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異世界建国記  作者: 桜木桜
第六章 建国と王太子
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第百九十六話 不安

今回は忘れなかった

 第二次西部征伐が始まってから、約十日が過ぎた。

 すでに三家の地方豪族政権を滅ぼし、二家の豪族を冊封する形で傘下に加えた。


 当然の結果と言える。

 何故なら地方豪族政権が用意できる兵力は精々、三千程度。

 一方、こちらは八千の兵力だ。


 ロンもグラムもロズワードも将軍として成長している。

 是非、このまま勝ち進んでもらいたい。


 それにしても……


 「どうやら三人の中で一番軍才があるのはロズワードみたいだな」

 「そうですね、まあ彼の場合は近衛兵を率いていますから……」


 バルトロが答える。


 才能というより、慣れの問題か。

 まあそのうちロンやグラムも追いつくだろう。


 「戦後処理はロズワードよりもロンが上手いな。そしてその後の統治方針はグラムの方が優れているように見える」


 俺は三人から送られた報告書を読みながら、考察する。

 ロンは麻薬取締や防諜を担当しているから、戦後処理が上手いのだろう。残党や国内の盗賊狩りが上手い。

 グラムは森の開拓を担当しているからか、その後の経営方針に関する内容が他の二人よりも優れている。


 ロンもロズワードもグラムも、俺に似ている。

 

 バルトロやアレクシオスのような軍事的才能は無い。

 イアルのように交渉事が上手いわけではない。

 ライモンドのように政治取引に長けているわけでもない。

 エインズのように商才があるわけでも無い。


 しかし弱点も無い。

 良く言えば万能型、悪く言えば器用貧乏。


 こういう人材は一定数必要だと俺は考えている。

 というのも、人は自分の得意な分野を贔屓してしまうところがある。


 内政官は外交交渉や戦争を怠りやすい。

 外交官は内政や武力を使った戦争を怠りやすい。

 武官は内政や外交交渉を怠りやすい。


 乗り物には車輪が最低三つはないと安定しない。

 人も国も同様だ。


 全ての分野に秀でていなくとも、知識がある人間が居れば全体のバランスも取り易くなる。


 三人にはまだまだ伸びしろがあると思うので、これからも経験を積んでほしい。


 「それで、俺をお呼びになられた理由は何でしょうか?」

 「アデルニア人解放戦争については聞いてるな?」


 バルトロは大きく頷いた。

 すでにこのことは、重臣だけには伝えている。


 ユリアとテトラは妊娠中なので、伝えていない。

 自国が少し不利な立場に立たされているというのは、少なからずストレスになるだろうし。


 「この件はお前に託したい。出来るか?」

 「王命とあらば」


 バルトロは迷わず、そう答えてくれた。

 北アデルニア半島は南アデルニア半島とは緯度が大きく違うため、気候も大きく異なる。


 何より家族と離れ離れになってしまうし、戦死したらちゃんと遺体が戻ってくるか分からない。

 相手はアデルニア人と文化や宗教がまったく違う、ガリア人なのだから。


 「一つだけお聞きしても?」

 「何だ?」

 「どう戦えば良いのでしょうか? 適当に手を抜いて、被害が出ないように戦えば良いのですか?」


 そこは悩みどころだ。

 積極的に戦争に参加すれば、被害は大きくなる。


 しかしあまりに消極的になり過ぎて負ければ、激しい追撃を受けるし、甚大な被害が出る。

 例え敗北しなくとも、我が国の評判は大きく落ちるだろう。

 それは出来れば避けたい。


 「何とかして上手く調節してくれ」


 「大変そうですが、頑張ってみましょう」

 「ありがとう、バルトロ。……あと、このアデルニア人解放戦争だがギリギリで頓挫させられるかもしれない。そのことだけ、頭の片隅に入れておいてくれ」


 一つ懸念があるとすれば、我が国最強の将軍が国外に出てしまいという点だ。

 国防力が大きく低下する。

 バルトロに代わる軍人は居ないからな……いや、一人居るか。


 「話は以上だ」

 

 その後一時間ほど世間話をした後にバルトロは自分の屋敷に帰って行った。








 「すまないな、ユリア。最近時間作れなくて」


 俺はユリアの手を握り、謝った。

 ここ数日間は、ほんの少ししかユリアやテトラとの時間を作れていない。


 対ガリア同盟の件や第二次西部征伐の件でゴタゴタしていたからだ。


 「ううん、大丈夫……アルムスも忙しいだろうし……」

 

 ユリアは俺の胸に体を預けてきた。

 お腹に赤子がいる所為か、ずっしりと重い。命の重さだ。


 「……ねえ、聞いて良い?」

 「どうした?」


 ユリアは俺を潤んだ瞳で見上げた。

 少し戸惑ったように口を閉じたが、意を決したようにか細い声で俺に尋ねる。


 「……次も女の子だったらどうする?」


 一度言葉にしたからか、堰を切ったようにユリアの口から言葉が溢れだした。


 「知ってる、私の子供が後継者なんだよね? そうじゃないと国が乱れる。テトラの子供だとロサイス氏族もディベル氏族も納得しない。私の子供なら三氏族が合意できる。だから絶対に私の子供じゃないといけない。分かってるよ、分かってる。私が、男の子を、産まないと……で、でも女の子だったらどうしよう? どうすれば良いの? 私の所為で……あなたの足を引っ張ってしまいたくないの……でも、分からない。分からないよ……」


 ユリアは俺の胸に顔を埋めて、泣きながら訴える。

 俺はユリアを強く抱きしめた。


 俺は出来るだけユリアにプレッシャーを与えないようにしていた。

 城の奴隷や召使、官僚、呪術師、豪族たちにも強く言い聞かせていた。


 しかし……

 無言の圧力があったのだろうか。

 それともユリアがユリア自身を責めてしまっているのか。


 俺の本心としては、無論男の子が望ましい。

 しかしユリアはまだまだ若い。

 女性は三十代までは何の問題もなく子供を産むことが出来るし、リスクは高くなるが四十代、場合によっては五十代でも産むことは出来る。


 俺もユリアも未だ二十一歳だ。

 焦るような年ではない。


 しかしユリアにとっては違うのだろう……

 妊娠すると女性は情緒不安定になりやすい。

 ともかく、今は落ち着かせなければ。


 「大丈夫だ。足手纏いだなんて思わない。俺もお前も若いんだから。次が女の子でも、次があるだろう?」

 「次の次も女の子だったら?」

 「……次の次の次があるだろ?」

 「それも女の子だったら?」

 「……」


 あ、これはあれだ。

 女特有の答えの無い問いだ。


 「ユリア、落ち着け。深呼吸しろ」

 「落ち着いていられるわけないじゃん!! 私がどれだけあなたの事が好きで、私があなたの重荷になってないか心配してるか知らないでしょ!! アルムスは楽観的過ぎなの!!」


 その後、ユリアの説教? は二時間ほど続いた。






 「ねえ、アルムス……」

 「すまん、ユリアが情緒不安定で……」


 俺は一時間ほど遅れてテトラの元を訪れた。

 

 ユリアもテトラも仲は良いが、それでも人間だし女性だ。

 好きな男を独占したいという気持ちは当然持っていると思う。


 その辺を配慮して、俺はいつも一時間は二人っきりの時間を作っているのだが……

 今回、ユリアが一時間ほど時間を超過してしまった。


 結果、一時間テトラを待たせたことになってしまった。


 「ふーん……」


 あ、選択ミスした。

 俺は傍目では分からないが、明らかに不機嫌域に突入したテトラの表情と声色をみて、そう悟った。

 考えてみよう、デートに送れた理由が「他の女と会ってたから」だ。

 

 ……最近、選択ミスばっかりだな。

 夫婦生活が長くなって、油断するようになった所為か……


 「そういえば名前はどうしようか? 子供の名前、決めてないだろ?」


 俺は少し強引に話題を切り出した。

 テトラの方もそこまで引きずるつもりは無いのか、あっさり乗ってくれた。


 「まず、男の子か女の子か……どっちが良い?」


 これがユリアだと地雷質問だが相手はテトラなので問題ない。

 この点に関しては、テトラの方が随分楽だ。


 「うーん、男の子はアンクスが居るからな。次は女の子かな? まあ、先は長いしどちらでも良いけど」


 現代日本と違って良いところは、子育ての心配をする必要がないということだ。

 日本なら子供の学費だとか、養育費だとか、自分の仕事との折り合いとか、面倒なことを考えながら計画的に子作りしなければいけない。

 しかし今の俺は国王だ。


 百人とか二百人を超えるならば兎も角、十人や二十人ならば十分育てられる。

 乳母を用意すれば、子育てもそこまで難しくはない。


 この世界は産めば産むだけ正義だ。

 俺の場合、アルコール消毒で産塾熱のリスクを大きく下げられているので、十三人産んで成人まで育ったのが五人……とかではなく、十三人産んだら十三人育つ可能性が高い。


 ……百年後のロマリアの人口が心配になってきた。

 食糧不足になってないだろうか?


 「アルムス……」

 「何だ?」

 「少し不安がある」


 ……

 俺の背中に冷たい汗が伝う。


 「アンクス、殺されたりしない?」


 何故!?

 理論が飛躍してるぞ!!


 「ほら、ユリアの子供が女の子だったら……その……ユリアはそういうことしないって信じてるけど……ライモンドとかバルトロとか……イアルとか……」


 「いやいや、考え過ぎだよ。確かに三人とも性格すごく悪いけど、根は良い奴らだし。そんなことは絶対にしないって。というか、俺がさせない」

 「本当に本当?」

 「本当だ、大丈夫。俺が付いてる」


 俺がテトラを抱きしめ、頬にキスするとテトラは顔を赤らめた。

 そして俯き加減で、細い声を出す。

 

 「ごめん、考え過ぎた。ちょっとおかしくなってる。……そんなこと有り得ないよね」

 

 しかしすぐにテトラは不安に揺れる瞳で俺を見上げた。


 「もう一つ心配なことがある」

 「何だ?」


 その後、三時間ほどテトラの考えすぎによる不安事を聞き続けることになった。


多分、バルトロもイアルもライモンドもアルムスの命令があれば何の躊躇もなく誰でも殺せるだろうし、国のためだと思えばアルムスの命令無しでも動く可能性はある


特にイアルとバルトロは眉一つ動かさない


まあ、アンクス殺しても何の意味ないけど

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