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異世界建国記  作者: 桜木桜
第六章 建国と王太子
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第二百八話 建国前

割り込み投稿

抜けていた、真の二百八話です


事情説明は十二時の投稿の前書きに書きます

 ベルベディル王の国の連邦加盟はあっさりと決まった。

 我が国の提案について、犬が餌に飛びつくように乗ってきた。


 領土保全と戦争時の戦利品分配を保証することで、ベルベディル王の国の加盟は決まった。


 少し揉めたのはエビル王の国だ。

 やはり国力を維持しているのが大きかった。


 とはいえ、エビル王も連邦構想に関して消極的……というようには見えなかった。

 どちらかと言えば、反抗している振りをすることで出来るだけ譲歩を引き出そうとしているように見えた。


 エビル王の国に対しては、安全保障の面から圧力と揺さぶりを掛け、経済的な利益を提示することでどうにか加盟を取り付けた。

 アルヴァ王国とエビル王の国はロマリア連邦の中でも大きな力を持った国になりそうだ。


 また、南部キリシア・ロサイス連合のキリシア諸都市に対してもロマリア王国建国を伝え、連邦加盟を促した。 

 彼らの自尊心を傷つけないように、あくまでロマリア王国の属国ではなく軍事及び経済的な同盟であることを強調した。


 当初は激しい反発があったが、しばらくすると人(国?)が変わったように続々と加盟の申請を始めた。

 結局、我が国の軍事力と大きな経済圏から弾き出される事を恐れたのだ。


 ロマリア連邦構想は大成功と言っても良いだろう。

 

 さて……これで国内は固めた。

 次に問題になるのは国外だ。





 「やはり、建国を宣言する前に他国に伝達しておいて方が良いだろうか?」


 俺はライモンド、イアル、バルトロを呼び寄せて尋ねた。

 最初に口を開いたのはライモンドだ。


 「私はその必要は無いと考えています。わざわざ他国に伝えるのは、まるで許可を求めているように取られる可能性があります。……もはや、腰を低くする必要は無いかと」


 イアルはライモンドの意見に賛同するように頷いた。


 「私も同様の意見です。確かに対ガリア同盟の維持のためには、他国との友好関係維持は不可欠です。あらかじめ伝えて置かないと、印象を悪くするでしょう。……しかし、対ガリア同盟もそろそろ用済みです。一年以内にゾルディアス王の国との戦いも終わりますし、例のアデルニア人解放戦争への参戦も、対ガリア同盟の存在意義が薄れた今、流してしまっても問題ないでしょう。そもそもこれは我が国の内政問題です。他国に伝える必要はありません」


 確かに、わざわざ他国の顔色を窺うのは国の威信に関わる。

 二人の考えも尤もだ。


 「バルトロはどう思う?」

 「私は反対です」


 ほう……意外だな。

 バルトロなら軍事力の優位を主張して、腰を低くする必要は無いと主張すると思ったのだが。


 「陛下は北部三ヶ国と最終的に決着をつけるおつもりですよね?」

 「そうだ。だから近い内に対ガリア同盟は要らなくなるが……」

 「しかし、今は必要です」


 バルトロは右手に二本指、左手に一本指を立てて見せた。


 「右が我が国の軍事力とするならば、左手がファルダームの軍事力です。つまり二対一で我らの方が勝ります。ドモルガルやギルベッドもそこまで大きな差は無いでしょう」


 つまり我々の方が敵よりも二倍の戦力を用意できる、ということか。

 ……なら、警戒する必要は無いんじゃないか?


 「北部三ヶ国を征服するのであれば、三ヶ国を同時に相手取る必要があります。すると、敵と我らの戦力差は一・五倍で敵の方が戦力が大きい。それに……この数値は我が国が万全の力を発揮した場合です。現状、我が国は新たな体制に入ったばかり。実際に発揮できる力は七割程度でしょう」


 「各個撃破すれば良いだろう。今までみたいに」

 「それは難しいと私は考えています。……仮に、陛下がドモルガル王の国の王だとして、ギルベッドを怒涛の如く攻め込み領土を奪い続けているロマリア王国を見てどう思いますか?」


 それは……ギルベッド王の国に攻め込むかな?

 ロマリアを相手に戦って弱っているだろうし。簡単に領土を奪え……


 いや、それは無いな。


 「ドモルガル王の脳裏にはまず最初に、『次は自分じゃないか?』という考えが浮かぶはずです。当然です。仮にも今まで共闘していた相手の領土を奪い、滅ぼそうとしているのですから」


 「ファルダームも同じか。……つまり我が国が北部三ヶ国のうち、一国に攻め込んだ時点で自動的に他の二ヶ国から宣戦布告される恐れがある。と……」

 「その通りです。ですから、仮に三ヶ国を滅ぼすのであれば万全の状態で挑む必要があります。……そうですね、ゾルディアスとの戦いで一年。国内の安定と残りの西部領土―ギルベッド王の勢力範囲と密約で決めた領土を刈り取るまで一年。そして兵站を整え、兵士を教練し終わるまで一年。合計、三年間は維持したところです」


 ……三年か。

 となると、心象を悪くするので下策だな。


 今まで通り、下手に出ておくか。


 「分かった。バルトロの言う通り、北部三ヶ国には一言言っておくことしよう。ただ、ロマリア連邦に関しては伏せておくことにする。……可能性は低いが、妨害される恐れがあるしな」


 こうして北部三ヶ国には予め、建国を正式に宣言する前に伝えることが決まった。

 三ヶ国にとっては国名が精々変わるだけ、程度の認識のようだったのか条約の引継ぎや今後の友好関係の維持をすんなりと約束してくれた。


 まあ、当然か。

 俺が武力でロサイス氏族を押さえつけて、新たに国政を変えようとしているのであれば他国も介入しようがあるだろう。

 しかしこの建国は俺と豪族との間の合意の元、行われる。


 介入のしようがない。


 斯くして、建国に必要な諸条件は全て整った。

 後は時期を待つだけだ。





 十一月。

 アデルニア半島は冬を迎えた。

 もっとも、南アデルニア半島は非常に温暖な気候で、加えて冬は降水量が多く湿度が高い。


 そのため、日本の冬より遥かに過ごしやすい。

 特に今年の冬は例年よりもずっと暖かかった。


 そんな中、テトラが産気づいた。


 



 「アルムス、いつもより落ち着いてない?」

 「そうか?」


 産室の前でユリアと共に、テトラの出産を待っているとユリアにそう言われた。

 確かにいつもより、落ち着いているかもしれない。


 まあ、これで四回目だしな。

 それに妖精から貰ったという、加護の件もある。


 ……そう言えば


 「ユリア、お前気付いているか?」

 「何が?」


 ユリアは首を傾げた。

 どうやら加護を得たことに気付いていないらしい。


 『看破の加護』を持つユリアなら、とっくに気付いていると思ったが……

 意外だな。

 まあ、加護は意識しないと使えないし、わざわざ加護が増えているか確認はしないということか。

 

 「実はな……」


 俺はユリアに妖精のことを話した。

 

 「何で教えてくれなかったの?」


 ユリアは少し怒気を含んだ声で俺に尋ねた。

 ……まあ、確かにもっと早く言うべきだったな。


 「すまん、あまり余計な心配はさせたくなかったんだ。お前の容体も分からなかったし……」


 妖精は信用出来ない。

 というのが俺とユリアの共通認識だ。


 その信用できない妖精に助けられた……からといってすぐに妖精を信用できるかというと、そんなことは無い。

 むしろ、何か企んでいるのではないかと勘ぐってしまう。


 余計な心労は掛けたくなかった。


 「……でもさ、アルムス、私に確認して貰わなくても『安産の加護』が私たちにあるって信じてたみたいだね。……まるで、妖精の事を信用しているみたい」

 「いや、それは……」


 ……言われてみると、確かにそうだ。

 妖精が本当に『安産の加護』とやらをユリアとテトラにくれたかどうかはユリアに確かめて貰わなければ分からない。

 

 そもそも、加護には反転、という現象もある事がリガル・ディベルの件で分かっている。


 最低、どのような加護なのか調べるべきだった。

 それはユリアの心労よりも、ずっと優先すべき事だ。生命に関わるのだから。


 ……何故?

 俺は気が付かないうちに、妖精のことをある程度信用してしまっていたのか?


 「……ねえ、アルムス。今まで一度も聞いたこと無かったんだけど……例の『頭痛』はある?」


 ……例の『頭痛』?


 「『大王の加護』の副作用。眷属の望む王に成るように、思考が誘導される……っていう副作用があったでしょ。アルムス、その時は『頭痛』がするって言ってたじゃん」

 「……あれか、あれは……何だかんだで初陣の時以来無いな」


 『大王の加護』の影響下の人間はどんどん増えていったし、能力も拡張されている。

 それに一昔前までは、完全に俺に忠誠を誓っているとは言えなかったバルトロやライモンドも、俺に対して強い忠誠心を抱いていてくれたいることが分かっている。


 俺自身も、加護も成長している。

 そして頭痛は勿論、洗脳もされていない……と思う。少なくとも今まで歩んできた道は俺が自分で決めた道だ。

 ……少なくとも、俺は今そう思っている。思っているけど……


 「なあ、俺って昔と比べて変わったか?」

 「変わったら好きじゃ無くなってるよ。今でもあなたのことは大好き。……でも、確かに昔よりずっと王様……政治家っぽく成ったと思うよ」


 政治家っぽく成った……

 言われてみると、少し俺は冷徹に成ったのかもしれない。


 昔はロズワードが殺されかけた時、激昂してその相手を殺したことが有る。

 でも、今はどうだろうか?

 

 仮にロズワードが敵将に討ち取られたとしよう。 

 無論、俺は怒るだろうし、悲しむだろう。


 正直、そんな未来は考えたくない。


 しかし同時に算盤を弾いている自分もいる。

 その国との戦争を、どの程度で手打ちにするべきか……と。


 だけど……


 「……これは加護の影響か? それとも俺が馴れただけなのか?」


 思想や考え方が変わる、というのは人間なら誰だってあるはずだ。

 あれから五年以上も経っている。

 人の死にも馴れたのだ。多少、冷徹に、冷静になってもおかしくない。


 それにあくまでこれは想像だ。

 実際にロズワードが殺されたら、算盤など叩き割って殲滅戦争を起こすかもしれない。


 分からない……

 今の俺は本当の俺なのか?


 アルムス()は知らない間に、ロマリア王()になってしまったんじゃないか?


 『一つ忠告するわ。その加護に頼り過ぎるとアルムスとロサイス王の区別がつかなくなるわよ』


 マーリンの声が俺の頭を過ぎる。

 ……今の俺はどっちだ?


 ぐるぐると思考が渦を巻く。

 しかし、何をどう考えても自分を自分であると立証することは出来ない。


 考えが袋小路に陥った時だった。


 「アルムス! 産声だよ、産まれた!!」


 赤子の泣き声とユリアの興奮した声により、俺の思考は現実世界に戻った。

 そうだな、今はそんなことよりもテトラの子だ。


 俺は産室へのドアを開け、ユリアと共に中に入った。

 赤子の泣き声がより強まる。


 テトラは涼しそうなポーカーフェイスを保っていた。

 が、よく見ると汗びっしょりで髪の毛が頬にへばり付き、息を切らしているのが分かる。


 「アルムス、女の子だった」

 「そうか、よくやった。今は安め」


 俺はテトラの髪を撫でる。

 テトラは気持ちよさそうに目を細める。


 「最初に抱いて良いよ」

 「本当に?」


 テトラは小さく頷いた。

 どうやら、かなり疲れているようだ。


 産婆が割れ物を扱うように、俺に赤子をゆっくりと手渡す。

 赤子は泣き疲れたのか、すでに目を瞑って寝入ってしまっていた。


 「髪の毛はお前と同じ色だな。目の色は分からないが……顔は少し俺に似ているな。名前は……そうだな、フローラにしよう」


 俺にいくつか考えていた名前の候補のうち、この子に一番似合いそうな名前を選んだ。

 名前を聞くと、テトラは安心したように目を瞑った。

 

 「そう……良い名前」


 テトラはそう呟いて、そのまま動かなくなってしまった。

 少し心配したが、どうやら寝ているだけのようだ。

 可愛らしい寝息を立てている。


 「全く、母子揃って……」


 ユリアは眠ってしまっているテトラとフローラは見比べて、苦笑いを浮かべた。

 

 俺は新しい命の重みを感じながら、一つだけ確かな答えを出した。


 今の俺が過去の俺とどう違っていても、この子の父親であることは確かだ、と。

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