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異世界建国記  作者: 桜木桜
第八章 南アデルニア統一と大王
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第二百四十七話 熱狂

 何でも、ギルベッド王とファルダーム王とドモルガル王がロマリア王国の獲得した領土を手放せと言ったらしい。

 また、ロマリア王国の王子を人質として差し出せと。


 しかし三ヶ国のそのような、数にモノを言わせた圧力に対して我らがロマリア王はこう言った。


 「ふざけるな!! ならば、対ガリア同盟など脱退する!!」

 

 そう叫んだのは、一人の中年の男だった。

 ロマリア王国がロサイス王の国であった時代から百人隊長を務めている男である。


 「うおおおお!!!!」

 「さすがは国王陛下だ!!」

 「まったく、その通りだ!!」

 「偉そうに、ロゼル王国を相手に何もできなかった奴らが何を言っているんだ!!」

 「やっぱり俺たちの国王陛下は一味違う!!」

 

 中年の男の周りに集まった、千人ほどの男たちが大歓声を上げた。

 彼らはこの辺り周辺の村々、街から集まった成人男性である。

 その年齢層は様々だが、唯一の共通点は兵役世代、つまりロマリア王国の兵士であることだ。


 この集まりは兵士会、別名『平民会』と呼ばれるモノだ。

 

 基本的にロマリア王国、というよりアデルニア半島では、百人隊長は兵士による投票で選ばれる。

 自分たちが命を預ける下士官を、自分たちの手で選ぶのだ。


 キリシア半島からファランクスを輸入する際に、同時に輸入された風習だ。


 元々は戦時に臨時で、場当たり的に開かれるただの人気投票の一種だったのだが、最近になって平時でも開かれるようになり始めていた。

 

 要因は

 

 一つ、戦争が立て続けに起こったことで、会議の開催数が増加して必然的に顔見知りになった。

 二つ、戦利品、略奪品、そして国王からの報酬金を平等に分配するために戦争後にも開く必要が発生したから。

 三つ、平時でも『道路工事は軍事行動』という名目で狩り出されるため平時にも開かれるようになった。

 四つ、キリシア人文化の本格的流入により民主主義的思想が平民の間に芽吹き始めた。


 以上四つである。


 無論、この会議は非公式なモノで政治的権限は一切持たない。

 そもそも国王であるアルムス含め、国の上層部はその存在を知らない。


 あくまでただの平民の集会程度にしか見ていなかった。


 そしてその見方は現状正しい。


 所詮、学の無い平民が政治の不満だったり、アルムスやユリア、テトラの関係に関する根も葉もない噂だったり、次の王太子であるマルクスがどんな君主になるか、なって欲しいか……

 という何の益も無い話をする場でしかないのだ。


 しかし……

 今回に限って平民会は大きな影響を与えた。


 ロマリア王国中にある大小の平民会を通じて、『北部三国が領土の放棄を命じた』『王子を人質に出すように命じた』『それをアルムスが跳ねのけて対ガリア同盟から脱退した』という三つの出来事があっという間にロマリア王国全土を駆け巡ったのだ。


 また、この騒動に貢献したのは平民会だけでは無かった。


 

 


 「我が国を侮辱しているのか!! 我慢ならん! 我が国は対ガリア同盟を脱退する!!」


 ロマリア王国西部の中核都市で、一人の呪術師の女性が叫ぶ。

 その胸には金色のプレート……上級の国家呪術師である印が輝いている。

 女性の高い声の所為か、さほど迫力はない。

 しかし、言葉を聞いた周りの呪術師たちは一斉に拍手と歓声を上げた。


 「その通り!!」

 「私たちが血を流して手に入れた領土を手放せだなんて、信じられない!!」

 「その上、王太子殿下を人質に? 何様のつもりよ!!」

 「ド田舎の北アデルニア人が!!」

 「それにしても国王陛下は素敵よね」

 「脱退するには大きな決意が必要なはず……それを一瞬で決断して啖呵を切るなんて……さすがは国王陛下!!」

 「ユリア様とテトラ様が羨ましい……」


 兵士たちが各地で非公式に平民会を作っているのと同様に……

 ロマリア王国の呪術師の女性たちもまた、ある種の共同体を作っていた。


 呪術師会とも言うべきか。

 もっとも、平民会とは違いこの組織そのものは大昔からあった。


 呪術師同士が薬草をやり取りしたり、お互いの技術を見せ合い、切磋琢磨し合ったりする場はロマリア王国各地に存在した。


 それが近年になり、積極的に国が呪術師を戦争や国家事業に投入するようになった。

 国が指定する国家呪術師の制度もできあがり、そして他の女性たちとは違う呪術師には男性と同様の臣民権も与えられた。


 これにより、呪術師会も少しづつ変質を始めていた。

 技術を報告し合う以外に、政治について話し合う場にもなり始めていたのだ。


 もっとも、この呪術師会も王国の上層部はさほど重要視もしていなかったし、彼女たちも政治的な行動はまだ一度も起こしていなかった。

 

 しかしこの呪術師会も平民会と同様に、先の事件がロマリア王国中に広まるのに大きく貢献した。



 斯くして、平民会と呪術師会を通じて先の事件は瞬く間に、若干歪められながら国中に広まり、やがてロマリア連邦全体、北部三国、さらにロゼル王国やポフェニア共和国、そしてペルシス帝国にも広まり始めた。


 噂は広まれば広まるほど、過激に歪み、変質する。

 一度過激になった噂は時を経るごとに増々過激に変化する。


 もはや、噂は真実を捉えていなかった。

 しかし大部分のロマリア王国の、ロマリア連邦の民にとって噂が真実がどうかは関係なかった。


 自分たちが侮辱された。

 大切なのはこの一点だ。


 それは彼らを結束させるのに、十分な刺激だった。

 過激になった噂によって、彼らが結束し始めたのか。

 それとも結束するために半ば無意識的に、噂を過激にしたのかは分からない。


 だがしかし、大切なのはロマリア王国が、連邦が一つになり始めたという事だった。


 ロマリア王国はその拡大の過程で、大量の元外国人を抱え込んでいる。

 彼らはアルムスに忠誠を誓い、そして兵役にも出ているとはいえ元外国人である。


 そのため、イマイチ纏まりきれていないところがあった。

 そして元外国人たちもそれを自覚していた。


 特に南部のキリシア人たちは多数派のアデルニア人と民族が違うという点に危機感を覚えていたからか、積極的に『ロマリア人』になるために噂を信じ、そして怒りに震えた。


 怒ることでアルムスへの忠誠を示し、そしてロマリア王国への帰属意識を高めていったのだ。


 この現象はロマリア王国、連邦各地で同時に起こっていた。


 ……もっとも、ロマリア連邦のうち独自の君主を抱えるエビル王の国、ベルベディル王の国、そしてアルヴァ王国の民は比較的冷静にこの件を受け止めていたが。





 

 「面白いことになりましたね」

 「全くだな」


 俺はライモンドの言葉に頷いた。

 俺の対ガリア同盟の脱退は、確かに国際的に大きな衝撃を齎した。


 しかし大部分の平民にとっては、全く関係ない話。

 だと、思っていたんだけどな。


 「みんな、思った以上に熱中しているな」

 「まあ、戦争は平民の懐を温かくしますからね」


 戦争での略奪は我が国の軍隊では原則禁じている。

 しかし、降伏に応じなかった人間の財産の接収は度々行っている。


 地方豪族の蔵は一つでも、それなりの財産が蓄えられているのだ。

 そう言った財産を分配したり、俺の方から特別の報酬を出すことはあるので、少し戦争に行く程度ならばそれなりに平民は儲かる。


 小遣い稼ぎにはなるのだ。

 その上、勇敢に戦えば武勇伝になる。

 

 だから戦争を望む者が多いのだろう。

 西部諸国を征服してしまった以上、残るのは北の三国。


 これは煽るしかない。

 ということだろうか?


 「しかし、陛下。今回は我々にとって都合が良いかもしれませんが、あれは問題ですよ」

 「平民会と呪術師会か……」


 存在そのものは当然、認知していた。

 しかし……少し甘く見ていた節がある。


 所詮、文明レベルのは古代に毛が生えた程度。

 大した影響力は無いと。

 しかし現に王国全土を熱狂させる世論を作り出している。


 相当の影響力があることが分かる。


 「確かに問題だが、違法というわけではないからな。解散でもさせれば、それこそ大反乱の引き金になる。最近になって、ようやく平民との妥協が済んだんだぞ。また、再燃させたくない」


 平民の兵役ボイコットは記憶に新しい。

 あれはこちらの譲歩によって、解決したが……

 

 あれをやられると、正直国王として手が出せない。

 

 軍事国家である我が国では、平民=兵士であり兵士=平民である。

 平民を敵に回すのは兵士を敵に回すのと同義だ。


 反乱ではなく、ボイコットというのが質が悪い。

 反乱なら大義名分も立つが……


 俺は清純派アイドルならぬ、清純派国王なのであまり悪逆非道な手は使えないのだ。

 表向きには。


 「一応、密偵を忍ばせて置け。あと、百人隊長や呪術師の一部を金で買収しておこう。一先ずは様子を見るしかないさ。まだ、有害になると決まったわけではない」


 少なくとも、これから戦争で三ヶ国を征服する予定の俺にとって国民の後押しは貴重なモノ。

 平民会と呪術師会は現状では、良い方向に働いている。


 「うっ……」

 「どうしました?」

 「少し、偏頭痛が……最近な。グラナダの後遺症かもしれん。後でユリアに薬を作ってもらうよ」

 

 心配そうなライモンドに対して、俺は笑顔を浮かべた。


 「陛下、宜しいでしょうか」


 俺とライモンドが話していると、ドアの向こう側からイアルの声が聞こえて来た。

 俺が許可を出すと、イアルはドアを開けて一礼する。

 

 「陛下、ロゼル王国との同盟が成立しました。ロゼル王国は戦争中、あくまで好意的な中立を保って軍事的(・・・)な支援は行わないとのことです」

 「よし、よくやった」


 俺は笑みを浮かべた。

 これでロゼル王国を完全に、戦争の外側に弾き出せた。


 あとは三対一の戦いだ。


 「さて、バルトロとアレクシオス、ロン、ロズワード、グラム、ソヨン、ルル、テトラ、ユリアを呼んでくれ。もう会戦まで残り一年を切った。作戦の大詰めをしようじゃないか」


amazonの方で書影が公開されました

活動報告の方に貼っておいたので、見ておいてください


※午前二時

 書籍版に関する内容説明を追記しました

 web版と書籍版の相違点等を書きました

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