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異世界建国記  作者: 桜木桜
第六章 建国と王太子
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第百九十四話 国際外交Ⅱ

複雑怪奇

 ラブレターが来た……


 ラブレターを貰ったのはこれで人生で六回目である。


 最初の一回目は五歳の時、孤児院の女の子に貰った。

 二回目、三回目は小学生二年生の時、二枚別々の子から貰った。

 四回目は五年生の時。バレンタインデーのチョコレートに爪と一緒に入っていた。

 五回目は中学二年生の時、下駄箱の中に「好き好き好き好き(以下略」というのを貰った。そっ閉じした。


 そして今日、六回目。

 相手はペルシス帝国皇帝、諸王の王、クセルクセス帝。


 使節を送ったのは数か月前だ。

 おそらく、クセルクセス帝に俺の親書が届いたのは一か月前くらいだろう。


 確かにアデルニア半島からキリシア半島までは、船を使えばあっという間に到着する。

 だが相手は大国の皇帝だ。

 返事が来るまで一年掛かってもおかしくないと思っていたのだが……


 来ちゃった。

 しかも手紙には「面見せろ」と書いてある。


 「どうしよう……」

 「ど、どうしようと言われましても……行くしかないんじゃないですか?」


 ライモンドに目を逸らされた。

 

 「でも何でこんな田舎の小国の王に会いたいなんて言うんだ? おかしいだろ」


 ロサイスは大国だ。

 アデルニア半島では。

 

 金魚鉢の中では出目金は大きいかもしれないが、大海を泳ぐ鯨に比べれば……比べることそのものが鯨に失礼である。


 何を考えているんだ? クセルクセス帝は。


 「ポフェニア関係かもしれませんね」

 「ポフェニア?」


 俺はエインズに聞き返した。

 エインズは深く頷く。


 「ペルシスは超大国です。しかしそれ故に長大な国境線を維持するのに苦労しています。私も詳しくは知りませんが……辺境には長城と呼ばれる、端から端まで歩いて三日以上掛かるような要塞を建設しているとか。如何にペルシスが超大国とはいえ、百万以上の軍を常に維持し続けるのは不可能……ですから、クセルクセス帝は異民族を王に冊封し、別の異民族を攻撃させることで周辺異民族を弱体化させているそうです」


 つまり、俺をポフェニアにぶつけてポフェニアを弱体化させようとしているということか。

 それを考えると、使節を送る前のポフェニアとの戦争での勝利が大きく影響しているかもしれないな。


 辺境での小さな小競り合い。

 ペルシスのような大国からすれば興味無いだろうと思っていたが……案外、見られているのだな。


 いや、もしかしたら常に世界中から情報を集めているからこそペルシスは世界帝国であり続けているのかもしれない。


 だとすると、俺は全然ダメだな。 

 よく考えてみると、ロゼル王国の内情や敵について殆ど知らない。

 

 調べないとな……

 しかし呪術師の絶対数が足りない。


 俺が王になって十年も経っていない。

 必死に呪術師を増やそうとしているが、その成果は芽吹いていない。


 まあ、人材の育成なんて十年二十年三十年掛かる巨大事業だから仕方が無いが。


 「まあ、誘ってきたのはあちらですし。行ってみたらどうです?」

 「行きたいのは山々だが時間がな……」


 やらなきゃいけないことが山ほどある。

 王である俺が不在というわけにもいかない。


 元々はライモンドが行く予定だったし……


 「まさかクセルクセス帝も毎年来いとは言いませんよ。おそらく、今回限り顔を見てみたいだけかと」

 「同盟を組むに値するか、顔見て判断するというわけか?」


 クセルクセス帝も結構フットワークが軽い……というか、本人は動いていないが、自分で何かと確かめたい人なんだな。

 多分、自分の目の届かないところがあるのが気に食わないようなタイプだ。


 だとすると、国土の広いペルシスの統治はストレス溜まるだろうな……


 「一先ず、国内の統治が一段落着いたら必ずお会いすると返事を出すか」


 手紙には一年後と書いてあったが……

 それって一年以降って意味だよな?


 二年後、三年後になっても許してくれるよね?


 ……頑張って一年以内に諸々を済ませよう。






 季節は七月……

 あと一か月で、丁度対ガリア同盟締結から三年になる。


 あれからいろいろあった。

 

 さて……対ガリア同盟の更新期間は締結三年後からである。

 つまり来月の会談で各国が合意に至らなければ、対ガリア同盟は空中分解する。


 これはちょっと……いや、かなり大問題だ。


 今まで我が国は好き放題してきた。

 まあ、随分と国を征服したものだ。


 その代償として我が国はかなり警戒されている。

 その上、ロゼル王国最強の将軍クリュウは左遷、最凶の呪術師マーリンは国外追放……というか旅行中。

 ロゼル王国の脅威は大きく落ち込んでいる。


 果たして対ガリア同盟が更新出来るのか……

 

 ロゼル王国はこれからも悪者で居て貰いたい。

 各国が我が国の軍事行動を黙認しているのは我が国の軍事力を脅威と思いながらも頼りにしているからだ。


 だからロゼルが弱体化するのも弱腰になるのも、急に親切な国になるのも困る。

 ロゼル王国はこれからも頼りになる敵国でなくてはならない。


 「ギルベッド王とは密約があるから対ガリア同盟も同様に支持してくれるだろう。ドモルガル王も賛同してくれるだろう。あの国はロゼル王国に一番煮え湯を飲まされたようだし。となると問題はファルダーム王か……」


 まあ、ギルベッド、ロサイス、ドモルガルが同盟維持に周っている限りはファルダームも同盟解体は言いだせまい。

 

 俺の見込みでは同盟維持は出来る。 

 ギルベッド王とドモルガル王が心変わりしなければ、だけどね。




 八月……

 ロゼル王国国境近くの某所で、四ヶ国の国王による会談が開かれた。

 議題は対ガリア同盟の更新についてである。


 「私は対ガリア同盟を更新するべきだと思いますね」


 ドモルガル王……親しみを込めてカルロ王と言えば良いか。

 初めから良い球を投げてくれた。


 正直、一番対ガリア同盟で得をしている我が国が「同盟を更新しよう」というのは言いだし難い。

 逆に同盟が更新されないと、一番不安であろうドモルガル王の国が言い出すのはとても自然だ。


 「うむ、まあ……いろいろ(・・・・)有ったとはいえこの同盟のおかげで平和が保てたのも事実。そうですな? ロサイス王」

 「はは……そうですね……」


 俺は苦笑いでギルベッド王の皮肉交じりの問いかけに答える。

 居心地悪いなあ……


 「ファルダーム王はどうお思いで?」

 「くくく……三ヶ国が同盟を組んだままが都合が良いと言っているのに我が国だけ抜けるというわけには行かないだろうな……良かったなあ? アルムス王殿」


 ファルダーム王は愉快そうに笑う。

 

 「南国の果実は旨いと聞くが、是非味見してみたいモノだ」

 「確かにポフェニア産のイチジクは中々美味ですよ。イチジクを輸送しても腐らない位置に大国があるというのも中々大変ですがね」


 取り敢えず、すっとぼけておこう。

 

 俺が挑発に乗らず、ニコニコと笑っているとファルダーム王は突然立ち上がった。


 「アデルニア人は団結しなければならない!! そうですな? アルムス王」

 「え、ええ……何しろ北と南を大国に挟まれているわけですから……今までのようにアデルニア人同士で戦争をするのではなく、団結して外敵と戦わなくては……」

  「その通り!!」


 ファルダーム王は大きな声で叫ぶ。

 俺を含め、三人の視線がファルダーム王に集まる。「何言ってるんだ? こいつ?」と。


 「アデルニア人は団結しなければならない。アルムス王がゾルディアスを懲らしめているのも、ゾルディアスがエビル王の国を攻めたからですな? ゾルディアス王の同盟国を攻めているのも、アデルニア人の団結のため。そしてそれをギルベッド王の国が支援しているのも、同調しているのもアデルニア人の団結のため、平和共存のため、我々の独立のためですな?」

 

 俺の背中を冷たい汗が流れ落ちる。

 何か、嫌な予感がする。


 それでも俺は笑顔を貫く。

 

 「ファルダーム王、突然どうしました」

 「ははは、当然の事実を確認しただけですよ。皆さん、アデルニア人は団結しなければならない。その考えは共通ですな?」


 ファルダーム王は俺たち三人を見回した。


 俺は迷わず頷き、

 ギルベッド王は顔を顰めながら頷き、

 カルロ王(ドモルガル王)は怪訝そうな表情を浮かべながら頷く。


 それを見てファルダーム王は満足気に頷いた。


 「そうです、その通り。……しかし何か一つ大事なことを忘れてはいませんかな?」

 「……大事な事?」

 「その通り!! 北アデルニア半島……即ちロゼル王国支配下のアデルニア人が居るではありませんか!! 彼らを救いださずして、何がアデルニア人の団結か、何が対ガリア同盟か!!」


 対ガリア同盟が対ロゼル同盟ではないのは、ロゼル王国内にアデルニア人が大勢いるからだ。

 ロゼル王国では、アデルニア人はガリア人の所有する土地の元で小作人として搾取されている。


 アデルニア半島の外に流出している奴隷も多くはロゼル王国産……つまり借金や税の代わりに納められた()だ。


 対ガリア同盟には、最終的にそんなアデルニア人を救おう。

 という意図が含まれている。


 しかし……あくまでお題目だ。

 実際にはどの国も防衛さえ出来ればと考えている。


 「三年間の休戦の結果、四ヶ国間では小競り合い一つ発生しなかった。国力も回復した。そして三年前の戦いで、我々アデルニア人でもガリア人に勝てることが証明された!! 今こそ、反撃の時!! 北アデルニアに攻め込み、領土を回復する。アデルニア解放戦争を始めようではないか!!」


 ファルダーム王は叫んだ。

 ギルベッド王が拍手を送る。


 「その通りだ!! 長髪野蛮人共からアデルニア人を救いだそう!!」

 

 するとカルロ王(ドモルガル王)も大きく頷いた。


 「我々もやられたままやり返さないというわけにはいかない。賛成します」


 三人の王の視線が俺に集まった。


 「当然、アルムス王も賛成ですな?」

 「当然です。流石ファルダーム王様です。お見事です。アデルニア人のため、共に戦いましょう!!」


 クソ……

 ファルダーム王の野郎……


 余計なことを提案しやがって……

 



 良いよ、認めてやる。

 今回は俺の敗北だ。


アルムス「当然です。流石ファルダーム王様です。お見事です。アデルニア人のため、共に戦いましょう!!」(どうやってスッポかそうかな……)


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