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異世界建国記  作者: 桜木桜
第七章 竜退治と女王陛下
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第二百十六話 ペルシス帝国Ⅰ

時系列だと二百十話の後です

この話が建国直後、二百十話が暫く経った後ですので

 「改めて、初めまして。そして本日は御即位、そして御建国おめでとうございます。アルムス王」


 目の前の男……ペルシス帝国からやって来た外交官はゆっくりと頭を下げた。

 そして俺の目を真っ直ぐ見つめる。


 「私の名はベフルーズと申します」


 「お顔を上げてください。ベフルーズ殿。世界に名立たる大帝国、ペルシス帝国の皇帝(クセルクセス)陛下からお祝いのお言葉と御品を頂けるとは、光栄の限りです」


 ベフルーズはゆっくりと顔を上げ、口元を綻ばせた。

 

 「座ってください。食事を用意させましょう」

 「では、お言葉に甘えて」


 俺とベフルーズは向かい合い、椅子に腰を下ろした。

 俺たちの間に置かれた机の上に、次々と料理が運ばれる。


 一応、ペルシス帝国の食事マナーについて調べさせたがアデルニア半島とは大差ない……つまり手掴みで食べるようだ。

 神から頂いた食事は神聖なモノである……という考え方は東方でも一般的な考え方らしい。

 

 というか、食器を使う方が異質と考えるべきかもしれないな。


 「アルムス王、あなた様は偉大な方だ」


 ベフルーズは唐突に俺を褒め始めた。


 「十代の若さで即位した後、農業改革や公共事業を敢行して国力を底上げ。周辺国に包囲され同時に攻め込まれるという国難を乗り気り、逆に領土を奪い取る。その上、全ての豪族を首都に住まわせてその領土を没収することで中央集権的な国家を作り上げた」


 なんだろう……こそばゆいな。

 こうやって功績を並べられると。


 「正直なことを言うと、私は当初ロマリア王国を侮っていました。所詮、アデルニアの田舎国家だと。しかし実際に来てみれば……整備された道路や通信網、法律、軍事制度。どれをとってもペルシス(先進国)に引けを取らない」


 ロマリア王国という国が先進国に引けを取らないだけの制度を持っている。

 ということに関しては自負があった。

 俺は元々日本人で、文明の発展レベルについては世界史で学んできたが、今の自分の国の文明は下手な中世国家にも負けないと思う。


 しかしそのことをペルシス帝国……現在、世界最先端の国に賞賛され、認められるのは素直に嬉しい。

 まあ、相手は俺を煽てているわけだから話半分に聞いた方が良いが。


 「まだまだでしょう。例えば……貨幣経済です。首都周辺や地方の中核都市では貨幣の使用が普及していますが、田舎だとまだまだです。証拠に我が国は統一通貨を発行できていない」


 とはいえ、国内に碌な鉱山がなかったので、しようと思ってもできないが。


 「できていない、ということは発行なさる予定があるのですね?」

 「ゲヘナに金山が有ったのは御存じでしょう? ゲヘナの今は我が国の一部ですからね」


 ようやく金山を手に入れることができた。

 一先ず、金貨を発行する予定だ。


 「それは喜ばしいことです。宜しかったら、我が国の技術者を派遣致しましょうか? 通貨の鋳造技術なら我が国に一日の長があります」

 「それは有り難い。ぜひ、ペルシスから学ばせて頂きたい」


 ペルシス帝国への外交は『貰える物は貰っておこう』という方針に決めてある。

 相手は世界に名立る超大国のペルシス。

 ペルシスからすれば我が国など、象から見る蟻と同じだろう。


 だからペルシスという国は我が国に多大な見返りは求めない。

 超大国であるという意地があるからだ。

 たかだか、鋳造技術を教える程度でペルシスが見返りを求めるはずがない。


 ペルシス帝国が我が国に求めている役割はただ一つ。


 「ロマリア王国で貨幣が鋳造されるようになれば、ますますテーチス海貿易は盛んになるでしょうね。……テーチス海貿易と言えば、ポフェニア共和国ですがあの国に対して陛下はどう思われていますか?」


 ポフェニアの頭を抑え込んで欲しい。

 それだけだ。


 「豊かで発展した国だと聞いています。ぜひ、訪れてみたい」

 「ですが、ポフェニアとロマリアは一度剣を交えたことがあると聞いていますが?」


 遠慮なく聞いてくるな。

 いきなり、ポフェニア関係の安全保障の話をするのは物騒だと思っていたが……そちらがそう来るなら構わないだろう。


 「……そうですね。正直、ポフェニアとは良好的な関係とは言い難い。交戦してから一年程度しか経っていませんから。しかし私はもう一度ポフェニアとは剣を交えたいとは思わない。あの国の海軍力はまともな船を持たない我が国には脅威。それにポフェニアとの紙や葡萄酒、麻のやり取りも活発になっている」


 経済力ならばあの国は我が国の十倍、二十倍はあるだろう。

 アレクシオスの話によると、あの国は我が国の国家予算を農業収入だけで軽く超すらしい。

 それに加えて、商業収入もあると考えると……


 やはり、恐ろしい。まともに戦って勝ち目があるかどうか分からない。


 とはいえ……


 「しかし我が国も譲れない一線はあります。ポフェニアがアデルニア半島に手を出してくるというのであれば、我が国はポフェニアを海に突き落とすでしょう」


 海では勝てない。 

 しかし陸ならば話は別だ。


 傭兵に頼りのポフェニアと、徴兵制の我が国では遥かに我が国の方が動員できる兵力は上。

 こちらにはバルトロという切り札もあるし、地の利もある。


 「なるほど……では、一つご質問を。トリシケリア島についてはどう御思いですか?」


 トリシケリア島。

 気候も温暖で雨量も多く、そして土地も肥えている。

 加えてテーチス海の中心部に位置し、南大陸とアデルニア半島の間に位置する戦略的にも重要な島だ。


 「今、トリシケリア島の約三分の二がポフェニアの手に落ちています。全土が征服されるのも時間の問題でしょう。……仮にトリシケリア島全土が落ちれば、トリシケリア島とアデルニア半島の海峡……メルシナ海峡も危うくなる」

 

 現在、メルシナ海峡は中立的な海峡として安定している。

 隣接しているロマリア王国は碌な海軍を持っていないし、ポフェニアの勢力はメルシナ海峡に達していないからだ。

 しかしトリシケリア全土がポフェニアの手に落ちればメルシナ海峡は確実にポフェニアの海になるだろう。


 そうなると我が国は無論、ペルシス帝国も西方に船を出し難くなる。

 

 それにメルシナ海峡は非常に細い海峡。

 トリシケリア島からアデルニア半島までは小舟でも行くことができる。


 つまりメルシナ海峡を押さえられる、ということはアデルニア半島とポフェニアの間に橋が架かるのと同義。


 愉快なことでは無い。


 「私は無暗に戦火を広めるつもりはありません。……しかしあちら側からナイフを突きつけられて、応戦しないほど平和主義者ではありませんよ」


 そう言ってから、俺が笑顔を浮かべた。


 「メルシナ海峡については、ペルシスも交えてポフェニアと対話をする必要があると思っています。話し合いで解決できるなら、それに越したことはありませんからね」


 我が国一国ならともかく、ペルシスを交えてならば……

 交渉負けすることはないだろう。


 「なるほど、アルムス王様のお考えはよく分かりました。それでは世間話はこれくらいにして、皇帝陛下への謁見について、日取のご相談をしても宜しいでしょうか?」

 「はい、良いですよ。我々としては……」


 






 「お久しぶりです、アルムス王陛下。此度は御即位と御建国、誠におめでとうございます」

 「ありがとう、アズル・ハンノ殿」


 ペルシスとの交渉の次の日、俺はポフェニアから外交官としてやって来たアズル・ハンノと面会した。

 アズルはにこにこと笑いながらこちらへ手を伸ばしてくる。

 俺はその手を取り、握り締めた。


 互いに握手を結び、椅子に座る。

 出だしは好調だ。


 「この度は一年前の条約の再確認をしに参りました」

 「ええ、分かっています。国名は変わりましたが、私が国王であることは変わりません。ロマリアはロサイスの後継国家。故にロサイスの時代に結ばれたあらゆる条約はロマリアに継承されます」


 俺がそう答えると、アズルは笑みを浮かべた。


 「それを聞いて安心しました。いえいえ、中には『政治体制が変わったから、条約は無効』などという不届き者もおりますから」


 まあ、ポフェニアとの条約を破るメリットが何一つ無いしな。

 破ったら、ロマリアの船の航路の安全を保障できない。


 あちらの方が遥かに海軍力が上なのだから。


 「先日はペルシス帝国の外交官の方と会談したそうですね」

 「ええ、驚きましたよ。このような田舎に、世界帝国であるペルシス皇帝の御遣いがお越しになるとは」

 「はは、御謙遜を。ロマリアは今やアデルニア一の大国でしょう」


 もう嗅ぎつけてきたか。

 流石、と言うべきか。


 とはいえ、俺がペルシス皇帝と会談しようとしているという事に関してはまだ知らないはずだ。


 このことを知っているのは我が国でも極一部の重臣だけだし、ペルシスもポフェニアには情報を漏らさないだろう。


 「我が国とペルシスは友好関係にあります。ロマリア、ペルシス、ポフェニアの三ヶ国が友好関係を結び合えば、テーチス海の平和は約束されたようなモノでしょう」


 ……

 アズル曰く、ペルシスとポフェニアは仲が良いらしい。しかし本当だろうか?

 少なくとも、ペルシスがポフェニアを快く思っていないのは間違いない。


 ポフェニアの片思いか、アズルの派閥の片思いか、それとも外交儀礼として『友好』と言っているだけか。

 

 まあ、少なくともアズル・ハンノが戦争を望んでいないのは間違いない。

 アズル・ハンノの派閥がポフェニアの主流派であるうちは、南は安全だ。


 「我が国もこれからポフェニアとは友好関係を維持していきたい。南大陸の大国であるポフェニアと北大陸の大国であるロマリア。双方が手を取り合えば、無法者たちも鳴りを潜めるでしょう」


 正直現段階で一番の無法者は我が国だけどね。


 こうしてポフェニアの外交官、アズル・ハンノとの会談も和やかに終わった。


 その後はロゼル、ドモルガル、ファルダーム、ギルベッドの順に会談を行い、今までと変わらない外交関係を維持することが出来た。

 ……少なくとも表面上は。


ペルシス帝国クセルクセス帝「(戦争なんて面倒くさいけど)調子に乗ったらぶん殴るぞ、オラ!!(と言っておけば抑止力になるだろう。頼むから大人しくしていてくれ)」


ロマリア王国アルムス王「(戦争なんてしたら絶対負けるけど)舐めんじゃねえぞ、オラ!!(と言っておけば相手も殴って来ないだろう。お願いだから来ないでくれ)」


ポフェニア共和国執政官アズル・ハンノ「(戦争なんてしてる暇ないけど)邪魔したらぶん殴るぞ、オラ!!(と言って置かないと、殴られそう。何か、みんな好戦的だし……)」


尚、括弧の中身は相手に伝わらない模様


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