第二百六話 元老院
今日はほぼほぼ説明会
九月上旬……
ついに西部征伐が終了した。
アデルニア半島以東の西部は全て我が国の領土となったのだ。
ロン、ロズワード、グラムのおかげだ。
これで前座はゾルディアス王の国だけになった。
この国に関しては、経済封鎖を続けている最中だ。
もう少し時間が掛かるだろう。
さて、それは良いとして……
中央集権化のためには、今まで国有地という形で豪族たちに統治させていた土地を俺の直轄地に変えること……つまり豪族たちの地方長官の地位を剥奪しなくてはならない。
「諸君らに集まって貰ったのは他でもない。中央集権化についてだ」
俺は淡々と豪族たちへ地方長官としての地位の剥奪を告げ、全ての国有地を俺の直轄地にすることを宣言した。
そして中央へ移り住み、貴族として生活するように命じた。
その代り、豪族たちが領地を治める上で発生した全ての借金を俺が肩代わりすること。
元老院を立ち上げ、貴族たちに政治的特権を与えること。
一定額の家禄を支払うことを約束した。
豪族たちの反応はそれぞれだった。
驚く者、平然としている者、眉を顰める者……
しかし全ての豪族たちは粛々と土地の返還を受け入れた。
少し前のアス氏族粛清の影響もあるが、それ以上に俺に逆らったとしても勝てないことを彼らは理解しているのだ。
想定通り、あっさりと全ての土地が俺の元に集約された。
ついに中央集権化が達成されたのだ。
さて……
ここからが本題である。
「諸君らに伝えたいことが有る。……今後、ロサイス王の国の名はロマリア王国と改める。そして私の名前はアルムス・ユリウス・ロサイス・アス・カエサルとし、今後私の子孫……ユリウス氏族家が王位を世襲する事とする」
豪族……いや、貴族たちがどよめきを上げた。
しかしそのどよめきを割るように、ライモンドが前に進み出た。
「陛下、今後私はロマリア王国の臣下として、陛下の家臣としてユリウス家に御仕え致します」
ライモンドは深々と頭を下げた。
それに続き、イアルやバルトロ、ロン、ロズワード、グラムが前に進み出て俺に対して忠誠を誓った。
それに続くようにあらかじめ根回しをしていた貴族たちが、ユリウス家への忠誠を誓う。
それに流されるように全ての貴族たちがユリウス家への忠誠を誓った。
「諸君らの忠誠に感謝する。さて……君たちも気になっているだろう元老院についてだが……」
俺はライモンドに目配せした。
ライモンドは貴族たちの前に立ち、元老院に関する説明を始める。
その内容を簡単にまとめると……
まず元老院の議席は三百である。
このうち二百三十三は俺が任命して、残りの六十七は順次埋めていく。
ちなみに何故三百議席なのか、全ての議席を埋めないのか、埋めないにしてもどうして二百三十三という数字なのかというと……
まず確実に元老院議員になって貰わなければならないのは、ライモンド、バルトロ、イアル、ロン、グラム、ロズワード、ソヨン、ルルという俺にとって最も忠実な忠臣。
次に各有力貴族家の家長たち。
そしてキリシア人に配慮する形で、貴族に列せられた外国人有力者……エインズやアレクシオスたち。
最後に優秀な呪術師である。
それらを全て合わせると、丁度二百三十三なのだ。
二百三十三という数は中途半端だが、これ以上我が国から議員を出そうとすると際限なく広がってしまう恐れがある。
二百三十三という数字が最も適切だ。
しかしやはり二百三十三という数字は中途半端である。
そこで議席総数を三百とし、残りの六十七議席は外交や内政のカードとして利用する。
つまり敵の豪族を調略したり、功績を上げた人間に褒美を与えるための空席だ。
尚、元老院議員になるためには最低限の条件を設けさせてもらった。
・満二十歳以上の男子または国家呪術師であること
・十年以上の軍役経験者、または相応の武功を有していること
・何らかの公職の経験者であること
この三つが最低条件である。
ちなみに元老院議員の任期は終身であり、本人が辞任を申し出るか俺が辞任を命じるかしない限りその地位は保障される。
終身だと組織の新陳代謝が悪くなるのでは? と思うかもしれないがそもそもアデルニア人の平均寿命は五十歳。
つまり最長でも三十年程度しか議員にはなれない。
その上、元老院議員は元々豪族であり、領主であり、つまるところ軍人であり、前線に立って戦う人間だ。
体を酷使するし、討たれることもあるだろう。
組織の人材の入れ替えは問題無く機能する、というのが俺の見込みだ。
そして大切なことだが、元老院議員の地位は世襲ではない。
三百議席全てが埋まった段階で、元老院議員の選出方法は俺が指名する形から一定の役職を経験した人間だけが入れるように改定するつもりだ。
まあ、その一定の役職を得るにはコネや財力が必要になるので、結局世襲化は避けられないが。
そこそこの刺激にはなるだろう。
元老院議員の選出方法や、任期、条件の説明を終えると俺は元老院の役割について説明を始める。
元老院の役割は国王の諮問機関であることで、その役割は国王への助言である。
要するに現状では元老院に政治的決定権は存在しない。
俺が助言を求めたい時に招集され、俺の出した法律や命令に関して審議して俺に助言をする。
それだけの機関である。
また政務官の選出も元老院で行われる。
俺が政務官を推薦して、それを元老院が追認する形だ。
つまり元老院が認めなければ、俺は政務官を選べないわけだが……
実際のところ、俺の出した人事案に文句をつける気概のある元老院議員は居ないだろう。
「元老院に対する説明はもう良いだろう。ライモンド、下がって良いぞ」
俺はライモンドを下げさせ、今度はイアルに目配せした。
イアルが静かに立ち上がる。
俺はイアルに政務官に関する説明をするように命じた。
その内容を簡単にまとめると……
政務官とは日本で言うなら、大臣に相当する役職で下級官吏の統率がその主な役割だ。
今までは、こういった役職は国王が臨時で命じていたりして、その役割や職権が及ぶ範囲は明確に定められていなかった。
しかし、これは大きな問題である。
そういうわけで正式に法律でその役職を定めることにしたわけだ。
主な役職は五つ。執政官、法務官、財務官、按察官、監査官である。
執政官は常に二名で任期一年。但し、元老院システムが軌道に乗るまで時間が掛かると思われるので最初の任期は十年とする。
国王の補佐、下級官職の統括、国王不在時の行政、法案の提出など。
臨時職を除く、最高官職である。
要するに国王を除くと、ロマリア王国に於いてはナンバー二、ナンバー三に当たる。
問題は誰をこの役職に当てはめるかだが……
悩んだ結果、バルトロとイアルの二人を推薦した。
内政は俺でも出来る。
外交と軍事はイアルとバルトロにしか出来ない。
そういう判断だ。
この人選はこれからも積極的に軍事活動をして、領土を拡張していくことを内外に示すことに成るだろう。
法務官は執政官の一つ下の官職である。任期は一年。こちらは執政官と違い、今年から毎年メンバーを変える。
執政官の補佐がその役目だが……
法務官には執政官には無い、別の役目がある。
裁判だ。
日本で言うなら、法務官は裁判官に当たる役職であり司法権を掌握する。
非常に大きな権限を持つ役職だ。
まあ、法務官の司法権は国王から与えられたモノなので俺は法務官の決定をいくらでも引っ繰り返すことが出来るのだが。
我が国の全人口は前の国勢調査では約八十万人であることが分かっている。
現在は征伐の結果約百万に到達した可能性が高い。
確かどこで見たかは覚えていないが、日本の裁判官は人口十万人当たり約二人だった。
つまり我が国の場合は二十人居れば事足りる計算になるが……
この世界の裁判事情を考えると、八人もいれば十分だろう。
そもそも訴えそのものが少ないし、同盟市や自治市には独自の裁判制度もある。
家庭内の紛争は家長が私刑をし、家族間の紛争は話し合いで解決されるのが慣習。
おそらく、主な訴えは治水関係になるだろう。
裁判制度や刑法の整備も必要だが、まだ手が回らないので今は後回しにしている。
尚、法務官の人選だが……
ロズワードとロンの二名、キリシア人貴族から二名、アデルニア人有力貴族から四名を推薦した。
ロズワードとロンの人選は俺の権力基盤の強化と二人に経験を積ませるため。
キリシア人貴族を入れるのは、キリシア人が一方的に不利にならないように、または一方的に不利になっていると思わせないためである。
本来はソヨンにも参加して欲しかったが、彼女は妊娠中だ。
致し方がない。
次に財務官。法務官の一つ下の官職である。こちらも任期一年だ。
読んで字のごとく、財務を担当する人員である。
国庫の管理、税金の徴収、戦争時に於ける兵站管理などを受け持つ。
常設二名だが、必要に応じて数を増やす。
この財務官には一名、エインズを推薦した。
次に按察官。これも任期一年だ。この役職は執政官、法務官、財務官の縦組織から外れる別系統の官職だ。
主に国内の治安維持や道路、橋などの修繕、公共事業。市場管理、そして開拓事業などがその役目である。
按察官三名中、一名はグラムだ。
ロマリアの森の開拓はグラムにしか出来ないからである。
その他二名は適当な貴族を推薦した。
本当はルルも按察官になる予定だったが……どうやら女の子の日が来ていないらしい。
つまり、そういうことだ。あいつも致すことは致しているというわけだ。
すぐに産休になる可能性のある人物を指名するわけにはいかなかった。
最後は監査官である。
この役職に任期は無い。俺が罷免しない限り、終身だ。人数は一名。
その仕事は官僚、政務官の監視。国勢調査。国内の防諜、及び国外への諜報活動。貴族、同盟市、自治市への監視など。
場合によっては執政官よりも大切な役職だ。
俺は監査官にライモンドを推薦した。
ライモンドならば、この大役を引き受けてくれるだろう。
ちなみに、国内の防諜活動は元々ロンの仕事だったが、これを機会にロンの指揮下から外れてライモンド指揮下になった。
ロンには戦場に出て武功を立てて欲しい。
以上が常設の政務官である。
尚、政務官とは少し違うが呪術師や魔術師を統括する呪術院、魔術院の院長はそれぞれユリアとテトラだ。
説明が終わったところで、俺は静かに立ち上がった。
「さて、早速第一回目の元老院を開きたい。最初の議題は以下の政務官の任命だ。私の推薦に異論は無いか?」
当然のことだが、全ての元老院議員の賛成を持って以上の人事案が成立した。
さて、一先ず豪族への対応は終わった。
次は自治市と同盟市への対応だ。
『首筋に近衛騎士団という剣を当てられている中で、あの国王に逆らえる奴がいるわけない。逆らった愚か者は全て消された。我々は賛成を投じるしかないのだよ。しかし、気に入らないのはちゃんとこちらにも政治的な役職を回してくることさ。ちゃんと仕事をしている限りは評価してくれるしね。ああ、全く最高の君主だね』
―とある貴族の走り書き ロマリア帝国大学の資料より抜粋―
『ロマリア史上、最も家臣の心理を操ることに長けた皇帝はアルムス帝であろう。アルムス帝には神がかり的なカリスマ性はなかった。かと言って、密告政治や恐怖政治をしたわけでも無い。しかし全ての貴族や平民はアルムス帝の命令を粛々と受けた。
アルムス帝は家臣から強烈に好かれていたわけでも無く、極端に恐れらてていたわけでもない。
ただ、誰にも嫌われず、恨まれなかった。
まあ、アルムス帝を嫌い、恨んだ者は全員あの世に行っているわけだから、ある意味当然でもあるがね。
少なくとも、俺には真似できないね。
この世界で最も多くの人に恨まれているのは俺だろうさ。
まあ、敵の殆どが外にいたアルムス帝と、敵の殆どが内側にいた俺とでは、俺の方が恨まれやすいのは仕方が無いがね』
―ガイウス・ユリウス・カエサル・ウェストリア・アウグストゥス・パーテル・パトリアエ
賢帝回顧録より抜粋―
最近、序盤の土器と木炭と除虫菊の下りって要らなかったなあ……と思ったりする
先のストーリ―展開にはあんまり関係なかった。あと、アルムス君土器と木炭作れるのってご都合主義過ぎないかと今にして思ったりする。
あそこ、面白かったっていう人居ますか? 削っちゃいたいなあとか思ったり。そんな暇があったら次の話書くけどさ。
まあ、改稿してエターはなろうの王道だからやらないけど、ちょっと修正したいところは山のようにあるんだよね。
あと、どうでもいいけどロマリアの森での土地勘生かして、商売やって富を稼いで建国する
という流れも良かったなあ、とか思ったり。まあこのネタはまた今度やれば良いか。




