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異世界建国記  作者: 桜木桜
第七章 竜退治と女王陛下
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第二百二十五話 第二次ゾルディアス戦争Ⅳ

 「俺の勝ちだ!!」

 

 ゾルディアス王はロマリア兵を斬り殺し、高らかに宣言する。

 背後の兵士たちがそれに合わせて吠え、ゾルディアス軍の士気が最高潮に高まる。


 その時だった。


 突如、目の前に柵が現れたのだ。

 木製で、先が鋭く尖った柵が七十五度ほどの角度でゾルディアス軍を迎える。


 (なるほど、予め柵を用意して、ロープで引っ張ったのか。……だが、ロープはどこだ?)


 ゾルディアス王は柵を見つめる。

 ロープが見えない。まるで魔法のように一人でに立ち上がっているようにしか見えないのだ。


 しかし、実際にロープは有った。

 ゾルディアス王には見えないだけだ。


 不可視の糸。


 ロマリア軍が新たに導入した秘密兵器だ。

 その製造方法は……言うまでもないだろう。


 (まあ、何にせよ柵があることは変わらん)


 「屈するな!! 柵を破壊して前に進むのだ!!」


 ゾルディアス王は柵を剣で叩き切り、柵を越えて進む。

 それを見たゾルディアス兵たちも柵を切り裂き、進撃を緩めない。


 しかし……

 柵を叩き斬って進む。などという器用なことは歴戦の兵士にしかできない。


 多くの兵士たちは後ろの兵士に押される形で、柵の杭に串刺しにされる。


 とはいえ、木製の柵など大して持たない。

 串刺しになった兵士をクッションにして、圧力により兵士たちは柵を破っていく。


 ……しかし、一度動きが弱まった。

 それを見逃すアレクシオスではなかった。


 (ん? 何だ? あの投槍は)


 自分の上を通り越していく投槍をゾルディアス王は目で追った。

 普通の投槍だったら、気にはならないしそもそも戦場で上を見たりしない。

 

 ゾルディアス王が上を向いてその投槍に気付けたのは……人間に残された野生の勘だったのだろう。


 一般的な投槍とは、明らかにその投槍は違った。

 先端に筒状の何かが取り付けられているのだ。


 そしてその投槍はゾルディアス王の後方の兵士に突き刺さり……


 火を吹いた。

 直後、煙と音がゾルディアス軍を襲った。


 「うわああ!!! 何だ、何が起こった?」

 「や、槍が破裂した!?」

 「耳が、耳が痛い!!」


 それは爆槍。

 ロマリア軍の切り札だ。


 無論、ゾルディアス王もその配下の将軍たちも爆槍のことは知っていた。

 そしてその威力について、兵士たちは教えられていた。

 しかし……


 そもそも爆発、という現象をどれほどのゾルディアス人が見たことあるだろうか?

 いや、無いだろう。普通に生活していれば、こんな爆風と爆音は経験しない。


 「くそ、連中なかなか使わないと思っていたら。ここで使いやがったか……狼狽えるな!! 勝利は目前だ!!」


 そんなゾルディアス王の言葉も爆発音で掻き消される。

 

 爆槍の真価は殺傷能力でもない。

 その煙と音。

 一時的とはいえ、人はその煙と音に足を止めざるを得ない。


 そして……


 「さて、反撃開始としよう。偽装撤退は終わりだ。突撃!!」


 アレクシオスの号令と共にゾルディアス軍にロマリア軍が襲い掛かった。

 ロマリア兵たちは鬱憤を晴らすように、混乱したままのゾルディアス兵に襲い掛かる。


 山頂まで達していたゾルディアス軍が再び押し戻される。

 しかしゾルディアス王もただでは終わらない。


 「押し返せ!!」


 先頭で戦うゾルディアス王を見たゾルディアス兵たちは一斉に我に返るように、戦い始める。

 戦線が膠着する。


 「行け! 行け!!」


 ゾルディアス王は声を張り上げるが、ゾルディアス軍はなかなか進まない。

 

 「怒るってのは体力を使うのさ。寝不足で、怒ったまま行軍し、怒りに任せて丘を登ったら、疲れるのは当然。一度、驚かせて怒りを吹き飛ばし、疲れを自覚させれば怒りの魔法は解ける」


 アレクシオスは愉快そうに笑う。

 そして手を上げて合図をする。


 「最後だ。グラム・カルプルニウス殿に手旗信号を送れ」


 命令を受けた伝令兵が真っ赤な旗を振り、グラムに合図を送った。




 

 「はあ、ようやく出番か。さあ、行くぞ。連中の横っ腹をぶん殴ってやろう。全ては陛下のために!!」

 

 東の森に分散して配置されていた伏兵が一斉に動き出す。

 馬に乗ったグラムを頂点に、錐型の陣形を組み上げた三個中隊四百八十人の歩兵が斜め後ろからゾルディアス軍に食らいついた。







 時は少し遡る……


 「作戦は簡単さ。左翼に騎兵、中央と右翼には歩兵。そして右翼は丘の上に布陣。右翼を軸足に、左翼と中央でゆっくりと回転して半包囲に持ち込む。注意点があるとするならば、中央は少し足場が悪くなることかな? 丘から離れすぎるわけにもいかないから、坂の上で戦うことになる。ただ、これは敵も同じさ」


 丘の上ならば地の利を利用して少ない数でも守り切れる。

 その分、中央を増強して敵中央を押し込むのがアレクシオスの戦術だ。


 「しかし……敵は逆に左翼を増強してこちらの右翼を撃破しようとするのでは? それで丘の上を取られたら、我々は中央の側面を突かれることに成ります」


 グラムが懸念の声を上げた。

 敵も大人しく包囲されるわけが無い。


 ゾルディアスとロマリアはほぼ同数。僅かな兵の配置の差異で勝敗は揺れ動く。


 「その通り。だから伏兵を使う。グラム・カルプルニウス殿には三個中隊で西の森に隠れててもらう。そして合図とともに斜め後ろからゾルディアス軍の腹を殴ってもらう」


 側面と正面の二方面から攻撃されれば、流石のゾルディアス軍も丘を奪取するのは難しくなる。

 あとは左翼と中央による包囲が間に合えば勝利だ。


 「しかし見つかりませんか?」


 グラムは不安そうに尋ねた。

 バルトロは伏兵をあまり使わないため、ロマリア軍は伏兵の経験がない。


 当然、グラムもだ。


 「数にも依るけど、三個中隊ならば見つかりにくい。八人ずつのグループに分かれて、距離を取って隠れれば大丈夫。こちらで用意した緑と茶色模様の服を着て、顔に泥を塗り、葉っぱを体につけて屈んでいれば案外見つからないよ」


 アレクシオスは伏兵や奇襲といった、奇策を好む。

 チャンスがあればどんどん使っていけば良いと考えている。


 リスクは高いが、得られるリターンも大きいからだ。


 「大丈夫。僕の言う通りにすれば成功する」





 そして時は戻り……


 「走れ!!」

 

 グラムは馬で先頭を駆けながら、号令を掛ける。

 早く側面攻撃に移らなければ、奇襲の効果が失われるからだ。


 故に立ち止って陣形を整える時間はない。


 ロマリア軍は駆け足で進軍しながら、手はず通りに陣形を組んでいく。

 八人のグループが十個あつまり、百人隊を。

 百人隊が二つあつまり中隊を。


 そして中隊がグラムを頂点に三角形に並ぶ。


 矢のように、グラム率いる三個中隊四百八十人は勢いを落とさずゾルディアス軍の腹に突き刺さる。

 グラムが大剣を振るい、小さな穴を作り出し、そこにロマリア軍が殺到して穴を広げる。


 奥へ、奥へ、奥へ。


 突然の側面攻撃で混乱するゾルディアス兵を片っ端から斬り殺していく。


 ゾルディアス王はどうにか混乱を治め、これを撃退しようとするが……

 正面から攻めるアレクシオスがこれを許さない。


 そうこうしているうちに……


 「俺の名はロズワード・ファビウス!! 敵将ルキウス・パピウスは俺が討ち取った!!」


 ロズワードが敵司令官を討ったことを切っ掛けに、ついに奮闘していたゾルディアス騎兵が撃破される。

 邪魔者を排除したロマリア騎兵はゾルディアス軍中央の後方を攻撃。

 これをきっかけにゾルディアス軍中央が崩壊。

 ロマリア軍中央の緩やかな回転に巻き込まれていく。


 そして……


 前方をアレクシオス率いる右翼に。

 後方をロズワード率いるロマリア軍左翼に。

 側面をロン率いる中央軍とグラム率いる三個中隊に囲まれる。


 

 「……もはやここまでか」


 ゾルディアス王はそう言って、なぜか笑みを浮かべる。

 

 「俺はゾルディアス国王である!! この俺を討てるものなら討ってみよ!!!」


 ゾルディアス王はそう叫び、単身でロマリア軍に突撃する。

 それに続くように、ゾルディアス王の国の豪族たちも自ら剣を抜きロマリア軍の海に躍り出た。


 もはや指揮系統は混乱し、ゾルディアス軍は軍としての機能を失っていた。

 

 しかし、それでも……

 ゾルディアス兵たちは戦い続けた。


 戦闘は三時間続いた。


 この戦いによるロマリア軍の死傷者は千。

 一方、ゾルディアス軍は九千の兵のうち七千人が死亡。


 突破に成功して逃げ出した兵たちも尽く追撃され……


 捕虜千人を残して全滅。


 またゾルディアス王含め、ゾルディアス王の国の有力豪族計十五人も討死した。


 総人口の一割に及ぶ一万の兵と有力指導者を軒並み失ったゾルディアス王の国には抵抗する力はなく……


 アレクシオス・コルネリウス率いる九千の兵とバルトロ・ポンペイウス率いる三万の兵の侵入を許した。

 僅かに王宮に残っていたゾルディアス王の国の王族と家臣たちはロマリアへの降伏を決定。

 旧王族たちはロサイスに強制移住させられ、兵士による監視付きだが小さな屋敷と年金、自由を与えられた。


 斯くしてゾルディアス王の国は滅んだ。

 

 ドモルガル、ファルダーム、ギルベッド、ベルベディル、エビル、ロサイス(ロマリア)、そしてゾルディアス。

 かつて平たい顔(ハリファー)族をアデルニア半島から追い出したアデルニア人七王国の一つが滅んだ瞬間であった。


 ファルダーム王は後のこの出来事について、こう言った。


 「小僧(アルムス)が化けの皮を脱いだ」


バルトロと戦った場合の敵将

「なんだ、あの陣形。確実に囲まれるじゃん。包囲されるじゃん。殲滅されるじゃん。でも退くわけにもいかないじゃん。戦うじゃん。やっぱり負けるじゃん。あ、死んだ」


アレクと戦った場合の敵将

「うはあ、強そう。でも、何とかなりそうじゃね? 頑張れば。よし、行くわ!! ……お、勝ててる? 勝ててる? 勝ててるじゃん! よっしゃ、勝った!! ん? あれ? 何かおかしいぞ? もしかして、負けてる? あ、死んだ」


バルトロは相手に希望も何も与えず、淡々とボコボコにする

アレクは相手に希望持たせてから、ボコボコにする


正面から、正々堂々小細工無しの平原での会戦ならバルトロが上

複雑な地形で小細工やり放題の山岳や森ならばアレクが上


尚、二人が戦った場合バルトロはアレクの策を警戒して動かない

一方、アレクは正面からバルトロに攻撃したら負けるので攻撃できない


つまり見晴らしの良い平原ならば、バルトロの勝ち

複雑な地形で伏兵を隠すことができる地形ならば、双方動けず千日手


で、バルトロの勝利


海戦を含めるならば、(そもそもバルトロは海戦のやり方が分からないので)アレクの一方的な勝利


で引き分けになる


まあ、アレクがバルトロの用兵能力を見て学べばバルトロを超えることはできるかもしれない

バルトロがアレクの奇策のセンスを身に着けるのは無理

あれは、「人の嫌がることならいくらでも思いつく」アレクの才能と性格の賜物だから

韓信と似たタイプ

ぶっちゃけ、アレクは典型的な空気読めない系将軍なので粛清されないのはアルムスの慈悲


二代目の慈悲にアレクの生命は掛かってる

まあ、アレクは自分の性格が悪いということを自覚してる性格が悪いやつなので、案外アルムス死んだら引退するかもしれない


まあ、そのころまで生きてたらの話だけど

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