第百九十八話 逃亡Ⅱ
一日投稿しないだけでそわそわしてしまう俺はなろう作家の鏡
思ったよりも早くロンたちへの慰安が終わってしまったので、俺はレザドへ向かった。
レザドの統治状況を視察するため……というのが名目。
実際にはレザド近郊で発掘された温泉に浸かるためであり、本質はユリアたちからの逃走である。
ライモンドからはあと一週間は休んでくれと言われている。
俺も暫くは戻りたくないので、レザドでゆっくりするつもりである。
「これはこれは……国王陛下。ようこそ、レザドへ」
出迎えてくれたのは、レザドの元議員たちだ。
皆、良い顔をしている。
少なくとも今のところは問題は発生していないようだ。
「ああ。ところで一つ聞きたいのだが……アレクシオスはどうした?」
メリアも見当たらない。
あの二人の立場なら、俺を出迎えるのが普通だと思うのだが……
「ああ、あのお二方は海賊討伐に出られています。今日の午後には到着すると思いますよ」
そうか、じゃあ午後になるまで待つか。
「一つ聞こう。例のブツは完成しているか?」
俺は少し前に注文した衣服について尋ねる。
議員たちは苦笑いで頷いた。
「え、ええ……あの珍妙な……いえ、変わった服のことですね? 完成していますよ」
そうか、なら良い。
「うん、よく似合ってるよ」
「そ、そうですか? その……服の丈が短いような気がするのですが……」
「何言ってるんだ。動き回るんだから、丈は短くないとダメだろ」
アリスが恥ずかしそうに身悶える。
アリスは俺の護衛として、俺の逃亡劇に参加していた。
アリスが一人居れば、護衛の大半が要らなくなるほどアリスは優秀である。
さて……そんなアリスが来ているのはメイド服であった。
しかしただのメイド服ではない。
忍者風メイド服だ。
アリスは暗殺者だ。暗殺者と言えば忍者だ。
故にメイド忍者である。
要するに俺の趣味だ。
ちなみにメイド忍者がどのような恰好なのかというと、メイド服に和服の要素を取り入れただけだ。
ちなみに色は紫色だ。
貝紫ではない。紫キャベツで出来た染料だ。
「だったらズボンじゃダメだったんですか?」
「ズボンは蛮族が履く服だとアデルニアでは考えられている。国王の護衛が履くのには相応しくないな」
「で、でもこんなに短いのは……」
アリスがメイドのスカートを押さえてもじもじする。
実に素晴らしい。グッと来るものがある。
最も。膝丈程度の短さなので中が見えるということはない。個人的には膝上十センチが好きなのだが、それをデザインすると絶対にアリスは着ないだろうから、膝丈で妥協した。
ちなみにアデルニア半島には『スカート』という概念は存在しない。
どういうことかというと、アデルニア半島ではトーガと呼ばれる上下一体の衣服が主流だからだ。
つまり考えようによっては全員男女関係なくスカートを履いていると考えることも出来る。
アデルニア人の文化はキリシア人から輸入されたモノが大半なので、キリシア人も同様に上下一体の衣服だ。話を聞く限りでは、ポフェニアもキリシアも同様である。
ただズボンが存在しないわけではない。
半ズボンなら存在する。兵士が鎧の下に着こむだけで、日常的に履かれることは無いが。
長ズボンを履く文化があるのは、ゲルマニスかガリアだけだ。
ガリアもゲルマニスも文化的、技術的にはアデルニア半島に大きく劣っているため、長ズボンは蛮族や無教養な人間が着るものだと考えられている。
まあ、俺としてはズボンの方が履きやすいし衣服として優れていると思うが。
無理に広めようという考えはない。
慣れればトーガだって快適だ。
「陛下……これ、着てなくちゃダメですか?」
「取り敢えず今日一日は着て貰うぞ」
スカートがキリシア人にどのような反応をされるか、確認したい。
高評価だったらユリアやテトラにもスカートを着てもらう。
「いや、でも本当に似合ってるぞ?」
「ほ、本当ですか? か、可愛い……ですか?」
アリスが顔を赤らめて尋ねる。
「ああ、可愛いよ。赤紫の布地がアリスの綺麗な金色の髪を引き立たせてる」
「そ、そうですか……きれい……キレイ……綺麗……」
アリスが自分の髪を弄り始める。
アデルニア半島やキリシアには金色の髪の女性は少ないので、自分の髪の毛に関しては内心、相当自身を持っているだろうな。
かれこれユリアやテトラと結婚して五年になるか。
口も達者になったな。俺。
「国王陛下! アレクシオス殿がお見えになりました!」
「そうか、今行く」
「海賊討伐、お疲れ様」
「ありがとうござます。まあ、俺からすれば海賊なんて敵じゃありませんよ」
アレクシオスは自信気に胸を張った。
「海賊ってのはどれくらいだったんだ?」
「船は十隻。人数は三百人くらいです。まあ、これくらいの規模の海賊は月に一回、二回は出没しますね。それくらいテーチス海貿易が盛んということになりますが」
船十隻で三百人……つまり一隻辺り三十人か。
イマイチ想像できないな。
そもそも海戦ってどうやってやるんだろうか?
衝角突撃で敵の船を沈めるとは聞たことあるけど。
「三段櫂船や五段櫂船ってのはどれくらいの人数が乗船するものなんだ?」
「三段なら二百人、五段なら三百人くらいですね。漕ぎ手が大半ですよ」
そんなに乗るのか。
精々、五十人くらいだと思ってた。
「戦いは衝角突撃が基本なのか?」
「よくご存じですね。はい、そうです。ただ、衝角が敵の船に埋まったまた身動きが取れなくなってしまうケースもあります。衝角突撃をするには高い技術が要るんです。ですから弓矢や大弩で攻撃したり、梯子を渡して船の上で戦ったりすることもありますよ」
ふむ……
もし我が国が海軍を組織するなら、衝角突撃よりも船上での戦いを重視した方が良いかもな。
「なあ、アレクシオス。仮に我が国がポフェニアと本格的に敵対した場合、どうすれば良いと思う?」
「……陛下はトリシケリア島を取るおつもりなのですか?」
「いや、くれるなら貰うが……仮定の話だよ、仮定の」
何故かアレクシオスが身を乗り出すので、俺は両手でそれを制する。
アレクシオスはポフェニアと戦いたいようだが、俺はポフェニアとの戦いは出来るだけ避けたいと考えている。
だって、相手はテーチス海を支配する海洋大国だぜ?
まともに戦って勝てるはずがない。
とはいえ、対抗策くらいは考えておく必要がある。
「そうですね……陸戦ではまず負けることは無いと思います。ロサイス王の国は徴兵制、一方ポフェニアは傭兵制。動員できる兵力に差があります。陸ではまず数がモノを言いますからね。しかし海戦では厳しい戦いになりますね」
やはりアレクシオスの見立てでは、ポフェニアの方が遥かに海戦では上のようだ。
いや、そんなことは幼子でも分かるか。
「ただ……ロサイスの利点を生かせば勝機はあると思いますよ?」
「例えば?」
俺が尋ねるとアレクシオスは指を三本突き出した。
「一つは呪術師です。ポフェニアやキリシアでは、船に女性を乗せると船が嫉妬するという迷信があるため軍船には呪術師を乗せることがありません。しかしロサイスにはそんな拘りは無い」
どこかで船の代名詞は『She』だと聞いたことがある。
この世界でも船は女性のようだ。
しかし呪術師を使わないのか……便利だと思うんだけどな。
索敵とか、広い海原を探索するには呪術師の目が不可欠だと思う。
「二つ目は火の秘薬です。船は木でできていますから。あれは効果的だと思いますよ」
「昔テトラが作った火炎放射器があるんだけど、それ役に立つと思うか?」
「実物を見てみないとどうとも……今度、見せてください」
大弩で命中させるのは難易度が高そうだが、衝角突撃を仕掛けてきている船を火炎放射器で燃やしてしまうのはありかもしれない。
牽制にもなるだろうし。
「三つ目は陸戦です。ロサイスの兵士はポフェニアの傭兵よりも遥かに強い……船の操縦技術なら兎も角、船上での戦いなら有利に立てると思いますよ」
船上か……
そう言えば……
「なあ、アレクシオス。船にこういう感じの機械を付けることは出来るかな?」
「ふむ……これは……」
俺は紙に簡単な模式図を書いて、アレクシオスに見せる。
アレクシオスは唸った。
「確かにこれなら船上での戦いが遥かに楽になります。……しかし船が安定しなくなる可能性もありますね……取り敢えず、技術者に作らせて演習してみます。効果的だと判断したらご報告します」
「そうか、ありがとう」
まあ、一番の最善はポフェニアと戦いにならないことだな。
「ふう……休まるな……」
ようやく夜になり、温泉に浸かることが出来た。
温泉のお湯を少し舐めてみる。
ショッパイな。
やはり海が近いからか。
俺は空を眺める。
今晩は月が綺麗だな……
この世界の月は前世の世界よりも数倍大きい。
日本の都市部とは違い、人工的な光が殆ど無く空気が澄み切っているため、星も美しい。
プラネタリウムのような、満天の星空だ。
まあ、前世の世界とは空の様子が全然違うけどね。
天の川? の形も全然違う。
もしかしたら、違う銀河系なのかもしれない。
いやそもそも同一の宇宙かどうかも怪しいところだが。
「月が綺麗ですね……」
「そうだな……」
ん!?
俺は視線を空から地上に下ろした。
そこには満月と同じような、いや月も霞むほど美しい金色の髪の女性が立っていた。
アデルニア人とは全く違う、真っ白い肌。
手で隠しているが、隠しきれないほど大きな果実。
腰は綺麗に括れていて、お尻は美しい曲線美を描いている。
手足は長く、美しい……
そんな女性が……アリスが立っていた。
「お、おい! アリス!! 何でここに!!」
「陛下の護衛ですから」
「なるほど、確かに……いや、おかしいだろ!!」
その理論は成り立たない。
俺が戸惑っていると、アリスは顔を上気させながら近づいて来た。
「陛下……す、……好きです……」
アリスは恥ずかしそうに声を上擦らせながら、俺に告白していた。
温泉に浸かっているからか、裸が恥ずかしいのか、告白で緊張しているからか……
顔が真っ赤だ。
「……知ってましたよね?」
「ま、まあ……お前が俺に好意を寄せてたのは……薄々感づいてはいたが……」
俺が言い淀んでいると、アリスに抱き付いた。
アリスの胸が俺の胸板に押し付けられ、形が変化する。
……大きいな。ユリア以上だ。
それに柔らかい。
俺はアリスの高い身体能力から、てっきり筋肉質な体をしていると思い込んでいたのだが、十分に女性らしい体だ。
「私のことは嫌いですか?」
「い、いや嫌いじゃないが……」
「じゃあ抱いてください」
アリスはそう言って俺の体の一部に触れる。
アリスの白い指がそれを包み込んだ。
「御二人が妊娠してから、女性は抱いていらっしゃらないんでしょう? 御自分でするのも限界があるはずです」
確かにこの世界には、日本と違って所謂アレが充実していない。
その所為で消化不良に終わったことも何度かあったのは事実。
「陛下……」
アリスは恥ずかしそうに顔を俺の胸板に埋めている。
俺の目にアリスの大きな……ユリア以上に大きな胸が目に入る。
汗か、それともお湯か……月明かりで反射している。
生唾が自然と喉を通過した。
気付くと俺の手はアリスの背中に周っていた。
暖かく、すべすべとしていて、柔らかい背中がそこにはあった。
右手を下げていくと、緩やかな曲線を描いている箇所に到達する。
「アリス……」
俺が呼びかけると、アリスは潤んだ瞳で俺を見上げた。
ふっくらとした、ピンク色の形の良い唇が目に入った。
俺はその唇にしゃぶりついた。
下を中に入れ、アリスの中を掻きまわす。
その接吻は……
とても背徳的な味がした。
賢者モードという言葉がある。
性行為や自慰をした後に、ふと「あれ? 俺何やってるんだ?」という悟りを開いたような感覚に陥ることを言う。
一説には、大昔人間が猿だった頃、性行為の後に脳味噌を切り替えて周囲を警戒するために備わった機能だそうだ。
正直、現代の人間には要らない。
無くして欲しい。
これが無ければ……
「俺は何をやってるんだ……」
こんな罪悪感に包まれることは無かっただろうから。
確かに妻と上手く行っていない。
原因は第三者的に見ても妻の方に非がある……と思う。
だからと言って、妊娠中の妻を放り出して別の女性と温泉で浮気旅行をしていいだろうか?
いや、してはいけないに決まってる。
離婚届を出されても文句は言えない。
ただでさえ、二人も妻が居るというのに!!
俺は何をやってるんだ!!
「まあまあ、しちゃったのは仕方が無いじゃないですか」
「アリス!! このことは絶対に秘密だぞ!!」
「はい、分かっています。二人だけの秘密ですね?」
何故嬉しそうなんだ……
そうか、思い人と一つに成れたもんな。そりゃ嬉しいよな。
いや、俺もアリスのことが嫌いというわけでは無い。
しかしユリアやテトラと比べると、付き合っていた時間が長い方に軍配が上がる。
俺は自分では自分ことを、誠実な夫だと思ってる。
だからアリスの好意は半ば、気付いていない振りをしていた。
恋心というのは風邪みたいなものだ。
アリスの場合、俺に助けて貰ったという恩義と。戦場を共にしているという緊張感から生まれる吊り橋効果が合わさっただけである可能性も高い。
だから彼女からの愛には答えるつもりは無かった……無かったが……
「どうやら俺は自分で思ってた以上にダメな人間だったみたいだな……」
ああ……
ユリアとテトラに顔見せ出来ない……
「良いじゃないですか。それを言ったら奥さんが二人いる時点でダメですよ。二人が三人に成るだけです」
「……言っておくが、お前を妻には出来ないぞ?」
「言われなくとも分かっていますよ。身の程は弁えています」
そうか……
なら、取り敢えず良しとしよう。
「陛下、これからも御二方が同時に妊娠してしまうということが有るでしょうし、戦場に奥方を連れまわすことも難しいでしょう。どこか遠いところに視察に行く場合、奥様を連れていくことが出来ないときもあるでしょう。でも、私はいつでも陛下の御側に居られます。ですから……いつでも良いですよ?」
……
……
「明日も出来るか?」
「喜んで!!」
レザドに滞在して三日が過ぎたころ……
すでに視察ではなく、温泉浮気旅行と化したレザドでの生活は思わぬタイミングで終わりを告げた。
「へ、へい、げほ、げほ」
「落ち着け。一先ず水を飲め」
俺はライモンドからやってきたと思われる使者に水を渡した。
水を飲ませて、呼吸を落ち着かせる。
「それで、用件は何だ?」
「ライモンド様から至急、お戻りになって欲しいと……申し訳ありません、理由は分かりません」
ふむ……
早馬に知らせられない内容か……
最初はユリアやテトラの容体が急変したのかと思ったが、どうやら違うみたいだな。
ユリアやテトラの容体の場合なら、使者に封をした手紙を持たせるだけで良いはずだ。
しかしライモンドは俺に早く帰ってこいと伝えるだけで、手紙すら持たせなかった。
つまり、もしものことが有って中身が見られれば一大事になるような内容ということだ。
「よし分かった。至急、宮殿に戻る。馬の準備をしろ!!」
のんびりと馬車で帰る暇は無さそうだしな。
ソースはニコニコ大百科




