、全てを攻撃に投入する。
ロマリア軍が都市内に流れ込み、激しい市街戦が始まる。
予め、内部ではバリケードなどが作られ地の利は防御側にあったが……
しかし圧倒的数の差でロマリア軍が押し込む。
市街戦はその日の夕方までには終わった。
「略奪、暴行、強姦は禁じる。但し、抵抗する者は容赦なく切り捨てろ!!」
予めロンの命令が行き届いていたこともあり、ロマリア軍による略奪は表立って見られなかった。
表立って、というのは……
どうしてもどこかでは起こってしまう、ということだ。
しかしこればかりはどうしようもない。
如何に技術が進歩し、倫理教育がされようとも、人間が人間である限りはどうしようもないだろう。
「さて……アレクシオス閣下に伝えるか」
数日後、アシュタルト市陥落を知ったアレクシオスは早々に築城した簡易要塞を焼き払い、ロンのもとに合流した。
ケプカ・バルカは援軍との合流を優先し、アレクシオスへ追撃をしなかったためアレクシオスは何事も無く撤退することができた。
……アレクシオスは追撃してきたケプカを嵌める罠をいくつも用意していたのだが、それらが空振りして残念がったという。
アレクシオスの性格、戦い方をよく心得ているケプカは深追いを控えたのだ。
「しかし、問題は敵の戦力だよ。ポフェニア軍の戦力はすでに九万に膨れ上がっている。さすがに九万を相手に四万じゃあ戦えないよ」
「アレクシオス将軍でもダメですか?」
「敵将はケプカ・バルカですよね? 将軍はケプカ・バルカを前に倒したではないですか」
「凡将が相手なら、大丈夫だけどね……敵は『バルカ』だ。『バルカ』に凡将はいない。僕は伏兵を用いた奇策、情報戦、夜襲ならケプカ・バルカよりも上だ。だけど、正面からの戦いでは互角……いや、ケプカ・バルカの方が少し分があるかな?」
それを聞いたロンとロズワードの脳裏に、バルトロとケプカが戦った時のことが思い浮かぶ。
バルトロでさえも、ケプカを攻めきれなかった。
いや、もしかしたら負けていた可能性すらもある。
ケプカ・バルカはそれ程の相手だ。
「……敵将はケプカ・バルカ以外、誰がいるのでしょうか?」
ロンはアレクシオスに尋ねる。
アレクシオスは暫く考えてから、答える。
「そうだね……まあ、『バルカ』と言っても実際はピンからキリまでだけど、注意すべきは……娘婿としてバルカ家に嫁いできた『シェマル』だ。こいつはバルカ家当主に認められるほどの用兵の才能を持っている。次に次男……僕の兄の『ダヴィド』。彼もそこそこ優秀な将軍だ。まあ、でもこの二人は君たちと殆ど同じくらいじゃないかい?」
アレクシオスはそう言ってから……
「長男で次期当主、僕の兄である『ベルシャザル』。彼の実力はバルトロ・ポンペイウス閣下と同じくらいだろうね。戦い方も似ている。……そしてバルカ家当主、僕の父である『セアル』。……正直、認めたくは無いけど……僕は勝てないね。バルトロ・ポンペイウス閣下でも、難しいかもしれない」
とはいえ……
アレクシオスは笑みを浮かべた。
「はっきり言ってしまうと、戦争にはどうしても運が絡む。戦う前から勝利が決まっている……というのが真の名将だろうけど、そんな名将はそうそういないね。机上の空論だ。そもそも、『戦う前から勝利が決まっている』状態にするのは軍人には不可能だ。それは外交官や、政治家の分野だね」
軍人が可能なのは、政治目標の達成のために与えられた軍隊をどうにか遣り繰りすること。
それだけだ。
それ以上は越権行為というモノであろう。
「だからセアル・バルカと僕や君たちが戦って必ず負ける、ということはないよ。僕の目から見ても、君たちは十分以上に優秀だ。バルトロ・ポンペイウス閣下の教えを守って、しっかり正攻法通りに戦っていれば酷い負け方はしないはずだよ」
「……そうですか?」
「優秀……と言われてもあまり自覚が持てないですね……」
ロンとロズワードは首を傾げる。
が、しかしそれも仕方がないことだ。
比べる対象がバルトロやアレクシオスなのだから。
しかし……
バルトロやアレクシオスと比べることができる、程度に優秀と考えれば十分に優秀と言えるだろう。
事実、現在のアデルニア半島ではバルトロ、アレクシオスに次ぐ将軍はロン、ロズワード、グラムを除けばトニーノ程度しかいない。
アルなんとかさんのことは忘れてあげて欲しい。
「一先ず、援軍を待つしかないね」
アレクシオスはケプカと交戦後、すぐにアルムスに援軍要請をしていた。
というのも、ケプカと戦うに当たって同数での戦いは避けたかったからである。
それにケプカが先鋒に過ぎないのは、セアル・バルカがまだ戦場に現れていないことから十分に推察できる。
「ポフェニアはどれくらいの兵を持っているのでしょうか?」
「兵を持っている……と言われると困るね。ポフェニアは兵は殆ど持って居ないから」
アレクシオスはロンの問いに対して、苦笑いを浮かべた。
ロンは不思議そうに首を傾げる。
「ポフェニアは軍隊を傭兵に頼っているからね。ただ……ポフェニアの財力ならいくらでも雇えるだろうね」
「い、いくらでも?」
「でも兵站が維持できないから、一度に雇える限界は十万だね。だから、ポフェニア軍の数は今で打ち止めだ」
現在、トリシケリア島に展開しているポフェニア軍は九万。
本土防衛で一万残していると仮定すると、現在が最大兵力であるのは間違いない。
「僕としては、国王陛下には早く選択して欲しいね」
「選択、ですか? それは一体……」
アレクシオスはロズワードの問いに答えた。
「ポフェニアと全面戦争をするか、それとも早く講和を結ぶか。どちらかね」
「どうしますか? 国王陛下」
「どうもこうも……無いな」
俺は溜息を付いた。
俺を悩ませているのは、アレクシオスの援軍要請である。
アレクシオスが援軍として望んでいる兵力は……
六万。
現在、トリシケリア島に展開している兵力と合わせると合計十万に達する。
我が国の総兵力は……
ロマリア王国単独では十六万。
連邦も含めると、三十万程度である。
合計十万、という数字はその三分の一に当たる。
忘れてはならないが……
我が国の兵士は、我が国の国民でもある。
この三十万、という数字は我が国の労働人口とイコールだ。
これを戦争で失えば、我が国は立ち直れない。
「ライモンド、どうする?」
「中途半端が一番よろしくないかと」
なるほど……
やはり、そう思うか。
となれば、話は早いな。
「バルトロ、グラムを招集しろ。それと、六万の兵力をすぐに集めるんだ。……期限は二か月だ」
「宜しいんですか?」
「できれば二人はロゼル王国の守りのために温存したかったが……仕方があるまい」
全力で勝ちに行く。
狙いは……
短期決戦だ。
「いやはや、まさか……ロゼル王国は大丈夫なのですか?」
「問題ない、と陛下がご判断した。というより、早いところこの戦を終わらせたいご様子だ」
アレクシオスの問いにバルトロは答える。
ロゼル王国とは不可侵条約を結んでいるので、しばらくは侵攻は無いと考えても良い。
バルトロとグラムが率いてきたのは、六万の大軍勢である。
ロマリア王国軍三万。
連邦軍二万。
そしてアルヴァ騎兵五千、ゲルマニス騎兵五千で騎兵一万。
以上だ。
「アレクシオス・コルネリウス殿。あなたはどう戦うべきだと思う?」
「おや、何故僕に?」
「バルカ家について一番よく知っているのはあなただ」
なるほど、とアレクシオス納得した。
そして暫く考えてから……
「敵は高確率で軍を分けます」
「それは何故だ?」
「兵站を維持出来ないからですよ。我々ロマリア軍は多少、兵站のシステムを持っているから大丈夫ですが……ポフェニアは兵站が未発達です。大軍を一度に同じ場所に展開できません」
「なるほど、だが……それは我らも同じではないか?」
ロマリア軍もポフェニア軍も……
結局は現地調達に頼るしかないのが現状だ。
故に……長期間同じ場所に集められる兵力の限界は三万から四万程度。
それ以上は土地の荒廃を招く。
「ですから、我々は出来る限り連絡を取り合います。……我が国の方が呪術師の数は上。起伏に富んだ地形のトリシケリア島では、早馬よりも呪術師の鷹の方が速いでしょうね。そして……ポフェニアの各将を各個撃破します」
「なるほど、悪くないな」
「まあ、そもそもポフェニアの地形から考えると、大規模な会戦は殆どあり得ないでしょう。攻城戦と守城戦、そして包囲、分断、連絡路の遮断……辺りでしょうね。この戦いのカギは」
そしてアレクシオスとバルトロは手を握り合う。
「では、俺は島を東回りに攻めよう」
「では、僕は今まで通り西回りで攻めます。お互い、頑張りましょう」
昨日、建国記の二巻が発売されました
皆さま、御購入されたでしょうか?
もし、まだの方は是非
しかし、今思うとバルカを増やし過ぎた……
もう、完全にバルカ決戦じゃん




