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異世界建国記  作者: 桜木桜
第七章 竜退治と女王陛下
222/305

第二百二十二話 第二次ゾルディアス戦争Ⅱ

 軍議が終わった後、俺はバルトロを一人呼び出した。


 「何の御用でしょうか? 陛下」

 「いや、少し不機嫌そうだったからな」


 軍議が終わった後、明るい表情のアレクシオスとは対照的にバルトロは少しムッとした表情を浮かべていた。

 

 顔に納得できない。


 と書かれていた。


 「まさか、私は陛下の家臣です。陛下のご決断とあらば、従うのみです」

 

 まあ、そう言うだろうな。


 俺はグラスを二つ用意し、そこへ葡萄酒を注ぎ込む。

 今、ロマリアで生産されている葡萄酒の中でも最高級の一品だ。


 「飲め」

 「では、遠慮なく」


 バルトロはなみなみと注がれた葡萄酒を、一気に喉に流し込む。

 かなり度数の高い酒だが……よく飲めるな。


 「実のところ、俺個人としてはお前の策の方が好きだ。確実だからな。一方、アレクシオスの作戦はリスクも高い。アレクシオスの能力も定かではないしな」

 「……では、なぜアレクシオス・コルネリウス卿を?」

 「もう一人、必要だからだ」


 俺の答えを聞き、バルトロは押し黙った。


 もし、対ガリア同盟を破り捨ててドモルガルやギルベッドの征服に乗り出せば……

 北と西の二方面作戦になる。

 ドモルガル、ギルベッド、ファルダーム。

 三国とも、ロマリアという共通の敵相手には団結する可能性がある。


 二方面作戦、ということは最低でも二つの軍団を各方面に派遣する必要があるが……


 いくらバルトロと言えども、二個以上の軍団を率いることは不可能だ。

 体は一つしかないのだから。

 バルトロ以外の将軍となると、ロン、グラム、ロズワードだがこの三人はまだまだ実力不足。


 と、考えると候補は一人しかいなかった。


 「陛下は信用なさっているのですか?」

 「どういうことだ?」

 「あの男は母国から逃げ、挙句母国と自分の一族に剣を向けました」


 つまりアレクシオスの剣が俺に向く可能性もある。

 と言いたいわけか。


 なるほど。

 その可能性は確かにある。ゼロとは言い切れないだろう。


 「お前はアレクシオスに勝てないか?」

 「あのような若造に負ける気はありません」

 「なら問題ない。お前はアレクシオスよりも強い。ならアレクシオスがどこかの他国に寝返ろうと、お前がアレクシオスを討てる」


 今回はアレクシオスに任せたが……

 やはり俺に取って最も信頼できる剣は、ロマリアにとって最も強力な剣は……


 「バルトロ・ポンペイウス。お前だ」

 「陛下……」


 バルトロの表情が緩む。

 どうやらイライラは消え去ったようだ。


 バルトロがアレクシオス嫌いになり、それがきっかけで反外国人派筆頭にでも成られたら困るどころの騒ぎではないからな。

 

 できれば二人には仲良くして欲しいのだが……

 それは難しいかな?


 「今回はアレクシオスに譲ってやれ。お前ばかり軍功を一人占めするのも、不公平だし、後続が育たない。ゾルディアス如き、お前が出るまでもないさ」


 「はい、分かりました」


 その後、俺たちは酒を飲みながら世間話をした。

 たまには悪くないな。


 「そういえば、アレクシオスのやつアリスの糸が欲しいとか言ってたな。何かに使えるかもしれないかもとか言って」

 「どのような糸ですか?」

 「丈夫で見えない糸だってさ。今、アリスに作らせてる。後で早馬を数頭使って送る予定だ」


 確かに軍事的に役に立ちそうではあるが、イマイチ使いどころが想像できない。


 「お前は何にアレクシオスが使うと思う?」

 「さっぱり分かりません。しかし、私なら……」







 「編成は……騎兵二千に中隊(マニプルス)五十個で歩兵八千。合計一万。練度、士気はともに十分。武装も素晴らしい。さすが、バルトロ・ポンペイウス将軍の鍛えた軍だ」


 アレクシオスはロマリア国境に集結したロマリア軍をそう評した。

 すでに全軍は集結している。

 このまま、アレクシオスが号令を掛ければすぐにでも全軍は動くだろう。


 「問題は僕の言う事をちゃんと聞いてくれるかだね」


 外国人の司令官に対し、不審の目を向ける兵士たちを見てアレクシオスは苦笑いを浮かべた。




 「ロン・アエミリウス殿。ロズワード・ファビウス殿。グラム・カルプルニウス殿。よく来てくれました」


 アレクシオスは三人を迎え、席に座るように促した。

 三人の目の前のグラスに葡萄酒が注がれる。


 「御一つ、お聞きしてもよろしいですか?」

 「どうぞ」

 「なぜ、僕たちを?」


 ロンがなぜ、指揮官に自分たちを選んだのか尋ねた。

 そう、アレクシオスが三人を呼んだのは、三人に軍隊の指揮を執らせるためだ。


 当然のことだが、軍団長の指令が直接兵士一人一人に届くわけでは無い。

 軍隊は縦構造。

 上から下に命令が伝達されていく。


 アレクシオスは三人に約二千人づつの兵の指揮を執って貰うように頼んだのだ。

 

 軍団の人事は軍団長に任命されたアレクシオスが持つ。

 むろん、三人とも異論はない。しかし……


 「他にも優秀な司令官の方はいらっしゃると思いますが……」

 「御謙遜を。あなた方は十分に優れた司令官です。ええ、バルトロ将軍を除けばあなた方三人ほどの将はいませんよ」


 無論、貴族の中には軍隊を率いた経験のある者を多い。

 しかし巧みに、複雑なロマリア軍を動かせるか? となるとバルトロを除けば三人以外いないのが実情だった。


 「まあ、正直なところを言うと他のアデルニア人の貴族の方は僕のことが嫌いでしょう? その点、新興貴族である皆さんは僕に対する不信感は小さい。それに皆さんは兵士に信頼されている」


 兵士がアレクシオスを信頼する必要は無い。

 アレクシオスの命令を受けて動く、三人を信頼してくれれば良いのだ。


 「……緊張は無いのですか?」


 アレクシオスには兵士からの信頼が一切ない。

 むしろ、外国人ということもあり嫌われてすらいる。


 果たして、命令を素直に聞いてくれるのか……という不安を全く抱く様子が見られないアレクシオスに、ロンは尋ねる。


 アレクシオスは笑みを浮かべて答えた。


 「僕はポフェニアの将軍です。ポフェニア陸軍の大部分は傭兵。ですから、元々兵士と将軍の間に信頼はありません。信用もありません。ですから、嫌々でも命令はしっかりと聞くロマリア軍は非常に扱いやすい」


 ロマリア軍の軍規は非常に厳格だ。

 故に、トップが誰であっても必ずロマリア兵は従う。


 「それに勝てば良い。勝てば兵士からの信頼なんて、いくらでも付いてくる」


 アレクシオスは自信満々に胸を張った。







 国境を越えたロマリア軍は順調に進軍を進めていく。

 通過地点の西部諸国には予め、アルムスが親書を出して通過許可を出していた。


 西部諸国にとって、ロマリア王国は強大過ぎる敵。

 多くの国家は素直に関所を開き、食糧の支援をしてロマリア軍を通過させる。


 無論、彼らは決してロマリアの味方ではない。 

 もしロマリアがゾルディアスに敗北したら、掌を返してロマリアを攻撃するだろう。


 西部諸国に退路を断たれ、ゾルディアス王に追撃を喰らえば一万五千の軍勢は確実に全滅する。

 故に西部諸国への救援は確実に成功させなければならなかった。


 



 「いやあ、早い到着だったね。兵糧の支援とか、道案内が有ったにしても早い。ロマリア軍の進軍速度には驚きだね」


 「早速ゾルディアス王を討ちに行きましょう!」


 ロンはアレクシオスに詰め寄った。

 すでに西部諸国から、ゾルディアス王によって受けた略奪の損害を聞いている。


 早くゾルディアス王を討つか、追い払わなければロマリアにゾルディアスを倒す力はないと思われかねない。

 もし、西部諸国がゾルディアスに寝返れば、アレクシオスたちが窮地に陥るのは間違いなかった。


 「待て待て、落ち着くんだ。西部諸国も馬鹿じゃない。ゾルディアスとロマリア、どちらの方が強く、そして良識があるかは分かっているさ。まずはゾルディアス軍の位置と地形を探る」


 アレクシオスはそう言って三人に指示を出した。


 西部諸国の有力者と交渉し、より正確な地図を得るのはグラム。 

 斥候を放ち、地形とゾルディアス軍の位置を探るのはロズワード。 

 兵士たちを練兵し、決戦までにコンディションを整えるのはロン。


 そしてアレクシオスは自分の妻であるメリアを呼び出した。


 「君は他の呪術師たちと一緒に空から地形の操作をしてくれ」

 「分かりました。将軍!」


 メリアはアレクシオスにウィンクを飛ばす。

 妻として、アレクシオスが国を代表して一軍を率いているのが嬉しいのだ。


 「さて、地の利はこちらにある。数も我らが上。大義は我らにある。天の理はどちらも平等」


 アレクシオスは静かに立ち上がる。


 「さて、後は情報の差だね。西部諸国はゾルディアス王との付き合いが長いはず。良い情報が得られると良いんだけどね」


 アレクシオスは西部諸国の将兵から、ゾルディアス王について聞き取り調査をするために立ち上がった。

第(222)話の 第(二)次ゾルディアス戦争(Ⅱ)

まさに2尽くしの奇跡


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