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異世界建国記  作者: 桜木桜
第七章 竜退治と女王陛下
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第二百三十一話 産業化

 用意しておいた穴に蜘蛛を移した後、俺はニコラオスとイスメア、ニーファ、青明、ユリア、テトラ、アリスを集めた。

 どうやって蜘蛛の糸を産業化するか、ということについて話し合うためだ。


 なお、この人選は


 嘘っぱちの図巻を持っていたとはいえ、それでも知識がありそうなニコラオス。

 蜘蛛の飼育スペースである穴を設計したイスメア。 

 俺の知る中で一番の年長者、そしてエルフだから何か知識ありそうなニーファ。

 東方で何か聞いたことが無い? 青明。

 毒を扱う関係で虫には詳しそうなユリア。

 ユリアを呼んだ以上、外すと拗ねるのでテトラ。

 そして同じ蜘蛛だから、何か役に立つだろうアリス。


 という中々適当なものだった。

 もう少し真面目に選考しろと思うかもしれないが、じゃあ逆に誰を集めるか? ということになる。


 ライモンドか? 政治ならともかく、蜘蛛なんて分からない。

 バルトロか? 軍隊を指揮しないバルトロはただの酔っ払い親父だ。

 アレクシオスか? 実のところ、あいつはバルトロ以上に戦争以外のところでは役に立たない。

 イアルか? 蜘蛛に人間の言葉は通じない。


 と、まあ誰を選んでも役には立たないのである。

 だったら、多少は面白そうな発想ができるような人間を集めた方がマシだろうということだった。


 まあ、最悪今回捕まえた蜘蛛は死んでもいい。

 元々、一匹しか育てないわけではないのだから。


 

 まず初めて蜘蛛の糸の産業化について聞かされた青明とニーファはこのように反応した。


 「なるほど! 面白いかもしれませんね。確かに、困難かと思いますが我々の祖先は蚕を家畜化することに成功しています。蜘蛛とて、努力すれば可能でしょう」

 「へー、面白そうですね。蜘蛛じゃないですけど、竜とか育ててましたよ。私の生まれ故郷では」


 適当な人選だったが、この二人実は役に立つかもしれん。

 

 「ところで目処は立っているのですか?」

 「ゲルマニス地方のスウェヴィ族が昔、育てようとしたことがあるみたいでな。その飼育資料を手に入れた。今はその飼育資料を元に、環境を整えている最中だ」


 俺はニコラオスの問いに答えた。


 女王蜘蛛の方は元気に肉を食べているようなので、少なくともストレスで死ぬようなことは無さそうだ。

 アデルニア半島の方がゲルマニス地方よりも暖かいし、案外環境はこちらの方が良いのだろう。


 「お前の本は適当な内容だったが、巣の構造に関してはかなり正確だった。それにイスメアの設計も良かったな。おかげで、穴を修正する必要は無さそうだよ」

 「はは……それは良かったです」

 「恐悦至極でございます」


 ニコラオスは苦笑いを浮かべて、イスメアは誇らしげに胸を張った。


 「餌はどうなんですか? 肉と聞きましたが……かなりお金が掛かるのでは? 蚕と違い、かなり大きいですし……」


 青明の問いに俺は答える。


 「この資料によると、三日に豚一頭だそうだ」


 十歳児程度の大きさのクモが三日で豚一頭を食べる、と考えるとかなりの大食漢ではある。

 しかしその程度ならば用意するのは容易い。


 「これによると、三日に一度の餌やりを利用して一時的に飼育部屋から食事部屋に移動させ、その間に卵を回収したり掃除をしてたみたいだな」

 「つまり、飼育することそのものは容易ということでしょうか?」

 「そうなるな」


 ニコラオスはメモ帳にすぐさま書き込む。

 この中で、一番やる気なのはこいつだろうな。


 「あの、陛下」

 「何だ、変態……じゃなかった、ニーファ・エル・アールブ」

 「私は確かに裸は好きですが、別に罵倒されて喜ぶような……まあ、良いです。えっとですね、私の村では竜を育ててた、という話を先程しましたよね?」


 俺はほんの少し、驚いていた。

 このエロフが真面目に考えている!?

 まあ、呼んだのは確かに俺ではあるが……


 「実は竜って、与える肉の種類によって全然動きとか変わるんですよ。確か、女王蜘蛛は卵は兵隊クモと同じで、違いは肉を食べて育つか否かなんですよね? なら、もしかすると肉によって繊維の質が変わるかもしれませんよ」

 

 おお!!

 エロフから建設的な意見が!!


 やはり、こいつは変態を抜けばかなり有能だな。


 「しかし、随分とやる気だな」

 「えへへ……私、最近ブラジャーとパンツのデザインをしてるんですよ。その蜘蛛の繊維で下着が作れたら最高だなあ……って。あ、最近絹ですけど一応下着完成したんです。スケスケのスゴイヤツ。イスメアちゃん、今度来てみてくれない? ああ、ユリア様やテトラ様でも構いません!!」

 「「「絶対に嫌だ!!!」」」


 やはりニーファはニーファだった。 

 良かった、少し安心だ。


 あとでその下着とやらは回収しよう。俺が頼めば、着てくれるはずだ。


 「先程卵を回収する、と仰られましたが……それはつまりスウェヴィ族は兵隊蜘蛛から糸を採取しようとした、ということでしょうか」

 「ああ、そうだ。お前と俺が考えた方法と同じだな」


 俺とニコラオスは、繊維である糸を女王ではなく兵隊蜘蛛、子蜘蛛から採取しようと考えていた。

 女王蜘蛛から採取するのは危険だし、死んでも困らない子蜘蛛から採るのが最も効率が良い。


 と、考えてのことだ。


 スウェヴィ族も同様に考えたようだった。

 そして、壁にぶつかる。


 兵隊蜘蛛が糸を吐かないのだ。


 兵隊蜘蛛が糸を出すときは二種類に絞られる。

 自発的に個体が判断して糸を吐きだす時と、女王蜘蛛に命じられて糸を吐き出す時だ。


 まず女王が俺たちのために糸を吐くように命じてくれるはずがないので、これは不可能。

 となると自発的に出させるしかないが、兵隊蜘蛛もわざわざ俺たちのために出してはくれない。


 さらに、蜘蛛の吐く糸は様々な種類がある。

 繊維に最も適した糸を狙って吐かせるのは困難を極めた。


 スウェヴィ族もいろいろ試したようで、資料には失敗に終わった様々な方策が書かれている。


 結局、資金不足でスウェヴィ族は断念してしまったわけだが。






 「手当たり次第試す、という意味ではスウェヴィ族がいろいろやったようですな……」


 ニコラオスは資料を読みながら呟く。

 本当にスウェヴィ族は手当たり次第やったのだ。


 だからこそ、アダルベロは俺たちが成功することはないと踏んであっさりと資料をくれた。

 もう成功する見込みが無い以上、この資料はゴミ程度の価値しかない。


 「正直、ここに書いてある以外の方法は思いつかない。何か別のアプローチが必要だ。みんな、何か意見は無いか?」


 俺は全員を見回す。

 難しそうな顔を浮かべ、資料に書かれた失敗例を睨みつける。


 五分ほどして、テトラがぼそりと呟いた。


 「……そもそも、女王蜘蛛はどうやって命令を出してるの?」

 「フェロモンじゃないか?」

 「何それ」

 「生き物の体内で作られて、体外に分泌されることで、他の個体に対して行動とか発育で影響を与える物質のこと」


 なるほど、とテトラが納得の表情を浮かべる。

 ユリアとニコラオスも、理解したようだ。


 一方イスメアは全く興味なさそうな顔で資料をずっと見ていて、青明とアリスの頭にはクエスチョンマークが浮かんでいる。


 そしてニーファは……


 「汗の臭いとか嗅ぐと興奮する、アレですか?」

 「……さあ?」


 俺は肩を竦めた。


 人間にもフェロモンはあって、だから体臭で興奮するとか

 実は人間にはフェロモンはなくて、体臭での興奮はただの好みの問題だとか


 複数の矛盾した情報を聞いたことがあるので、俺はそのことに関しては結論を出せない。


 しかし、俺たちは女王蜘蛛ではない。

 フェロモンなんぞ、出せるはずないのだ。


 まさか、女王蜘蛛と会話して「出してください」とか「どういう物質ですか?」などと聞くわけには……

 うん?

 何か、今重要なことが思い浮かんだぞ?


 「なあ、ユリア。呪術で蜘蛛を騙せないか?」






 資料の中には、呪術を用いた手法は一つも書かれていなかった。

 ゲルマニス地方は呪術が未発達なのだ。


 そもそも、案外呪術というものは生活に用いられたりしない。

 当たり前だ。

 まともに生活していれば、呪いなんぞとは出会わない。


 病気に成れば呪術師に頼らざるを得ないが、別に呪術師である必要は無い。

 非呪術師の薬師だって、いるのだから。


 呪術を大々的に使用しているのは、ロゼル王国や我がロマリア王国くらいだろう。


 もしもっと呪術が世界的に使われているのであれば、この世界の女性や呪術師の政治的発言力は強いはずだ。

 しかし、イスメアが苦労したようにキリシアでは女性蔑視がかなり強い。

 青明によると、ペルシスや緋帝国もその点は同様のようだ。


 まあ、アデルニア半島でも『呪』術と呼ばれている以上あまりイメージが良くないのだが。


 さて、話は戻すが……


 フェロモンを再現するのは、いくらユリアやテトラでも不可能というものだ。

 しかし、フェロモンで命令を受け取ったと騙すことならば呪術でも十分可能だ。


 直接、蜘蛛の脳味噌を犯して動かせばいいのだから。


 そして虫を騙すのは……


 「とっても簡単ね!!」


 ユリアの指の周りを、蚊がグルグルと回る。

 そう、脳味噌が未発達な動物ほど操るのはとても容易なのだ。


 無論、脳味噌が未発達のため高度な行動はさせることはできないが単調なことならばとても簡単に命令できる。


 アダルベロは蜘蛛を賢い、と言ったがそれはあくまで虫として賢いということ。

 確かにあの連携を見る限り、犬レベルの知能はありそうだが……犬レベルならば問題無く騙せる。


 まあ、ゲルマニスのように呪術が未発達の地域では不可能かもしれないが。

 生き物を操る、騙す、というのは呪術の中ではかなり先進技術なのだ。

 

 生き物を容易に操れる呪術師を大量に用意できるのは、ロマリアかロゼルだけと言える。


 「ユリア、可能か?」

 「まあ、出来ると思うよ。それでも、その虫専用の術を組まなきゃいけないから手間は掛かるけどね」

 

 バチン!

 ユリアは自分の指の周りを飛んでいた蚊を潰して、そう言った。


 「じゃあ、早速取り組んでくれ!」 

 「了解、国王陛下」


 ユリアはウィンクを飛ばした。





 それから二か月後、つまり七月。

 小麦が実り始めるころ……


 「ようやく、完成したか」

 「ようやく……というか、二か月しか経ってないけどね」

 「まさか、ここまで早く完成するとは……」


 俺とユリアとテトラは完成した蜘蛛糸で出来た布を見て、苦笑いを浮かべた。

 コロンブスの卵、とは良く言ったモノだった。


 発想の問題だったな。

 もっとも、ユリアが非常に優秀な呪術師だったというのも大きいが。


 しかし……

 

 「アリスの糸で作った布に比べると、随分と質が悪いな。前に作った布は絹以上に素晴らしいとエインズのお墨付きを貰ったが……これは絹より少し劣る」


 一応、蜘蛛糸の中では最も丈夫と言われる牽引糸を使用したのだが……

 やはりアリス糸が優秀過ぎた所為で期待値が大きかった分、ガッカリだ。


 「いやあ、それほどでもあります」

 「いや、お前のことは褒めてない」


 何故か、嬉しそうなアリスの頭を小突く。

 

 「こうなったらアリスに永久糸吐き機械になってもらうしか……」

 「えっと、それはちょっと……」

 「ジョークだ」

 

 すると、なぜかアリスは頬を赤らめながら残念そうに下を向いた。

 永久糸吐き機械に成りたかったのだろうか?


 「しかし、これでは投資が回収できるか怪しいぞ」


 何しろ、生産に絹以上に人件費と餌代が掛かっているのだ。

 このままでは値段が絹より少し安いか、同じ程度になってしまう。


 絹と客を食い合うことになり、売れ行きが怪しくなる。

 それに輸送技術が発達すれば、もしかしたら絹の輸送費が安くなり、その分絹が安価になってしまう可能性もあった。


 「でも、まだまだ始まったばかりじゃん。このまま品種改良すれば、品質はどんどん上がるんじゃない? まだ野生種でしょ?」

 「それに金銀を国外に流出させなくても、絹と同等のモノが手に入るのは大きい」

 「えっと、詳しいことは分かりませんが……大量生産すれば安くなるって聞きましたよ?」


 ユリアとテトラとアリスが口々に言った。

 確かに、彼女たちの言う通りだ。


 まだまだ始まったばかり。これからじゃないか。

 それに女王蜘蛛を産卵させれば、ゲルマニスから買う必要もなくなり、その分安くなるしな。


 「まあ、これから要研究ということか……」


 先は長い。

 だが、目処は立っている。

 

 願わくば、マルクスが王位を継ぐくらいの時には一大産業にしたいものだな。


ふえぇぇぇ……

書き溜めが尽きそうだよう……


おじちゃん助けて……

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