第二百六十話 成果発表
すまぬ、素で忘れていた
「アルムス、妊娠した」
「ほう……今回はテトラの方が先か」
秋頃……
日頃の種まきの成果か、テトラの妊娠が明らかになった。
「勝った」
「何の勝負によ……」
とは言うものの、先を越されたユリアは不満顔だ。
おそらく、ユリアの方が先に妊娠していたらテトラに対して勝利宣言をしただろう。
……いくら『安産の加護』があるからとはいえ確実に安全と言えるわけでもないんだし、競うように妊娠するのはやめて欲しいのだが。
もう、子供はたくさんいるし……
「アルムス、男の子と女の子どっちがいい?」
「うーん……女の子かな? 男の子は間に合ってるし」
ロサイス家、そして時代国王としてのマルクス。
アス家当主として、アンクス。
それぞれ、必要な跡継ぎは揃っている。
強いて言うのであれば、ユリアにもう一人男の子を産んで欲しいという思いがある。
言い方は悪いが、『予備』として。
この世界は十人子供を産んで、三歳までに八人死ぬということがザラある。
まあ俺は衛生の概念を知っているから、子供たちには手洗いとアルコール消毒を心がけさせているし、風邪を引いてもユリアの呪術があるから今のところ、一人も子供は死んでいないけれど。
ライモンドたちからすると、跡継ぎ候補であるユリアの『男の子』が一人しかいないのは危うく見えるのだろう。
まあ、テトラの子供は王位継承権とか絡まないのでその辺りはさほど問題ない。
男の子の場合は成人後の職業、役職、屋敷、土地、妻等いろいろ用意しなければならないが、女の子はどこかに嫁に出せば問題ないし、政略結婚のための女の子ならばいくらいても困らない。
俺の娘を欲しがる貴族や外国の王族はいくらでもいる。
できればポフェニアと……
と言いたいところだが、ポフェニアは共和国で王制国家ではないし、国政も安定しているとは言えず、すぐに主流派が入れ替わる。
例え、ハンノ家と政略結婚してもバルカ家の勢力が伸長すれば何の意味もない。
むしろ危険が高まるだけだろう。
ペルシスは……
山のようにいる側室に埋もれてしまうので、さほど意味があるとは思えない。
というか、娘が可哀想だ。
「うん、じゃあ女の子産むね」
「産み分けなんて、出来ないだろ」
産み分けができるのであれば、ユリアであそこまで苦労はしなかったが……
「野菜食べると、女の子が生まれやすくなるって聞いた」
「本当か?」
迷信の類のような……
まあ、〇・一パーセントでも可能性があるのであれば試す価値はあるとは思うが……
「ちゃんと魚や肉も食べろよ。体力を付けないと……」
「うん、分かってる」
俺はテトラの頭を撫でる。
絹のように美しく、さらさらとした髪の毛だ。
「ねえ、アルムス!」
ユリアが嫉妬したように頭を突き出してくる。
私も撫でて!
という事か。
俺はユリアの髪の毛に触れる。
サラサラと紫紅色の髪が揺れ動く。
何だか、甘い良い香りがする。
いつまでも嗅ぎたくなるような、優しい匂いだ。
「すんすん……なんか、甘い花の香がするな。香水か?」
「あ、それは最近研究中の毒花の匂いだと思う。依存性があるあら、気を付けて」
俺は慌てて手を離した。
何てモノを嗅がせるんだ!
「ジョーク、ジョーク。香水だよ」
「……本当に?」
「本当だよ……私が中毒になったらいろいろダメでしょ」
なら良いんだが……
裏庭の麻薬畑を見ると、偶に心配になるんだよな……
「キメてないよな?」
「危険性は私が一番分かってるし……麻薬中毒になった鼠とか、見てるだけで悲しくなるよ。摂取させてるのは私だけど」
ユリアは薬の研究のために、鼠を使用している。
実験用の鼠は約千匹。
おそらく、ロマリアで最も単位面積当たりの鼠生息数が多い建物はこの宮殿だ。
「そうそう、大麻って使うと感覚が敏感になるから、ご飯とか美味しく食べられるんだけど、アルムスどう? 使う? 大麻はあんまり毒性ないし、一回なら大丈夫だよ。多分」
「興味はあるが、遠慮しよう」
煙草より害が少ない云々は聞いたことあるが、どっちにせよ五十歩百歩だろう。
俺は人体に不必要な有害物質は、取り込まないようにしようと心に決めている。
え? 酒は良いのかって?
良いんだよ、酒は。
細かいことは気にするな。
……我が国で禁酒法とか、仮に発令したら反乱起こしそうな奴が一人いるな。
「バルトロの臓器って大丈夫かな?」
「うーん、どうだろね? 下手な麻薬中毒患者よりも体ボロボロになってそうだけど。まあ、今のところはピンピンしてるし、あと五年は大丈夫なんじゃない? 一応、悪い症状は出てないみたいだし」
バルトロ、臓器と来ればアルコールだというのはロマリア王国の常識だ。
それほどまでに、バルトロの大酒飲みは有名だ。
……俺の蒸留酒の発明でバルトロの寿命は間違いなく縮んだだろうな。
「ユリア、おまえはまだ妊娠していないけど……毒には気を付けろよ? お前は大丈夫でも、腹の中の子供はどうなるか分からないからな?」
「それは今更でしょ。私、毒の扱いにはかなり慣れてるよ」
まあ、すでに三人産んでるしな。
確かに今更な話だが。
「そうそう、実は最近スゴイ発見があったんだけど聞きたい?」
ふと、思い立ったのかユリアが急に身を乗り出し始めた。
とても言いたそうだ。
「聞きたい、聞きたい。何だ?」
取り敢えず、聞いてみよう。
「魔草っていう依存性の高い毒草があるって昔したじゃない?」
「そうだっけ?」
生憎、草の名前なんて全く覚えていない。
「鼠で実験してる限りはただの麻薬にしかならないかったんだけど、人間に吸わせたらスゴイことか分かってね」
一応言及しておくと、ユリアに麻薬を吸わされた人間というのは死刑囚である。
まあ、死ぬ前に幸せな気分になれて良かったんじゃないかな……
「何だ? 勿体ぶるな」
「なんと、呪力が回復したのです!!」
それってつまり……
「魔草を吸えば、呪術師が今までよりも長期間活動できるようになるってことか?」
「うん、そうなるね。まあ、現状だと麻薬であることは変わらないけど……最近は中毒成分の少ない魔草を栽培する実験と、呪力を回復させる成分だけの抽出の実験をしてるんだよね。成果は出てないけど」
「成果は出てなくても、凄い発見じゃないか!!」
これで今までよりも、より呪術や魔術が発展するし、ある程度呪力等を薬で補えるのであれば呪術師に必要な呪力の基準値も下がるはずだ。
そうすれば、我が国の軍事力や医療技術も向上する。
俺はユリアの頭を良い子良い子して上げる。
「さすが、よくやったな。ユリア!!」
「ふふん、私は正妻ですから! どこぞの天文学者といつも論争して、結論が出ない側室とは違うんですよ」
ユリアは自慢げに大きな胸を張る。
うーん、十二歳の時と比べると随分と育ったなあ。
「……結論が出てないわけじゃない。彼が諦めないだけ。観測結果、計算結果、共に天動説の方が遥かに合理的」
「ははは……」
俺は地動説が正しいと知っているが……
テトラを相手に証明することはできない。
テトラの方が遥かに詳しく、賢いからだ。
俺はよく分からないが、少なくともこの世界の観測技術では明らかに『天動説』の方が正しく、『地動説』は間違いになるらしい。
何でも『天動説』では証明可能だが、『地動説』では証明不可能な惑星の動きがあるだとか……
まあ、こればかりは望遠鏡の発明を待つしかないな。
少なくとも、我が国にはガラスの生産技術が無いし、仮にガラスを造れても、透明度が高く、望遠鏡に使用できるレンズを造ることはできない。
あと、数百年は必要だな。
「でも、我が国の暦はニコラオス作った暦でしょ? それにアルムスも地動説派だし。私も地動説だなあ。太陽って、善の象徴でしょ? なら、善の象徴の太陽が中心でもおかしくないよ」
お前が地動説なのは、テトラを弄りたいだけだろ……
テトラは気を悪くしたのか、頬を膨らましてそっぽを向いてしまう。
俺はテトラの頬を両手で挟み、空気を抜いてやる。
「そう気を悪くするな……お前の魔術の研究にも期待しているよ」
ムニムニと頬を揉みまわすと、すぐにテトラは機嫌を直したのか俺に体を預けて寄りかかる。
「私も最近、魔術の方ではちょっと進展があった」
「何だ?」
「最初の魔術陣は二次元。その後、三次元化することでさらに情報量を増やした。四次元化すれば、さらに情報量が増え、より大きな効果の魔術を使用できるはず」
「おお!!」
でも四次元ってどうするの?
「それができないから机上の空論」
「……」
「……」
進展、してるのか? それは……
「お前はもっと未来、二千年……いや三千年後くらいに生まれれば良かったのにな」
そうすれば、今よりもより大きな発見ができただろうに……
あ、でもテトラが居ないと魔術やその他物理学や数学、化学も発展しないか。
最近は俺が教えたことを応用して、俺も知らない数学や物理学、化学を証明し始めたからな……
次回から戦争になります
せっかくなので、十二時投稿をすっぽかした時のことを書いておきます
土曜日の十二時投稿をすっぽかした場合……
土曜日の十八時に投稿→それも忘れた→日曜日の十二時→それも忘れた→日曜日の十八時
とします。
日曜日の十八時にも投稿されてなかったら、私がど忘れしているか、意識不明か死んでるかのどれかです
その時は感想欄で更新忘れてる、と書き込んでください
月曜日あたりに何らかのアクションがあるとおもいます
それでも無かったら、私が死んだか意識不明ということなので、線香でも焚いてください




