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異世界建国記  作者: 桜木桜
第六章 建国と王太子
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第二百三話 自殺

皆様へ、アブラアムさんが言いたい事があるそうです

 「……こ、……こは……?」


 「!!分かりますか? 声が聞こえますか? 聞こえたら瞬きを二回してください!!」


 アブラアムの意識は甲高い女性の声により、徐々に覚醒し始めた。

 アブラアムは分けの分からぬまま、瞬きを二回する。


 「目を覚まされました!! 陛下とユリア様とテトラ……様をお呼びして!!」


 女……ルルが部下の呪術師に命じる。

 バタバタと呪術師たちが行動を始める。


 呪術師たちの足音と慌てふためく様子を見ているうちに、アブラアムの記憶が戻ってきた。


 (……そうか、俺は死に損ねたのか)


 アブラアムは記憶にある最後の行動を思い出した。

 アブラアムの指輪の台座には、猛毒が用意されていた。

 連行される前に用意したのだ。


 服毒死をするためだ。


 もっとも、結果として死ねなかった。 

 毒の量が少なかったのか、それともロサイス王の国の呪術師の医術が優れていたか……

 

 「お爺様!!」


 ドアを開け、勢いよく空色の髪の女性が入室する。

 テトラだ。


 「テ、テトラさん!! お腹の子に障るから! 歩いて!!」


 アブラアムに飛びつこうとするテトラを、ルルが慌てて抑え込む。

 最も、テトラに対する敬称が昔に戻っている辺り、ルルも相当慌てていることが分かる。


 テトラはルルに止められて少し冷静になったのか、早歩きでアブラアムの元に向かった。

 アブラアムの枯れ木のような手を掴む。


 「……心配した。バカ……」

 「……す、ま、……た」


 アブラアムの口から出た謝罪の言葉は、人間の言葉に成らず、枯草が擦れるような音を立てて消える。

 アブラアムは苦笑いを浮かべた。


 「アブラアム。調子はどうだ? いや、答えなくていい。体力を使うだろうからな。まずは体を治せ。説教はそれからだ」


 「全く……少しでも発見が遅れてたら死んじゃってたんだから。妊婦を駆り出さないでよね」


 ユリアがため息交じりに文句を言う。

 しかしその表情は穏やかだ。


 「閣下。このお薬を飲んでもらいます。もし飲めないというのであれば、匙で少しづつお口元に運びます。お椀ごと飲めるなら一回、匙で少しづつ召し上がるのであれば二回、瞬きをして下さい」


 アブラアムは瞬きを二回した。


 ルルが木製のお椀に入った、薬湯に少量の小麦粉を溶かしたドロドロの液体をアブラアムの口元に近づけた。

 ルルは角度に気を付けながら、慎重にアブラアムの喉に薬湯を流し込む。


 少しづつアブラアムは薬湯を胃袋に収めた。

 

 飲み終わるのとほぼ同時にアブラアムは強烈な眠気に襲われた。

 一気に力が抜けていく。


 「安心してください。睡眠薬を混ぜただけですから。ゆっくり体を休めてください」


 アブラアムの意識は闇に沈んだ。






 「アブラアム殿にはゲヘナに対する人質になって貰う」

 「……そうか」


 アブラアムは観念したように、項垂れる。

 もう自殺する意思は無いようだった。


 あれから二週間でアブラアムの体力は回復した。

 ユリアの作った解毒薬のおかげだ。


 その後、テトラからこっぴどく叱られたらしい。

 泣きながら。


 テトラからすれば自分の息子を除いて、唯一の血縁者がアブラアムだ。

 

 俺は前世、今世含めて両親は居ない。

 ユリアは両親を失っているが……母親は物心付く前に死んでいるし父親に関しては万策尽した上で死んだのだから、そこまでの悲しみは無いだろう。


 しかしテトラは違う。

 テトラの両親は部下に殺害され、テトラ自身の身分も転落した。


 そのショックは大きかったに違いない。

 復讐も終わり、今は思うところは無いだろうが……心に古傷として残っている。


 アブラアムの自殺はテトラの古傷を刺激したのだろう。


 アブラアムもそのことが伝わったのか、テトラに対して謝罪し二度と自殺しないことを誓った。

 捉え方によっては、僭主としてのアブラアムを完全に捨て去り、テトラの祖父としてのアブラアムに成った……と考えることが出来る。



 「ゲヘナはこれからどうなる?」

 「すでにゲヘナ支配下にあった都市国家の多くはゲヘナとの関係を断ち切り、ゲヘナと同等の同盟を我が国と結んでいる。すでに大国ゲヘナは消滅した」


 これはレザドもゲヘナもネメスも同様だ。

 かつては多くの都市国家を従えていたが、今は小さな一つの都市国家に転落している。


 もっとも、それでも多くの人口を抱えていて、侮れない国力を有しているという点では同様だが。


 「……そうか、俺の今までの努力は無駄か」

 「そんなことは無いでしょう。ゲヘナの国民が生活は豊かになったのは事実だ。別に搾取しようとは思っていない。ゲヘナにはこれまでと同様に自治を約束する」

 「……感謝致します。アルムス陛下」


 アブラアムは頭を深々と下げた。

 反抗の意思は見られない。


 一件落着だな。


 「……しかし、これから大変なのではないか?」

 「大変?」

 「聞くところによると西部征伐も順調に進んでいるとか。その上、貴国はゲヘナまで併合した。もはやアデルニア半島一の大国と言っても良い。……対ガリア同盟とやらは長持ちせんでしょう」

 

 流石アブラアムと言うべきか。

 それは俺が今、最も懸念していることだ。


 「もしあなたがファルダームやギルベッド、ドモルガルだとしたらどうする?」

 「……エクウス、エビル、ベルベディル。この三国を味方に付けるために外交工作を図る。特にエクウスは厄介だ。逆に考えればエクウスとロサイスの軍事同盟が崩れれば、ロサイスは動けなくなる」


 ふむ……

 俺の想定と同じだな。

 

 「あなたならどう対応する?」

 「友好関係に自信があるならば、婚姻関係を結ぶか同盟を強化するかをして、付け入る隙を無くす。自信がないのであれば、先手必勝。先に滅ぼしてしまう。特にベルベディルは滅ぼしてしまって構わないでしょう」


 なるほどね……


 「その顔を見ると、少し違うようですな?」

 「まあな。あなたは幸運だ。歴史の一ページを見ることが出来るのだから」


 そろそろ、エビル、ベルベディル、そしてエクウスとの微妙な上下関係にも蹴りを付ける。

 無論、そんなことをすればファルダーム王やギルベッド王は勿論、ドモルガル王も顔を顰めるだろう。


 対ガリア同盟はゾルディアス王との戦までは維持する。

 それ以降は……不必要だな。


 そろそろ本腰を入れて、大事業に取り掛かる時が来た。


 「後五、六年ほど、長生きすることをお勧めする。そうすればあなたはアデルニア半島の統一を見ることが出来る」

 「……やはり統一まで視野に入れていたか。死ねない理由が増えましたよ」

  

 アブラアムは愉快そうに笑った。


 「もし、何か困ったら私に相談して下さい。これでも一国を統治し続けてきた老人。多少の役には立つでしょう

 

 「南方への睨み……ポフェニア対策も必要になるはず。私がポフェニアに放っていた密偵への指揮権は全て陛下に御渡しします。問題なく機能するはずです」

 「それは助かる。感謝する、アブラアム殿」


 俺はアブラアムに対して軽く会釈した。








 「イアル、対ガリア同盟の件についてだが……例の工作は上手くいったか?」


 俺はイアルに命じていた工作……アデルニア人解放戦争を回避するための工作の経過を尋ねた。

 イアルは満面の笑みを浮かべる。


 「ええ、上手く騙されてくれましたよ」

 「そうか。なら結構。上手く行けばアデルニア人解放戦争は頓挫するだろう」


 アデルニア人解放戦争の頓挫はロゼル王国の権威復活を意味する。

 つまり再びロゼル王国が調子に乗り始めている……ように見えるわけだ。


 実態としては、北東部の鎮圧が終わっていない以上アデルニア半島に南下はできない。

 しかし、傍から見れば復活したように見える。


 そうなれば、アデルニア諸国はどうしてもロゼル王国の南下に備えなければならない。


 我が国の必要性も自然と上がる。

 これで対ガリア同盟の寿命も少しは伸びる。


 ……もう少しで良い。

 あと数年……二年ほど持ってくれれば良い。


 ゾルディアスさえ屈服させれば、もはや同盟など要らない。

 道筋は出来ている。

 後は辿るだけだ。



 問題があるとすれば二つ。


 「一つはユリアに男の子が生まれるか、生まれないかだな」

 「そればかりは天に任せるしかないでしょう……どうしようもありませんよ」


 そうだな……

 どんなに努力を重ねても、人生は結局乱数で決まる。

 神が俺の味方に成ってくれるのを祈るしかないだろう。


 そしてもう一つは……


 「ニコラオスの日食予測が当たるかどうかだな」


 ニコラオス曰く、九月の中頃には皆既日食が起こるらしい。

 この世界の月は太陽よりも大きいこともあり、真っ暗になるだろう。


 昔、金環日食なら見たことあるが皆既日食は初めてだ。

 実は結構楽しみにしている。


 これがどうして重要なのかというと……


 「俺が皆既日食を予測したら、きっと面白いことになる」

 「……本当に太陽が隠れるなんてこと、あるんですか?」


 まあ、九月になってみれば分かるさ。

 ユリアの子供も、ニコラオスの日食予測もね。


 全て上手く運ぶことを祈ろう。

 願わくば、神の御加護を……


 なんていうのは柄じゃないか。


 ユリアの子供が女の子だった時と日食が外れた時の対策を打っておくか。

 後者はともかく、前者は……


 ロサイス氏族の男子とフィオナの婚約か、それともアンクスとロサイス氏族の女子との婚約か。

 どっちが無難かな……

アブラアム「おい、貴様ら。まるで俺が死んだみたいな扱いはやめろ。まだ毒飲んだだけだろ。毒飲んだだけなのに、感想欄葬式モードとはどういうことだ。死んでねえぞ。俺は!! 死んだと明言されてない以上は生きてる可能性あるんだよ。カッコイイ最期でしたね、じゃねえよ。良い幕引きでもねえよ。俺、まだ死んでねえよ。まだ生きてるんだよ。曾孫の顔みるまで死ねねえよ。いや、死のうとしたけど……でも、死んでない。死んでないのに、死んだ扱いはやめろ!!!!」



一応、言っておくと殺すつもりは最初から毛頭無かったです。

だって、曾孫見れないのに死ぬの可哀想じゃん?


今回のタイトルを「アブラアム死す!?」にしようかと迷ったけど、それはさすがに自重しました


まあ、人はいつか死ぬけどね

グリフォン様は死なないけど

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