第二百六十四話 騎兵
今回の戦争でいくつか課題が見つかった。
一つ、想像以上にロゼル王国の守りが固い。
会戦で破っても、都市に篭られれば手出しができない。
やはり、現地のアデルニア人の蜂起を狙い、大混乱を起こさせない限りロゼル王国の攻略は難しい。
その上で、攻城兵器を取り揃える必要がある。
二つ、騎兵が足りない。
それも圧倒的に足りない。
というか、ロゼル王国の騎兵が多すぎる!!!
「と言っても、そう簡単に近衛騎兵は増やせませんよ? 兄さん……」
「だよなあ」
ロズワードが肩を竦める。
俺もロズワードが騎兵の練兵に精を出してくれていることはよく分かっている。
そのおかげで、アルヴァ騎兵には劣るが……
アデルニア騎兵もそれなりに戦えるレベルになっている。
だが、圧倒的に足りない。
練度と数、その両方を揃えなくてはならない。
「そう言うわけで、お前たちの知恵を借りたいのだが……どうにか騎兵を確保できないだろうか?」
王城の一室に集められた、ロン、ロズワード、グラム、バルトロ、アレクシオス、イアル、ライモンドに俺は問う。
と言っても、そう簡単に答えは出ない。
というか、出れば苦労はしない。
「リーダー、アルヴァ騎兵を増やすことは無理ですか?」
「アルヴァ王国は人口が少ないからなあ……それにムツィオに頼り切りになるわけにもいかないさ」
今でも頼り過ぎと言っても過言ではない。
やはり、自力で何らかの騎兵は確保しなくてはならない。
「連邦内の同盟国から、騎兵を引き抜くのは? ファルダーム王の国やドモルガル王の国は、ロゼル王国の騎兵に対抗するために、一定の騎兵は持ってましたよね?」
グラムがふと、思いついたように提案した。
確かに、あの辺りの騎兵は決して強くは無いが……それなりに使える騎兵を持っていた。
先の戦争の結果、ファルダームやドモルガル、そしてギルベッドで多くの士族が職を失った。
彼らを雇い直す、というのは悪い案ではない。
「だけど、それを含めても足りないだろ?」
ロゼル王国の騎兵は約五万ほど……
もしかしたら、十万は集められるかもしれない。
我が国もそれぐらい……
とは言わないが、ある程度の騎兵が必要だ。
「一番、簡単なのは傭兵を雇うことですよ。陛下。我が国でも、騎兵は遊牧民を傭兵として雇うのが一般的です」
「なるほど、傭兵か……背に腹は代えられないな」
あまり、傭兵には良い印象が無い。
が、代替案が無い以上それ以外方策は無いだろう。
まあ、傭兵は使い潰しが聞くし、死んでも痛くないというメリットはある。
言われるほど、悪くは無い。
それにアルヴァ騎兵は見方によれば、傭兵と言えるだろう。
「ポフェニアでは、どこから騎兵を雇っていたんだ」
「それは将軍にも依りますが……ただ、基本的に騎兵の産地は決まっています」
「それは?」
「ガリア、ゲルマニス、ヌディアの三つです」
ガリア……は言わなくても分かる。
我らの敵、ロゼル王国だ。
まあ、ガリアは広いし、実際のところロゼル王国が支配しているガリアは精々三分の一程度。
それ以外の部族から、騎兵を募っているのだろう。
ゲルマニスは俺も良く知っている。
アリスやニア、ロズワード副官のヴィルガルの出身地だ。
奴隷のヴィルガル君を買ったのは、騎兵が欲しい……という動機だったしな。
あそこは騎馬遊牧民と接触することが多いらしく、やはり騎兵が育ち易いのだろう。
ヌディアは……
聞いたことが無いな。
「ハンノ家はガリアにコネがあるので、ガリア騎兵をよく使いますね。逆にバルカ家はヌディアにコネがあるので、ヌディア騎兵をよく使います」
「その……ヌディアってのは?」
「ポフェニアの隣になる、遊牧国家です。実力はアルヴァ騎兵に優るとも劣らないかと」
それはまた……
ポフェニアの騎兵には注意する必要がありそうだな。
「アレクシオス、お前はどの騎兵が良いと思う?」
「ヌディアはお勧めしません。ポフェニアの隣ですから……我が国とヌディアの仲が深まるのは、ポフェニアの警戒と反発を招きます。……ポフェニアと戦いたいのであれば別ですが」
いや、戦うのは御免だな。
海では重装歩兵は役に立たない。
「ガリアは悪くはないかと思います。ロゼル王国と敵対関係にある氏族は簡単に雇えるでしょう……ただ、そういう氏族はガリアの奥地にいます。連絡を取るのは難しいかと。取れたとして、信頼が築くのには時間が掛かります」
ガリアは森が多いからな……
使節団を出すだけでも、面倒だ。
となると最後は……
「ゲルマニス騎兵か」
「それが最善かと。縁もありますし、ね?」
俺の脳裏に、スウェヴィ族の族長アダルベロの姿が浮かぶ。
まさに、野蛮人だったが……信頼できない、という事は無い。
武勇にも優れているだろうし。
「バルトロ、お前はどう思う?」
「どうでしょう? ゲルマニス騎兵は使ったことがないので、分かりませんね。まあ、同盟軍の連中も傭兵みたいなものですし、大差は無いと思いますが……言語が通じないのは少々面倒だ」
「そいつは……ロズワードなら大丈夫だろ。なあ?」
「ええ、ゲルマニス語ならそれなりに話せますよ」
ロズワードは自信満々に答える。
何しろ、ロズワードの妻であるニアはゲルマニス人だからな。
「まあ、一度試してみるしかないでしょう。騎兵は」
「だな。ダメだったらもう一度、考え直そうか」
とはいえ、一先ず書簡を送らないとな。
その後、俺はスウェヴィ族のアダルベロへ親書を出した。
親書は無事に届いたようで、二週間後に返事が来た。
その手紙には、スウェヴィ族だけではロマリアを満足させるだけの騎兵は集められない。
だが、ロゼル王国に煮え湯を飲まされているゲルマニス人は大勢いる。
彼らを募れば、数万の騎兵は用意できる。
とのことだった。
さすがに数万は要らないが……
一度演習を行ってみたいので、千程集めて欲しい。
金は支払うし、食糧もこちらで用意する。
と連絡した。
数か月後、ロマリア王国にゲルマニス騎兵が千騎集まった。
ゲルマニス騎兵は……
なんというか、THE蛮族という風貌だった。
上半身裸に、毛皮のマントを被っただけ。
そして頭には角のついた兜。
手には一本の槍。
だが、鐙も無しに馬を乗りこなしている姿を見ると……
やはり、優秀な騎兵であるのは間違いないようだ。
「なあ、ロズワード。イケるか?」
「うーん、それはやってみないと分からないですね」
などと言いながらも、ロズワードは自信満々な様子だ。
「じゃあ、試してみてくれ」
「了解しました。国王陛下」
ロズワードはやはり、さすがと言えた。
まず最初に、生意気な態度を取るゲルマニス騎兵十人を選んで、十人を相手に掛かって来い、勝てたら契約の十倍の金をやるし、帰っても良いと言った。
相手は馬に乗るのが下手なアデルニア人。
それに自分たちよりも小柄。
それに数の差がある。
ゲルマニス騎兵十人たちは槍を片手に、馬の腹を蹴ってロズワードに襲い掛かった。
それをロズワードは一瞬でボコボコにした。
ロズワードは『大王の加護』で身体能力の補正を受けている。
その上、長い間騎兵として戦ってきた。
その実力はアルヴァ騎兵にも勝る。
こうして、実力を見せつけられたゲルマニス騎兵は先程までの態度が嘘のように従順になった。
やはり、蛮族らしく強い者に従う文化らしい。
その後のゲルマニス騎兵の動きは素晴らしかった。
アルヴァ騎兵ほどまでは行かないが、アデルニア騎兵とは比べ物にならないくらい、巧みに馬を操っていく。
特に、鐙も無しに体を足の筋肉だけで支え、槍を片手に突撃する技術は素晴らしい。
騎射には長けていないが、騎兵突撃には目を見張るものがある。
ロズワードの指揮が上手いのが良いのか、ちゃんと命令にも従っていた。
十分に合格点だな。
そして数週間の演習が終わり、ゲルマニス騎兵を返した後で俺はアダルベロに親書を送った。
今度、戦争が起こったら雇うかもしれない。
その時はよろしく頼む、と。
さて……
新たに雇う事にした、ゲルマニス騎兵の傭兵。
吉と出るか、凶と出るか。
できれば、吉と出て欲しいなあ……
そうしないと、ロゼル王国の騎兵に対抗出来ない。
……
……
ゲルマニス騎兵だけに頼るのも良くないし、ガリア騎兵にも連絡を取ってみるか。
使節を送る程度の価値はあるだろうし。
ヌディア騎兵は、ハンノを通じて紹介して貰おう。
教えてくれるか、分からないけどね。




