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異世界建国記  作者: 桜木桜
第七章 竜退治と女王陛下
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第二百十八話 ペルシス帝国Ⅲ

 「さて、そろそろ本題に入ろうか。ロマリアの君主、アルムス王。君は私に何を求め、そして見返りに何をしてくれるのかな?」


 クセルクセス帝は果物を口に運びながら俺に尋ねた。

 

 ふう……

 ついに、本命だ。


 「まず一つ。ゲルマニスの諸国と外交関係を結びたいと私は考えています。その上で陛下には私の地位を保証して頂きたい」

 「つまり冊封を受けるということかな?」

 「はい。私をロマリアの国王として認めて頂きたい」


 国内的には外国の冊封を受けるというのは、あまり良くない。

 しかし外交の面ではやはり優位に立てる。


 メリット、デメリットを天秤に掛けた結果、メリットが優った。


 「二つ、ゲルマニス諸国への紹介状を書いていただきたい」

 「なるほど、その程度のことならばいくらでも書こう」


 クセルクセス帝は穏やかな笑みを浮かべたまま、頷いた。


 「もし二点をご了承して頂けたら、毎年ペルシスに使節を送り、朝貢させて頂きます」


 俺がそう答えると、クセルクセス帝は目を細めた。


 「なるほど……ふむ、まあ言い難いか。良いだろう。私から提案してやる」


 クセルクセス帝は指を三本、突き出した。


 「一つ、ロマリアが第三国と戦争状態になった時、私は好意的中立を守ろう。二つ、ロマリアがアデルニア半島の諸国を征服することは黙認する。また独力でロゼル王国から北アデルニアを奪うのであれば、事前にこちらに許可を採るのであれば黙認しよう。三つ、もしロマリアがロゼルまたはポフェニア、もしくは双方と交戦状態になった時にはそちらが望むのであれば間に立って調定してやろう」


 ……

 ……

 え、マジで? 良いの?

 

 というか、なぜこの人は俺がアデルニア諸国の征服を狙っていることを知っている?


 「ただし、条件がある。私は君にロゼル及びポフェニアを抑え込む役割を期待している。特にメルシナ海峡、あそこをポフェニアに渡してはならない。無論、戦争せよと言っているわけではない。話し合いで解決できるのであれば、それに越したことは無いからね。ポフェニアがトリシケリア島全土を支配することを防いでくれればいい」


 なるほど……

 クセルクセス帝の提案は俺からすれば願ったり、叶ったりだ。

 得られる外交的利益は膨大。対価も我が国の国益と合致している。


 しかし、これは裏を返せば……


 「もし、我が国がポフェニアを押さえるに足りないとしたら?」

 「私はロゼル王国に南下を促そう」


 なるほど……

 理解した。


 ロマリアという国は今、ロゼル、ポフェニアという強大国に挟まれている。

 クセルクセス帝からすると、我が国がどちらか一方に飲み込まれることが一番の問題。


 だからロマリアを支援し、ロゼルとポフェニアの両方を強大国としないようにしたい。

 しかし我が国があまりにも弱かったら……


 どちらか片方が得をし過ぎないように、ペルシス帝国監視の元にロゼルとポフェニアの両国に等しく分配させる。


 「どうする? 蹴るか?」

 「……蹴ったところでペルシスの外交方針は変わらないでしょう? 分かりました。ご期待に沿えるよう、頑張りましょう」


 俺は立ち上がり、一礼する。

 そして口を開いた。


 「しかしロゼル、ポフェニアどちらも大国。両方に挟まれている以上、我が国の地政学的不利は確実。ご支援を願いたい」

 「具体的には?」

 「ペルシスの進んだ技術を学ばせて頂きたい」

 

 するとクセルクセス帝は笑いだした。


 「技術か! はは、金ではなく、武器でもなく、兵でも無く、技術!! 良いだろう。確か貨幣の鋳造技師を欲していたな? 一流の技師を派遣してやる。他には?」

 「ペルシスの治水灌漑技術は世界一と聞き及んでいます。ぜひ、学ばせて頂きたい」

 「分かった、良いだろう」


 こうしてクセルクセス帝との会談は無事に終わった。

 

 今回、我々が得られたのはアデルニア半島統一へのペルシス帝国の支持。

 そして戦争発生時の講和手段。

 最後に技術提供。


 また今後の外交交渉を円滑にするために、双方大使館を設立することで一致した。






 「という感じで終わった」

 「それは……大戦果ですね」

 

 イアルは苦笑いを浮かべた。


 正直、交渉らしい交渉をしていない。

 

 「気に入られた、ってことじゃないの?」

 「うーん、気に入られる要素って有ったかな?」


 尻の話くらしかしてないような気がするけど。


 「一先ず、クセルクセス帝との会談も終わったことだし一度ロマリアに帰る。ライモンドとイアルはゲルマニス諸国について、調べてから一度ロマリアに帰ってきてくれ」

 「分かりました」

 「承りました」



 斯くして俺とユリアはロマリアに帰国した。





 

 その夜……

 

 「どうでしたか? アルムス王は」

 「ベフルーズか」


 アルムスをクセルクセス帝の元に連れてきた功労者、ベフルーズはクセルクセス帝に謁見した。

 ベフルーズはロマリアに大使として赴くことが決まっているため、具体的な指示を得に来たのだ。


 「ふむ……まあ一度見ただけでは評価できないな」

 「それはそうでしょう……」


 ベフルーズは苦笑いを浮かべる。

 一目見ただけで、その人物の良し悪しが分かる!


 などという事はあり得ない。

 

 そのようなことを言う者が居れば、それは単純に騙されているだけだ。


 「しかし人格的に信用はできそうではあったな。肝も据わっている」


 クセルクセスに「妻を寄越せ」と言われて、簡単に差し出してしまう王侯貴族有力者は大勢いる。

 しかしアルムス明確に不愉快であるという意思をクセルクセスに伝えた。


 それだけ妻を大切に思っているということであり、簡単に権力に屈する人間でもないということだ。


 「まあ、こちらから渡したモノは貨幣鋳造技術と治水灌漑の技術だけ。この程度ならば、何の問題もない。それに私は口約束をしただけだからな。この程度のことでポフェニアとロゼルを押さえるカードが一枚、手に入ったのだ。大成功と言って良い」


 クセルクセスは嬉しそうに笑った。

 

 「しかし、婚約の約束などして良かったのですか?」

 「娘なんぞ、いくらでもいる。一人二人、外国の王にくれてやっても問題は無い。もしあの男が本当にロゼルやポフェニアを抑え込めるほどに国を成長させたなら、十分に娘をやる価値はある」


 世界中の国々に自分の娘を婚約に出しているクセルクセスからすると、アルムスの息子に自分の娘をやるくらい、何の問題も無い。


 「ベフルーズ。こちらでの事務処理が終わったらロマリアに行け。やることは変わらん。月に一回の報告を欠かすな。特別な命令があるときは船便を出す」

 「はい、御拝命承りました」


 ベフルーズは一礼して、去っていった。


 「さて、どこまで成長するか。見ものだな」








 「ええええ!!! マルクスが結婚!!」

 「バカ、声がでかい。それに決まったわけでは無い!」


 帰りの船、ユリアと二人っきりの船室。

 聞こえるのは波の音だけだ。


 「……それ、本当?」

 「まあな。ただ、『ロマリアがロゼルやポフェニアに肩を並べる国になったら』という前提条件が付くと思う」


 クセルクセス帝はロマリアが使えないと判断したら、容赦なくロマリアを滅ぼすだろう。

 だからクセルクセス帝には、ペルシス帝国には、ロマリアは使える国という認識を与えなければならない。


 「それでも凄いよ! あのペルシスからお嫁さんを貰えるなんて!!」


 ユリアは大興奮して、何度も飛び跳ねる。

 別に良いことばかりでもないぞ。


 「嫁さんの性格が悪い……というか、政治に口を出すタイプだったら大問題だ。嫁を貰う立場上、選べないからな……」


 ペルシスから嫁を貰うというのは、ペルシスから内政干渉を受けるリスクを抱え込むことでもある。

 ペルシス閥、みたいなのが国内に形成されると不味い。


 「変にプライドが高かったりするのも問題だ。ロマリアにはロマリアのやり方や風習があるわけで、それを無視してペルシス式を突き通す、なんてことをされたら堪ったもんじゃない。次代の国王の妻になる以上、国王の正室としての自覚を持った人じゃないとな。……ん? ユリアどうかしたか」


 何故か、顔が強張っている気がするが……


 「え? いや、何でもないよ。うん、大事だよね、自覚。国王の妻としての自覚。うん、うん」

 「ライモンドに怒られたのをまだ気にしてるのか?」

 

 ピクリ

 ユリアの整った眉が動く。


 図星みたいだ。


 「な、何で知ってるの!!」

 「いや、そりゃライモンドから説明を受けたからさ」


 おそらく、ライモンドは逆ギレしたユリアとテトラが適当なことを俺に報告する可能性も考えて、早期に説明をしたのだろう。

 まあ……

 普段から冷静なライモンドと妊娠で頭おかしくなってる二人の言葉なら、どう考えてもライモンドの言葉の方が信用できるし、ライモンドの心配は杞憂なのだが。


 「お、叔父様のバカ!!」

 「そんな風に逆ギレされたくないから俺に報告したんだろうな」


 そういうと、ユリアが意気消沈したように座りこんでしまう。


 「えっと……うん、反省してるよ? あの時はちょっとおかしかったというか……男の子が生まれるか、女の子かなんてアルムスに言っても分かるわけないしね。女の子が生まれなかったらどうするか? なんて言われてもアルムスも困るだけだし、あの時は多分何を言われても怒っただろうし……」

 「もう気にしてないよ。それにユリアは俺の妻として、嫁として、そしてマルクスやフローラ、フィオナの母としてよくやってる」

 「そ、そうかな?」

 

 俺は視線をユリアの高さに合わせ、目を真っ直ぐ見つめる。


 「お前は最高の妻だよ」


 自分の唇をユリアの唇と重ね合わせる。

 うっとりとした表情で脱力したユリアを俺は抱え上げ、ベッドに運ぶ。


 「次の子を作ろう。今度は男の子とか、女の子とか、気にしないで」

 「……うん!」


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