第二百五十三話 北部大征伐 戦後処理
章タイトルを付けるのを忘れておりました
というわけで、付けました
一応見ておいてください
戦争終結後、速やかに正式な講和条約が締結された。
まずドモルガル王の国。
ドモルガル王の国は早期に降伏したため、賠償金は僅かで済み、ロゼル王国には僅かな北部の領土を割譲する程度で済んだ。
国土が戦場になることはなく、国力も衰えることはなかった。
但し、アルムスと結ばれた講和条約とは若干変更点が見られた。
五百ターラントの賠償金のうち、二百ターラントを即金、残りの三百ターラントを十年分割払い……というのがアルムスとカルロの間で結ばれた条約だったが……
ロゼル王国を交えた正式な条約では、八百ターラントに賠償金を増額する代わりに二十年の分割払いにするというモノだ。
これを提案したのはカルロである。
一括で大金を支払うよりも、総額が増えても分割の方が負担は減る。
それに分割払いの期間が延びれば、その分ロマリア王国もドモルガル王の国には手を出せないだろう。
という考えからであった。
勝つのは下手だが、負けた後の処理は上手い。
アルムスは苦笑いで、カルロをそう評したという。
次にギルベッド王の国。
ギルベッド王の国の王太子と国王は捕まり、ロサイスに送還されたことで、王位は第二王子に移った。
しかしここで異議を唱えたのはロゼル王国である。
ロゼル王国はギルベッド王の国北部に封じられていた第四王子を、次のギルベッド王として立てて、ロマリア王国との間に緩衝地帯として、傀儡国家を作ろうと考えていたのだ。
そこでロマリア王国とロゼル王国との協議の結果、ギルベッド王の国の王冠は二つに分けられた。
北ギルベッド王の国はロゼル王国の傀儡国家として成立。
第四王子が国王として即位した。
一方、第二王子だが……
ギルベッド王の国の首都は返還されなかった。
これはロマリア王国の勝ちが確定するまで、正式に降伏を宣言しなかったからである。
とはいえ、第二王子が軍隊を動かさず、静観してくれていたのは大きい。
アルムスは第二王子の所領と、その周辺豪族たちに南ギルベッド王の国を作らせて、これをロマリア連邦に加盟させた。
こちらに関しては、傀儡国家ではなく自治が認められた。
もっとも、軍隊の所有は禁じられたが。
しかし賠償金も無く、軍事費を掛ける必要がなくなったのは大きく、そして意外にも第二王子の内政手腕が長けていたため、南ギルベッド王の国は連邦が解体されるまで、連邦内では大きな力を持ち続けた。
最後にファルダーム王の国。
ロゼル王国はファルダーム王の国の北部の領土を占領していたが、ロマリア王国はファルダーム王と結んだ協定に従い、これをロゼル王国に返還させた。
もっとも、全てを返還させることはできず、重要な戦略拠点は奪われたままであったが。
尚、この見返りが北ギルベッド王の国建国である。
ファルダーム王の国はロマリア王国に千ターラントの賠償金を、二十年分割で支払うことが決まった。
これもカルロと同様に、ファルダーム王自身からの要請である。
最低でも二十年間はファルダーム王の国の安全保障は約束されたのであった。
斯くして、アデルニア半島の南半分はロマリア王国により、政治的に統一された。
これにより、アデルニア半島は北のロゼル王国と南のロマリア王国の二つに分かれたことになる。
そしてこれはテーチス海周辺世界の新たな国際秩序が生まれたことを意味した。
この数十年間でテーチス海周辺の国際情勢は目まぐるしく変化した。
かつては西テーチス海の覇者としてポフェニア。
そして東テーチス海の覇者としてキリシア諸都市。
北側の大陸には陸軍大国であるロゼル王国。
そして遥か東から、ペルシス帝国がそれを見守るという情勢。
それが、ペルシス帝国のキリシア征服により崩れた。
全テーチス海の覇者としてポフェニアが勢力を急速に伸ばし、それに釣られるようにロゼル王国が北から南下。
玉突き的にアデルニア半島南部のアデルニア諸国が南下し、刺激を受けて……
一人の英雄が産まれた。
そしてその英雄は瞬く間にアデルニア半島の南半分を征服し、テーチス海に大きな勢力を築いた。
さて……
歴史の流れは止まらない。
今まで安定していた秩序が崩壊したのだ。
新たな秩序が構築されるまでには、長い長い年月を要する。
これから数百年掛けて……
一人の英雄の打ち立てた、赤子のような国が……
幾度の内乱を乗り越え、そしてテーチス海全域をその武力の下で押さえつけ、平和を実現するまで。
テーチス海は長い長い戦乱期を迎えることになる。
もっとも、それを今、理解している者は一人として……
戦乱の渦中にいる英雄でさえも、分かってはいなかったが。
「終わったな……」
「終わりましたね……」
俺とライモンドは呆けた顔で、宮殿の美しい庭を眺めていた。
季節はすでに五月。
あの戦争からすでに三か月が経過している。
戦争終結の風物詩として、やはり占領地では反乱だったり、敗走した兵士が野盗になったりと、混乱は続いているが、バルトロとアレクシオスが片っ端から潰しているので、直に治まるだろう。
庭では数え年で七歳となった、長男のアンクス(テトラ子)と長女のフィオナ(ユリア子)が、三歳となった次男マルクス(ユリア子)や次女ソフィア(ユリア子)、三女フローラ(テトラ子)と一緒に遊んでいる。
すっかりお兄ちゃん、お姉ちゃん気分のアンクスとフィオナの様子は微笑ましい。
「お父様!! 見てみて!!」
「どうしたんだ?」
フィオナが俺にニコニコと笑顔を浮かべて、俺の方に駆け寄って来た。
手には花で出来た輪っかを持っている。
「お父様にプレゼントです!」
「そうか、じゃあ俺の頭に掛けてくれないか?」
俺が頭を差し出すと、フィオナはつま先立ちをして俺の頭に輪を乗せた。
最近、大王の王冠とやらを付けるようになったが、正直こちらの方が軽いし楽で良い。
今度からこれにしようか?
いや、さすがに可愛すぎるか。
「ありがとな、フィオナ」
俺はフィオナの頭を撫でてから、視線をフィオナの高さに合わせる。
「でもな、フィオナ。ここのお庭のお花は庭師さんが一生懸命に手入れしているんだ。これからは勝手に採っちゃダメだぞ、分かったか?」
「はい! 分かりました!!」
あまり分かって無さそうな顔で、フィオナは笑顔を浮かべた。
うーん……まあ、良いか。
庭師が手入れとしているとはいえ、俺の庭だし。
などと考えてから、ふと思う。
この輪は誰が教えたのだろうか?
ユリア?
あり得ない。
麻薬薬草大好きユリアに、お花で輪を作るなどという乙女チックなことができるわけがない。
いや、もしかしたら出来るかもしれないが、教えることはないだろう。
それを教える時間があったら、麻薬の作りかたでも教えているはずである。
テトラ?
もっとあり得ない。
花? それ食えるの?
とまでは言わないが、まあ、テトラにはお花で輪を作る趣味はない。
ユリアよりは乙女なので、麻薬女よりはよほど可能性があるが。
しかしテトラはお花の作り方を教えている暇があるならば、数の美しさでも語るだろう。
最近はまた、ニコラオスと天動説か地動説かで喧嘩したようである。
年周視差が確認できないだか、うんたらかんたらだそうだ。
尚、天動説派のテトラの方がはるかに優勢らしい。
ニコラオスには頑張ってもらいたいモノだ。
まあ、魔法だなんだとよく分からないモノがある世界なので、別に地球が中心でも驚いたりはしないのだが。
しかし側室とはいえ、仮にも王妃の一人と論争するとはニコラオスも良い度胸をしている。
さすがである。
話が逸れた。
最後に可能性があるのがアリスである。
多分、精神的女子力ならばユリアやテトラと比べて偏差値十以上の差があるので、お花の輪を作れる可能性はある。
だがしかし、俺の護衛のために常に天上に張り付いているアリスに果たしてお花の作りかたを教えている暇があるのか、謎である。
多重影分身でも習得したのならば、別だろうが。
そこまでいくと、忍者ではなくNINJAである。
うん、分からない。
よし、聞こう。
「それ、どこで教わったんだ?」
「うーんと……」
たどたどしいフィオナの言っていることをまとめると……
なんと、キリシア諸都市から人質としてやって来ている女の子から教わったらしい。
よくよく聞いてみると、ベルベディル王の国やエビル王の国、その他豪族・貴族の子女師弟、有力商人の子供……等、親の仕事や人質など様々な理由でロサイスにやって来ている子供たちと交友関係があるようだ。
まあ、確かに俺はフィオナの行動を束縛したりはしていない。
護衛を付けた上だが、自由な行動……ロサイスを歩いたりするのはある程度許している。
一応、ちゃんと許可を採って外出しているので、無断で森までやってくるようなユリアよりはよほど大人しく、良い子だ。
それでいろんな友達がいるようだ。
どこぞの紫色の髪の毛の麻薬調合大好きさんとは似ず、友達が多いようだ。
結構なことだ。
「アンクス!!」
「はい、何でしょうか? 父上」
俺がアンクスを呼ぶと、アンクスはすぐに走り寄ってくる。
俺はアンクスの頭を撫でながら、尋ねる。
「お前もフィオナと同じように、友達が?」
「はい、いますよ!」
いるらしい。
我が子ながら、かなりのコミュ力である。
天動説地動説論争をしている母親に爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。
「えっと……ダメ、ですか?」
「あの……みんな良い人ばかりで……」
フィオナとアンクスは心配そうな顔で俺の顔色を窺う。
人質のガキなんぞと遊ぶな!!
「なんて言わないから安心しろ。ただ、護衛は必ず付けろ。それと、お前たちは仮にも勝者である俺の子で、あちらは俺に負けた奴の子だ。……発言や振る舞いに気を付けろ」
俺は二人の頭を撫でた。




