第二百十五話 娯楽設備
申し訳ありません
テトラの娘のフローラちゃんが誕生する回の投稿をし忘れていました
そこで、割り込み投稿という形で真の二百八話『建国前』を投稿致しました
こちらを読む前にそちらの方をお読みください
ご迷惑をおかけしました
尚、書き溜めの関係上来週水曜日の投稿はお休みさせて頂きます
今日二話投稿してるので許してください
追伸
エイプリルフールネタは活動報告に移送してあります
円形闘技場。
この楕円形の闘技場はこの首都に住む市民のための娯楽施設である。
一応、料金は徴収する。
平民が支払う料金は、三食分の食費と同じくらいの金額だ。
ちなみに貴族はその十倍の金額を支払わなければならない。
その代わり、貴族には一番見えやすくスペースの広い席が用意されている。
ちなみに現在は祭りの最中なので、料金はタダだ。
「これって何人くらい入るの?」
「一万人だったかな? 今は満席みたいだよ。まあ、料金がタダだから当然だけど」
ちなみにイスメアの奴は五万人が収容できる円形闘技場を作ろうとしていた。
いくらなんでも張り切り過ぎだろう。
そんなにデカい施設は不必要だ。
「この都市の人口って今は九万人なんでしょ? それに対して一万人って……大きすぎない?」
ユリアが首を傾げた。
まあ、この都市の住民だけが使用するならね。
「あくまで城壁の中の人口だよ、九万人は。都市圏まで範囲を広げれば、もっと多い。それにロサイスには世界中から商人が集まる」
レザドから運ばれた東方の物産は無論、ロマリア王国で収穫された小麦や葡萄酒などがこの都市には集積される。
故にロマリア王国内は勿論、ロマリア連邦やアデルニア半島の国々から人がやってくる。
だからそれなりの需要は常にある。
この世界は娯楽に乏しいため、人々は常に娯楽に飢えている。
羊の肉に狼が群がるように、やってくるはずだ。
「一応、計算上は採算が採れる。まあ、採れなくても国営だから運営できるけどね」
たかが円形闘技場一つくらいは赤字でも運営する国力はある。
問題は無かった。
「……ただ、ここで行われているのは剣闘試合。あまり教育には良くないから、見るのは止そうか」
俺は自分の腕に抱かれたマルクスに視線を下ろす。
まあ、この子たちが見たいと言って見る分なら止めないけどね。
剣闘試合を見た子供が悪い人間になるというわけでもないだろう。この世界には剣闘試合を見て育った優秀な人間は大勢いる。
見世物と現実の区別は誰だって出来る。まあ、偶にできない人間もいるけど。
とはいえ、個人的にはあまり好きな娯楽ではないので推奨はしない。
「剣闘試合よりももっと面白いモノがある。来るんだ」
俺は馬車に乗り込んだ。
「大きい……」
「どう見ても円形闘技場よりも大きいけど、ここはどこ?」
円形闘技場よりも東には円形闘技場よりも一回り大きな施設が造られていた。
形は潰れた楕円形である。
「戦車競争場だ」
俺は二人の質問に答えた。
戦車と言っても、所謂「パンツァー・フォー」の戦車道で使う戦車ではない。
お馬さんが二輪ないし三輪の車を引く、所謂チャリオットの方である。
「戦車競走……ということは、戦車で競争するってこと?」
「そういうこと。キリシアやペルシスの方だと、メジャーなスポーツらしいぞ。そろそろ始まる時刻だ。行こう」
俺は競争場へ足を進める。
当たり前だが、近衛兵たちが俺たちの周囲を固めているためなかなかの大所帯だ。
かなり目立っているが……まあ、気にしない。注目されることにはすでに馴れてしまった。
「これは陛下! よくぞいらっしゃいました。どうぞ、こちらに。特別に席をご用意しています」
競走場に入ると、すぐさま管理人が手揉みしながらやって来た。
「その前に、券を買いたいな」
「券ですか! しばしお待ちを」
券と言っても、入場券ではない。
というのも、この競技場は入場料が無料だからだ。
券というのはつまり……
「赤、青、緑、白があります。どれに致しますか?」
「俺は白にしよう」
俺は白チームの券を購入する。
仮に俺の購入した白チームが一位で勝利すれば、この券を購入時の数倍から数百倍の価格で換金できる。
一方、四位だったら紙屑になる。
要するに、賭け事である。
「お前らも購入しろ」
テトラは自分の髪と同じ青色を購入し、ユリアはテトラの反対の色、つまり赤を購入した。
フィオナは「お父様と同じ色が良い!!」というので白を、アンクスは空気を読んで緑を購入した。
……
どうでもいいが、賭け事って剣闘試合よりも教育に悪いような……
まあ、良いか。
後で限度を教えれば良い。
さて……
俺は管理人に耳打ちする。
「黒字には出来そうか?」
「ええ、今のところは。とはいえ、今回が初めてですからどのチームも馬も御者も倍率は同じですので。上手く調節しますよ」
そうか。ぜひ、金持ちから金を巻き上げて欲しい。
「初めて見たけど結構迫力あるんだな」
「凄い熱気。テンション上がっちゃう」
「悪くない」
ユリアとテトラは身を乗り出して戦車を眺める。
砂埃を上げながら、四頭立ての二輪馬車が競走場を周る、周る。
四つの戦車はそれぞれ四色の旗をはためかせている。
赤、青、緑、白の四色だ。
今は赤と青がトップ争いをしている。
だから二人とも熱心に見ているのだろう。
あ、赤が青を抜かした。
「やった!!」
「……」
ユリアが嬉しそうに笑い、テトラは表情は変わらないが悲しそうだ。
しかしすぐに青が赤を抜かす。
二人の感情が入れ替わる。
面白いな。戦車よりも。
「がんばれ、がんばれ!!」
「行け! 行け!!」
フィオナとアンクスも立ち上がり、手を振りながら戦車に応援を送る。
御者はどんな気持ちなのだろうか?
王族に応援されて。
嬉しいのか、緊張しているのか、それとも目の前の勝負に必死なのか……
しかし、フィオナとアンクスの将来が少し心配だ。
券を握り締めて応援する姿は、どう見ても馬券を持った競馬好きのおっさんだ。
一先ず、十五歳までは券の購入を法律で禁止しよう。うん、それが良い。
「しかし白は遅いな」
俺は小さな声で呟いた。
白チームはトップ争いをしている赤、青は無論、緑からも大きく突き放されていた。
あれが勝利するのは不可能だろう。
おや?
「あ、凄い! 頑張れ、頑張れ!!」
アンクスが一際大きな声が上がる。
緑チームがグングン速度を上げ始めたからだ。
「ああ!!」
「ダメ、ダメ!!」
ユリアとテトラが悲しそうな声を上げる。
赤と青を颯爽と抜かし、緑がトップに躍り出る。
そして……
ゴール!!!
斯くしてアンクスは平民なら三年は遊んで暮らせる額の金貨を手に入れた。
ちなみに、青と赤は同着。その後遅れて白がゴールした。
「もう! 何で負けちゃうの!!」
「まあまあ、そんなに怒るな。勝利は時の運だから」
俺はフィオナの髪を手櫛で梳きながら、彼女を宥める。
さっきから始終ぷんすか怒りっぱなしだ。
「あの、お父様。何で戦車ってロマリア軍では使わないんですか?」
アンクスが首を傾げながら尋ねた。
「あんなに強そうなのに」
どうやら戦車を見てから始終、疑問に思っていたようだ。
ふむ、俺の答えられる範囲なら……
「戦車っていうのは、車が必要だ。だけど車を引く分、馬が疲れる。だから機動力が騎兵よりも落ちるんだよ」
「じゃあ、何頭も使えば……あ、そうか。その分、馬が必要になるのか」
四頭立ての戦車を使うくらいならば、四騎の騎兵を用意したほうが遥かに効率が良いし、機動力もある。
それに戦車は山を登ることは出来ないが、馬なら道を選べば登ることが出来る。
騎兵は完全に戦車の上位互換と言える。
そもそも山の多いアデルニア半島では戦車を生かすことは難しい。
それにアデルニア半島では戦車よりも早く騎兵……つまり平たい顔族が侵入した。
戦車よりも優れた騎兵があるのに、戦車を使う道理は無い。
もっとも、平原、砂漠の多いペルシス帝国では最近まで現役だったらしいが。
「ねえ、アルムス。あの大きな施設は何?」
ユリアが馬車の窓から見える、大きな煙突のある建物を指さした。
煙突からは煙が上がっている。
「あれは公衆浴場だよ」
つまり風呂だ。
使用料は一食分のパンと同じ価格。日本ならば百円、二百円程度か。
風呂は大量の薪を使用するため、維持するのに費用が掛かる。
当然、その程度の使用料では元は採れないが……
公衆浴場に関しては採算は無視している。
そんなことよりも衛生環境の方が大切だと、俺が判断したからだ。
それに宮殿には大きな風呂もある。
俺たちだけ大きな風呂を贅沢に使うのは申し訳ない。
というわけだ。
「アルムス、背中洗う」
「ああ、お願いするよ」
宮殿に返り先に子供たちを風呂に入れさせて、召使たちに世話を任せた後……
俺たち三人は一緒に風呂に入っていた。
宮殿の中で一番俺がこだわったのは風呂だ。
別に前世ではそこまで風呂が好きというわけでも無かったが……
娯楽が無いからな……
「……胸で洗う?」
「今日は良いよ。見せたいモノあるし」
俺はテトラの申し出を断る。
それをやるといろいろ時間が掛かってしまう。
というか……
「ユリア、離れてくれ。体が洗えない」
「テトラが離れてから離れる」
三人で泡塗れ揉みくちゃになるのは少し避けたかった。
体を洗い流し、二人を一先ず引き離してから俺は二人を手招きする。
「こっちに来てくれ。面白いのがある」
俺は風呂場にある入り口とは違う扉を開ける。
「うわ、寒い……」
「外?」
つまり露天風呂だ。
今は一月。アデルニア半島がいくら温暖で雪が降らないとはいえ、寒いものは寒い。
俺は急いで湯船に入る。
ふう……暖かいな。
二人も飛び込むように露天風呂の中に入った。
「外でお風呂って変わってるね」
「……のぼせ難くていい」
どうやら気に入って貰えたらしい。
ちなみに周囲は木材で覆い隠されているため、人に見られる心配は無い。
景色は良くないが……
二人に配慮した形だ。
「まあ、星空も見えるしな」
「うーん、綺麗だね」
「……満月」
相変わらず、大きな……
とは思わない。
もはや俺にとって、この巨大な月は馴染みのモノに変わっていた。
元の世界とは異なる星空もだ。
「最近はこっちが故郷だな……」
元の世界は懐かしいとは思う。
でも帰りたいとは全く思えなかった。
アルムスにとっての月は大きい月
マリリンにとっての月は小さい月
ファーストコンタクトの差ですな
アルムスもグリフォン様にがぶっとされてたらマリリン化……する前に死ぬか




